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2023.03.15

オフィスワーカーの働く場所の変遷

~若年層に広がるサテライトオフィス利用~

はじめに

コロナ禍を機にテレワークが急速に普及し、オフィスワーカーの働き方は一変した。ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)では2017年から、首都圏に勤務するオフィスワーカーを対象とした年1回の定期調査「首都圏オフィスワーカー調査」(*1)を継続している。そこで、コロナ禍以前から最新の2022年までのデータを時系列で比較することで、ワーカーの働き方の変遷を定量的に確認しようと考えた。

本レポートでは、調査内容や有効回答数が十分に揃っている2018年調査から5年分のデータを採用し、特にテレワークに関する数値の経年比較を行うことで、ワーカーの働き方の実態やテレワークが与える影響、価値観の変化などを探り、企業の人材戦略へのヒントを提示することを目指した。ワーカーと企業の双方にとって持続可能な働き方を目指すために、企業はどのような環境を用意すべきなのか、その検討の一材料となれば幸いである。

*1 2022年11月30日公表「首都圏オフィスワーカー調査 2022
サマリー

    1. コロナ禍以前と比べた働き方の変化

  • ・ テレワーク実施率は2020年に急増し、その後3年間も6割を下回ることなく推移している。テレワークの時間割合も同様に増加し、最新の2022年調査では平均32.1%(週1.5日程度)となった。
  • ・ テレワークする場所ごとにみると、在宅勤務の実施率の伸びは頭打ちである一方、サテライトオフィスの利用率は年々増加している。
  • ・ 在宅勤務への不満はコロナ禍発生後3年が経っても解消されていない。特に、若年層は「集中しづらい・気が散る」や「長時間労働になりやすい」など、生産性に関わる課題を感じている。
  • 2. 属性ごとのサテライトオフィス利用率

  • ・ サテライトオフィスの利用率は特に20代・30代の若年層や、メンバー層において伸びが顕著である。また、職種では「技術系専門職」や「経営・企画」、勤務先の業種では「情報通信業」や「製造業」での伸びが顕著である。
  • ・ 現状ではテレワークの時間の大半を在宅勤務が占めているが、2020年から2022年にサテライトオフィスを実際に利用している人に注目すると、平均18.2%(週1日弱)の時間をサテライトオフィスで働いている。
  • 3. サテライトオフィス利用のメリット

  • ・ 働く場所の価値観について、2020年に全世代で「【B】仕事をする場所をそのときどきに選べるのがよい」の割合が伸び、30代・40代では「【A】決まったオフィスに通勤して働くのがよい」の割合を上回った。その後、2022年には20代・30代で【B】の割合が【A】の割合を上回り、特に30代では年々【B】の割合が増加している。
  • ・ サテライトオフィス利用者は、非利用者と比べ、テレワークのメリットとして「仕事の成果が向上する」や「いいアイデアが出せる」などの生産性に関わる項目について高く評価している。
  • ・ サテライトオフィス利用者は、テレワークによってパフォーマンスが上がった理由として「場所が選べる」ことの効果を実感している。一方で、パフォーマンスが下がった理由としてはコミュニケーションに関するものが多く、この点でサテライトオフィス利用者と非利用者との間には差がみられなかった。つまり、テレワークにおけるコミュニケーションの課題はサテライトオフィスを使ってもなお解消が難しい課題であるといえる。

1. コロナ禍以前と比べた働き方の変化

テレワークを実施している人の割合(テレワーク実施率)は、2020年のコロナ禍を機に急増し、最新調査まで6割を下回ることなく推移している【図表1】。

【図表1】テレワーク実施率(2018~2022)

時間配分でみても、2020年からテレワークの時間割合が急増し、総労働時間のうち平均で3~4割の時間をテレワークが占めている【図表2】。コロナ禍を機に、テレワークが働き方の選択肢として定着しつつある状況があらためてうかがえる。なお、2021年調査は調査期間(9月10日~9月12日)が第3回緊急事態宣言(4月25日~9月30日)と重なっていたため、テレワーク実施率・時間割合ともに多少の影響を受けたと考えられる。

【図表2】テレワークの時間割合(2018~2022)

