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2023.05.02

フレキシブルオフィスのタイプ分類

~成長を続ける市場を俯瞰し、整理する~

近年フレキシブルオフィス市場は急速に成長してきた。ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)では、2020年より毎年、東京23区内におけるフレキシブルオフィスの拠点数や面積、事業者数から市場の成長傾向を定量的に分析してきた(*1)。

*1 2023年2月7日公表「フレキシブルオフィス市場調査2023

市場が急成長すると同時に、サービス内容の多様化・細分化が進み、事業者によって「レンタルオフィス」「シェアオフィス」「サービスオフィス」「サテライトオフィス」「コワーキングオフィス」などさまざまな呼称が使用されており、フレキシブルオフィスについての分類や共通言語の整理ができていないのが実情だ。特にこれからフレキシブルオフィスを利用する企業やワーカーにとっては、各サービスの特徴や違いが分かりづらく、導入に向けての検討が難しいといった課題も発生している。

そこで本レポートでは、早稲田大学石田航星研究室との共同研究のなかで、多様化するフレキシブルオフィスをタイプ分類し、特徴を整理した。企業がフレキシブルオフィスを効果的に活用できるよう、自社に適したサービスを判断するための手引きを提供することが本レポートの趣旨である。

なお、本レポートでは「フレキシブルオフィス」を「一般的なオフィスの賃貸借契約によらず、利用契約・定期建物賃貸借契約などさまざまな契約形態で、事業者が主に法人および個人事業主に提供するワークプレイスサービス」と定義し、シェアオフィスやコワーキングオフィスなど各種サービスの総称として用いている。

1. 働く場所の多様化の歴史

はじめに、働く場所の多様化の背景を振り返りたい。【図表1】は今までの所有または賃借される自社オフィスに加えて多様化してきた働く場所の変遷をわかりやすく年表形式にまとめたものである。

【図表1】働く場所の多様化の変遷

オフィスの賃料が高騰したバブル期には、郊外の安価な物件に自社サテライトオフィスを開設しオフィスコストを削減する動きがみられた(第1次サテライトオフィス)。しかし、当時は通信環境が十分でなかったことと、バブル崩壊による都心の賃料下落により、この動きはバブル崩壊とともになくなった。

続いてインターネットが普及した1990年代にはレンタルオフィス・サービスオフィスブランドのSERVCORPやRegusが日本に進出し、外資系企業の日本進出オフィスなどに利用された。オープンイノベーションが提唱された2003年ごろからは、スタートアップや新規事業開発を狙う大企業、投資家などさまざまなステークホルダーが集まる場としてインキュベーションオフィスの供給がみられてきた。その後、2008年のリーマンショックを機にフリーランスや個人事業主が増え、働く場所として小規模のコワーキングオフィスが出現した。日本でも中小規模ビルを中心に供給されてきた(小規模型コワーキングオフィス)。

そして直近では、働き方改革、人的資本経営の普及、コロナ禍発生などの企業を取り巻く環境変化から、より急速に働く場所の多様化が進んできている。たとえば2010年代中頃には、政府が働き方改革を大きく推進し、その目玉であるテレワークが注目されはじめ、外出時に自社オフィスに戻らずに働けるシェア型サテライトオフィスが活用されるようになった。また、2018年にはコミュニティ機能を重視したコワーキングオフィスであるWeWorkが日本に進出し話題となった(コミュニティ型コワーキングオフィス)。2020年初頭にはコロナ禍が発生し、感染症対策の観点からも必要性が高まり、テレワークは一気に定着することとなった。特に、それまでは育児や介護など特定の事由を抱える一部の従業員を主な対象としてきた在宅勤務を、緊急措置として全体的に認める企業が急増した。しかし、自宅に働く環境が整っていない・同居家族がいて集中できない等の課題があり、自宅近くで働ける場所として郊外にもシェア型サテライトオフィスの供給が進んできた。そのほか、1人用個室ボックスの展開拡大や、カラオケ・ホテル・飲食店のワークプレイス化、ワーケーション施設など働く場所のサービスが多様化している。さらに、リアルな場所ではないバーチャルオフィス(メタバース)のサービスも提供されており、働く場所の概念自体も広がりをみせているといえる。

2. フレキシブルオフィスのタイプ分類

次に、前節の【図表1】で確認した多様な働く場所を概念図としてまとめた(【図表2】)。ザイマックス総研の定義によるフレキシブルオフィスに該当するサービスとして「レンタルオフィス」「サービスオフィス」「インキュベーションオフィス」「コミュニティ型コワーキングオフィス」「小規模型コワーキングオフィス」「シェア型サテライトオフィス」「1人用個室ボックス」「ワーケーション施設」の8つが挙げられる。フレキシブルオフィスには、さまざまな背景から登場した特徴の異なるワークプレイスサービスが混在しており、主に出社する場となるものもあればテレワークの場となるものも含んでいる。企業はこれらのなかから自社に必要なサービスを選択して利用することとなるが、サービス内容の多様化・細分化により、各サービスの違いや利用価値が捉えにくいのが現状である。

