2020.12.02
大都市圏オフィス需要調査2020秋
~コロナ禍が変える働き方とワークプレイス~
ここ数年、企業では人材確保や生産性向上を目的に働き方改革が進められ、従来の固定的な働き方から、場所や時間に捉われない柔軟な働き方への転換を目指す企業が増えつつあった。そのさなか、2020年初頭から発生した新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は多くの企業に働き方の見直しを迫り、ワークプレイスに関する議論を活発化させる契機となっている。
ザイマックス不動産総合研究所では2016年秋より、企業のオフィス利用の実態や働き方に関して半年に1回アンケート調査を行い、オフィス需要との関係について継続的に分析を行ってきた。本レポートでは第9回調査の結果を公表し、転換期を迎えたワークプレイス市場の今後を予測する。
- 1.オフィス需要の変化(2019年10月〜2020年9月)
- ・ 面積縮小の理由として、「テレワークにより必要面積が減るため」と回答した企業が40.5%で、20年春調査の結果(12.5%)から大幅に伸びた。
- ・ 「現在の平均的な出社率」「コロナ危機収束後の出社率」は、ともに「100%(完全出社)」と回答した企業が最も多い。ただし、収束後も73.8%の企業は一定数の社員にテレワークをさせる意向がある。
- ・ オフィスの在籍人数に対する座席数は、「100%超」と回答した企業が最も多い(58.6%)。過去2回の調査結果と比較すると「100%未満」の企業の割合が増加している。
- ・ 30.3%の企業が、入居中のオフィスを「かなり狭い」「やや狭い」と感じている。
- ・ 景況感は「悪い」「やや悪い」の合計が50.1%で、「良い」「やや良い」の合計(16.9%)を大幅に上回り、景況感DIは-33.2であった。
- 2.ワークプレイスの実態と評価
- ・ テレワーク支援のためのICT投資を行っている企業は85.5%、場所の整備に取り組んでいる企業は54.7%であった。場所の整備の内容としては、「在宅勤務制度」(51.2%)に取り組んでいる企業が最も多く、2019年秋調査と比べても急激に伸びている。
- ・ 働き方に関する施策の取り組み状況については、「テレワークできるような制度の整備・活用」(57.1%)、「ペーパーレス化」(43.9%)など、テレワークに付随する項目が上位に並んだ。
- ・ 「ワーカーに安心・安全なオフィス環境が提供されていると思うか」という問いに対し、59.9%の企業が「非常にそう思う」「ややそう思う」と回答した一方、「まったくそう思わない」「あまりそう思わない」と回答した企業も20.2%存在した。
- ・ 「テレワークで貴社の生産性は上がると思うか」という問いに対し、31.9%の企業が、「非常にそう思う」「ややそう思う」と回答した。この割合はテレワークの場所を整備している企業の方が高く、さらにはテレワークの場所として在宅勤務だけしか整備していない企業よりも、サテライトオフィスを整備している企業の方がより高い傾向がみられた。
- ・ ワークプレイス運用に関しての課題は、「テレワーク時のマネジメント(業務、勤怠、評価等)が難しい」(38.2%)が1位となったほか、テレワーク関連の課題が上位に並んだ。
- 3.コロナ危機収束後のワークプレイスの方向性
- ・ コロナ危機収束後、働き方に関して興味のある施策としては、「勤怠・業務管理ツールの導入」(30.2%)や「評価制度の変更(成果主義やジョブ型雇用への転換等)」(27.0%)など、テレワーク推進を前提とした施策が上位となった。
- ・ メインオフィスとサテライトオフィスに求める価値・役割はどちらも「業務の効率化」が1位。次いでメインオフィスでは「社内のコミュニケーション活性化」や「従業員のモチベーション向上」が高く、サテライトオフィスでは、「従業員の通勤・移動時間の短縮」や「働く場所や時間のフレキシブル化」などが高い結果となった。
- ・ サテライトオフィスの代表的な5つのタイプの利用関心度を聞いた結果、すべてのタイプについて4~5割の企業が「利用してみたい」「やや利用してみたい」と回答。なかでも「職住近接!集中ソロワーク型」(54.7%)や「移動を効率化!都心タッチダウン型」(52.1%)に対する関心度が高い。
