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2023.05.24

ハイブリッドワークが企業にもたらすメリット

~「ワーク・エンゲイジメント」が介する両者の関係性~

近年、企業の人材戦略面の指標として「ワーク・エンゲイジメント」が注目されている。ワーク・エンゲイジメントとは仕事に対して前向きで充実したワーカーの心理状態を指す概念で、一般的には職場環境や自己効力感など複数の要素がワーク・エンゲイジメントに影響を及ぼす要素であるとされてきた。さらに、コロナ禍を機にテレワークが急速に普及し、ワークプレイスのあり方が大きく転換するなか、多様な場所を使い分ける「ハイブリッドワーク」の働き方がワーク・エンゲイジメントに与える影響への関心が高まりつつある。

そこで、ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は、オフィスワーカーの働く場所とワーク・エンゲイジメントとの関係を探ることを目的に、ザイマックスグループの従業員(以下、本調査対象者)を対象とした調査を実施した。本調査対象者は原則全員、出社とサテライトオフィス勤務や在宅勤務を使い分けるハイブリッドワークを採用している。

本レポートでは、こうしたワーカーがどのような働き方をするとワーク・エンゲイジメントを最大化できるのか、さらには企業にとって最終的に目指したい成果(アウトカム)にどのような影響があるのかについて、段階的に分析することで、今後ハイブリッドモデルを推進する企業に一つの指針を提示することを目指した。

主な分析結果
  • ・ ワーク・エンゲイジメントが高い人は、定着性や生産性などのアウトカム(最終的に目指したい成果)が高い傾向がみられた。
  • ・ ハイブリッドワーカー(出社とテレワークを使い分けている人)はワーク・エンゲイジメントが高い傾向がみられた。特に、サテライトオフィスを利用するハイブリッドワーカーは、在宅勤務のみのハイブリッドワーカーよりもワーク・エンゲイジメントが高い傾向がみられた。
  • ・ 働く場所を自律的に選べているグループほど、サテライトオフィスを利用するハイブリッドワーカーの割合が高い傾向がみられた。
  • ・ これらの結果から、企業がワーカーに働く場所に関する自律性とサテライトオフィスの選択肢を与えることは、ワーク・エンゲイジメントを高めることにつながり、結果的に企業のアウトカムにつながる可能性があることが示唆された(*1)。

  • *1 今回の分析は一時点での横断データによるものであり、因果関係については確定できない

1. ワーク・エンゲイジメントとアウトカム

今回の調査にあたっては、慶應義塾大学の島津明人教授のご助言のもと「ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES)」を採用し、「活力」「熱意」「没頭」というワーク・エンゲイジメントの3つの下位因子について各3項目・合計9項目の質問に対する7段階尺度(0~6)の回答からワーク・エンゲイジメントスコアを算出した。

まず、検証の第一ステップとして、従業員のワーク・エンゲイジメントを高めることにどのような意味があるのかを確認する。企業にとっての直接的なメリットとなりうる「定着性」「生産性」「インロールパフォーマンス」「エクストラパフォーマンス」(*2)の4項目について、「あてはまる」と回答した人の割合(*3)を、ワーク・エンゲイジメントスコア上位25%グループとそれ以外の標準グループでそれぞれ算出した。【図表1】は上位25%グループの各アウトカムの評価を、標準グループに対する倍率として示したものである。

*2 各項目が示す意味は【図表1】内の文言参照
*3 「あてはまる」から「あてはまらない」の5段階尺度で聞き、「あてはまる」または「ややあてはまる」と回答した割合の合計

4項目すべてについて上位25%グループの方が「あてはまる」の割合が高く、特に生産性(標準グループの148%)とエクストラパフォーマンス(同145%)では差が大きかった。つまり、ワーク・エンゲイジメントと各アウトカムの評価との間には正の関係があると考えられ、従業員のワーク・エンゲイジメントを高めることは企業のメリットにつながる可能性があることが示唆された。

【図表1】<ワーク・エンゲイジメントの高さ別>各アウトカムの評価(倍率)

2. 働く場所の選択肢とワーク・エンゲイジメント

次に、働く場所とワーク・エンゲイジメントとの関係を探るため、普段の働き方のタイプから回答者を「完全出社」「ハイブリッドワーカー」「完全テレワーカー」の3タイプに分け、タイプ別にワーク・エンゲイジメントスコアの平均値を比較した。なお、本調査対象者における各タイプの割合は、出社率の高い順から、完全出社4.0%、ハイブリッドワーカー87.7%、完全テレワーカー8.3%であった。

完全出社のグループのワーク・エンゲイジメントスコアの平均値を100%とした場合のスコアの倍率を示したのが【図表2】である。この結果、ハイブリッドワーカーのスコアは完全出社に対して110%と高く、完全テレワーカーと比べても若干高い傾向がみられた。このことから、ワーク・エンゲイジメントを高める観点では、出社とテレワークを使い分けるハイブリッドワークが最適である可能性が示唆された。

【図表2】<働き方のタイプ別>ワーク・エンゲイジメントスコア平均値(倍率)

次に、ハイブリッドワーカーのなかでも、働く場所の組み合わせによってワーク・エンゲイジメントに差があるのかを確認する。なお、ハイブリッドワーカーにおける働く場所の組み合わせごとの割合をみると、「出社とサテライトオフィスあり(*4)」が71.6%、「出社と在宅勤務のみ」は25.4%を占め、その他の組み合わせ(*5)は3.0%にとどまった。

