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2023.12.01

人手不足問題の解決に向けて(第2回)

~ノンデスクワーカーはどれだけ不足するのか~

1. はじめに

ザイマックス不動産総合研究所は、2023年5月にTopic Report「人手不足問題の解決に向けて(第1回) ~ノンデスクワーカーの実態と課題~(*1)」を公表した。当レポートでは、人手不足問題の核心であるノンデスクワーカーの定義および実態と課題について提示した。具体的には、実態として、ノンデスクワーカーは総就業者数の半数以上を占めること、高齢の就業者比率が多いこと、パート・アルバイト比率が高いことを示した。また、課題として、相対的に賃金が低いこと、働き手を集めにくいことを確認した。

第2回となる本レポートでは、将来的にノンデスクワーカーがどれだけ不足していくのか定量的に推計を行う。具体的には、長期時系列のデータからノンデスクワーカーのタイプ別の就業者数が、過去、どのように推移してきたのか、また、今後どのように変化していくのかに加え、職業別の労働需給のギャップを予測していく。

その問題意識・背景としては、現状、多くの人々が人手不足問題は大きな社会課題であることを認識しているものの、特にノンデスクワークなどの社会を支える職業は、普段の生活からは見えにくい(気づきにくい)側面があり、「今後、どれだけ人手が不足するのか」について具体的にイメージすることが難しいことがあげられる。人手不足が進むことにより、企業活動においては生産性の向上が見込めず、ひいては日本経済の成長が鈍化したり、日常生活においては我々がこれまで当たり前に享受できていた利便性・安全性・快適性が失われるおそれがある。

本レポートを通じて、人手不足が進む社会について危機感を共有するとともに、読者各位が人手不足問題について関心を持ち、理解を深める契機となれば幸いである。

2. 就業者の推移と予測(1950年から2040年までの職業別就業者数)

第1回レポートにおいて、ワーカーを「デスクワーカー」「デスクワーカー兼ノンデスクワーカー」「ノンデスクワーカー」の3つに分類し、現状(2020年国勢調査)の就業者数を確認した。本レポートでは、ノンデスクワークの職業タイプごとにどこの現場で人手不足が深刻になっているのかを整理するため、「専門職系(主に専門的・技術的職業)」「生活系(販売、サービス、保安、清掃の職業)」「生産系(農業、生産工程の職業)」「インフラ系(輸送・機械運転、建設・採掘、運搬・包装等の職業)」の4つに分類し、過去の推移と今後の予測を行う。

職業タイプ別の就業者数について、1950年から2020年までの実績と2025年から2040年までを予測したものが【図表1】である。

【図表1】1950年から2040年までの職業タイプ別就業者数

高度経済成長期からバブル期(1950年→1995年)では、デスクワーカーは399万人から1,777万人へと4倍以上に増加した一方で、ノンデスクワーカーは3,200万人から4,566万人と、伸び率でいえば約3分の1の1.4倍程度の増加に留まっている。その背景としては、この時期に第三次産業への構造転換やオフィス街のある大都市圏への人口移動が進んだことなどが考えられるだろう。

バブル崩壊から現在(1995年→2020年)にかけては、人口減少や少子高齢化の影響もあり、就業者数(分類不能除く)は614万人減少した。そのうちデスクワーカーは163万人減少、ノンデスクワーカーは576万人減少であり、社会を現場で支えるノンデスクワーカーがより多く減少したことが分かる。

また、現在の人口減少のペース、年齢別の職業傾向が継続すると仮定した場合、2040年のデスクワーカーは1,518万人(2020年比6%減)と減少ペースは緩やかである一方で、ノンデスクワーカーは減少が加速し3,489万人と500万人減少(同13%減)すると推計される。その内訳を上述したノンデスクワーカーの4つのタイプ別にみると、生活系が209万人減少(同16%減)と最も多く、次いで生産系の129万人減少(同14%減)、専門職系の119万人減少(同12%減)、インフラ系の44万人減少(同6%減少)と推計される。

3. 就業者の需要と供給予測(2020年から2040年までの労働需給ギャップ)

