2015.06.01
東京賃貸オフィスビル市場における修繕費の将来予測
~東京オリンピック以降も一定水準で推移~
ザイマックス不動産総合研究所は、この度、東京23区の賃貸オフィスビル市場における修繕費の将来予測を行った。スクラップ・アンド・ビルドからストック型社会へ移行している中で、数多くのビルが今後ともオフィスストックとして良好に機能するには、中長期的な視点で適正な維持管理を行うことが前提となる。今回の調査は、東京23区の賃貸オフィスビルにおける維持管理に必要な修繕費(注1)を2054年まで推計したものである。
今後20年の東京23区賃貸オフィスビルの修繕費は、2020年の東京オリンピックまで増加が続き、その後も年間3,000億円前後で推移する(図表1)
【図表1】東京23区賃貸オフィスビル市場における修繕費予測
(注1)本調査における分析対象工事について
賃貸オフィスビルで発生する工事を
- ・共用部・専用部
- ・費用負担区分
に分けた概念図を右に示した。
本調査では、性能維持・バリューアップ・原状回復の予測をし、仕様・金額に個別性の高い入居工事は含まない。
(実線の工事が算出対象、点線は対象外)
- ・性能維持工事
空調や電気などの設備や、外壁、内装部材等が経年により劣化した性能を、運用上支障のない、または新築時のレベルまで回復させるための工事。 - ・バリューアップ工事
著しい性能の劣化や、その時点の価値基準に応えらない場合、安全性の確保が難しくなった場合等に行うビルの価値を高めるための工事。全館リニューアル、省エネ設備導入、耐震改修など。ただし、本調査では、共用部の大規模改修のみを対象としている。 - ・原状回復工事
テナントが退去時に、約定に基づいて契約締結時の状態に修復して明け渡す際の工事。
オフィスビルの規模別修繕費の推移
2054年まで、大規模ビルの修繕費は経年とともに今後、徐々に増加する。一方、中小規模ビルの修繕費は2027年までにピークを迎え、その後は増減を繰り返す(図表2)。
図表2は、大規模ビルと中小規模ビルに分け(※1)、2054年までの修繕費を推計したものである。一般的にオフィスビルは、築15年を経過したあたりから大型設備の更新や改修の時期が定期的に到来し、修繕費が増大する傾向にある(注2)。
大規模ビルは今まで継続して供給が行われてきた。今後も同様に供給が続くと仮定すると、修繕費はさらに増加していく傾向にある。
一方、中小規模ビルはバブル期に大量供給があった後は、供給が少ない状況が続いている(※2)。そのため2027年頃まで更新時期を迎えるビルが集中し、修繕費が高水準で推移する。その後は大規模ビルと異なり、緩やかに増減を繰り返す。
※1 大規模ビル:延床面積5,000坪以上(674棟、1,126万坪)
中小規模ビル:延床面積300坪~5,000坪未満(6,425棟、延床面積742万坪) (2014.11時点)
※2 2014年4月18日公表「オフィスピラミッド2014」参照
【図表2】規模別の修繕費将来予測
(注2)50年間のオフィスビルの修繕イメージ(延床面積2,700坪、地上9F/地下1F、1990年竣工を想定)
ビルの竣工後、50年間に見込まれる修繕のイメージを表した。竣工後15年頃より、外壁改修や空調などの大型設備の更新が発生し、約30年で概ね設備の更新が一巡する。
50年間のビルの修繕イメージ
さいごに
オフィスビルは、企業の経済活動の基盤となっている重要な社会的資本ともいえ、今後とも良好な状態で維持し、継続してその機能が発揮されることが期待されている。
今回の調査で、将来必要となる修繕費の大まかな総額が分かった。東京23区賃貸オフィス市場では、大量に存在するバブル期(及びそれ以前)の中小規模ビルの築古化がさらに進む。これらのビルは今後ますます修繕費が必要となり、機能維持や安定的な収入にもつながる修繕を適切に実施できるかが、今後のオフィス市場の良質なストック形成のポイントとなろう。
なお、今回の調査分析は延床合計約190万坪の物件データを元に行い、将来のストック量については、早稲田大学創造理工学部 小松幸夫教授より、ビルの滅失などを踏まえた推計方法のアドバイスを受けた。ザイマックス不動産総合研究所は、今後とも社会的な課題となるテーマについて取り上げ、調査分析を行い、リリースなどを通じて公表していきたいと考えている。
対象エリア:
東京23区
対象物件:
延床面積300坪以上
築50年未満
主な用途が事務所
*収集データは、新聞記事など一般に公開されている情報のほか、賃貸募集(過去を含む)された情報などをもとに築年が判明している物件を対象として集計した。なお、原則自社ビルを除いている。
*一般的にバブル期は1985年~1991年とされるが、本稿では、ビルの計画から供給(竣工)までの期間を考慮し、3年後までの1985年~1994年を「バブル期の大量供給」とした。
*2015年以降のストック量の変化については、過去供給の延床面積より、新規および滅失を想定し、竣工年・規模別に算出した。
「東京賃貸オフィスビル市場における修繕費の将来予測」修繕費算出方法
*ザイマックスグループの工事実績約8.4万件をもとに作成した計画指標(「Xymax標準LCC」)を使用し、各ビルの60年分の修繕費を経年別に試算した。
*ビルの設備の有無・数量・容量などのスペックついては、延床面積・階数・竣工年より、法令等に基づいて想定、相場で賃貸可能な仕様レベルとしている。
参考例(延床面積2,700坪、地上9F/地下1F、1990年竣工)
防水:
アスファルト防水押えコンクリート
外壁:
タイル貼り
空調:
個別空調
駐車設備:
水平循環式(30台)1基
EV:
3台
*共用部改修(バリューアップ)工事は、トイレ、給湯室、エントランス、サイン、EV内装の大規模な共用部リニュ―アルを想定。経年劣化によるエレベーターホールのクロス張替等は、修繕費に含めた。
*専用部の原状回復工事内容は下記を対象とし、間仕切りの撤去、増設電源・空調機の撤去などは含んでいない。
- ・床タイルカーペットの貼り替え
- ・壁のクロス貼り替え、または再塗装
- ・天井岩綿吸音板の塗装
- ・出入り口建具や窓台などの塗装
- ・OAフロア内のLANやコンセントの配線撤去
- ・照明器具の管球交換
- ・鍵の交換、クリーニング
- ・工事に必要な養生などの仮設費
*専用部の入居工事は工事費の集計には含んでいない。
*大規模ビルの設備・仕様においては個別性が高いため、一定の基準で統一した。また、環境変化によって求められる設備(免震・耐震装置など)の設置や改修は含んでいない。