テナント

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2018.12.07

東京23区オフィステナントの入居期間分析(2018年)

~テナントの平均入居期間の推計と退去テナントの分析~

ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は、2014年に東京23区に所在するオフィステナントの入居期間に関する分析を行い、レポートを公表した(*1)。そこでは統計的な手法を用い、データ収集時点で入居中のテナントも含めて、入居したテナントの半分が退去するまでの期間を表す「オフィステナント平均入居期間」を推計した。今般、前回調査時から4年経過したため、改めて同手法による推計を行った。

また、実際にテナントが入居して退去するまでの期間は様々で、すべてのテナントが平均入居期間で入居し続ける訳ではない。そこで今回は退去したテナントにも着目し、退去テナントの実際の入居期間の分析を行い、入居期間に影響を与える要因について考察した。

さらに、一般的な賃貸借契約の契約期間は2年間でありながら2年未満で退去したテナントが一定数あることから、ヒアリングによりそれらの個々のテナントが退去した理由や背景の事例を収集した。

主な調査結果

    1. オフィステナント平均入居期間

  • ・ 入居中テナントも含めたオフィステナント平均入居期間は9.6年と推計された。
  • ・ また、2年以上継続して入居し続ける割合は93.8%と推計された。
  • ・ これらは、2014年の調査時と大きな差はみられなかった。
  • 2. 退去したテナントの分析

  • ・ 退去したテナントの入居期間は、平均値5.7年、中央値4.4年であった。
  • ・ 契約条件(契約面積・賃料単価)、ビルスペック(延床面積・築年数)と入居期間との相関関係はみられなかった。
  • ・ オフィス市況が悪化して賃料が下落している時期には入居期間が短い傾向があり、逆に賃料が上昇する局面では長くなる傾向がみられた。
  • 3. 2年未満で退去したテナント事例(ヒアリングから)

  • ・ 一般的な賃貸借契約の期間は2年間(自動更新)であるものの、2年未満で退去したテナントが一定数あり、その理由や背景は個々のテナントの様々な事情があった。

【データについて】

本調査では、ザイマックス総研が独自に収集したテナント管理データを使用している。分析対象は、東京23区内に位置するオフィスビルの、事務所用途の賃貸借契約とし、収集期間は2008年1月から2018年3月までの約10年間分である。

本調査では、賃貸借契約における「契約開始日」から「契約終了日」までの期間を「入居期間」とし、データ収集期間内に確認できた契約を分析対象としている。分析対象とする契約の入居期間の概念を【図表1】に示す。

図中①のパターンは、データ収集開始時点ですでに入居中かつデータ収集期間内に退去が完了した契約で、入居期間が確定している。

図中②のパターンは、データ収集期間内に入居および退去が完了しており、入居期間が確定している。

図中③のパターンは、データ収集終了時点で入居途中であり、調査時点では入居期間が確定できない。

図中④のパターンは、データ収集開始時点ですでに入居中であり、データ収集終了時点でも入居途中のため、調査時点では入居期間が確定できない。

③④は入居期間分析では打ち切りデータとして分析対象に含め、退去テナントの分析においては分析対象外として扱う。

以下「1.オフィステナント平均入居期間」に関しては上記①②③④の2,947件のデータを用いて推計し、「2.退去したテナントの分析」では退去済みの①②の1,273件のデータを用いて分析した。

【図表1】分析対象とする契約

1.オフィステナント平均入居期間

カプラン・マイヤー推定法(*2)により求めた入居継続率の入居期間による変化が【図表2】である。入居期間0年(0か月)のときの100%から、入居期間が長くなるにしたがいテナントが退去していくことで入居継続率が下がっていく様子が確認できる。

分析の結果、ちょうど半分のテナントが退去するまでの期間(オフィステナント平均入居期間)は9.6年であった。また、オフィスビルの賃貸借契約期間は2年間で設定されることが多いため、今回の推計では、2年以上入居し続けるテナントを推計したところ93.8%となり、すなわち2年未満で退去するテナントは6.2%となった。

