トピックレポート

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2025.10.16

企業不動産に関する実態調査

~ポートフォリオ、管理体制、そして直面する課題~

企業を取り巻く事業環境の変化が加速するなか、企業不動産(CRE)の役割は大きく変わりつつある。従来のように事業活動を支える単なる「器」としてだけでなく、財務パフォーマンスの向上、人材戦略の推進、ブランド価値の発信、さらにはサステナビリティ目標の達成に直結する、重要な経営資源として位置づけられるようになっている。

そこで、ザイマックス総研では、早稲田大学建築学科石田航星研究室と共同で企業不動産に関する調査を行った。調査では、ポートフォリオの実態や管理体制、直面する課題、そして今後の方向性について企業にたずねた。本ページは、その結果をまとめたレポートの一部を<概要版>として抜粋したものである。

※<概要版>PDFはこちら

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主な調査結果
  • ・ 遊休不動産を保有している企業は全体の約2割、収益不動産を保有または賃借している企業は約3割を占めた【図表1-1】【図表1-2】。
  • ・ 日本企業の不動産管理は、他業務との兼任体制で運営されるのが主流であり、専任部門の設置や専門化はまだ一部にとどまっている【図表2】。
  • ・ 不動産業務の外部委託は、すでに日常的な運用・保守領域を中心に定着しているが、今後は戦略的なコンサルティング業務やバックオフィス系の情報管理業務へと拡大する可能性が高い【図表3】。
  • ・ 不動産は依然として企業活動を支える基盤資産と認識されると同時に、人的資本を重視する考え方が企業不動産の領域にも浸透している【図表4】。
  • ・ 不動産業務における課題としては、建物の老朽化に伴う維持管理・メンテナンス費用の高騰に加え、人材やノウハウの不足が突出して多く挙げられた【図表5】。

<調査概要>

調査期間:2025年7月~9月

調査対象:・東証市場に上場している企業

     ・首都圏及び大阪市に本社を置く従業員300人以上の企業

     合計9,597社

有効回答数:268件(回答率:2.8%)

調査方法:Web回答による


topic 1

現在使用していないが保有している「遊休不動産」の有無をたずねたところ、「あり」と回答した企業は全体の2割を占め、一定数の企業が未利用の土地・建物を抱えている実態が明らかとなった【図表1-1】。

自社利用以外に収益を得る目的で保有または賃借する「収益不動産」の有無に関しては、全体の3割の企業が「あり」と回答した【図表1-2】。

【図表1-1】遊休不動産の有無(n=260 集計対象:「わからない」を除く)(左)
【図表1-2】収益不動産の有無(n=259 集計対象:「わからない」を除く)(右)

topic 2

不動産業務を担う体制についてたずねた結果、最多は「総務、経企、事業部門などが兼任している」(76%)であった。これに対し、「特化した専門部門または子会社がある」(13%)、「専任の担当者がいる」(9%)といった専任化・専門化は少数派にとどまった【図表2】。

【図表2】不動産業務の体制(n=263 集計対象:「わからない」を除く)

topic 3

不動産関連業務について、外部委託の有無と今後の委託希望についてたずねた。その結果、現在最も外部委託されているのは「清掃、設備点検、警備などのFM業務」(41%)であり、日常的な運用・保守領域が外部委託の典型分野であることが確認された。ほかにも「不動産の取得、売却の仲介・アドバイザー」「保有不動産の維持管理、大規模改修工事」など、専門性や外部ネットワークを要する業務が委託対象となっている。

一方で、「拠点の新設・閉鎖・移転に関するプロジェクト管理」「拠点再編、ポートフォリオの見直しなどのコンサルティング」「物件情報・契約情報の台帳やデータベースの管理」といった業務は、現在は外部に委託していない企業が多いものの、今後外部委託したいと考える企業が一定数存在する。

また、既に外部委託が進んでいる「清掃、設備点検、警備などのFM業務」や「賃貸借契約の交渉、更新、解約などの関連業務」についても、それぞれ9%、8%の企業が「今後外部に委託したい」と回答した。

このことから、不動産業務における外部委託は既に日常的な運用・保守領域を中心に定着しているが、今後は戦略的なコンサルティング業務やバックオフィス系の情報管理業務へと拡大していく可能性が示唆される。

【図表3】外部に委託している業務と今後外部に委託したい業務(n=268/複数回答)

topic 4

不動産をどのように位置づけているかをたずねた結果、最も多かったのは「事業活動を行ううえで不可欠な経営インフラ」(56%)であり、不動産は依然として企業活動の根幹を成す存在であることが示された。

また、2番目に多かったのは「社員が満足し、生産性高く働くための職場環境」(44%)であった。人的資本を重視する考え方が企業不動産の領域にも浸透していることが明らかとなった。

【図表4】不動産の位置づけ(n=268/複数回答)

topic 5

今後の課題や懸念について、自由記述の回答を形態素解析し、出現頻度をワードクラウドとして可視化した。その結果、「高騰」「費用」「上昇」などコスト上昇に関わる言葉や、「人材」「専門人材」「確保」「不足」といった人材・ノウハウ面に関する言葉が多く確認された【図表5】。

保有コストの上昇が避けられないなかで、不動産をいかに活用し収益化につなげるかが重要な論点となっている。また、社内で専門人材やノウハウを十分に確保することが難しい状況も背景にあり、今後は不動産業務の一部を外部委託して補完する動きが一層広がっていく可能性がある。

【図表5】ワードクラウド(「企業不動産に関する課題や懸念」の自由コメントによる)

レポート内のグラフに関して
・構成比(%)は、小数点第2位を四捨五入しているため内訳の合計が100%にならない場合がある。
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