商業・ホテル

PDF版ダウンロード

2018.11.29

商業店舗の情報管理に関する実態調査2018

~商業事業者へのアンケート・ヒアリングより~

ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は早稲田大学建築学科小松幸夫研究室(*1)と共同で、「商業店舗の情報管理に関する実態調査2018」を実施した。この調査はザイマックス総研が同日に発表した「商業店舗の不動産戦略に関する実態調査2018(*2)」と同時に、多店舗を運営・統括する商業事業者(以下、事業者)を対象(*3)として、アンケートおよびヒアリングを行ったものである。

新規出店、改装、中途解約など、店舗の不動産戦略(=店舗不動産をどのように活用するか)を策定・実行するためには、そのベースとして、店舗開発・営業実績・顧客属性・店舗資産・諸税など、さまざまな情報の管理が不可欠である。本レポートは、事業者が具体的にどのような体制で情報管理を行っているのか、またその課題などについて、実態をとりまとめたものである。

*3 調査対象:個人消費を目的とした小売業・飲食業・娯楽業・サービス業のうち、東京商工リサーチ社の直近調査年度の売上高が30億円以上の事業者(調査概要は末尾)

(関連調査) 2017年9月29日公表「商業店舗の出退店に関する実態調査2017
主な調査結果
  • ・ 代表的な店舗情報のうち、全てのデータがデジタル化されて管理している情報の上位項目は、「顧客情報」、「売上高・P/L推移」、「残存簿価・公租公課」であった。
  • ・ 本部に全店舗分が集約されている店舗情報の上位項目は、「売上高・P/L推移」、「当該物件の契約情報」、「リース契約・店舗資産台帳」、「残存簿価・公租公課」であった。
  • ・ 「店舗情報を管理する専門部署がある、または専任担当者がいる」事業者は約60%であった。
  • ・ 店舗情報を管理する上で発生しうる問題事例と、実際の発生頻度の上位項目は、「店舗情報が最新版に更新されない」、「担当者変更の際、引き継ぎが不十分で店舗情報の一部欠損が発生」、「情報の誤入力」であった。
  • ・ 事業者へのヒアリングでは、「店舗情報を部署横断型で一括管理し、店舗の不動産戦略策定を効率的に行うための工夫をしている」との事例があった。

1. 店舗情報の管理状況

業種および店舗について(回答事業者の属性)は、ザイマックス総研が同日に発表した、「商業店舗の不動産戦略に関する実態調査2018」と同一である。

1-1. 店舗情報の管理形態

代表的な店舗情報として、下記11項目について管理形態をたずねたところ、「全てのデータがデジタル化されている」と回答した事業者が多い項目は、「顧客情報」(46%)、「売上高・P/L推移」(46%)、「残存簿価・公租公課」(42%)であった【図表1】。

【図表1】店舗情報の管理形態(単一回答、n=391) 


事業者へのヒアリングでは、「顧客情報」「売上高・P/L推移」「残存簿価・公租公課」の3項目についてはデータベース化(=任意の指定条件で情報抽出・編集が可能)している事業者が多かった。

上記3項目以外の情報の「デジタル化」の状況としては、エクセル管理や紙資料をPDF化して社内サーバーに保管している、などが多くの事業者の実態となっていた。

1-2. 本部集約されている店舗情報

上記店舗情報について、本部(または支社・エリアなど)に全店舗分を集約している情報はどれかをたずねた。その結果、本部に集約している事業者の割合は全体的に高く、特に「売上高・P/L推移」「当該物件の契約情報」「リース契約・店舗資産台帳」「残存簿価・公租公課」は90%以上の事業者が本部に集約していた。

一方で、「過去の交渉履歴」「交渉先キーマン情報」などはともに60%台で本部に集約している事業者の割合が相対的に低かった【図表2】。

【図表2】本部集約している店舗情報(複数回答、n=391)


ヒアリングで、本部に集約していない情報はどこにあるのかをたずねたところ、「発注・委託先(アウトソース先など)」や「そもそも情報を保管していない」などが多く、「店舗だけにしか情報がない」といったケースはほぼなかった。

また、複数の事業者から、「過去の交渉履歴」「交渉先キーマン情報」については、いまだに属人的な管理が残っているとの声があった。

2. 店舗情報管理の仕組み・システム

具体的な店舗情報管理の仕組み、システムについてたずねたところ、「店舗情報を管理する専門部署がある、または専任担当者がいる」に、「あてはまる」「ある程度あてはまる」と回答した事業者は、約60%であった【図表3】。

【図表3】店舗情報管理の仕組み・システム(複数回答、n=391)

ヒアリングで既存店舗の情報管理をしている部門についてたずねたところ、多くの事業者は、契約情報は開発部門、顧客情報は営業部門、残存簿価は会計部門など各部門での管理となっており、不動産戦略を策定する際に、必要な店舗情報をその都度集める形で運用していた。しかし、それに対して「問題がある、困っている」との声は少ない。

比較的店舗数の少ない事業者においては、「管理部で一元管理している」といったケースや、「新規出店(開発部門)とは別部隊で、店舗改装や中途解約などの不動産戦略を策定・立案する専門チームがあり、既存店舗情報を部門横断型で一括管理する専任担当者がいる」という事例もあった。

3. 店舗情報管理で発生した問題事例の頻度

店舗情報を管理する上で発生しうる問題事例と、実際の発生頻度についてたずねたところ、「よくある」「たまにある」の回答が多かった上位3項目は、「店舗情報が最新版に更新されない」(29%)、「担当者変更の際、引き継ぎが不十分で店舗情報の一部欠損が発生」(28%)、「情報の誤入力」(25%)であった【図表4】。

【図表4】店舗情報管理で発生した問題事例の頻度(単一回答、n=391)