過去1年におけるオフィスの在籍人数が「増えた」企業の割合は21.6%、オフィス面積を「拡張した」企業の割合は5.2%で、どちらも調査開始以来最低となった。また、賃料単価(共益費込)が「上昇した」企業の割合は15.1%で、過去4年間続いた上昇傾向が一段落した。【図表1・2・5】
回答企業の89.5%が、ICT投資や場所の整備など、従業員がテレワークするための何らかの施策に取り組んでおり、その割合は年々増加傾向にある。【図表14】
コロナ危機収束後のワークプレイスの方向性として、40.2%の企業が「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」と回答した。【図表27】
1. オフィス需要の変化(2019年10月〜2020年9月)
1-1. 在籍人数、面積、賃料単価(共益費込)の変化
- オフィスの在籍人数が「増えた」と回答した企業の割合は21.6%で過去最低となった。
- オフィス面積を「拡張した」企業の割合は5.2%、「縮小した」は4.7%であった。面積縮小の理由として、「テレワークにより必要面積が減るため」と回答した企業が40.5%で、20年春調査の結果(12.5%)から大幅に伸びた。
- 賃料単価(共益費込)が「上昇した」企業の割合は15.1%で、「下落した」(1.4%)を上回ったものの、過去4年間続いた上昇傾向が一段落した。
- 「現在の平均的な出社率」「コロナ危機収束後の出社率」ともに「100%」と回答した企業が最も多い。ただし、収束後も73.8%の企業は一定数の社員にテレワークをさせる意向がある。
- オフィスの在籍人数に対して「100%超」の座席数を用意している企業が最も多い(58.6%)ものの、過去2回の調査結果と比較すると「100%未満」の企業の割合が増加している。
過去1年(2019年10月〜2020年9月)におけるオフィスの在籍人数(出社しているか否かに関わらず、そのオフィスに籍を置いている人数)、オフィス面積、賃料単価(共益費込、以下同様)の変化は【図表1・2・5】の通りとなった。いずれも過去8回の調査(2016年秋~2020年春)と比較すると、調査開始以来堅調であったオフィス需要の潮目が変わったことがうかがえる。
まず、オフィスの在籍人数が「増えた」と回答した企業は21.6%で過去最低となった【図表1(下段)】。一方「減った」は19.7%であった。ただし、「減った理由」(自由記述)として、テレワークにより出社していない従業員がいることを挙げている回答者が少なからずいたため、実際の在籍人数は減っていない企業も含まれている可能性がある。
【図表1】オフィスの在籍人数の変化
オフィス面積については、「拡張した」と回答した企業が5.2%、「縮小した」は4.7%であった【図表2(下段)】。
【図表2】オフィス面積の変化
拡張の理由としては「人数が増え手狭になったため(人数増)」(73.4%)が最も多かった【図表3】。縮小の理由としては「オフィスコストを削減するため(コスト削減)」(59.5%)が例年通り最も多かったほか、「テレワークにより必要面積が減る」が40.5%で、20年春調査の結果(12.5%)から大幅に伸びた【図表4】。
(左)【図表3】面積拡張の理由、(右)【図表4】面積縮小の理由
賃料単価が「上昇した」と回答した企業の割合は15.1%で、「下落した」(1.4%)を上回ったものの、過去4年間続いた上昇傾向が一段落した【図表5(下段)】。
【図表5】賃料単価の変化
続いて、全社員がオフィスに出社した場合を出社率100%とし、「現在の平均的な出社率(実態)」と「コロナ危機収束後の出社率(意向)」を聞いた結果、実態・意向ともに「100%(完全出社)」が最も多かった【図表6】。一方で、コロナ危機が収束しても残り73.8%の企業は一定数の社員にテレワークをさせる意向があることや、「100%」の次に「50%~59%」(14.1%)にしたい企業が多いこともわかった。
【図表6】出社率(実態/意向)
