CRE戦略を分類する

事業構造の違いが企業不動産の役割をどう変えるか

ザイマックス総研ではこれまで、企業不動産(CRE)の総論、歴史的変遷、日本企業のCRE戦略の実態について整理、公表してきた。次に重要な論点としては、企業によって最適なCRE戦略のあり方は異なるという点である。企業は、自社の業種・業態、働き方、拠点の使われ方、保有不動産の質と量に応じて、「最適化」「再配置」「収益化」を組み合わせながら、企業不動産の持ち方・使い方を設計していく必要がある。また、一社の中でも、本社、営業、研究開発、製造など、機能ごとに求められる戦略は異なる。したがって、CRE戦略は一つの型にそのまま当てはめるものではなく、事業と不動産の関係性に応じて組み立てるべき経営課題として捉え直す必要がある。

本レポートは、こうした問題意識を踏まえ、企業のCRE戦略を分類する試みである。もっとも、ここで示す類型は、CRE戦略を考えるための典型例を整理したものであり、すべての企業や事業特性を網羅するものではない。実際には、一社の中に複数の類型が併存することも少なくなく、その組み合わせや比重も企業ごとに異なる。本レポートでは、こうした前提のうえ、企業不動産の役割の違いからCRE戦略を考えるための視点を提示する。

1. 整理の視点

CRE 戦略を分類するうえで手がかりになるのは、単に「不動産をどれだけ持っているか」ではない。着目するのは、次の 4 つの視点である。

  1. 多拠点型か集約型かという拠点構造
  2. 不動産が事業を支えるインフラなのか、顧客価値や収益を直接生み出す源泉なのかという不動産の位置づけ
  3. 価値創出の主体が人材なのか、設備・インフラなのかという事業構造
  4. 過去の成長局面で形成された固定資産をどの程度抱えているかという不動産の蓄積度

これらの視点からみると、企業のCRE戦略は大きく6つの類型に整理できる。

【図表1】CRE戦略の類型

2. 各類型について

2.1. 多拠点最適型

多拠点最適型は、広域に拠点網を展開し、自社保有比率が比較的高く、地域インフラとしての性格が強い事業に対応したCRE戦略である。代表的な対象として、金融機関、鉄道、郵便事業などが挙げられる。これらの拠点は、単なる事業用施設ではなく、地域の生活や経済を支えるインフラとしての性格が強い。そのため、人口減少によって来店者数が減少したとしても、採算だけを理由に拠点数を大きく減らすことは難しい。地域の人々にとって、これらの拠点は日常的に訪れる生活拠点としての機能もあるためである。したがって、この類型では、拠点数そのものより、各拠点が持つ機能に着目し、地域に必要な機能をどのように組み合わせていくかが重要になる。

先日公表したレポート(*1)でも示したように、金融機関では、人口減少や非対面チャネルの普及により、従来の多店舗展開モデルの見直しが迫られている一方で、地域経済を支える拠点機能そのものは引き続き不可欠である。したがって、どの拠点にどの機能を残し、どのように更新していくかを考える必要がある。とりわけ、顧客の来店頻度低下により、店舗内には遊休スペースが生じやすくなっており、これらのスペースの活用を通じて不動産の役割を広げることが有効である。また、地域との関係性を踏まえながら、地域に必要な生活サービスを提供する場として拠点を再設計していく視点も欠かせない。

加えて、この類型では、長年にわたり拠点を維持してきたため、老朽化対応が課題となっているケースも多い。建築費が高騰する中、今後は耐震性や設備更新を含めた建物の健康診断と、更新優先順位の明確化が不可欠になる。また、建替えにあたっては、仮移転して元の場所に戻る前提にとらわれず、移転後に元の場所に戻らない「one-way移転」も含めて、ネットワーク全体の中で機能と立地を見直しながら予算の最適化を図ることが求められる。

*1 2026年3月12日公表「不動産と向き合う金融機関

2.2. 多拠点顧客接点型

多拠点顧客接点型は、多数の拠点を展開し、各拠点が売上や顧客体験の創出に直結する事業に対応したCRE戦略である。代表的な対象として、小売、飲食、宿泊、生活サービスなどが挙げられる。この類型では、拠点は顧客との接点そのものであり、事業競争力を左右する経営資源でもある。そのため、多拠点最適型のように地域インフラとしての役割を持つ拠点を広く維持することが前提となるのではなく、マーケット環境や人口動態、商圏の変化に応じて、拠点配置を柔軟に見直していくことが求められる。

また、多拠点顧客接点型では、売上成長に資する店舗ポートフォリオをどう組み立てるかが重要な論点となる。すなわち、どこに出店するかという立地選別に加え、各店舗にどのような役割を持たせるかが問われる。旗艦店、小型店、無人店など、店舗タイプごとの役割分担を整理し、商圏特性に応じて最適なフォーマットを配置する視点が不可欠である。また、物販を中心とする業種では、ECとの役割分担を踏まえたオムニチャネル対応も重要であり、店舗は単なる販売の場ではなく、受取、体験、相談、ブランド発信など、多面的な機能を担う場へと変化している。