【図表2】働く場所の概念図

そこで、各サービスの特徴を捉えるため、【図表2】をもとにフレキシブルオフィスを主な機能ごとにタイプ分類する。フレキシブルオフィスはスペースの位置づけにより「メインオフィス型」と「テレワーク支援型」の大きく2つに分けられ、さらにその分けで特徴を捉えきれない「目的特化型」がある(【図表3】)。

【図表3】フレキシブルオフィスのタイプ分類

まず、「メインオフィス型」は、個人事業主や小規模企業、大企業の一部署やプロジェクトチームの拠点として利用するタイプである。従業員が集まりやすい中心ビジネスエリアに立地し、一般的なオフィスと比べ、短期間・小区画から自社専用の区画を契約可能なことが多く柔軟性が高い。什器やネット環境が整備されている場合もあり、初期費用を抑えてすぐに事業を開始できるオフィス環境を構築できる。提供されるサービスレベルによって以下2つの呼称が用いられる。

 ● レンタルオフィス

 個人事業主は、自宅とは別に仕事をするための拠点を設けることでオンオフを切り替えたり、中心ビジネスエリアの一等地に事務所を構えることで取引先からの信頼を得たりすることができる。オフィスに初期費用をかけられない小規模企業のメインオフィスとしても利用される。また、大企業であっても、短期のプロジェクト用にオフィスが必要な場合や、人数変化等により自社オフィスに面積が足りなくなった場合などに、必要な分だけ契約する使われ方もある。


 ● サービスオフィス

 レンタルオフィスと同様の機能を持つが、入居者共有の会議室や備え付けの什器、有人受付や秘書サービスをはじめとした付加サービスがより充実していることが多い。ハイグレードな環境として取引先からのイメージがよく、必要な業務のみにリソースを集中させることができる。


次に、「テレワーク支援型」は、主に企業がワーカーのテレワークの場として契約するタイプである。中心ビジネスエリアから郊外、地方へと広範囲に多拠点展開されており、拠点ネットワークのなかで自宅近くや取引先・出張先近くなど、その日の都合に合わせて拠点を選び、分単位~1日単位の利用ができる。テレワークが普及するなか、大部分のオフィスワーカーにとって利便性が高く、柔軟な働き方を実現するための需要のボリュームゾーンといえる。展開される場所等の異なる、以下の2つが含まれる。

 ● シェア型サテライトオフィス

 オフィスビルの区画内に、1人用個室、複数人用会議室、電話ボックス、オープンスペースなど利用ニーズに合わせた複数の種類のファシリティを組み込んだサービスである。立地によって使われ方が異なるのが特徴であり、中心ビジネスエリアでは、移動の合間や取引先の近くで資料を用意するなどの営業担当者によるタッチダウン利用が主流である。住宅地に近い郊外エリアでは、同居家族や設備の問題で在宅勤務が難しいワーカーのテレワークスペースとして利用されている。職住近接により、従業員の通勤ストレス削減やワークライフバランス向上などが期待できる。そのほか、自社オフィスではやりづらい集中ワークやウェブ会議の場として利用したり、参加メンバーの集まりやすい拠点を選んで打ち合わせや接客をしたりすることも可能である。サテライトオフィス、タッチダウンオフィス、シェアオフィスと呼ばれることもある。


 ● 1人用個室ボックス

 前述のシェア型サテライトオフィスが、基本的にオフィスビルの専用部の区画を作り込んだものであるのに対し、1人用個室ボックスはソロワークやウェブ会議に必要な設備をパッケージ化したボックス型のワークスペースである。オフィスビルの共用部や駅などの公共スペースにも設置可能で、移動の合間に立ち寄りやすく交通利便性が高い特徴があるため、主に営業担当者など移動が多いワーカーに利用されている。


そして、「目的特化型」は、特定の目的に特化し、独自の付加サービスやファシリティにより何らかの機能を付加・拡充させているタイプである。目的別に主に以下の4つが挙げられる。

 ● 起業、新規事業開発:インキュベーションオフィス

 起業家や大企業の新規事業開発部などが入居者同士の交流・マッチングや、メンターによるアドバイス、イベント開催等のサポートを通じてオープンイノベーションを起こし、起業や新規事業創出を目指す。中心ビジネスエリアに立地しているほか、運営には公的機関や大学などが関わっていることが多く、什器が揃っているなど起業を後押しするオフィス環境が整備されていることが特徴である。