この出社率には、企業属性による特徴がみられた。まず、オフィス所在地別でみると、東京23区は「100%」の割合(実態)が14.4%にとどまり、コロナ危機収束後には「50%~59%」にしたい意向を持つ企業が17.4%いるなど、テレワーク推進の傾向がみられた【図表7】。また、従業員数別でも1,000人以上の大企業は現在の出社率「30%~39%」(15.3%)が最も多く「100%」(11.1%)を上回ることや、一方で100人未満の企業では「0%(完全テレワーク)」が2.1%と、他グループの2倍以上いることもわかった【図表8】。
【図表7】<オフィス所在地別>出社率(実態/意向)
【図表8】<従業員数別>出社率(実態/意向)
業種別では、「建設業」や「卸売業,小売業」が実態・意向ともに「100%(完全出社)」が多かった。「情報通信業」は現在の出社率「10%~19%」(12.4%)が最も多く、「100%」は9.6%にとどまるなど、テレワークが特に進んでいる様子が確認された【図表9】。
【図表9】<業種別>出社率(実態/意向)
次に、オフィスの在籍人数および座席数を聞き、在籍人数に対して用意している座席数の割合を算出した。その結果を「100%未満」「100%」「100%超」の3グループに分けると、在籍人数に対して「100%超」の座席数を用意している企業が最も多い(58.6%)ことがわかった【図表10(下段)】。
ただし、過去2回の調査結果と比較すると「100%未満」の企業の割合が増加しており、テレワークの進展によってオフィスの出社人数が減り、座席数を効率化させる動きが進んでいる可能性がうかがえた。
【図表10】オフィス在籍人数に対する座席数の割合
1-2. 手狭感、景況感
- 30.3%の企業が、入居中のオフィスを「かなり狭い」「やや狭い」と感じている。
- 景況感は「良い」「やや良い」の合計が16.9%であるのに対し、「悪い」「やや悪い」の合計が50.1%と大幅に上回り、景況感DIは-33.2であった。
入居中のオフィスの面積についてどのように感じているかを聞いたところ、30.3%の企業が「かなり狭い」「やや狭い」と回答し、「かなり広い」「やや広い」と答えた企業の割合(23.9%)を上回った【図表11】。
【図表11】手狭感
景況感について「良い」「やや良い」と回答した割合と「悪い」「やや悪い」と回答した割合の差をみるため、「良い」「やや良い」の合計割合から「悪い」「やや悪い」の合計割合を引いた値を「景況感DI」として表示したのが【図表12】である。
今回の調査では、「良い」「やや良い」の合計が16.9%に対し、「悪い」「やや悪い」の合計が50.1%と大幅に上回り、景況感DIは-33.2であった。コロナ危機発生直後の2020年春調査で大きくマイナスに転じた景況感DIは、多少盛り返したものの依然マイナスで推移しており、景況感が悪いと感じている企業の方が多いことがわかる。
【図表12】景況感DI
なお、景況感を業種別で比較すると、「製造業」や「卸売業,小売業」は他業種よりも「悪い」「やや悪い」の割合が高いのに対し、「情報通信業」や「金融業,保険業」は過半数が「良い」「やや良い」「変わらず」と回答しているなど、業種による差がみられた【図表13】。
【図表13】<業種別>景況感
2. ワークプレイスの実態と評価
2-1. テレワークの推進
- 回答企業の89.5%が、ICT投資や場所の整備など、従業員がテレワークするための何らかの施策に取り組んでおり、その割合は年々増加傾向にある。
- テレワーク支援のためのICT投資を行っている企業は85.5%、テレワークする場所の整備に取り組んでいる企業は54.7%であった。場所の整備の内容としては、「在宅勤務制度」(51.2%)に取り組んでいる企業が最も多く、2019年秋調査と比べても急激に伸びている。
- テレワークする場所の整備の内容を業種別でみると、「在宅勤務制度」については「情報通信業」が66.8%と特に高く、最も低い「建設業」(41.4%)と25.4ポイントの差があった。ただし、2019年秋調査の結果と比べるとすべての業種で大幅に伸びていた。今般のコロナ禍によって業種を問わずテレワークが進展した状況がうかがえる。
