テナント

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2014.05.26

オフィスビルのテナントはどれくらい入居し続けるか?

ー東京23区オフィステナントの入居期間に関する調査分析ー

ザイマックス不動産総合研究所は、東京23区に所在するオフィスビルにおいて、入居したテナントの半分が退去するまでの期間を表す「オフィステナント平均入居期間」をカプラン・マイヤー法により推計した。

現在、オフィスビルの賃料水準や変動など一定の時点における指標は見られるが、入居期間に関する指標はデータ入手および分析の困難さからほとんど見受けられない。

本指標は、不動産収益を想定する際のテナント入れ替え率の目安としてなど、不動産経営に関わる様々な場面で利用できるものと考えられる。

調査分析の結果

オフィステナント平均入居期間(半分が退去するまでの期間)は10.0年(120か月)

※ビル属性、テナント属性による比較

(ビル立地)

都心5区内8.7年 ⇔ 5区外13.8年

(ビル延床面積)

延床2,000坪以上11.1年 ⇔ 延床2,000坪未満:9.4年

(ビル築年)

1991年以降9.7年 ⇔ 1990年以前10.5年

(テナント賃借面積)

100坪以上11.1年 ⇔ 100坪未満9.4年

使用したデータ

調査対象 東京23区所在のオフィスビルに入居する事務所用途のテナント(352棟、2018テナント)
期間 1967.9~2013.12
入居年月 テナントがそのビルに初めて入居した年月
退去年月 テナントがそのビルから最終的に退去した年月
入居期間 入居年月から退去年月までの期間(月数) 平均6.4年(76.7か月)
終了フラグ 調査期間末までに退去したテナント(803)と入居中のテナント(1215)を区別
ビル属性 立地(都心5区68.4%)、築年(平均:1990年)、延床面積(平均:1890坪)
テナント属性 賃借面積(平均100坪)

入居期間データの分布

調査により得られたテナントの入居期間の分布が図表1である。2年に満たない短いテナントから20年を超える長いテナントまで幅広く分布している。入居期間を合計しテナント数で割った平均は6.4年(76.7か月)であった。

【図表1】テナント入居期間の分布

【図表1】テナント入居期間の分布

背景と分析手法 ― 退去テナントと入居中テナントの扱い

図表2は一例として、同じ入居期間(111か月=9.25年)であった10テナントの入居月と退去月を示したものである。棒の左端が入居月、右端が退去月となる。調査時点(2013年12月)で入居中のテナントは薄い色で表示している。

【図表2】入居月と退去月の分布(入居期間111か月のテナントを抜粋)

【図表2】入居月と退去月の分布(入居期間111か月のテナントを抜粋)

すでに退去したテナントは入居期間が確定した一方、まだ入居しているテナントの入居期間は今後も増え続ける不確定な数値である。同じ入居期間の長さでも、その数字の持つ意味は異なる。このようなデータを分析する際は、退去テナントと入居中テナントを区別できる手法を用いることが適切と考えられる。

そこで、本調査では、医療、工学、マーケティングなどの分野でも用いられる生存時間分析の一つであるカプラン・マイヤー推定法(次ページ注参照)を用いて、入居期間について分析を行った。これにより、入居中テナントのような不確定なデータを退去テナントと区別しながら、テナントの入居継続確率の傾向を明らかにすることができる。

※ 生存時間分析
死亡、故障、契約終了をイベントとして、その発生率をモデル化し、イベントが発生するまでの期間やイベントの発生因子について分析する。医療分野においては薬品投与、手術処置の生存率、信頼性工学では故障率、マーケティング分野では顧客離脱率についてなど幅広い分野で利用されている。
※ カプラン・マイヤー推定法(Kaplan-Meier Method)
生存時間分析の一つで、生存関数(生存率)の推定に特定の確率分布を仮定しない、説明変数を導入しない手法。本調査においては、退去をイベント、調査期間末時点で入居中のテナントを打ち切りデータ、入居継続率を生存率として分析している。

分析結果 ― テナントがちょうど半分退去するまでの期間は10年

カプラン・マイヤー推定法により求めた入居継続率の入居期間による変化が図表3である。入居期間0年(0か月)のときの100%から、入居期間が長くなるにしたがいテナントが退去していくことで入居継続率が下がっていく様子が確認できる。

分析の結果、ちょうど半分のテナントが退去するまでの期間(オフィステナント平均入居期間)は10.0年であった。半分のテナントは10年以上入居し続けていることがわかる。

また、オフィスビルの賃貸借契約期間は2年間で設定されることが多いが、2年以上入居し続けるテナントは93.8%、すなわち2年以内に退去するテナントは6.2%であった。実際は、多くのテナントが賃貸借契約を更新し、2年より長く入居していることが確認された。

【図表3】入居期間によるテナント入居継続率の変化と「オフィステナント入居継続期間」

【図表3】入居期間によるテナント入居継続率の変化と「オフィステナント入居継続期間」

ビル属性、テナント属性によるオフィステナント入居期間の比較

オフィスビルの属性(立地、規模、築年)、テナントの賃借面積により、調査対象テナントを層別し、それぞれの入居継続率とオフィステナント平均入居期間を比較した(図表4)。

立地で比較すると、都心5区内:8.7年、都心5区外:13.8年と、より都心である方が、オフィステナント入居期間が短かった。規模で比較すると、延床面積2,000坪以上:11.1年、同2,000坪以下:9.4年と、大型の方がやや長い結果となった。築年で比較すると、築1991年以降:9.7年、築1990年以前:10.5年と、比較的大きな差はなかった。テナント賃借面積で比較すると、100坪以上:11.1年、100坪未満9.4年と大きなテナントの方がやや長い結果となった。

【図表4】ビル属性で層別したオフィステナント平均入居期間

【図表4】ビル属性で層別したオフィステナント平均入居期間

オフィスビルの収入総額は、テナントが入れ替わる都度、少しずつマーケット状況に近づく。オフィステナント平均入居期間が長いとは、テナントが入れ替わる機会が少なく、マーケットの変化を比較的ゆっくりと反映しやすいといえる。逆に、オフィステナント平均入居期間が短いと、マーケットの変化を比較的早く取り込みやすいと考えられる。

参考文献

  1. 瀧澤重志,松原周平,加藤直樹,小林篤司,東京都内のオフィスビルへのテナント入居と空室期間に関する分析,日本建築学会計画系論文集Vol. 75 (2010) No. 655 P 2221-2228
  2. John P. Klein,Melvin L. Moeschberger,打波守訳,生存時間解析
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