さらに、リアル店舗ならではの顧客体験価値をいかに高めるかも重要になる。とくに宿泊や生活サービスでは、拠点そのものがブランド体験を形づくるため、空間設計やサービス導線、接客の在り方も含めて、顧客がその場所で得る体験を設計する必要がある。

また、国内市場が成熟する中、さらなる成長を図るためには、海外展開を前提とした拠点づくりも視野に入ってくる。国内で培った店舗フォーマットや運営ノウハウを、どの地域に、どの形で展開可能かを見極めることも、この類型のCRE戦略の一部といえる。

2.3. オフィス価値向上型

オフィス価値向上型は、拠点数は比較的限定的である一方、オフィスが主要な価値創出の場となる業種・機能に対応したCRE戦略である。代表的な対象として、IT、コンサルティング、専門サービス、企業の本社機能などが挙げられる。これらの業種・機能では、人材の知的生産性やコミュニケーションの質が事業成果を左右する。そのため、オフィスは単なる執務空間ではなく、人的資本価値を高める基盤として位置づけられる。また、本社機能や企画・管理部門は多くの企業に共通して存在することから、この視点は特定の業種に限らず、幅広い企業に当てはまる。

ここで重要となるのは、人がより高い価値を生み出せるワークプレイスをどう実現するかである。とりわけ近年は、ハイブリッドワークの浸透により、オフィスは「毎日行く場所」から「集まる意味のある場所」へと役割が変わりつつある。したがって、オフィスに求められるのは、作業の場としての効率性だけでなく、対話、共創、企業カルチャーの共有を支える場としての機能である。

具体的な施策としては、生産性とウェルネスを両立する環境整備、コミュニケーションを促進するレイアウト設計、ワークエンゲージメントを高める場づくりなどが挙げられる。たとえば、固定席中心の構成から、活動内容に応じて働く場所を選べるABW型へ移行することや、部署を超えた偶発的な接点を生みやすい共用空間を整備することなどが考えられる(*2)。加えて、出社頻度や業務内容、個人の働き方の違いに対応できるよう、フレキシブルなワークプレイスを整えることも重要である。オフィスの評価軸も、単なる面積効率ではなく、従業員満足度やコミュニケーションのしやすさなど、人的資本の観点を含めて捉える必要がある。

また、当該類型では、CRE戦略と人材戦略、さらには経営戦略の結びつきが強い。採用競争力の向上、社員の定着、企業カルチャーの醸成、イノベーションの促進といった経営課題に対して、オフィスの在り方が直接影響するためである。したがって、企業の競争力を支える投資対象としてオフィスを捉える視点が欠かせない。

2.4. イノベーション創出型

イノベーション創出型は、創造性の高い成果が競争力に直結する業種・機能に対応したCRE戦略である。代表的な対象として、先端技術、アート、映像制作、編集・出版系企業、企業の研究開発、デザイン・クリエイティブ部門などが挙げられる。この類型では、ワークプレイスは新たな発想や価値を生み出すための基盤としての意味を持つ。とりわけ、部門横断の連携、外部との共創、実証実験が重要な組織では、どのような空間を用意するかが成果に大きく影響する。

ここで重要となるのは、創造性やイノベーションを引き出す環境をどう構築するかである。したがって、一般的な執務スペースのほか、ラボ、スタジオ、試作スペース、ショールームなど、多様な活動に応じた空間が求められる。また、立地についても、大学や研究機関との近接性、営業・現場部署との連携のしやすさ、創作活動に適した環境など、機能に応じた条件を重視して考える必要がある。

その際に重要なのは、偶発的な出会いや刺激が生まれやすい空間構成である。たとえば、吹き抜けや内階段によってフロア間をゆるやかにつなぐことや、部門横断で使える共用空間を整備することで、普段接点の少ない社員同士の対話や協働が生まれやすくなる。また、共創とイノベーションを進めるためには、社外パートナーや顧客との協働を目的としたコラボレーション空間や実証実験を行うためのスペースを設けることも有効である。さらに、創造性を引き出すには、集中するための環境だけでなく、頭を切り替えやすいリフレッシュ空間も重要である。カフェ、ライブラリ、テラス、ラウンジなど、業務から一度離れて頭を切り替えられる場は、発想の転換やインフォーマルな対話を通じて、新たな発想や関係性を生む土壌となる(*3)。

2.5. 固定資産再編型

固定資産再編型は、過去の成長局面で工場、社宅、福利厚生施設などの固定資産を蓄積してきた企業に対応したCRE戦略である。代表的な対象として、製造業や長い事業の歴史を持つ大企業などが挙げられる。これらの固定資産は、事業拡大や従業員支援の基盤として機能してきた一方で、事業構造の変化や人口動態の変化を受けて、従来どおりの使い方が必ずしも最適とは言えなくなっている。しかも、規模が大きい、立地条件に制約がある、地域との関係が深いといった理由から、単純に処分しにくい資産も多い。そのため、当該類型では、経営負担とならない形に固定資産を再編していくことが重要になる。