- 働き方に関する施策の取り組み状況については、「テレワークできるような制度の整備・活用」(57.1%)、「ペーパーレス化」(43.9%)など、テレワークに付随する項目が上位に並んだ。
回答企業の89.5%が、ICT投資や場所の整備など、従業員がテレワークするための何らかの施策に取り組んでおり、過去3年の調査結果と比べてその割合は増加傾向にある【図表14】。
【図表14】テレワークするための何らかの施策を行っている割合
ここからは、テレワークのための取り組みについて、①ICT投資、②場所の整備、③働き方に関する取り組みに整理して詳細を確認していく。
まず、ICT投資については、回答企業の85.5%が「どこでもメールやスケジュールがチェックできる仕組みの活用」や「外出時でもオフィス同様のネットワーク環境で仕事ができる仕組みの活用」、「従業員にスマートフォンやモバイルPC、タブレットなどのIT端末を支給」のうち1つ以上に取り組んでいると回答した【図表15】。2019年秋調査と比較すると、その割合は9.1ポイント伸びていることがわかった。
【図表15】テレワーク支援のためのICT投資の実施率
各施策の実施率も、過去3年の調査と比較してすべて増加傾向にある【図表16】。
【図表16】テレワーク支援のためのICT投資の内容
次に、従業員がテレワークするための場所の整備については、回答企業の54.7%が「在宅勤務制度」、「専門事業者等が提供するサテライトオフィス(*2)等」、「自社が所有・賃借するサテライトオフィス等」の3つのうち1つ以上を実施していると回答した【図表17】。
【図表17】何らかのテレワークする場所の整備をしている割合
最も整備されている割合が高いのは「在宅勤務制度」(51.2%)で、2019年秋調査と比べても急激に伸びている。一方、年々利用率が伸びていた「専門事業者等が提供するサテライトオフィス等」や「自社が所有・賃借するサテライトオフィス等」は、前回調査より若干減っているが、これはコロナ禍の一時的な影響と考えられる【図表18】。
【図表18】テレワークする場所の整備の内容
業種別でみると、テレワークする場所の整備状況に差がみられた【図表19】。たとえば、「在宅勤務制度」については「情報通信業」が66.8%と特に高く、最も低い「建設業」(41.4%)と25.4ポイントの差があった。ただし、2019年秋調査の結果と比べるとすべての業種で大幅に伸びており、今般のコロナ禍によって業種を問わず、在宅勤務が急速に普及した状況がうかがえる。
【図表19】<業種別>テレワークする場所の整備の内容
最後に、働き方に関する取り組みについては、「テレワークできるような制度の整備・活用」(57.1%)や「ペーパーレス化」(43.9%)などが上位に並び、テレワークに付随する施策に取り組んでいる企業が多いことがわかった【図表20】。
【図表20】働き方に関する取り組み状況
<PICK UP>在籍人数に対する座席数の割合別にみる、
働き方に関する取り組み状況
オフィス在籍人数に対する座席数の割合が「100%未満」の企業と「100%超」の企業について、働き方に関する取り組み状況を比較した結果、すべての取り組みについて、「100%超」の企業よりも「100%未満」の企業の実施率が高いことがわかった【図表21】。このことから、オフィススペースを効率化している企業は、テレワークをはじめとするフレキシブルな働き方の導入にも積極的に取り組んでいると考えられる。今後もフレキシブルで多様な働き方が進めば、本社などの固定的なオフィススペースの使い方やオフィス需要にも影響を及ぼす可能性があるだろう。
【図表21】<在籍人数に対する座席数の割合別>働き方に関する取り組み状況
2-2. ワークプレイスに対する評価
- 「ワーカーに安心・安全なオフィス環境が提供されていると思うか」という問いに対し、59.9%の企業が「非常にそう思う」「ややそう思う」と回答した一方、「まったくそう思わない」「あまりそう思わない」と回答した企業も20.2%存在した。