人手不足がどの程度深刻なものになっていくのかを定量的に把握するため、経済成長の度合い・産業構造・人口減少傾向が現在と変わらないという前提のもとで、2040年までの労働需給ギャップ(経済が必要とする労働需要人数から、将来推計人口より推定した労働供給人数を引いた差)を予測した(【図表2】、推計手法は末尾参照)。その結果、全職業でみた場合、2040年時点での労働需給ギャップは約1,000万人と推計される。

【図表2】2020年から2040年までの職業タイプ別労働需給ギャップ

内訳をみると、2040年時点のデスクワーカーの労働需給ギャップが182万人であるのに対して、ノンデスクワーカーは819万人となる。日本社会全体で労働需給ギャップは大きくなっていくものの、その大半がノンデスクワーカーの職業であると考えられる。具体的には、介護・販売・保安・清掃を含む生活系ノンデスクワーカーで365万人と最も多く、次いで、医療や教員を含む専門職ノンデスクワーカーの238万人など、「われわれの日常生活を現場で支える」職業での人手不足が進むことが予測される。

なお、上記の需給ギャップには、技術進歩による労働需給への影響は定量化が難しかったため今回の予測には含まれていないが、現在急速に発展し社会実装が進んでいる生成AIによる業務代替の度合いは、デスクワーカーの方が高いと考えられる。デスクワーカーでは上述の予測より人手不足が緩和する、もしくは、むしろ人員過剰となる時代が到来する可能性がある。

こうしたことから、これからの人手不足問題はノンデスクワーカーの労働供給制約が中心になっていくだろう。今後、時代の変化に合わせ職業の需要が変化していく一方で、供給の変化スピードが十分でない場合、社会が不安定化し、さまざまなビジネスモデルの形が変化し、われわれの日常生活にも大きな影響が発生しうるのである。

4. まとめ

本レポートでは、ノンデスクワーカーについて、4つの職業タイプ別に将来の人手不足度合いの推計を試みた。ここからいえることは、ほとんどのノンデスクワーカーの人手不足は職業によって程度の差はあるものの、中長期的にさらに深刻になっていくということである。

現在、物流・建設・医療などの業界では「2024年問題」が喧伝されているが、ノンデスクワーカーの人手不足はそれだけに留まらず、われわれが普段利用しているオフィスビルや商業施設・ホテルといったアセットにおいても同様であり、現状のままでは商業用不動産としての「持続可能性」が低下していくことになるであろう。

大切なことは「人手不足が大変だ」に留まらず、「人手不足とどのように戦っていくか」を考え、実践していくことである。第3弾以降のレポートでは、主要なアセットで働くノンデスクワーカーに焦点をあて、人手不足問題に対してどのような取り組み・工夫を行っているかについて事例を上げ、読者各位が考えるヒントを提示していく予定である。

≪【図表2】労働需給ギャップ推計の概要≫

本推計モデルは労働政策研究・研修機構(JILPT)による「労働力需給の推計ー労働力需給モデル(2018年度版)による将来推計ー」(JILPT,2019)の推計手法を参考に以下の手順で実施した。

①労働需要の推計:現在までの実績値を使って、名目GDP・労働時間・賃金と就業者数の関係性を表すモデルを推計し、将来の名目GDP等の予測値(日本経済研究センター等)をモデルに代入して、需要面からみた将来の産業別就業者数を推定した。

②労働供給の推計:現在までの実績値をもとに性・年齢階級別に労働力率を推計するモデルを構築し、社会保障・人口問題研究所の将来人口推計を用いて労働力人口を推計(性・年齢階級別の労働供給)した。

③ギャップの推計:令和2年度国勢調査の産業別の職種構成比にもとづいて労働需要、労働供給をそれぞれ職業別に産出したのち、職業ごとに労働需要から労働供給を差し引き、労働供給不足分を推計した。なお本推計は、各産業のこれまでの状況(経済成長、技術進歩、規制、業界構造)が継続したらという前提での予測となるため、AI や地政学リスクなど不連続な変化は反映されていない。


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参考:働き方×オフィス 特設サイト

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