テレワークする場所ごとの実施率を示したのが【図表3】である。在宅勤務がテレワーク実施率を牽引してきたことがわかるが、最新の2022年調査では伸びが鈍化し、頭打ち感がみられる。一方で、サテライトオフィスの利用率は増加を続けており、2018年調査と比べると約10倍となっている。

【図表3】テレワークする場所に関する施策の実施率(2018~2022)

在宅勤務の実施率の伸びが停滞した背景には、コロナ禍当初から指摘されてきた在宅勤務の課題がなかなか解消されないことも関係していると考えられる。

当調査では、2020年から2022年までの3回の調査において「在宅勤務の不満」を聞いており、その結果を経年比較したのが【図表4】である。経年でみると、この3年間で「モニター、コピー機等の機器が揃っていない」や「業務に適したスペースや什器が揃っていない」などの環境面の不満は解消されつつあることが見受けられる。一方で、「運動不足・不健康になりやすい」や「仕事のオン・オフが切り替えづらい」などの不満は最新の2022年調査でも依然高く、これらはワーカーが在宅勤務に慣れても解消されづらい課題であると推察される。

2022年調査によると、現在の総テレワーク実施時間の9割以上を在宅勤務が占めており(*1)、テレワークはほぼ在宅勤務と同義となっている。今後もテレワークが定着するのであれば、ワーカーの生産性やウェルビーイングを担保するうえで、いまだ課題の残る在宅勤務だけではなく、ほかの働く場所の選択肢も必要になるであろう。

【図表4】在宅勤務の不満(2020~2022)

また、在宅勤務の不満について、2020年と2022年を年代別に比較し、年代による特徴がみられた3項目を抜粋したのが【図表5】である。

比較的若い世代(20代・30代・40代)で「集中しづらい・気が散る」が伸びていることや、20代では「長時間労働になりやすい」が伸びていることがわかった。若年層が在宅勤務を続けることは、長期的にみると生産性やウェルビーイングの観点でネガティブな影響をもたらす可能性がある。

一方、20代以外の全世代では「費用負担(光熱費、通信費等)」が伸びていた。社会人経験の少ない若年層では自身の仕事ぶりに課題を感じやすく、逆に年代が上がると、会社の支援といった外部要因に不満を感じやすい傾向があるのかもしれない。

【図表5】<年代別>在宅勤務の不満(2020、2022)

2. 属性ごとのサテライトオフィス利用率

【図表3】のとおり、サテライトオフィスの利用率は年々増加している。では、どのようなワーカーに利用が広がっているのか。属性別に確認していく。

まず、年代別でみると、2020年までは大きな差はみられなかったが、2021年で40代・50代の利用率が伸長し、その後2022年には一転して20代・30代の利用率が急伸していることがわかった【図表6】。次に、役職別では2021年まで役員や管理職の利用率が先行して伸びていたが、2022年には正社員・非正規社員の利用率が伸びている【図表7】。これらの結果から、コロナ禍発生後当初は40代以上・役職者層がサテライトオフィスを先行して使い、2022年頃から若手・メンバー層に裾野が広がりつつあるとみることもできるかもしれない。

【図表6】<年代別>サテライトオフィス利用率(2018~2022)

【図表7】<役職別>サテライトオフィス利用率(2018~2022)

職種別では、どの職種もコロナ禍以前と比べ伸長傾向であり、2022年には「一般事務・受付・秘書」(13.1%)以外は2割台に乗っている【図表8】。特に「技術系専門職」(25.3%)と「経営・企画」(25.0%)の利用率が高い。機材環境などが業務効率に影響する技術系専門職では、サテライトオフィスのファシリティが整いつつあることも利用率の伸びに関係しているかもしれない。

【図表8】<職種別>サテライトオフィス利用率(2018~2022)

男女別では、すべての調査年で男性の利用率が高いものの、2022年には女性も伸び、ほぼ男性と同程度となっている【図表9】。また、子供の有無別でも、2022年には子供のいない人が伸びてほぼ同程度となっている【図表10】。これは前述のとおり、40代以上の年代や役職者層で利用が先行し、2022年には若年層やメンバー層に広がってきていることと関係していると考えられる。

【図表9】<男女別>サテライトオフィス利用率(2018~2022)

【図表10】<子供の有無別>サテライトオフィス利用率(2018~2022)