- 「テレワークで貴社の生産性は上がると思うか」という問いに対し、31.9%の企業が、「非常にそう思う」「ややそう思う」と回答した。この割合はテレワークする場所の整備をしている企業の方が高く、さらにはテレワークする場所として在宅勤務だけしか整備していない企業よりも、サテライトオフィスを整備している企業の方がより高い傾向がみられた。
- ワークプレイス運用に関しての困ったことや課題を聞いたところ、「テレワーク時のマネジメント(業務、勤怠、評価等)が難しい」(38.2%)が1位となったほか、テレワーク関連の課題が上位に並んだ。
入居中のオフィスについて、「ワーカーに安心・安全なオフィス環境が提供されていると思うか」という問いに対し、59.9%の企業が「非常にそう思う」「ややそう思う」と回答した一方、20.2%は「あまりそう思わない」「まったくそう思わない」、19.9%は「わからない」と回答した【図表22】。コロナ危機により、企業や個人の衛生観念や安心・安全に対する意識が底上げされ、オフィスに対する要求も高まっている可能性がある。
【図表22】オフィス環境の安心・安全評価
続いて、「テレワークで貴社の生産性は上がると思うか」という問いに対しては、31.9%の企業が「非常にそう思う」または「ややそう思う」と回答した。一方、45.8%の企業は「あまりそう思わない」「まったくそう思わない」と回答したほか、「わからない」も22.2%と少なくない割合であった【図表23】。
【図表23】テレワークの生産性に対する評価
テレワークの生産性に対する評価について、それぞれの回答理由を自由記述で聞いた結果、テレワークで生産性が上がると思う(「非常にそう思う」「ややそう思う」)理由には、実際にテレワークを経験したうえで、移動時間の効率化や業務によって場所が選べることの効果を感じていると思われるコメントが多くみられた。一方、生産性が上がると思わない(「まったくそう思わない」「あまりそう思わない」)理由としては、テレワーク未経験であったり、一時的にしか経験していなかったりして、実際にテレワークで仕事ができるイメージを持てない人が多いようであった。以下、自由記述の一部を紹介する。
「生産性が上がると思う」理由(一部)
● 移動にかかる時間・労力が減るぶんだけ、ほかの業務に注力できる。
● 急な声掛け、来客対応、会議室への移動がないため自分の業務に集中できる。
● オンラインでの対応が可能になったことにより、通勤時間や客先訪問の移動時間などが削減できる。また、天候などを気にせず商談できるようになった。
● わざわざ自社オフィスに来る必要がないので、顧客の都合に合わせた営業対応がしやすい。
● 人によっては自宅のほうが変な緊張感がなく、集中とリラックスのメリハリがつく。
● 通勤時間が減ってプライベートの時間が増えたため、生活や業務に余裕が生まれ、社員のモチベーションが高まっているのを感じる。
● 働き方の選択肢の1つとして制度化し、各自が業務に応じて出社とテレワークを選べるようにした結果、それぞれ自宅では集中作業、会社ではコラボレーションなど工夫して対応している。
「生産性が上がると思わない」理由(一部)
● しばらく試行錯誤して運用したものの、コミュニケーションロスが多く文化醸成も難しかった。
● テレワークで生産性が上がるような仕組みをまったく導入していないため。
● 印刷物を用いた質問回答業務が中心で、周囲の回答を聞くことも必要な業務なのでテレワークではそもそも業務が成り立たない。
● 外部からでは社内サーバーへのアクセスができないため、業務効率が著しく下がる。
● 各人の視野が狭くなると思う。
● 人に会い現場を見なくては仕事にならない。
また、テレワークする場所の充実度によっても、生産性に対する評価の差がみられた。テレワークする場所として在宅勤務だけしか整備していない企業よりも、「専門事業者が提供するサテライトオフィス等」や「自社が所有・賃借するサテライトオフィス等」を整備している(在宅勤務の整備の有無は問わない)企業の方が、よりテレワークの生産性を評価していた【図表24】。このことからも、テレワークは実際に経験することで、よりその効果やメリットを実感できるといえるだろう。
【図表24】<テレワークする場所の充実度別>生産性に対する評価
