2017.09.29
商業店舗の出退店に関する実態調査2017
~商業事業者へのアンケート・ヒアリングより~
ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は早稲田大学建築学科小松幸夫研究室*1と共同で、多店舗を運営・統括する商業事業者(以下、事業者)を対象*2に、商業店舗の出退店に関するアンケートおよびヒアリングを実施した。本レポートは、その結果を集計し、とりまとめたものである。
事業者にとって店舗の出退店は事業の根幹であり、最も重要な不動産戦略のひとつである。しかし、事業者の出退店の実態を幅広い業種にわたって定量的に分析した調査は、世の中にはほとんど存在していない。
今回のレポートは、事業者の出退店戦略の実態を明らかにするための基礎調査であり、商業店舗をとりまく環境変化が加速していくなかで、将来にむけた事業者の出退店戦略のみならず、投資家・施設所有者・地主にとっても、不動産管理・運営方針策定のための有効なデータとなれば幸いである。
*1 早稲田大学建築学科小松幸夫研究室*2 調査対象:個人消費を目的とした小売業・飲食業・娯楽業・サービス業のうち、東京商工リサーチ社の直近調査年度の売上高が30億円以上の事業者(調査概要は末尾)
- ・店舗出店における不動産(土地・建物)の所有・賃借の方針については、「特に決まっていない」と回答した事業者が32%で、所有者・貸主の方針に応じて、物件ごとに柔軟に対応している。
- ・事業者が出店時に特に重視する項目は、「エリア」・「マーケット規模」・「賃料および共益費」であり、出店時の困り事としては、「従業員が確保できない」・「自店適正面積と合う物件が少ない」が多い。
- ・過去3年間に「賃借店舗で契約期間満了前に中途解約し、退店したことがある」と回答した事業者は45%で、中途解約の理由としては、マーケット環境の変化など外的要因が多い。
- ・今後の出店・退店戦略に影響を与える社会的・経済的な要因は、「少子高齢化、人口減少、人口の都心部集中」が90%、「人手不足による人件費、物流費などのコスト増」が84%で突出して高い。
- ・アンケート結果および事業者へのヒアリングから、店舗のビジネスサイクルと契約期間に不整合(長すぎる・短すぎる)が生じている実態が示唆された。
1. 業種および店舗について(回答事業者の属性)
主力事業の業種・業態については、小売業(食品および非食品)が多い【図表1】。業種・業態別の比率は、アンケートを依頼した全事業者の業種・業態比率と概ね同様となっている。直営店舗の国内店舗数については、飲食業、サービス業は50店舗以上で多店舗展開する事業者が多い【図表2】。
【図表1】主力事業の業種・業態(単一回答、n=586)
【図表2】直営店舗の国内店舗数(単一回答、n=583)
出店地域を「北海道」「東北」「関東」「東海」「北陸・甲信越」「関西」「中国・四国」「九州・沖縄」の8区 分でたずねたところ、小売業(食品)は75%が1エリアで、地域密着型の店舗展開をしている事業者が多い【図表3】。標準的な店舗面積は、サービス業、飲食業が小さく、150坪以下の事業者が90%を超える【図表4】。
【図表3】直営店舗の出店地域(複数回答、n=583)
【図表4】標準的な店舗面積(単一回答、n=577)
2. 契約形態について
2-1. 所有・賃借の方針
店舗出店における不動産(土地・建物)の所有・賃借の方針についてたずねたところ、「建物賃借(借家)」(43%)が最多で、次いで「特に決まっていない」(32%)が多い。所有者・貸主の方針に応じて、物件ごとに柔軟に対応している事業者が多いことがうかがえる【図表5】。
【図表5】所有・賃借の方針(単一回答、n=579)
所有・賃借の方針については、店舗数が多い事業者ほど「建物賃借(借家)が原則」とする比率が増加する【図表6】。また、店舗面積が小さい事業者ほど「建物賃借(借家)が原則」とする比率が高く、店舗面積が大きい事業者ほど「自社所有が原則」とする比率が増加する傾向がみられる【図表7】。
【図表6】所有・賃借の方針:店舗数別(単一回答、n=571)
【図表7】所有・賃借の方針:店舗面積別(単一回答、n=577)
2-2. 現状の所有・契約形態
既存店舗の現状の所有・契約形態についてたずねたところ、「自社所有」の推計店舗数*3の比率は11%にとどまり、大多数が賃借となっている。「自社所有」は店舗数の少ない事業者に多い傾向がみられる【図表8】。
【図表8】現状の所有・契約形態:自社所有 (複数回答、n=578)
また、更地に建物を新設する場合の主要な事業フレームである「事業用定期借地*4」と「リースバック(建設協力金)*5」の推計店舗数は、59%:41%で「事業用定期借地」の比率が高いが、店舗数が多い事業者ほど「リースバック(建設協力金)」の比率が増加する傾向がみられる【図表9】。
【図表9】現状の所有・契約形態:事業用定期借地/リースバック(建設協力金)(複数回答 n=578)
