ビルオーナー

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2020.10.21

ビルオーナーの実態調査2020(コロナ編)

~新型コロナウイルス感染拡大の影響とその対策~

ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は、2015年から早稲田大学建築学科石田航星研究室と共同で、全国の中小規模ビルを保有し賃貸ビル事業を行うビルオーナーを対象にアンケート調査(*1)を行っている。

2020年8月~9月にかけて実施した第5回となる今回は、これまで継続調査してきた、現在の賃貸ビル事業の経営実態、今後の見通しやビルを取り巻く環境変化への対応に加え、2020年春からの新型コロナウイルスの感染拡大がビル事業へ及ぼした影響や感染対策などについてもトピック的に聞いている。

新型コロナウイルスの流行によりビル事業を取り巻く状況は大きく変化しているなか、今回の調査でわかってきたことは、多くの事業者がこの危機を乗り越えるための情報を求めていることである。そこで、今般、ビルオーナーの実態調査2020の第1弾(コロナ編)として新型コロナウイルスに関する項目の調査結果を先行して公表し、定常調査項目などについては、第2弾として、2020年11月に公表を予定している。

(2015~2019年は小松幸夫研究室と実施。「テーマ」で絞込、または「ビルオーナー」で検索)
主な調査結果

    1. 新型コロナウイルス感染拡大によるビル事業への影響について

  • ・ 賃貸ビル経営において起きた項目は、「テナントからの賃料減額の申し入れ」(72%)が最も割合が高く、「テナントの退去(申し入れを含む)」(44%)、「テナントからの賃料の支払い猶予の申し入れ」(42%)と続いた。
  • ・ オフィステナント・店舗テナントを(一つでも)持つ事業者ごとでは、多くの項目で、店舗テナントを持つ事業者のほうが影響は大きかった。特に店舗テナントを持つ事業者の「店舗テナントからの賃料の減額の申し入れ」が起きた割合は60%を超えていた
  • ・ 地域別(東京23区・大阪市・その他の政令指定都市)の比較では、オフィステナント・店舗テナントを持つ事業者ともに大阪市の事業者への影響が最も高い割合となった。
  • 2. 新型コロナウイルス感染拡大への対策について

  • ・ 感染症対策としてあげた14項目について、60%以上の事業者が何らかの実施をしていた。
  • ・ 実施した対策は、「手指消毒設備の設置(アルコール消毒液の設置等)」(43%)が最も多く、「不特定多数が接触する場所の清拭清掃(自動ドアやエレベーターのボタン等)」(38%)、「換気のための窓開放」(38%)が続いた。
  • 3. 主なコメント

  • ・ コロナ禍での賃貸ビル経営や管理への影響、今後の賃貸ビル経営の短期的な不安と見通し、中長期的な展望と課題について、ビルオーナーの生の声を抜粋して紹介する。

1.新型コロナウイルス感染拡大によるビル事業への影響について

新型コロナウイルス感染症の流行の影響により、賃貸ビル経営において起きた、あるいは行った項目を賃貸ビル事業者にたずねたところ、「テナントからの賃料減額の申し入れ」が起きた割合が72%と最も高く、「テナントの退去(申し入れを含む)」(44%)、「テナントからの賃料の支払い猶予の申し入れ」(42%)と続いた【図表1】。コロナ禍でのテナントの営業自粛や売上の減少により、ビル事業の経営にも大きく影響している。

【図表1】新型コロナウイルスの影響により、賃貸ビル経営で起きた・行ったこと(n=901)      