勤務先の従業員数別では、すべての調査年で大企業ほど利用率が高いものの、100人以上1,000人未満の中規模企業でも着実な伸びがみられる【図表11】。また、業種別では「製造業」や「情報通信業」で利用率が高く、伸び率も大きい【図表12】。

【図表11】<勤務先の従業員数別>サテライトオフィス利用率(2018~2022)

【図表12】<勤務先の業種別>サテライトオフィス利用率(2018~2022)

<PICK UP>サテライトオフィス利用者(時間ベース)の利用実態

ここまでサテライトオフィスの利用者像を確認してきたが、本レポートで扱っている「サテライトオフィス利用率」の集計対象には、頻度としてはごく稀にしかサテライトオフィスを利用しない人も含まれる。たとえば出張時や、家庭の事情で在宅勤務が難しい場合など、非常時のセーフティネットとして利用している人もいるためである。

そこで、ここでは「実際にサテライトオフィスで働く時間が週の労働時間のうち0%超である利用者(*2)」に焦点を当て、その利用の時間割合を確認した。なお、単年では分析に十分なサンプル数が確保しづらいため、コロナ禍以降の3年間(2020年・2021年・2022年)のデータを合算し、週の労働時間に占めるサテライトオフィスの利用時間の割合の分布を示したのが【図表13】である。

*2 本レポートのサテライトオフィス利用率の算定基準となっている「サテライトオフィス利用者(権限ベース)」に対して、これを「サテライトオフィス利用者(時間ベース)」とする。

まず、平均値は18.2%であることから、対象者全体で平均して週に1日弱の時間をサテライトオフィスで働いているといえる(週5日勤務とすると20%で週1日)。次に、対象者の25.5%は週1日超(20%超)の時間をサテライトオフィスで働いていることがわかる。

【図表3】で確認したとおり、サテライトオフィスの利用率は年々着実に伸びている。今後も利用が広がるとすれば、労働時間に占める利用時間の割合も伸びていくものと考えられる。

【図表13】週の労働時間に対するサテライトオフィスの利用時間の割合

3. サテライトオフィス利用のメリット

最後に、これからのワーカーと企業にとって理想的な働く場所のあり方を探りたい。まず、若年層の価値観に注目すると、働く場所の選択肢の必要性がみえてきた。

当調査では2018年から2022年まで、仕事に関するさまざまな価値観について5段階の尺度で聞いている。そのなかの、働く場所に関する価値観「【A】決まったオフィスに通勤して働くのがよい」と「【B】仕事をする場所をそのときどきに選べるのがよい」のどちらに近いか聞いた結果を、年代別に比較したのが【図表14】である。

2018年と2019年には全世代で「【A】決まったオフィスに通勤して働くのがよい」の割合の方が高かったが、コロナ禍が発生した2020年に「【B】仕事をする場所をそのときどきに選べるのがよい」の割合が伸び、30代・40代では【A】を上回った。

その後、2022年には20代・30代で【B】の割合が【A】の割合を上回り、特に30代では年々【B】の割合が増加している。一方、40代以上では再び【A】が逆転していることから、場所を選べる働き方への志向は20代・30代の若年層で特に強くなっているといえるだろう。若年層に出社を強制したり、在宅勤務しか選択肢を与えないことは、組織へのエンゲージメント低下や生産性低下などを招く一因となるかもしれない。

【図表14】<年代別>働く場所に関する価値観(2018~2022)※2021年は調査項目なし

では、在宅勤務以外の選択肢があること、つまりサテライトオフィスを利用することの具体的な有効性とはどのようなものか。テレワークのメリットについて2022年調査で聞いた結果を、サテライトオフィス利用者と非利用者に分けて比較し、利用者と非利用者のポイント差が大きい順に並べたのが【図表15】である。

最も差が大きいのは「仕事の成果が向上する」、次いで「いいアイデアが出せる」や「肉体的な負担軽減(健康増進、疲労軽減)」、「ストレス軽減」、「集中して仕事ができる」など、特に生産性に関わると考えられる項目について、サテライトオフィス利用者の方が高く評価している傾向がみられた。

【図表15】<サテライトオフィス利用有無別>テレワークのメリット(2022)

また、完全出社時と比べた現在の自身のパフォーマンスを聞いた結果を、サテライトオフィス利用者と非利用者で比較した。その結果、統計的に有意な差は得られなかったものの、パフォーマンスが上がった理由の自由記述には、サテライトオフィス利用者に明らかな特徴があった。以下に抜粋して紹介する。