建物賃借(借家)での「定期借家契約」と「普通借家契約」の推計店舗数は、54%:46%で「定期借家契約」の比率が若干高い。事業者の店舗数による明確な差異は見られない【図表10】。
【図表10】現状の所有・契約形態:定期借家契約/普通借家契約(複数回答、n=578)
*3 推計店舗数:事業者が回答した「国内店舗数」と「現状の所有・契約形態」の割合から算出した店舗数*4 事業用定期借地:地主は土地を貸すだけで、事業者が店舗を建設(店舗所有者は事業者)し、地代を地主に支払う
*5 リースバック(建設協力金):事業者が地主に店舗の建設資金を「建設協力金」として預け、地主が店舗を建設(店舗所有者は地主)し、事業者に一括賃貸する(事業者は毎月、賃料から建設協力金の分割返済額を引いた分を地主に支払う)
2-3. 施設形態と初回契約期間
既存店舗の施設形態をたずねたところ、推計店舗数の比率は、「ロードサイド単独店」(40%)が最多で、次いで「ショッピングセンター」(22%)となっている【図表11】。
【図表11】既存店舗の施設形態(複数回答、n=574)
上記のうち、賃借店舗の初回契約期間についてそれぞれ最も割合の多い年数をたずねたところ、ロードサイド単独店では「17~20年」(45%)と長期間の契約が多い。一方、ショッピングセンターでは「5~8年」(47%)に集中している。【図表12】。ショッピングセンターが比較的短期間の契約(5年・6年が多い)とするのは、施設の資産価値を維持向上させるため、定期的にリニューアルを実施することが背景にあると考えられる。
(参考)2016年3月23日発表「ショッピングセンターのテナントはどれくらい入居し続けるか?」また、事業者へのヒアリングでは、「ロードサイドの20年定期借家契約は長すぎる」との一方で、「ショッピングセンターの5年定期借家契約は、投資回収の観点からみると短すぎる」との声があり、店舗のビジネスサイクルと契約期間に不整合が生じている実態が示唆された。
【図表12】賃借店舗の初回契約期間(n=571)
3. 出店について
3-1. 新規出店時の重視項目
店舗の新規出店を検討する際の重視項目を「A:立地・マーケット」「B:(賃借時)契約者・契約条件」「C:建物・設備」「D:競合店」「E:その他物件与件」の5つに分類し、計27の項目でそれぞれの重視度合いをたずねたところ、「重視する」の回答が多かったのは「A:エリア」(80%)、「A:マーケット規模」(79%)、「B:賃料および共益費」(76%)の順となった【図表13】。
上記A~Eの分類別では、「A:立地・マーケット」、「D:競合店」の重視度が高く、「C:建物・設備」の重視度は全体的に低くなっている。背景としては、建物賃借(借家)でテナントとして出店する場合、「建物・設備の維持管理は施設所有者が対応するもの」との意識があると考えられる。また、事業者へのアンケートでは「(事業者負担となる)建物・設備スペックなどに不足があっても、コストをかければ、ほぼ解決できる」との声があった。
【図表13】新規出店時の重視項目(n=576)
A:⽴地・マーケット B:(賃借時)契約者・契約条件 C:建物・設備 D:競合店 E:その他物件与件
3-2. 新規出店時の困り事
新規出店時の困り事について発生頻度・程度をたずねたところ、「人手不足」、「適正面積の物件が少ない」、「契約条件が厳しい」、「未公開の物件情報が入手しづらい」の順で、「よくある」「たまにある」の比率が高くなっている【図表14】。
【図表14】新規出店時の困り事(n=569)
【図表14】の「よくある」「たまにある」の上位回答を業種・業態別に見ると、「人手不足」は小売業(食品)と飲食業が特に高い。また、「契約条件が厳しい」は飲食業が特に高く90%を超える【図表15】。
【図表15】新規出店時の困り事:業種・業態別(n=569)
3-3. 社内決裁で重視される判断指標
新規出店の社内決裁で特に重視される判断指標をたずねたところ、「売上高」(63%)が最も高いが、「総投資額」(51%)、「営業・経常利益率」(51%)についても半数以上の事業者が重視している【図表16】。大半の事業者は複数の指標で出店の判断をしている。
【図表16】社内決裁で重視される判断指標(複数回答、n=576)
4. 退店について
4-1. 中途解約
過去3年間の賃借店舗の状況をたずねたところ、「契約期間満了前に中途解約し、退店したことがある」と回答した事業者は45%であった。また、「中途解約を検討したが、契約の縛りがあり解約できなかった(営業継続)」と回答した事業者は22%であった【図表17】。
【図表17】過去3年間の賃借店舗の状況(複数回答、n=565)
店舗面積が小さい事業者ほど、「契約期間満了前に中途解約し、退店したことがある」の回答比率が高くなっている。店舗面積が小さい事業者は、店舗数が多く、建物賃借(借家)の比率が高いためと考えられる【図表18】。
【図表18】中途解約:店舗面積別(複数回答、n=560)