さらに、テナントの「賃料減額の申し入れ」「退去(申し入れを含む)」「賃料の支払い猶予の申し入れ」「賃料滞納」「貸床面積の縮小の申し入れ」「倒産」について、それぞれが起きた割合を、オフィステナントが入っているビルを持つ事業者(以下、オフィステナントを持つ事業者)と、店舗テナントが入っているビルを持つ事業者(以下、店舗テナントを持つ事業者)別にみてみた【図表2】。「賃料減額の申し入れ」、「賃料の支払い猶予の申し入れ」、「賃料滞納」など、賃料に関する項目で、店舗テナントを持つ事業者がオフィステナントを持つ事業者より起きた割合が高い。特に店舗テナントを持つ事業者の「店舗テナントからの賃料の減額の申し入れ」が起きた割合は60%を超えていた。コメントでは、「期間を決めて減額を承諾した」、「営業自粛が一斉に敷かれたなか、店舗からの申し入れを断ったとしても、次のテナントが決まりづらい状況で承諾せざるを得ない」、「賃料の減額ではなく共益費の減免をした」といった声があった一方、「賃貸ビル事業者への公的補助は手薄、借入金の返済があり減額に応じられなかった」との声もあった。

【図表2】新型コロナウイルスの影響により、賃貸ビル経営で起きたこと(事業者別)

オフィステナントを持つ事業者

店舗テナントを持つ事業者


次に、東京23区、大阪市、その他の政令指定都市に分け、賃貸ビル経営で起きたことをみた【図表3】。オフィステナントを持つ事業者をみると、「オフィステナントからの賃料減額の申し入れ」は大阪市で突出して高く、次いで東京23区、その他の政令指定都市となっていた。ほかの項目についても、大阪市、東京23区が高く、その他の政令指定都市は低い傾向にある。店舗テナントを持つ事業者では、「店舗テナントからの賃料減額の申し入れ」は東京23区、大阪市、その他の政令指定都市に大きな差はみられなかった。ほかの項目については、大阪市が最も影響が大きいのはオフィステナントを持つ事業者と変わらないものの、東京23区よりその他の政令指定都市の方が高い傾向にあった。

【図表3】新型コロナウイルスの影響により、賃貸ビル経営で起きたこと
(事業者・地域別)

オフィステナントを持つ事業者

店舗テナントを持つ事業者


2.新型コロナウイルス感染拡大への対策について

新型コロナウイルス感染症対策として14の項目をあげ、テナントからの要望の有無と、実施の有無についてたずねた。

実施した対策数についてみてみると、1個以上が64%と、半数以上が何らかの感染症対策を実施していた【図表4】。

【図表4】新型コロナウイルス感染拡大への対策数(n=935)

実施した対策は、「手指消毒設備の設置(アルコール消毒液の設置等)」(43%)が最も多く、「不特定多数が接触する場所の清拭清掃(自動ドアやエレベーターのボタン等)」(38%)、「換気のための窓開放」(38%)が続いた【図表5】。また、多くの対策はテナントからの要望にかかわらず賃貸ビル事業者の意思で実施されており、賃貸ビル事業者の新型コロナウイルス感染症対策への意識の高さがうかがえた。コメントでは、これまでの自然災害の対策に加え、テナント・オーナー間の緊急連絡体制の再整備やマスクや消毒液を備蓄品に加えるなどの対応や、換気設備の見直し、窓や扉の開放に伴い網戸の設置をしたなどの声もあった。

【図表5】新型コロナウイルス感染拡大への対策(n=935)

次に、保有する主要なビルの規模別に、新型コロナウイルス感染拡大への対策数を比較した。所有する主要なビルの規模が大きいほど、対策数が多い傾向がみられた【図表6】。規模の大きなビルは共用部が広く、付帯設備や在館人員も多くなるため、事業者側が何らかの対策を取ったと考えられる。一方、規模が比較的小さいビルは対策数が0個である事業者が約半数を占めるものの、コメントでは「各テナントが対策を講じている」といった内容が多数みられた。

【図表6】新型コロナウイルス感染拡大への対策数(主要なビルの延床面積別)

3.主なコメント

本調査では、新型コロナウイルス感染症の流行により、賃貸ビル経営への影響や感染症対策、今後のビル経営で気になっていることをたずねた(自由記入)。以降では、アンケートのコメントで得られたビルオーナーの生の声を抜粋して紹介する。