 ● コワーキング:コミュニティ型コワーキングオフィス

 フリーランスや個人事業主、スタートアップや大企業の新規事業開発を担う部署などが交流・コラボレーションを目的に利用する。ワーカーが集まりやすい中心ビジネスエリアに立地しており、オープンスペース以外にもリラックススペースやイベントスペース、専用区画といったファシリティが充実しているほか、イベント開催やコミュニティマネージャーによるサポート、プラットフォームアプリによりビジネスに活かせるコミュニティ形成がしやすいといった特徴がある。コロナ禍発生以降、従来どおり直接集まってのイベントや交流が難しくなった一方、一般企業ではテレワークの定着により稼働率が低下したメインオフィスの面積を見直す必要性が高まってきたため、人数や出社率の変化に柔軟に対応できるという利点から、施設内の専用区画部分をメインオフィスとして契約利用するケースもみられている。


 ● コワーキング:小規模型コワーキングオフィス

 主にフリーランスや個人事業主が所属の異なるワーカーと空間を共有する。自宅よりも働く環境が整っており、会議や接客もしやすい。


 ● ワーケーション:ワーケーション施設

 自然豊かな地域や観光地等の非日常空間で働くワーケーションでの利用に適したフレキシブルオフィスである。ワーカー個人が休暇の旅行に合わせて働いたり、企業の複数人が研修等に利用する。リフレッシュすることで新たなアイディア創出につながるほか、アクティビティ等の共通の時間を過ごすことでチームビルディングの効果も期待される。宿泊機能や観光・体験サービスとあわせたプランの提案もある。


各タイプについて、ファシリティや付加サービス、ユースケースなど、より詳しい内容を盛り込んだものが【図表4】である。

【図表4】タイプ別のフレキシブルオフィスの概要

3. フレキシブルオフィス事業者のタイプ分類

最後に、主要なフレキシブルオフィス事業者について整理した(【図表5】)。

【図表5】主要なフレキシブルオフィス事業者のタイプ分類

多くの事業者は主たる事業を持ちながら、その業界の特性を活かしてフレキシブルオフィス事業に参入しており、そのなかでも不動産業者が目立つ。不動産業者は自社で開発するビルや保有しているビルがあれば展開する物件選びで有利であるほか、運営・管理においてノウハウを活かしやすいため親和性が高い。特にデベロッパーは、新規供給の大規模ビルに入居者向けのフレキシブルオフィスを用意することでテナントの利便性を高め、物件価値向上を見込める。不動産業者以外では電鉄系の事業者が比較的多く、自社のインフラを活用した拠点展開により沿線の価値向上を図っている。そのほかにも多様な事業領域からの参入がみられている。

また、欧米やアジアなどグローバルに拠点展開しているブランドの日本進出など、フレキシブルオフィス事業を主たる事業とする例もいくつかみられる。

そのほか、ユーザーが複数のブランドから希望に合う拠点を検索・予約できる関連サービスを展開する事業者も市場の成長とともに増加している。

【図表5】に記載しているのは代表的な例に過ぎず、実際には多くの事業者が存在し、そのなかで競争が激化してきている。競争力を高めるべく事業者同士で提携する動きもみられ始めている。特に「テレワーク支援型」のシェア型サテライトオフィスでは、拠点数・エリアの網羅性が強みとなる。多くの拠点を広範囲に展開する競争力のある事業者がより優位に立つために他社の拠点と提携することでネットワークを拡大している。

4. まとめ

社会や経済の変化に合わせて多様化し、拡大してきたフレキシブルオフィスは、さまざまなサービスが存在するものの、共通言語が整備されておらず、実際に利用する企業がその違いや利用価値を捉えにくいという課題があった。本レポートでは、市場を俯瞰し、ユーザー企業の理解促進を目的にフレキシブルオフィスのタイプ分類を行った。

フレキシブルオフィスは主な機能により、「メインオフィス型」「テレワーク支援型」「目的特化型」の3つのタイプに分けられた。この分類により、複雑化し混同しやすかった各種サービスについて、呼称・特徴・ユースケースを結び付けて整理することができた。なお、今回の結果(【図表3・4】)は、あくまでも現段階のまとめであることに注意されたい。

また、事業者についてもタイプ分類を行い、事業領域の異なる事業者が参入している様子も確認した。そのなかで足元の競争は激化しつつあり、事業者間の提携もみられている。今後は、変化する企業やワーカーの需要を捉えて、さらに出店を増やしたり、展開エリアを地方などへ拡大させたり、新たなサービスを生み出したりすることも必要となるであろう。

コロナ禍収束後もハイブリッドな働き方がメインストリームであることは変わらない。そのようななか、企業は多様に広がるフレキシブルオフィスの選択肢から自社の働き方や目的に適したサービスを選んでワークプレイス戦略を組み立てていく必要がある。本レポートでまとめたフレキシブルオフィス市場の整理が、企業のこれからのワークプレイス戦略の判断の一助となれば幸いである。ザイマックス総研は、引き続きオフィス市場、働き方などの調査研究を行い、世の中に有益な情報を提供していくつもりである。

※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
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参考:働き方×オフィス 特設サイト

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