ヒアリングでは、「店舗情報の管理で、最も手間がかかるのはメンテナンス。エクセル管理のデータは人が情報を入力していくので、最新情報への更新を忘れる・情報の誤入力などは比較的発生しやすい」との声があった。また、情報のデータベース化についてたずねたところ、「売上高など日々更新され、かつ重要度の高いデータが優先。契約書など店舗開発情報のデータベース化は、コスト的な面からも会社として進めていこうという状況にはなっていない。仲介会社から未だにFAXで物件情報が送られてくることもあり、20年以上前から管理の仕組み自体はほとんど変わっていない」との声があった。

4. 事業者ヒアリングなどで寄せられたコメント

<店舗情報の管理状況について>

● 店舗情報を部署横断型で一括管理し、店舗の不動産戦略策定を効率的に行うための工夫をしている。:小売業(食品)

● 基本的にエクセル管理。店子(テナント)がいるわけではないのでエクセルレベルで問題なし。管理・保管は、それぞれの専門部署で行っている。:小売業(食品)]

● 昔の契約が紙で残っており、デジタル化進行中。図面が見つからなかったこともある。:小売業(食品)

● 契約書は全部紙。いままで社内で情報管理のデジタル化などの議論はなかった。:小売業(非食品)

● 10年前位からデジタル化をはじめた。情報化社会なのでやっていこうという方針。:小売業(非食品)

● 売上や顧客情報など自分たちでつくるものはデータベースで持っている。ディベロッパーからもらう情報は、紙やPDF、エクセルなどで管理しており、データベース化していない。:小売業(非食品)

<情報管理の仕組み・システムについて>

● 新規店舗の情報はオープン後に不動産管理グループに引き継ぎ、そこでデジタル化。:小売業(食品)

● マニュアルがなく、個人・店舗に情報が紐づいている部分がある。:小売業(食品)

● 店長は自店と他店の売上高は閲覧することができるが、P/Lは閲覧できない。:小売業(非食品)

● 経営陣は店舗情報に常にアクセスできる状況にしている。店舗側は、全店舗の売上を毎日の配信で確認できる。P/Lは自店の情報しか閲覧できない。:小売業(非食品)

● 情報は各部署で持っている。現状で使い勝手の悪さはない。:娯楽業

<問題事例と頻度について>

● 契約更新交渉は、毎期、期間満了リストを出して担当者間で逐次情報共有している。失念することはない。:飲食業

<運用・組織上の課題について>

● グループ、HDで経営戦略を練っており、月に一度の会議で様々な意思決定を行うため、決定が遅い。:小売業(食品)

● 複数の地権者がいる場合、調整に手間取ることもあったが、最近、地権者をまとめる交渉代行会社がでてきた。:小売業(食品)

● 地方では、新規店舗出店の際、図面が残っていない・建物が勝手に増築されている、などが結構あり、店舗オーナーとの調整に時間がかかる。:小売業(非食品)

● POSレジはあるが、自社ポイントカードがないので、顧客属性の分析ができない。:小売業(非食品)

● 店舗をクローズしている期間の売上ロスを極力減らしたいため、改装工程がタイト。:小売業(非食品)

● 親会社がファンドであることもあり、予算管理・工程管理が細かくて厳しい。:飲食業

● 新店や改装店舗のコスト調整に手間がかかる。特にB工事。予算の倍で提示されることもザラにある。:飲食業

● コンプライアンス、個人情報管理など行政の指示が厳しい。:サービス業

  

5. まとめ

今回のアンケートおよびヒアリングにより、商業店舗の情報管理の実態が明らかになった。店舗情報の管理形態のレベル感はさまざまであり、ほとんどの事業者にとって、情報のデジタル化=データベース化とはなっていない。情報管理が属人的になっている事例は一部に存在するが、部署間での店舗情報のやりとりに関しては、いまだに属人的な対応となっている事業者は比較的多いと考えられる。

近い将来、IT技術のさらなる進化、AIの普及などによって、事業者の全ての業務プロセスが抜本的に変革していくことになるであろう。店舗の情報管理も同様であり、管理体制・運用の巧拙が、業務効率・生産性の向上、競合事業者との差別化、優位性確保を左右するものと考えられる。事業者は、店舗の不動産戦略策定における情報管理の重要性を改めて理解し、将来のあるべき姿について、今から検討していく必要があるのではないだろうか。

ザイマックス総研では、今後も商業施設や商業店舗に関する研究を続け、有益な情報を発表していく予定である。

調査概要

調査期間

2018年6月~9月

調査対象

個人消費を目的とした小売業(食品)・小売業(非食品)・飲食業・娯楽業・サービス業(※1・2)のうち、直近調査年度の売上高が30億円以上の事業者 5,117社(※3)

※1:総務省日本産業分類に基づき、現在、日本の主力商業施設であるショッピングセンター・商業ビル・ロードサイドなどに出店している業種・業態を選定
※2:サービス業は、理美容・旅行・教育・保険・不動産に絞り、商業施設に出店している企業を抽出
※3:東京商工リサーチ社データに基づき、対象を抽出

有効回答数

アンケート:391社(回答率:7.6%)・ヒアリング:18社

調査地域

全国

調査方法

郵送およびWEBにてアンケート調査、およびヒアリング

調査内容

Ⅰ.事業および店舗について

Ⅱ.店舗の不動産戦略について:https://soken.xymax.co.jp/2018/11/29/1811-survey_on_retailer1/ 参照

Ⅲ.店舗の情報管理について

※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
※当社の事前の了承なく、複製、引用、転送、配布、転載等を行わないようにお願いします。

英語版:News & Research

レポートに関するお問い合わせ

ザイマックスグループホームページへ
レポートの一覧へ