社員自ら選び、足を運ぶ「非日常」としてのイノベーション拠点
ネットワンシステムズ
働き方改革やコロナ禍を経て、多くの企業はオフィスの再定義を迫られた。ICTインフラを手掛けるネットワンシステムズもその一つ。自律的な働き方の推進や、モノ売りからサービス提供へとビジネスモデルを転換している状況を踏まえ、2019年頃からオフィス再編の検討を開始した。要となったのが2023年、東京・品川区に開設したイノベーションセンター「netone valley(ネットワンバレー)」だ。新築7階建ての倉庫をベースに、設計段階から手を加えたオフィス空間には、仕事だけでなく社員の「ライフ」に踏み込んだ多様な機能が埋め込まれ、社内外のさまざまな立場の人に向けて開かれている。
機能を集約し、関わりの少ない人とも出会える場に
ネットワンバレーはオフィス機能を備えるワーキングフロア(5~7階)と、物流・検証フロア(1~4階)で構成される。以前は都内に分散していたオフィス拠点、物流拠点、検証施設を、「イノベーションの創出」という目的のもとに統合した拠点だ。
「業務の目的ごとに拠点が分かれていると、普段関わりの少ない社員やお客様と顔を合わせる機会はほとんどありません。ビジネスモデルの変革を進めている当社にとって、多様な人と出会って刺激を与え合い、価値創出につなげられる新たな環境が必要でした」と、プロジェクトを牽引した内田氏は振り返る。その言葉どおり、ネットワンバレーの空間設計は「共創とイノベーションに向けたチャレンジ」を主眼としている。

吹き抜けの内階段でつながる5階と6階の大部分は「コラボレーションエリア」として整備され、社外の人との共創が可能なオープンエリアとなっている。7室あるガラス張りの「プロジェクトルーム」は、スタートアップ企業や大学研究室などが技術検証・共同研究の場として共に利用できる。利用期間は3カ月単位で、成果を出すことを前提に無償提供されている点も特徴だ。
5階にはローカル5Gネットワークが構築されており、高速・大容量かつ安定した通信環境のもと、最新の無線通信技術やIoTシステムの実証実験が可能である。検証環境に必要なサーバーやネットワーク機器も、床の耐荷重が高い倉庫物件を活用したことで設置が可能となった。オフィス機能と検証機能を一つの拠点に集約したことで、偶発的に生まれたアイデアをすぐに実践につなげられるようになり、共創のスピード感も高まったという。
同じフロア内には社員専用の執務エリアもあるが、腰高のアクリル板で仕切られているだけで壁は設けられていない。吹き抜けの効果もあり、執務エリアのどこにいてもイノベーションエリア全体が見渡せる。「誰がどんな人と何に挑戦しているのか、自然と視界に入るだけでも刺激を受け変化に対する意識が高まると考え、開放感のある空間デザインを取り入れました」(内田氏)。さらに、1階には、ネットワンシステムズと関わりのない企業や個人も共創を目的に訪れることができるコワーキングスペースを設置。ネットワンバレー全体が、業種や立場を越えて人々が集う場になるよう設計されている。
「非日常空間」を自己成長のために活用する
7階は多目的エリアとして、食事やリフレッシュの機能を配置した。社員食堂やカフェ、トレーニングジム、瞑想室、マッサージ室のほか、ビリヤードやシミュレーションゴルフなどのアクティビティ施設も備え、働く環境と生活の充実を両立させている。フットサルコート2面がとれる広さの多目的ホール(Vホール)は食事や休憩だけでなく、社内外向けのイベントやセミナー、スポーツイベントにも対応できる柔軟な空間だ。また、屋上にはテラスを整備し、野外ミーティングやリフレッシュの場として開放している。
これらの施設は社内交流だけでなく、取引先や協業パートナーなど外部とのインフォーマルなコミュニケーションの場としても活用されている。「Vホールの使い方にも可能性と創造性を求めています。社員の発想を尊重することで、自然と新しい取り組みが生まれています。この場を利用し過ごした時間と体験がその後によい効果をもたらしてくれるものと期待しています」(内田氏)。
福利厚生エリアの充実ぶりからもわかるとおり、同社はネットワンバレーを仕事だけの場とは捉えていない。ライブラリ「インフォメーションハブ」には、情報通信分野に限らず、思考力や感性を養うことを目的に選書された人文書や写真集、漫画など、多様なジャンルの書籍が並ぶ。ここを起点に総務部が主催するイベントも、あえてテクノロジーとは距離を置いたテーマで企画されている。背景には、この空間の利用を行動変容につなげてほしいというファシリティ提供側の思いがある。
「社員にはただ日々の業務をこなすだけでなく、主体的に学び、周囲に影響を与える存在になってほしい。そのために、ネットワンバレーでの体験やファシリティを積極的に活用してほしいと考えています。ハイブリッドワークが定着し、在宅勤務中心の社員にとってオフィスは非日常空間にもなりうる存在となりました。仕事がしやすい環境であることはもちろん、『ここに来れば将来に向けた成長機会がある』『出会いや刺激があって感性を揺さぶられる』と感じられることが、オフィスに足を運ぶ動機となってきていると考えています」と内田氏は話す。
拠点の価値を再定義し、自律的な使い分けを促す
拠点開設から2年半が経過し、社外パートナーとの協業プロジェクトや新規ソリューションの検証など、具体的なイノベーションの兆しがみえつつある。
一方で課題もみえてきた。ネットワンバレーの稼働率が5割程度で推移しているのに対し、コンパクト化された本社オフィスの稼働率が高く、両者に偏りがあることだ。現在、東京近郊の社員は自宅・本社・ネットワンバレーの3カ所から働く場所を選択する運用となっているが、出社する際に本社を選ぶ人が、用意された座席数に対して多いということになる。
「総務としては、アクセスの良い本社オフィスを外出前後のタッチダウン拠点、ネットワンバレーを滞在型の価値創造拠点と位置づけていますが、その意図が社員にまだ浸透していないのだと捉えています。今後は拠点の利用目的を出社意義とともに再定義するとともに継続して伝えていくことで、この先の働き方を模索していきます」(内田氏)。
同社はコロナ禍収束後もハイブリッドワークを継続し、「なぜオフィスに来るのか」「どの場所で働くのが最も生産的か」を社員一人ひとりが主体的に考えることを重視してきた。「コロナを経たことで、リアルな場でのコラボレーションや対面コミュニケーションの価値を皆があらためて学んだと思います。目的に応じて場所を選び、ネットワンバレーを自身の成長と挑戦の場として活用し続けてほしい」と内田氏は期待を込める。
取材日:2025年10月7日