「中途解約したことがある」と回答した事業者に理由をたずねたところ、「マーケットの購買力が縮小」、「競合店の増加」、「近隣店舗撤退の影響を受け、店舗(商業集積)の集客力が低下」など、外的な要因によるものが多いことが分かった【図表19】。
【図表19】中途解約した理由(複数回答、n=253)
4-2. 中途解約できず営業継続した店舗の賃借条件変更
【図表17】の「過去3年間に賃借店舗で中途解約できず営業継続した店舗がある」と回答した事業者(22%)が行った賃借条件変更の対応としては、「賃料減額」(58%)が最も多い。一方で「条件変更なし」(47%)と回答した事業者も賃料減額に次いで多い【図表20】。
【図表20】中途解約できず営業継続した店舗の条件変更(複数回答、n=122)
5. 今後の出店・退店戦略に影響を与える要因
今後の事業者の出店・退店戦略に影響を与える社会的・経済的な要因についてたずねたところ、「少子高齢化、人口減少、人口の都心部集中」(90%)、「人手不足による人件費、物流費などのコスト増」(84%)が突出して「影響がある」との回答が多い。【図表21】。
【図表21】今後の出店・退店戦略に影響を与える要因(n=576)
6. 事業者へのヒアリングで寄せられたコメント
・良い物件であれば、契約形態にとらわれることなく出店する。
・リースバック(建設協力金)は、店舗所有者が建物の修繕、維持管理コスト負担となるため、ランニングコストを抑えることができる。
・建物仕様自体がコーポレートアイデンティティの一環。他社に使われたくないため、事業用定期借地で更地にしてお戻しする。
・ショッピングセンターはほぼ定期借家契約だが、ロードサイド単独店などは、現在も普通借家契約の比率が比較的高い。
・ロードサイド単独店の初回契約期間は、20年契約が多く、長いと感じている。定期借家契約でも中途解約できるよう交渉しておく。
・ショッピングセンターの初回契約期間は、飲食業でも5年、6年の定期借家契約が多く、投資回収が厳しい店舗もある。もう少し長いほうが望ましい。
・物件開発では、とにかく立地、マーケットが最重要。
・原則としてショッピングセンターは地域一番店しか出店しない。全館売上高が低い施設は自店の努力だけではどうにもならないため。
・建物、設備スペックなどに不足があっても、(限度はあるが)コストをかければ、ほぼ解決できる。
・店舗は全店共通の仕様で作りこむため、居抜きよりスケルトンの方が望ましい。
・フリーレントは全く気にしない。是非出店したい物件であれば、保証金の積増しや賃借条件を引き上げてでも取りに行く。
・人手不足のため、エリアによってはパート、アルバイトの時給が相当高くなっている。
・商品知識や接客マナー教育に加え、外国語ができる人材も必要な時代になってきた。
・昔よりも各業種業態の展開面積の幅が広がってきており、物件獲得競争が厳しくなってきている。
・(定期借家契約で)再契約できるよう、日頃から施設所有者、地主とのリレーションを良好に保つ。
・周辺に良い移転先がみつかれば、中途解約になっても移転する。
・建物、設備が老朽化しても、リニューアルで持ち直す可能性がある店舗は極力継続する。
・エリアブランディングの要素が高い場合は、多少P/Lが悪くても中途解約はしない。
・ディベロッパーがC工事も負担しているため、中途解約はせず契約を全うする。
・中途解約の前提でも、まずは賃料減額の申し入れをする。
7. まとめ
今回のアンケートおよびヒアリングにより、商業事業者の店舗の出退店の実態が明らかになった。店舗は「立地・マーケット」が最も重要であり、マーケット環境や消費者行動の変化を敏感に捉えつつ、適切な出退店を行っていくことが、多くの事業者にとってあるべき出退店戦略だと考えられる。
また、調査結果及びヒアリングから、投資回収期間からみた店舗のビジネスサイクルと、契約期間に不整合(長すぎる・短すぎる)が生じている実態が示唆された。家主側と出店側である事業者のニーズ・利害は必ずしも一致していないということであり、事業者がいかにリスクヘッジをしていくかは、出退店の成否にかかわる重要な課題になると考えられる。
ザイマックス総研と早稲田大学小松幸夫研究室は、昨年、「商業店舗の修繕に関するアンケート調査」を実施した。今回の「商業店舗の出退店に関するアンケート調査」は第2弾となる。ザイマックス総研では、今後も商業施設や商業店舗に関する研究を続け、有益な情報を発表していく予定である。
調査期間
2017年5月~8月
調査対象
個人消費を目的とした小売業(食品)・小売業(非食品)・飲食業・娯楽業・サービス業(※1・2)のうち、直近年度売上高が30億円以上の企業 5,117社(※3)
有効回答数
- アンケート:586社(回答率:11.5%)
- ヒアリング:9社
調査地域
全国
調査方法
郵送およびWEBにてアンケート調査、およびヒアリング
備考
- Ⅰ.事業および店舗について
- Ⅱ.契約形態について
- Ⅲ.出退店について
英語版:News & Research
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