ワークプレイス運用に関しての困ったことや課題を聞いたところ、「テレワーク時のマネジメント(業務、勤怠、評価等)が難しい」(38.2%)が1位となったほか、テレワーク関連の課題が上位に並んだ【図表25】。
【図表25】ワークプレイス運用に関して困ったことや課題
3. コロナ危機収束後のワークプレイスの方向性
3-1. ワークプレイス戦略の方向性
- コロナ危機収束後、働き方に関して興味のある施策としては、テレワーク推進を前提とした「勤怠・業務管理ツールの導入」(30.2%)や「評価制度の変更(成果主義やジョブ型雇用への転換等)」(27.0%)などが上位となった。
- コロナ危機収束後のワークプレイスの方向性として考えに近いものを聞いた結果、「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」が40.2%と最も多い。
- コロナ危機収束後のワークプレイスの方向性を、オフィス所在地別でみると、東京23区は地方に比べ、「在宅勤務/サテライトオフィスを推進し、出社を減らす」や「テレワークを拡充し、オフィスを縮小する」など、分散型の働き方が進む傾向がみられた。また、従業員数別では、多くの項目で従業員数1,000人以上の大企業ほど回答割合が高く、コロナ危機収束後のワークプレイス戦略についてすでに考え始めている様子がうかがえた。
コロナ危機収束後、働き方に関して興味のある施策を聞いた結果、「テレワークを含む働き方に適した勤怠・業務管理ツールの導入」(30.2%)や「テレワークを前提とした評価制度への変更(成果主義やジョブ型雇用への転換等)」(27.0%)などが上位となった【図表26】。また、割合は多くないものの、コロナ以前よりも出張や単身赴任を減らそうと考えている企業もいることがわかった。一方、「特になし」と回答した企業も3割近くいた。
【図表26】働き方に関して興味のある施策
また、コロナ危機収束後のワークプレイスの方向性として考えに近いものを聞いた結果、「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」が40.2%と最も多かった【図表27】。
【図表27】コロナ危機収束後のワークプレイスの方向性
この結果をオフィス所在地別でみると、東京23区は地方に比べ、「在宅勤務/サテライトオフィス勤務を推進し、出社を減らす」「テレワークを拡充し、オフィスを縮小する」など、分散型の働き方が進む傾向がみられた【図表28】。
【図表28】<オフィス所在地別>コロナ危機収束後のワークプレイスの方向性
また、従業員数別では、多くの項目で従業員数1,000人以上の大企業ほど各項目を選択した割合が高く、コロナ危機収束後のワークプレイス戦略についてすでに考え始めている様子がうかがえた【図表29】。対して、企業規模が小さいほど「収束後は以前同様に戻り、あまり変わらない」の割合が高かった。
【図表29】<従業員数別>コロナ危機収束後のワークプレイスの方向性
3-2. 企業がサテライトオフィスに求める役割
- メインオフィスとサテライトオフィスに求める価値・役割はどちらも「業務の効率化」が1位。次いでメインオフィスは「社内のコミュニケーション活性化」や「従業員のモチベーション向上」が高く、サテライトオフィスは、「従業員の通勤・移動時間の短縮」や「働く場所や時間のフレキシブル化」などが高い結果となった。
- サテライトオフィスの代表的な5つのタイプの利用関心度を聞いた結果、すべてのタイプについて約4~5割の企業が「(やや)利用してみたい」と回答。中でも「職住近接!集中ソロワーク型」(54.7%)や「移動を効率化!都心タッチダウン型」(52.1%)の関心度が高い結果となった。
テレワークの進展に伴い、従来の集まるオフィスだけでなくテレワーク拠点となるサテライトオフィスなどの利用も広がり、働く場所の多様化が進んでいる。そこで、メインオフィスとサテライトオフィスについて、企業としてそれぞれに求める価値・役割を聞いた結果が【図表30】である。