これらの結果は、2014年に発表したオフィステナント平均入居期間(10.0年)と大きな差はなく、2年以上入居し続けるテナントの割合も変わらなかった(*1)。

【図表2】テナント入居期間と入居継続率の変化

(*2) カプラン・マイヤー推定法(Kaplan-Meier Method)
生存時間分析の一つで、生存関数(生存率)の推定に特定の確率分布を仮定しない、説明変数を導入しない手法。本調査においては、退去をイベント、調査期間末時点で入居中のテナントを打ち切りデータ、入居継続率を生存率として分析している。

2.退去したテナントの分析

2.1 退去したテナントの実態

「1.オフィステナント平均入居期間」は入居中のテナントのデータを用いて推計した平均入居期間であるが、実際にはテナントが入居して退去するまでの期間は様々である。そこで、すでに退去したテナントだけのデータを用いて入居期間を観測すると、平均値は5.7年、中央値(*3)は4.4年であった【図表3】。

【図表3】退去したテナントの入居期間

(*3) 中央値とは、データを小さい順にならべたときに中央に位置する値である。平均値に比べ外れ値の影響を受けにくく、年収など左右非対称の分布の代表値として用いられる(左右対称の分布の場合、平均値=中央値となる)。

2.2 入居期間と各種要素との関係

次に、退去したテナントの入居期間は賃料や契約面積などと相関があるのかをみた。「賃貸借契約面積」「共益費込賃料坪単価」「建物の延床面積」「退去時のビルの築年数」と入居期間との関係をみたところ、いずれの4項目とも明確な相関関係はみられなかった【図表4】。

通常、テナントは入居ビルを決める際に、当然に建物の規模や築年数などは理解した上で、契約面積や賃料単価などの賃借条件をビルオーナーと合意して賃貸借契約を締結する。そのため、入居したビルの規模や築年が理由でテナントが退去する事は少ないと考えられる。また、契約面積や賃料単価についても、テナントの経営状況・方針等が大きく変化したり、入居賃料を大幅に値上げされたりしなければ、これらを理由に退去するケースは少ないと思われる。

したがって、退去までの入居期間は、賃貸借契約の条件や規模等の建物スペックとほとんど関係がないと考えられる。

【図表4】賃料単価や建物規模などとの関係

2.3 オフィス市況との関係

次に、オフィス市況との関連をみるために、退去テナントの入居期間の時系列変化を調べた。

【図表5】は23区の空室率と新規成約賃料の単価水準を表すインデックスである。これをみると、2008~2012年にかけて空室率は上昇し、賃料は下落している。また、2013~2018年は空室率が低下し、賃料は上昇傾向にある。

【図表5】と同じ期間における退去テナントの入居期間の推移をみたのが【図表6】である。2008~2012年の賃料下落局面では、2013~2018年の賃料上昇局面に比べて入居期間が短い傾向にある。通常、賃料が下落する局面は空室が増加しており、借手側のテナントにとっては、現在入居しているビルの賃料より安く入居できる移転先候補の選択肢が多い状況にある。移転にかかる様々なコストを考慮しても、賃料負担が減る、あるいは賃料負担は変わらなくても立地や建物スペックが現状よりいいビルに入居できるというメリットを得られる時期である。また、貸手側のビルオーナーは賃貸収入を少しでも増加させるために、フリーレント(賃料の無償期間)を長く設定するなど、テナントの移転にかかるコストを低減させてテナントを積極的に取り込む行動を取る。その結果、テナントの移転が比較的頻繁に発生し、短い入居期間で退去するケースが増加する。これ以外にも、賃料が下落する景気後退期には企業の倒産や拠点統廃合、人員削減といった理由でコスト意識が高まることも、入居期間の短さに影響していると考えられる。

一方、賃料上昇局面では市場にある空室が少なくなり、空室が出ても館内拡張のニーズで充足され、市場に空室が出てこないことがある。テナントは希望する移転先がみつからず、移転を先延ばしせざるを得ない事態が生じてくる。また、貸手側が有利なこの時期は、ビルオーナーは短期間の入居を希望するテナントをなるべく避ける傾向がみられる。一般的なビルオーナーは、テナントの入退去に伴う空室期間や煩雑な事務の発生を嫌い、賃借人との良好な関係の構築を望む事などから、長く入居するテナントを優先したいためだ。このような理由から、賃料上昇局面では下落局面に比べて相対的に入居期間が長くなると考えられる。