*4 在宅勤務やその他の場所の有無を問わない
*5 「出社とサテライトオフィスのみ」などを含む

この多数派2グループのワーク・エンゲイジメントを比較した結果、「出社とサテライトオフィスあり」のハイブリッドワーカーが、「出社と在宅勤務のみ」のハイブリッドワーカーに対して117%と有意に高かった【図表3】。この結果から、ハイブリッドモデルにおいて在宅勤務だけでなくサテライトオフィスでも働けることと、ワーク・エンゲイジメントとの間には正の関係があると考えられる。

【図表3】<働く場所の組み合わせ別>ワーク・エンゲイジメントスコア平均値(倍率)

「出社とサテライトオフィスあり」のハイブリッドワーカーは、「出社と在宅勤務のみ」のハイブリッドワーカーよりもワーク・エンゲイジメントが高い傾向が確認できたが、背景にどのような違いがあるのだろうか。各グループが普段働いている場所の時間割合を比較した結果、「出社とサテライトオフィスあり」のハイブリッドワーカーは「出社と在宅勤務のみ」のハイブリッドワーカーと比べて多様な場所をバランスよく利用しており、在宅勤務も26.2%の時間を占めていることがわかった【図表4】。つまり、両者のワーク・エンゲイジメントの差の背景として、サテライトオフィスと在宅勤務の違いに由来する差だけでなく、働く場所の多様さに由来する差もあるのではないかと考えられる。

【図表4】<働く場所の組み合わせ別>各場所の時間割合

3. 働く場所に関する自律性と働く場所の選択肢

では、ワーカーにサテライトオフィスを含めた多様な場所の利用を促すにはどうすればいいのか。企業ができることとしてはまず、サテライトオフィスの拠点整備やフレキシブルオフィスサービスなどの契約により、物理的な選択肢を用意することが挙げられる。次に、これらの拠点やサービスを使用する権限をワーカーに与えることも必要となる。これらの条件が揃っている状態が、ワーカーが働く場所を自律的に選べている状態であるといえ、多様な場所の利用を促すことにつながると考えられる。

そこで、働く場所を自律的に選べているか否か(*6)によって働く場所の組み合わせを集計した結果、自律的に選べているグループは、選べていないグループに比べて「出社とサテライトオフィスあり」のハイブリッドワーカーの割合が有意に高いことがわかった【図表5】。

*6 「普段、働く場所を自律的に選ぶことができているか」という設問に対し「できている」から「できていない」の5段階尺度で回答してもらい、「できている」または「まぁできている」と回答した人を「自律的に選べている」グループ、「どちらともいえない」と回答した人を「どちらともいえない」グループ、「できていない」または「あまりできていない」と回答した人を「自律的に選べていない」グループとした。

つまり、働く場所に関する自律性があることとサテライトオフィスを利用することとの間には正の関係があると考えられ、【図表3,4,5】の結果から、ワーカーに自律性を与えることは多様な場所の利用を促すことにつながり、それがワーク・エンゲイジメントを高めることにつながる可能性が示唆されたといえる。

【図表5】<働く場所を自律的に選べているか否か別>働く場所の組み合わせ

また、サテライトオフィスの利用時間の割合が高い人の特徴を探ったところ、現在の状況として「自宅の環境が仕事に適さない」に「あてはまる」と回答した人は総労働時間の43.6%をサテライトオフィスで働いており、「あてはまらない」人と比べて2倍以上高いことがわかった【図表6】。なお、育児や介護といった他の状況については「あてはまる」人と「あてはまらない」人との間に大きな差はみられなかった。

【図表6】<現在の状況別>サテライトオフィスの利用時間の割合

4. まとめ

本レポートにおいて、働く場所とワーク・エンゲイジメント、さらにワーク・エンゲイジメントとアウトカムとの間に正の関係があることが示唆された。ワーク・エンゲイジメントはワーカー個人の特性なども含む複合的な要素に影響を受けるため、企業がコントロールすることは難しい指標であるが、働く場所を自律的に選ぶ権限を従業員に与え、多様なワークプレイスの選択肢を提供することは可能であろう。それがワーカーのワーク・エンゲイジメントに寄与し、結果的にアウトカムにもつながる可能性があるという示唆(【図表7】)は、ワークプレイス戦略に悩む企業にとって有益な判断材料となりうるのではないだろうか。

【図表7】検証により示唆された関係性

また、自宅環境が仕事に適さないワーカーは、そうでないワーカーと比べてサテライトオフィスを長時間利用していることも明らかとなった。この結果からも、企業がハイブリッドモデルを採用する場合には在宅勤務以外の選択肢を用意し、ワーカー自身が選べる権限を与えることがいかに重要であるかがうかがい知れるだろう。選びうるワークプレイス戦略が多様化するなか、企業が最適解を模索するための材料となる情報をザイマックス総研では引き続き提供していく。


《調査概要》

「働く場所とワーク・エンゲイジメントに関する調査」は、回答者の属性や基本的な働き方を把握するための事前調査と、10営業日にわたる連続調査である本調査の二段階で実施した。本レポートは事前調査の結果について分析したものである。なお、本調査の分析結果については、後日レポートの公表を予定している。

《事前調査の回答者属性》

レポート内のグラフに関して
・構成比(%)は、小数点第2位を四捨五入しているため内訳の合計が100%にならない場合がある。
※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
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参考:働き方×オフィス 特設サイト

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