サテライトオフィス利用者のパフォーマンス増減の理由(自由記述・抜粋)

パフォーマンスが上がった理由

● スケジュール管理・タスク管理がしやすくなった(20代女性、正社員、営業)

● 仕事に応じて環境を選ぶことができることで効率的になる(40代男性、管理職、経営・企画)

● 勤務場所を選べることでメリハリがつき、業務量は多いが適度に休むことができるためパフォーマンス自体は上がっていると思う(40代女性、管理職、総務・人事・経理)

● 異なった環境で、リフレッシュして働けるから(50代男性、管理職、その他職種)

● 勤務場所を複数持つことで、肉体的精神的にワークバランスがとりやすくなっていると思うから(50代男性、管理職、技術系専門職)

パフォーマンスが下がった理由

● 海外との仕事が多くコミュニケーションを「直接」とる機会は少なかったので仕事の成果は大きく変わらない印象だが、配下の状況確認や指導がしづらくなった分がマイナスだから(50代男性、管理職、営業)

● 資料がペーパーなのでデータ化されていないからパフォーマンスが劣る。わからないことを部下に教えるのに時間がかかる(50代男性、管理職、技術系専門職)

● チーム内のコミュニケートは良いが、チーム外の他班とのやりとりがとてもしにくい(50代男性、正社員、技術系専門職)

● テレワーク可能な業務であるにも関わらず出社する意味がわからない(50代男性、管理職、営業)


上記のとおり、サテライトオフィス利用者はパフォーマンスが上がった理由として「場所が選べる」ことの効果に言及しており、これは在宅勤務のみのテレワーカーにはみられない特徴であった。

一方で、パフォーマンスが下がった理由としてはコミュニケーションに関するものが多く、この点でサテライトオフィス利用者と非利用者との間には差がみられなかった。つまり、テレワークにおけるコミュニケーションの課題は、サテライトオフィスを利用してもなお解消が難しい課題であるといえる。そのため完全テレワークよりも、出社とテレワークを使い分けるハイブリッドワークの方が望ましいと考えられる。また、最後のコメントからは、テレワーク可能であるにも関わらず出社を強制することのネガティブな影響が感じられる。ハイブリッドワークを推進するうえでは、ワーカーに場所を選ぶ裁量を与えることも重要となるだろう。

4. まとめ

コロナ禍以前から現在までのデータを比較することで、オフィスワーカーの働き方がコロナ禍を機に一変したことがあらためて確認できた。特に、サテライトオフィスの利用率は年々増加し、なかでも今後のビジネスを支える若年層に利用が広がりつつある状況が浮き彫りになった。

同時に若年層では、テレワークの時間の大半を占める在宅勤務について、いまだに生産性に関わる課題を感じている人が多いことや、「仕事をする場所をそのときどきに選べるのがよい」という価値観を持つ人の割合がコロナ禍以降増加していることなどがわかった。また、年代を問わずサテライトオフィス利用者は非利用者と比べ、テレワークのメリットとして「仕事の成果が向上する」や「いいアイデアが出せる」などの生産性に関わる項目について高く評価していることも明らかになった。

これらの結果を複合的に鑑みると、今後ハイブリッドワークを推進するうえでは、在宅勤務以外のテレワークの場所の選択肢を提供することが、特に若年層の人材確保や生産性維持の観点から有効であると考えられる。その手段の一つがサテライトオフィスの利用であり、だからこそ利用率も供給も年々拡大している(*3)といえるだろう。実際に、テレワークによってパフォーマンスが向上したサテライトオフィス利用者は、場所が選べることの効果を実感している。

*3 2023年2月7日公表「フレキシブルオフィス市場調査2023

ビジネス環境がめまぐるしく変わる昨今、企業にとっては生産性向上や人材確保の重要性が今まで以上に高まっており、ワーカーに持続的かつ生産性高く働いてもらうことは非常に重要な経営課題となっている。その検討のための材料を、ザイマックス総研では引き続き提供していく。

《調査概要》

レポート内のグラフに関して
・構成比(%)は、小数点第2位を四捨五入しているため内訳の合計が100%にならない場合がある。
※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
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参考:働き方×オフィス 特設サイト

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