どちらも1位は「業務の効率化」であったが、メインオフィスは「社内のコミュニケーション活性化」や「従業員のモチベーション向上」などが続いた。対してサテライトオフィスは、「従業員の通勤・移動時間の短縮」や「働く場所や時間のフレキシブル化」などが高く、両者に求められている役割の違いが浮き彫りとなった。
【図表30】メインオフィス(左)/サテライトオフィス(右)に求める価値・役割
この結果をテレワークする場所の整備状況(【図表17】)別にみると、テレワークする場所の整備をしている企業は、メインオフィスに「社内のコミュニケーション活性化」の価値・役割を最も求めていた【図表31】。また、サテライトオフィスについては「従業員の通勤・移動時間の短縮」や「働く場所や時間のフレキシブル化」「仕事に集中しやすいこと」「従業員のワークライフバランス向上」などの項目で、テレワークする場所を整備している企業とそうでない企業の差が大きく、ワークプレイスの位置づけの違いがみられた【図表32】。
【図表31】<テレワークする場所の整備状況別>メインオフィスに求める価値・役割
【図表32】<テレワークする場所の整備状況別>サテライトオフィスに求める価値・役割
テレワークの進展に伴い、自宅以外の働く場所の選択肢としてサテライトオフィスの存在感が増している。市場の盛り上がりとともにタイプの多様化も進んでいるが、実際に企業のオフィス担当者は、どのようなサテライトオフィスなら自社の従業員に利用させたいと考えているのだろうか。
代表的な以下5つのタイプのサテライトオフィスについて、コロナ危機収束後を想定し、それぞれの利用関心度を聞いた。
1.職住近接!集中ソロワーク型
● 自宅から徒歩・自転車圏内にあり通勤時間を削減できる。
● 集中作業に適した1人用個室があり、電話やオンライン会議もできる。
● 複合機や休憩スペース等もあり、終日腰を据えて働ける。
● 託児サービス付きや、買い物がしやすい商業施設内の立地など、私生活との両立に配慮されている。
2.移動を効率化!都心タッチダウン型
● 都心の主要オフィスエリアを網羅する立地に多拠点展開されている。
● 主に営業担当者などが外出中や直行直帰の際に立ち寄り、移動時間を効率化できる。
● 都合に合わせて拠点を都度選び、短時間からドロップイン利用できる。
● 個人作業に適した個室やブース、電話やオンライン会議ができる防音ブースなどもある。
3.期間も場所も自由!プロジェクト拠点型
● 企業専用区画があり、システム開発や期間限定プロジェクトなどで利用する。
● プロジェクトメンバーが通勤しやすい場所や受託先付近など、プロジェクトごとに都合の良い立地に設置できる。
● 複数名での作業や打ち合わせに適した個室やミーティングスペースがある。
● 社内だけでなく、社外の人とも協業しやすい。
4.出会いと刺激!都心コラボレーション型
● 主に都心部の、ブランド感や特色あるエリアに立地(例:渋谷×IT、丸の内×金融)
● 様々な業種・職種の人が共同利用し、コラボレーションやイノベーションが期待できる。
● 快適性やデザイン性に配慮されたオープンな空間。
● 飲食提供やイベント、コミュニティ形成など、ソフト面のサービスも充実している。
5.地方ワーケーション・多拠点居住型
● 地方の自然豊かな地域に設置され、ワークライフバランスが叶う。
● 一時的、または長期的に地方に居住しながら都心企業の仕事ができ、職住近接が叶う。
● 複数企業で共同利用する場合もあり、異業種交流や地域交流が期待できる。
5つのタイプの利用関心度を5段階で聞いた結果、すべてのタイプについて約4~5割の企業が「利用してみたい」「やや利用してみたい」と回答した【図表33】。
なかでも「職住近接!集中ソロワーク型」が54.7%と最も高く、従業員のワークライフバランスや育児支援などに対する企業の意識がうかがえる。また、営業担当者など外出が多い従業員の移動効率化につながる「都心タッチダウン型」も、52.1%と過半数が利用したいと回答した。
【図表33】サテライトオフィス5タイプの利用関心度
4. まとめ