コロナ禍において

【経営】

● 全テナントへの賃料減額契約締結(一部テナントは賃料減額を辞退)を行った。政府の対応が遅すぎるので混乱があった。

● テナントからの賃料減額・猶予の申し出については、柔軟に対応している。

● 賃料減額要求には応じず、預かり敷金の一部返金にて対応した。

● 家賃の減額申し入れもあったが、何とか妥協して頂いた。減額してしまうと、自社も共倒れになりかねない状況になる。政府の持続化給付金も当社にはあてはまらない。

● 店舗の減額を受け入れ、区の店舗等賃料減額助成金制度を活用した。

● 行政側からの支援は各テナントに対してそれなりにあるが、賃貸業者に対してはほぼ無いのが現状。それなのに、テナントからは減額の申し入れを当然のようにされるので困っている。

● テナントに対する支援金・助成金などは国・県・市・商工会議所など多様なメニューがあるため、テナントが混乱しないよう、その情報を整理して、追加がある度にこまめに修正して全店舗に資料を配るなど、情報の発信・共有を意識して対応している。

● 一時的な問題としてテナント救済は重要だと思うが、オーナー側への支援が少ない。難しいかもしれないが、固定資産税の一部(期間限定でよいので)減免などを検討して欲しい。


【ビル管理】

● 感染症対策として、手指消毒薬の設置・会議室利用制限・日常清掃の強化を実施した。トイレのジェットタオルを使用停止にし、ペーパータオルを導入したため、ごみの量が増えた。

● トイレ大便器への蓋設置の希望が有ったが、従前の方法を変えず、蓋開閉時の接触を避けるために敢えて取り外したままにしている。今後、トイレリニューアルをする際には、自動開閉式の便座導入を検討している。

● 基本的な感染予防策は各テナントで対応。共有区画では換気タイマーを設定し直した。

● 空気清浄機、AEDを導入した。

● 館内で罹患者が出た場合の対応として、ビル側の対応フロー書を作成し、テナントとのコミュニケーションをとっている。

● テナントの在館者数による清掃業務の見直しとその清掃員の出勤調整を行った。通常なら朝早くから出社・夜遅くまで残業があったのが、ほぼ定時出社退社となったためビルの開館閉館時刻を調整した。また、夕方にビル管理人の館内巡回を行い、併せて防犯に努めた。


今後の賃貸ビル経営の短期的な不安と見通し

● 近隣の空室物件にテナントが決まらない事象が多く、今後の新築計画に憂慮する。

● 新型コロナウイルスの影響は、新規契約の減少や退去など賃貸ビルにおいてはこれから出てくるのではないだろうか。

● 新型コロナウイルスの影響でテレワークが進んだことにより、今後、ビルを賃貸する業種が限られ、リーシングがさらに難しくなるのではないかという危機感はある。

● テレワーク等で会社の(オフィスの)規模を縮小することによる賃貸面積の縮小や他のビルへの移転が気がかりである。

● コロナ対策のために、飲食店などで席数が制限されることによる収益減は賃料に影響するため、賃料相場の下降が予想される。

● 抗菌や除菌対策に対応した設備の導入が今後増え、ランニングコストなどに影響しないか、心配している。

● 最近新たに入居したテナントの事例として、在宅勤務やテレワーク化が進んだため縮小移転した、というのがあった。これをきっかけに、面積の縮小や縮小移転に対応できるよう、最小貸室面積に区割りをした部屋を増やすことも必要だと考え始めた。

● テレワークの普及により、テナントビルのありかた、存在意義を改めて考えている。曜日単位での契約など、オフィスの新たな契約方法・使い方を提供する必要があるかもしれない。

● 在宅勤務を主としたテレワークが進むことを想定し、これまでのオフィスから他の形態に転換させることにより、収益源の多様化を検討している。

● コロナ禍で共用の会議室利用(リモート会議)が多くなった。専用区画内にクローズな会議室がないためと思われる。今後、事務室の使い方・レイアウトも変化してくるのではないだろうか。