ここで重要となるのは、過去に蓄積した資産を、現在の事業環境や社会的要請に合わせてどのように見直していくかである。工場跡地、社宅、寮、保養所、研修施設などの固定資産については、今後も自社で保有し続けるべきか、用途転換や賃貸化を進めるべきか、あるいは売却・再開発を検討すべきかを見直す必要がある。特に工場跡地では、土壌、インフラ、周辺地域との関係を踏まえながら、売却という選択肢に加えて、物流施設、データセンター、住宅、複合開発などへの転用可能性を長期的な視点で検討することが求められる。たとえば、工場跡地を再開発し、住宅、商業、エネルギー機能などを組み合わせたスマートタウンへ転換するケースや、かつて福利厚生施設として整備した社宅を賃貸マンションなどの収益物件へ転換するケースなどが考えられる。大規模資産の再編は企業の資産効率向上に資するだけでなく、地域における雇用やにぎわいにも影響する。そのため、企業の将来像と地域の持続性を重ね合わせながら進める視点が重要になる。

加えて、この類型のCRE戦略では、工場、社宅、福利厚生施設など多様な資産を長年保有してきた経緯から、社内に資産管理部門を構えているケースが多い。ただし、実務の中身を見ると、不動産を経営資源として戦略的に捉えるというより、福利厚生や施設維持といった守りの視点で管理してきた例が少なくない。また、こうした業務を担ってきた人材の高齢化が進み、ノウハウ継承や体制維持が課題となっている企業も多い。今後は、資産再編を実行に移すうえで、社内機能だけで抱え込むのではなく、専門性を持つ外部事業者の活用も視野に入れながら、資産管理業務そのもののあり方を見直していくことが重要になる。

2.6. 資産活用回転型

資産活用回転型は、歴史的な経緯の中で、都心や交通ターミナル周辺に資産価値の高い不動産を保有してきた企業に対応したCRE戦略である。代表的な対象として、出版、放送、鉄道などが挙げられる。これらの不動産は、長年にわたり本業の事業基盤として機能してきた一方で、現在では自社利用にとどまらず、収益源や成長投資の原資としての意味を強めている。加えて、本業と不動産事業の親和性が見えにくい企業では、近年、投資家から、こうした資産の売却や資産効率の改善を求められるケースも増えている。したがって、この類型では、保有している不動産の稼ぐ力を高め、本業との掛け合わせによって成長の構図を描けるかが問われる。

この課題に対応するためには、不動産の収益化、再開発、共同開発、または不動産の流動化や回転型ビジネスの導入などを通じて、資産を眠らせずに動かし、成長投資へと循環させる仕組みをつくる必要がある。重要なのは、資産を持ち続けることでも、逆に売却することでもなく、資産の価値を高めながら、本業の成長にもつながる形で活用していくことである。

鉄道会社は、この類型の特徴が表れやすい業種の一つである。駅周辺に長年蓄積してきた優良資産を持つ一方で、近年はそれらを単なる保有資産として維持するのではなく、再開発や回転型ビジネス化を通じて収益を生み出し、あわせて沿線価値や交通需要の拡大につなげる動きが広がっている。すなわち、不動産の価値向上と、本業である交通やまちづくりの競争力向上を一体で捉える方向にある。これは鉄道に限らず、資産価値の高い不動産を保有してきた企業に共通するトレンドといえる。

3. おわりに

これまで示した6つの類型は、企業のCRE戦略を考えるための参考材料である。実際には、一つの企業の中に複数の類型が併存することが多い。たとえば大手製造業であれば、本社機能はオフィス価値向上型、研究開発部門はイノベーション創出型、工場や社宅などは固定資産再編型として捉えることができる。金融機関であれば、多拠点最適型を基本としながら、店舗の役割によっては多拠点顧客接点型の視点も必要になる。つまり、一企業に対して一つのソリューションを当てはめれば足りるのではなく、機能ごとに異なる考え方を組み合わせながら、全体としてCRE戦略を組み立てていくことが重要である。

また、不動産の持ち方や使い方は、働き方やエンゲージメント、顧客との接点、事業の成長余地、さらには企業の資本効率にも大きく影響する。CRE戦略は不動産の話であると同時に、人材戦略、事業戦略、財務戦略にもまたがる経営課題である。そのため、個別資産ごとの判断にとどまらず、企業全体を俯瞰しながら、不動産がどのように経営に貢献しうるかを構想していくことが求められる。

その際には、自社の実態を見直すことに加え、他社の取り組みから学ぶ姿勢も欠かせない。他社事例は、そのまま模倣するものではないが、選択肢を広げるうえで有効なヒントとなる。そして、CRE戦略を実際に設計・実行していくには、社内における経営、総務、事業部門の連携に加え、外部の専門家や事業者の知見も活用していく必要がある。今後のCREには、社内体制と外部専門家の両輪によって、自社に合った戦略を構築していく姿勢が一層重要になるだろう。