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大発生以降、2回目となった今回の調査では、オフィス需要の潮目の明らかな変化が確認された。過去1年間におけるオフィスの在籍人数が「増えた」企業と、オフィス面積を「拡張した」企業の割合は、どちらも2016年の調査開始以来最低となり、賃料単価の変化についても過去4年間続いた上昇傾向が一段落し、横ばいもしくは下落へと転じる兆しがみられた。
今回の調査ではほかにも、在宅勤務制度を整備している割合の伸長や景況感DIの低調さといった特徴がみられ、コロナ危機の企業経営に対する影響が本格的に顕在化し始めたといえそうだ。たとえば、過去1年間にオフィス面積を縮小した理由として、「テレワークにより必要面積が減るから」と回答した企業は、2020年春調査では12.5%だったが、今回調査では40.5%に急増しており、テレワークの進展が従来の集まるオフィスの面積を縮小させる可能性がみられた。
同時に、企業がサテライトオフィスに対してメインオフィスとは異なる価値・役割を求めていることや、コロナ危機収束後には過半数の企業が職住近接タイプのサテライトオフィスを利用したいと考えていることなどもわかり、働く場所が多様化・分散化していく兆候が確認された。今後の状況次第では、コロナ禍の影響による景気悪化から企業のコスト削減意識が高まり、テレワーク活用を前提とする都心のメインオフィス縮小の動きに拍車がかかる可能性があるだろう。
ただし、今はいわば非常事態であり、感染予防を最優先事項として行動する日常が永遠に続くわけではない。長期的にみれば、企業の存続と利益確保が最優先であり、長きにわたる非常事態から感染の脅威を克服した暁には働き方の揺り戻しが起きる可能性もある。たとえば、人が集まる価値があらためて見直され、物理的にオフィスに来ることを従業員に求める企業も少なからず現れるかもしれない。その際には、コロナ以前とまったく同じ使い方ではなく、集まるオフィスの新たな価値が再構築され、ワークプレイスと働き方の進化が促されることになるだろう。
ワークプレイスはそこで働く人のマインドに影響し、働き方を規定し、結果としてパフォーマンスを左右するものであり、企業活動において本来もっと重視されるべき経営課題である。さらにコロナ禍を経験したことで、多くの企業は今後、オフィスの役割の再定義や、メインオフィスとテレワークのバランスの最適化といった課題にも取り組むことになると考えられる。そのとき従来のオフィスマーケットがどのような影響を受けるのか、引き続き企業の需要面から調査を継続し、情報を発信していく所存である。
調査期間
2020年10月
調査対象
・ザイマックスグループの管理運営物件のオフィスビルに入居中のテナント企業
・法人向けサテライトオフィスサービス「ZXY(ジザイ)」契約企業
・ザイマックスインフォニスタの取引先企業
上記合計 42,775件 にメール配信およびアンケート用紙を配布。
有効回答数
1,798社 回答率:4.2%
調査地域
全国(東京都、大阪府、愛知県、福岡県、神奈川県、埼玉県、千葉県、その他)
調査内容
- 入居中オフィスについて
- ・ 契約形態/オフィス種類/所在地/契約面積/賃料単価(共益費込み)
- /在籍人数/出社率(現在・意向)/手狭感/座席数
- 企業について
- ・ 景況感
- ・ 注力テーマ
- オフィス需要の変化(2019年10月〜2020年9月)
- ・ 在籍人数の変化
- ・ オフィス面積の変化
- ・ 賃料単価の変化
- 現在のワークプレイス環境について
- ・ テレワークの取り組み状況
- ・ 働き方に関する取り組み状況
- ・ 評価
- ・ ワークプレイス運用に関して困ったことや課題
- コロナ危機収束後の意向について
- ・ 働き方に関して興味のある施策
- ・ メインオフィス/サテライトオフィスに求める価値・役割
- ・ サテライトオフィス5タイプの利用関心度
- 企業属性
- ・ 業種/本社所在地/従業員数/従業員の平均年齢
(2021年1月12日)
《回答企業属性》
英語版:Metropolitan Areas Office Demand Survey Autumn 2020
- ザイマックス不動産総合研究所
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