● テレワークにより賃貸オフィスビル事業が縮小する心配がある。また、コロナ陽性者が出たテナントとの対応も気になる。


今後の賃貸ビル経営の中長期的な展望や課題

● ニューノーマル時代のオフィスのあり方、ビルのあり方、テナントニーズに沿った物件の仕様や規模、インフラがどう変化するかが注目すべき点である。

● 勤務形態の変化により、オフィスビルの運営に新たなシステムが生まれるかどうかに関心がある。

● テレワークが進み、これからのオフィスの在り方(立地や面積)が大きく変化するのではないか。

● テレワークが進み、外注化も進むだろう。そんな中、大規模なオフィスが不要になる可能性がある。今から策を考えたい。

● 働き方の変化が生じつつあるため、今後のオフィス需要そのものがどのような推移をたどるのか、弊社の供給の中心である〜30坪程度のオフィス需要がどのような推移をたどるのか気になっている。

● オフィスビルに求められるニーズが大きく変化する可能性がある点や、そのニーズの変化が一過性のものなのか、持続的なものなのかの見極めが気になっている。

● 今後、自然災害やコロナ等の急な災害に対応するためのスキル向上が必要となってくる。


まとめ

ザイマックス総研では、2015年から、東京と政令指定都市のビルオーナーの実態を調査してきた。中小規模ビルのオーナーの多くは高齢で、保有棟数は1~2棟と少なく、その築年数は20年以上が大半を占めている。また、築古ビルの修繕や固定資産税などの支出が増加する懸念や、人口減少、働き方、自然災害の増加など、社会状況の変化への対応をかかえ、中長期的な見通しは不安であるということがわかってきた。

第5回目となる今回の調査では、これまでの不安や課題に加え、コロナ禍での賃貸ビル経営における影響や対策を明らかにし、今後の課題や展望についても意見をうかがった。多くのビルオーナーは、テナントの安全に配慮したコロナ対策を講じ、テナントの経営に寄り添い、賃料の減額や支払い猶予に対応している。しかし、公的なテナントへの賃料支援がある一方、ビルオーナーに対する公的支援は少なく、またコロナの長期化に伴う景気悪化で賃貸ビル市場の下降が懸念され、今後の経営に不安を抱くビルオーナーは少なくない。

ザイマックス総研では、今後も定期的にビルオーナーの実態調査や取組み事例の収集を行い、有益な情報を発表していく予定である。

調査概要

調査期間

2020年8月~9月

調査対象

全国政令指定都市21都市

(札幌市・仙台市・東京23区・さいたま市・千葉市・横浜市・川崎市・相模原市・新潟市・静岡市・浜松市・名古屋市・京都市・大阪市・堺市・神戸市・岡山市・広島市・北九州市・福岡市・熊本市)

東京商工リサーチ(TSR)データより抽出した計10,830社

【売上】1,000万円~30億円(東京都のみ3,000万円~30億円)

【業種】賃貸事務所業を「主」または「従」(1位2位に登記)とする企業

有効回答数

アンケート:946社、回答率8.7% 

(札幌市63社、仙台市57社、東京23区298社、さいたま市25社、千葉市9社、横浜市66社、川崎市28社、相模原市4社、新潟市7社、静岡市13社、浜松市7社、名古屋市65社、京都市41社、大阪市92社、堺市9社、神戸市32社、岡山市15社、広島市34社、北九州市20社、福岡市44社、熊本市17社)

調査方法

郵送およびWEBにてアンケート調査

調査内容

  • Ⅰ.貴社について
  •   経営者の年齢/事業歴/賃貸事業売上割合/保有棟数・築年・エリア 等
  • Ⅱ.「賃貸オフィスビル事業」の状況について
  •   保有ビルの状況/業況/収入/支出 等
  • Ⅲ.今後の「賃貸オフィスビル事業」について
  •   今後の見通し(短期、中長期)/関心ある社会情勢/賃貸ビル事業に影響の
  •   ある社会情勢/ビルの価値向上のための施策 等
  • Ⅳ.貴社の新型コロナウイルスの影響について
  •   賃貸ビル経営であったこと/感染症対策

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英語版:Building Owner Survey 2020 (COVID-19 Edition)

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