【図表5】空室率と新規成約賃料インデックス

【図表6】入居期間の時系列変化

3. 2年未満で退去したテナント事例(ヒアリングから)

一般的なオフィスの賃貸借契約期間は2年間(自動更新)が慣例となっている。そのような中で、入居期間が2年未満のものが定常的に一定数みられる。そこで、2年未満の入居期間であったテナントがどのような理由で退去したのか、個別にヒアリングを行った(*4)。

テナントが想定していなかった事情で退去(移転)に至ったもののほか、入居当初より短期間での入居を前提としていたテナントも数多くみられ、以下に退去理由の事例を紹介する。

(*4) ヒアリングは、当該テナントの退去手続き等を行っていた当時のビル運営担当者に行っている。

【当初、予定していなかった事情による退去事例】

● 同ビル内のより広い区画が空いたため、当該契約を解約して移転を行った。(同一ビル内移転)

● 別ビルに希望するより広い区画があったため移転した。(他ビルへの移転)

● 業務が急拡大し、別のビルに入居していた他部署も含めて、よりグレードの高いビルに集約移転した。

● 経営が急激に悪化したため業務縮小し、本社ビルへ移転することになった。

● 破産したため退去した。

【入居当初より、短期間の入居を前提としていた事例】

● 自社ビルや親会社のビルの建替えのため、建替え完了までの間入居した。

● システム開発のプロジェクトを受託したことに伴い、開発期間だけ入居した。

● 建設会社が、近場で受注した建設現場の詰所として建設工事が終わるまで入居した。

● マンションディベロッパーが販売用モデルルームとして一時的に使用した。

● 行政からの受託業務で予算が年度区切りだったため、3月末までの入居となった。

● テナントがスタートアップ企業で、与信等を考慮したオーナー側の希望から、短期間の定期借家契約で締結した。(契約期間満了後、退去)

● 入居中のテナントがレイアウト変更に伴う物置のために、同ビル内の空き区画を一時使用した。

【まとめ】

テナントの平均入居期間は、入居し続けているテナントも考慮した場合は9.6年と推計され、これは前回調査した2014年時点と大きな変化は見られなかった。実際の入居期間はテナント毎に違うことから、今回は退去テナントだけの分析も行い、平均期間は5.7年(中央値は4.4年)となった。この長さは賃貸借契約の条件や建物スペックではなく、オフィスマーケット環境に影響を受けていることがわかった。

また、入居期間が2年未満のテナントが定常的に一定数いるため、個別に退去事情を確認していった。市況の影響を受けた移転(退去)だけではなく、入居した当初から短期間を前提としているテナントがみられ、それぞれのテナントに様々な理由や背景があった。


ビルオーナーの多くは不動産賃貸業の魅力を「収入の安定」と感じ、空室を長く抱える事より、長くテナントに入居してほしいと考えている(*5)。そのため、現在のような空室率がきわめて低いオフィスマーケット環境では、短期入居ニーズのテナントを受け入れるビルは少なくなりがちである。一方でテナントとなる企業側は働き方改革の推進に伴い、働く場所と時間のフレキシビリティを求めるようになってきており、契約期間2年(自動更新)といった従来の賃貸借契約では収まらない賃借ニーズが生じている。

今後、ビルオーナーとテナントにおけるこのようなギャップを埋める受け皿として、様々なテナント向けの新しいオフィスサービスが登場し、ビルの賃貸借の形態も多様化していく可能性がある。

(*5) 2018年10月25日公表「ビルオーナーの実態調査2018」参照
調査概要

調査対象

東京23区に所在するオフィスビルの事務所用途の契約

集計期間

2008年1月~2018年3月

データソース

ザイマックスが独自に収集したテナント管理データ及び物件データ

データ数

契約数は2,947件、うち退去テナント1,273件

※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
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