トピックレポート

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2022.04.14

サテライトオフィス利用促進による通勤時間の軽減①

~ザイマックスグループの事例を元としたシミュレーション~

ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)では、これまで企業とオフィスワーカーのそれぞれの視点から働き方と働く場所の変化を捉えてきた。

コロナ禍が発生して2年余りが経過し、これまでの毎日同じオフィスに全員が出社する、という働き方が当たり前ではなくなってきている。テレワークを導入し、メインオフィス以外の場所で働けるような制度を整える企業も増えている。

働く場所が増えることは、ワーカーにとって通勤時間削減などのメリットがある。ザイマックス総研の調査によると、通勤時間が長いほど通勤ストレスが高い傾向があることや、通勤ストレスが低いと生産性高く働ける傾向があることが分かっている(*1)。

メインオフィス以外の働く場所として在宅勤務があるが、通勤時間はゼロになるものの、「仕事のオン・オフが切り替えづらい」「業務に適したスペースや什器が揃っていない」という声もある(*2)。

*2 2021年12月17日公表「首都圏オフィスワーカー調査 2021

そのようななか、通勤時間の抑制と良質な勤務環境の整備を両立させるサービスとして、サテライトオフィスが注目されている。サテライトオフィスとは、メインオフィスや自宅とは別に、テレワークのために設けるワークプレイスの総称であり、専門事業者がサービス提供するものや企業が自前で設置するものがある。

しかしながら、在宅勤務が企業に普及する一方でサテライトオフィスの導入は一部企業に限られており、その効果が社会的に広く認知されている状況とはいいがたい。サテライトオフィスを導入することでどういった効果が得られるのか、具体的な事例がないこともその普及の妨げになっているのかもしれない。

そこで、サテライトオフィスの導入効果について、2本のレポートに分けて紹介する。第一部である本レポートでは、サテライトオフィスの利用による具体的な効果をザイマックスグループの事例をもとにシミュレーションを行う。続く第二部(*3)では、サテライトオフィスの導入を仮に首都圏全体に広げた場合、対象となるオフィスワーカーの通勤時間総量がどの程度削減されるのか、またその時の適切なサテライトオフィスの配置をシミュレーションにて例示することによりサテライトオフィスの社会的な有用性の検証を行う。

1. サテライトオフィスの導入により期待される効果

ザイマックスグループでは首都圏にある4拠点(東京都港区赤坂、千代田区永田町、中央区築地、渋谷区恵比寿)のオフィス勤務者(約1,000名)を対象にサテライトオフィスの利用を推進している。このサテライトオフィスはザイマックスグループの社員のみが利用でき、オフィスの立地の分散を目的に設置されたものである。立地の選定にあたっては社員の居住地の分布から、サテライトオフィスの利用対象者の通勤時間の削減効果が大きくなるよう考慮されており、2021年12月時点で11か所に設置されている【図表1】。

【図表1】首都圏の4拠点とサテライトオフィス

仮に、すべての社員が自宅最寄りのサテライトオフィスを利用した場合、移動時間は一人当たり片道平均で26.4分削減できる(51.9分⇒25.5分)見込みとなっている。毎月20日程度の勤務として週2回(月8回)、自宅最寄りのサテライトオフィスを利用した場合、一人当たり年間で約84時間程度の移動時間の削減効果が期待できる。

またその削減される時間は首都圏の4拠点のうち、その社員がメインで出社する拠点までの通勤時間と相関しており、通勤時間が長い社員ほど時間の削減量が大きいことも確認できる【図表2】。

【図表2】首都圏の4拠点までの通勤時間とサテライト利用による削減時間の分布

なお、電車による移動時間の算出にあたってはザイマックス総研にて独自作成したGIS(Geographic Information System、地理情報システム)上の鉄道ネットワークデータを利用している。このデータは全国の鉄道網データに対して各路線の速度や「急行」「快速」といった列車種別を駅単位で加味したものであり、これにより実際に近い移動時間を計算することができる。

2. 派生効果~温室効果ガスの削減~

サテライトオフィス設置による直接的な恩恵は社員の通勤時間の削減ではあるが、社員が交通機関の利用を抑制することは企業活動により排出される温室効果ガスを削減することにつながる。これは事業活動により直接的に排出される温室効果ガスではないが、サプライチェーン排出量のScope3(その他の間接排出)に該当するものであり(*4)、今後、企業が削減に取り組むべき対象として把握・管理が広がっていくと考えられる。ザイマックスグループの場合、対象の社員が週2回最寄りのサテライトオフィスを利用すると仮定すると、通勤によるCO2の排出量は年間で約80t削減できると期待される。なお、この削減効果については、環境省に示されている1人を1km輸送するのに排出されるCO2原単位(22g/km人)(*5)と、サテライト利用により減少する鉄道での総移動距離とを乗じて算出している。

3. 第一部のまとめ

第一部(本レポート)では、ザイマックスグループがサテライトオフィスを設置した事例をもとに、社員が自宅最寄りのサテライトオフィスを利用した場合の通勤時間の削減効果および温室効果ガスの排出量削減の効果についてシミュレーションした。その結果、サテライトオフィス利用を利用することで、一人当たり平均で片道26.4分、年間にすると約84時間の通勤時間削減、派生効果として企業としては年間約80tのCO2排出量削減が期待できることが分かった。なお今回の検証では、利用ケースを一意的に想定し期待される効果の検証を行ったが、利用の頻度やタイミングとその場所は職種など個人の働き方により異なると考えられる。今後はサテライトオフィスの利用実績を加味することで、よりリアルな通勤時間や温室効果ガスの削減効果についても検証できるだろう。

このように、サテライトオフィスの利用による効果を考えるうえで、サテライトオフィスの立地や利用人数も重要な要素のひとつとなりえる。

そこで第二部では都心に通勤するワーカー全てがサテライトオフィスを利用できると仮定した場合の通勤時間削減効果、環境負荷低減効果ついて考えていく。

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