2018.03.13
オフィス移転にみる企業行動と働き方改革
移転・新規入居を働き方改革のチャンスにするイマドキ企業
移転や新規拠点開設などにより、企業が新たなオフィスに入居する際の行動にはどのような特徴があるのだろうか。ザイマックス不動産総合研究所では、2016年~2017年の間に新たなオフィスに入居した企業に対してアンケート調査を実施し、オフィス探しから入居に至るまでのオフィス担当者の行動のほか、社会的な広がりを見せる「働き方改革」に関する取り組み状況について聞いた。
本レポートは、上記アンケート結果を踏まえ、企業のオフィス移転・入居行動から見えてくるオフィス需要と働き方の関係、およびその変化についてまとめたトピックレポートである。
- ➢ オフィス移転・入居の種類では「拡張移転」(46.6%)が1位。次いで「新規開設」(26.2%)、「縮小移転」(13.6%)と並び、需要の堅調さが表れる結果となった。
- ➢ 移転・入居の理由としては「人員増で手狭になった」(41.7%)が1位。また、28.6%の企業が「従業員のモチベーションを上げるため」を選び、従業員満足度への関心の高さがみられた。
- ➢ オフィス選びにおける重視項目の上位は「賃料」「面積」「最寄駅からの近さ」となった。一方、あきらめた項目の1位も「賃料」であったことから、条件に合うオフィス探しに難航し、予算を上げた企業も一定数いたことがうかがえる。
- ➢ 移転検討から入居完了までに苦労したこととしては、「物件の絞り込み」「レイアウトプランの確認」「契約条件(賃料など)の交渉」などに回答が集まった。
- ➢ 60.7%の企業が、新オフィス入居時、働き方改善を目的に新たなレイアウトなどを導入していることがわかった。具体的な内容としては「オープンなミーティングスペースの設置」「リフレッシュスペースの設置」「ABW(*)」などが多い。
- ➢ 新レイアウト導入の目的としては「オフィス空間の快適性向上」(34.5%)が1位で、ここでも従業員満足度に対する意識がうかがえた。
1.企業の移転・入居行動
オフィス入居と一口に言っても、その種類は様々だ。もともと入居していたオフィスから機能を丸ごと移してくる場合(移転)もあれば、まったく新しい営業所などを開設する場合や、逆に複数あった拠点を別の新たなオフィスに統合する場合もある。
そうしたオフィス入居の種類を聞いたところ、「拡張移転」であると答えた企業が46.6%で最も多く、次が「新規開設」(26.2%)であった。対して、一般的に床面積減少の要因となる「縮小移転」や「拠点統合」は10%台にとどまり、需要の堅調さを示す結果となった【図表1】。
【図表1】オフィス入居の種類(複数回答、n=206)
移転・入居の理由としては1位の「人員増で手狭になった」(41.7%)をはじめ、「新規事業立上げにより、スペースが必要となった」(22.8%)や「採用を強化するため」(同)など、【図表1】同様に好調な企業景気がうかがえる結果となった。また、「従業員のモチベーションを上げるため」と答えた企業が28.6%に上り、従業員満足度への関心の高まりがみられた【図表2】。
【図表2】オフィス移転・入居の理由(複数回答、n=206)
オフィス探しから入居までを担ったオフィス担当者たちは、どのような視点でオフィスを探しているのだろうか。オフィスを選ぶ際に重視した項目と、さらにその中から「最終的な決め手となった項目」、「最終的にあきらめた項目」をそれぞれ選んでもらった。
【図表3】オフィス選びで重視した項目(複数回答、n=206)
まず、重視項目と決め手はともに「賃料」「面積」「最寄駅からの近さ」が上位を占めた【図表3・4】。これは、予算と必要面積をある程度決めた上で物件を探す場合が多いということの表れだろう。
しかし、あきらめた項目の1位も「賃料」であった【図表5】。このことから、需給がひっ迫した現在のマーケットで、想定していた賃料水準では条件に合うオフィスを見つけられず、仕方なく予算を上げた企業も一定数いると考えられる。また、「ビルの築年数(築浅であること)」や「ビルの外観・共用部のグレード感」といった条件をあきらめる場合も比較的多いことがわかった。
【図表4】オフィス選びで決め手となった項目(上位のみ抜粋、複数回答、n=206)
【図表5】オフィス選びであきらめた項目(上位のみ抜粋、複数回答、n=206)
移転検討から入居完了までに苦労したこととしては、「物件の絞り込み」と「レイアウトプランの確認」がそれぞれ4割近く、上位となった【図表6】。
【図表6】苦労したこと(複数回答、n=206)
別途、苦労の内容を自由記述してもらったところ、近年の空室率の低さや賃料上昇による物件探しの苦労を挙げる声が目立った。また、オフィス移転や新規開設といったプロジェクトの頻度の低さから、初めて担当した人も多いと考えられ、実務面での苦労も多数挙げられた。以下に自由記述の一部を紹介する。
■参考資料■「苦労の内容」の自由記述(一部抜粋)
<物件探しに関する苦労>
<実務面の苦労>
<PICK UP>「従業員のモチベーション向上」を目指す企業は、どんなオフィスを求める?
【図表2】で見た通り、オフィス移転・入居の理由として28.6%の企業が「従業員のモチベーションを上げるため」と回答した。これらの企業は他の企業と比較して、オフィス環境が従業員のモチベーションに与える影響をより強く意識しているといえるかもしれない。
では、このようなオフィス環境や従業員満足度への関心が高い企業は、実際にどんなオフィスを求めるのだろうか。移転・入居理由として「従業員のモチベーションを上げるため」を選んだ企業を「YES」、それ以外の企業を「NO」として、オフィスを選ぶ際の重視項目を比較してみた【図表7】。
まず、ほぼ全ての項目について、YES企業の方がNO企業よりも重視度が高いことから、オフィスに求める要求が比較的高いことがわかる。特に「貸室内のレイアウトのしやすさ」や「ビルの耐震性・新耐震基準並の強度」、「ビルの外観・共用部のグレード感」、「ビルの清掃衛生・維持管理状態」といった、ワーカーの快適性や安心・安全に関わる項目は差が大きい。対して「賃料」の重視度は比較的低く、多少高額でもよりよいオフィス環境を求める傾向にあるといえるかもしれない。
【図表7】移転理由として「従業員のモチベーション向上」を選んだ企業と選ばなかった企業のオフィス選び重視度の差(上位のみ抜粋、複数回答)
<PICK UP>オフィス探しの希望条件、どんなワードが挙がる?
オフィスを探す際は、まず大まかな希望条件を決めてから候補を絞っていく場合が多いだろう。そこで今回の調査では、オフィス探しの際に希望していたエリア・面積・賃料についての条件とその理由を自由記述してもらい、分類・集計してみた。なお、具体的な地名や数値はばらつきが大きいため、ここでは単語や書き方のパターンによって分類している。
まず、エリアは特定の駅を指定する回答(例:「新宿駅周辺」など)が43.7%、次いでエリア指定(例:「堂島エリア」「八重洲周辺」など)が37.9%で、「区・市」指定は13.1%に留まった【図表8】。エリアの希望理由としては、「前・現オフィスの付近だから」という主旨の回答が25.7%で最も多く、既存オフィスと同じエリアで探す場合が多いようだ【図表9】。
面積は、86.4%の企業が具体的な数値(坪・平米)を回答。希望面積の理由としては「入居人数から算出」という主旨の回答が32.5%、次いで「前・現オフィスとの比較(同程度・〇倍など)」が30.6%となった。
希望賃料の理由では、移転前や既存オフィスとの比較によって決めているケースが多い(36.4%)ほか、「とにかく安く」とコスト削減意向の強い意見も多かった(21.8%)。一方で、「賃料にはこだわらなかった(賃料以外の要素を重視した)」という主旨の回答も5.3%あり、オフィスコストに対する意識の差がみられた。
【図表8】エリアの希望(複数回答、n=206)
【図表9】エリアの希望理由(上位のみ抜粋、複数回答、n=206)
2.新オフィス入居を機にした働き方改革
新オフィスへの入居は、従来の働き方を変えるきっかけにもなっているようだ。
新オフィス入居時、働き方を変えることを目的に、リフレッシュスペースやABW(*)といった新たなレイアウトを何かしら導入した(計画中を含む)企業は全体の60.7%に上った【図表10】。
【図表10】入居時に何かしらの新たなレイアウトを導入※計画中を含む(単一回答、n=206)
この背景には、オフィス変革のハードルの高さがあると考えられる。働き方改革の機運が盛り上がる中、旧態依然とした固定的なオフィスに課題を感じている企業は少なくないだろう。しかし今いるオフィスで、通常業務を続けながら大きな変革を遂げることは容易ではない。だからこそ、移転や新規開設はゼロベースで自社にとって働きやすいオフィスを追求し、働き方を変えるチャンスとなりうるのだ。
具体的な内容としては、「オープンなミーティングスペースの設置」(39.3%)、「リフレッシュスペースの設置」(24.3%)、「ABW」(15.5%)など、多様な目的でフレキシブルに利用できるスペースが導入されていることがわかった【図表11】。
【図表11】入居時に新たに導入したレイアウト(複数回答、n=206)
また、【図表11】で回答してもらったレイアウトの導入理由を聞いたところ、「オフィス空間の快適性向上」(34.5%)が1位であった。
ほかにも「従業員の満足度・モチベーションの向上」(21.8%)、「従業員のリフレッシュ促進」(19.4%)などが上位に並び、オフィスが働く人の心理面に与える影響を重視する意識がうかがえた。一方、「オフィスコストの削減」(14.1%)や「レイアウト変更の手間・コスト効率化」(10.7%)など、コスト縮減に関する項目は比較的低い順位となった【図表12】。
【図表12】新たなレイアウト導入の理由(上位のみ抜粋、複数回答、n=206)
さいごに
近年、働き方改革のためにオフィスを移転する企業事例なども報道されているが、大部分の企業ではより直接的な必要に迫られて移転しているのではないだろうか。【図表2】でみた通り、新規オフィスに入居した企業の4割超は「(既存オフィスが)人員増で手狭になった」と回答しており、時間も物件選択肢も限られる中でのプロジェクトになる場合が多いと考えられる。
今回の調査では、そのような必要に迫られた移転の場合でも、オフィスがワーカーの快適性やモチベーションに与える影響を認識し、よりよいオフィスを求める企業が少なからずいることがわかった。この傾向は、回答企業の一部に対して行ったヒアリングでも確認されている。例えば、「人員増に対応するため拡張移転を行った」と話すあるIT企業では、社長の号令の下、リフレッシュスペースなどを拡充させて従業員の快適性を向上し、離職率低下につなげようとしていた。
従業員満足度とオフィスの関係は、ヒアリングしたどの企業でも関心の高いテーマであり、こうした意識が高まっていけばオフィスに求められる要素を変質させていく可能性があるだろう。移転・入居時のオフィス需要に関する定性及び定量的な調査・分析を行うことで、今後もこうした潮流の変化を捉えていきたい。
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