供給・ストック

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2020.03.24

時代とともに変化する不動産利用-福岡市版-

~福岡市中心部にみる用途の多様化とエリア特徴の変化~

不動産の使われ方は、経済の変動、産業構造やライフスタイルの変化、政策などの様々な要因により、時間の経過とともに変化している。この変化は、築古化が進んだ建物の建替えや新たな用途へのコンバージョン、あるいは更地に新たな建物が建築されることなどの個別の不動産の動きによってもたらされる。

ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は、早稲田大学建築学科小松幸夫研究室と共同で、2017年に公表した大阪市版(*1)に続き、福岡市の中心部である天神・博多・呉服町エリアにおける1997年から2017年までの不動産利用の変化の実態を調査した。

このような不動産利用の基礎データが、個別の不動産所有者、利用者、投資家のみならず、政策決定者など多くの人にとって、今後の不動産の使い方を考える一助になれば幸いである。

主な調査結果
  • ・ 福岡市中心部は、建物が大型化し、建替えや新築が活発である。
  • ・ インバウンド需要の大きさから、宿泊施設・商業施設への建替えや新築が増加し、エリア内の建物用途が多様化している。
  • ・ 建物の高さ制限の緩和や容積率の緩和の施策により、業務施設の建物が大規模化し、活性化している傾向がみられた。


はじめに

本調査にあたっては、福岡市から貸与提供をうけた「土地利用現況調査」の1997年(H9年)、2007年(H19年)、2017年(H29年)を用い、福岡市の中心部である「天神・博多・呉服町エリア」(【図表1】)における業務施設、商業施設、宿泊施設、住宅の4つの用途(詳細は末尾の調査概要を参照)について、①建物ストック(延床面積・棟数等)の変化、②建替えによる変化、③更地に建った建物、④新しく建った建物をみていった【図表2】。さらに、「土地利用現況調査」の入手可能な最新年が2017年であったことから、同年以降に竣工、計画された建物についてはほかのデータで補足集計し、⑤調査年以降の供給による最近の動向をみた。

【図表1】調査対象エリア

【図表2】建物ストックのイメージ

① 建物ストックの変化

「天神・博多・呉服町エリア」の2017年における総延床面積は1,152万㎡あり、1997年から243万㎡(27%)増加した【図表3】。用途別にみると、住宅・商業施設・宿泊施設は延床面積が約1.4倍に増加し、中でも住宅の増加面積は127万㎡と最も多くなっている。その一方で業務施設は約1.1倍とほかの用途と比べて増加率が低い【図表4】。エリア全体の棟数は9,947棟から8,752棟へと減少していることから、建替えにより建物1棟あたりの規模が大きくなっていることがわかる。

【図表3】用途別建物ストックの推移

【図表4】用途別延床面積の変化(1997年=100)

② 建替えによる変化

建替えによる変化について、建替え前(1997年)と建替え後(2017年)の延床面積と棟数を比較した。総延床面積は227万㎡から362万㎡と増加した一方で、棟数は3,068棟から2,286棟へ減少しており【図表5】、いずれの用途においても1棟あたりの建物の規模が大きくなって建替えられていることがわかる【図表6】。

【図表5】建替え前後の変化(左:延床面積、右:棟数)

【図表6】建替えられた建物:1棟あたりの延床面積

【図表7】建替えられた建物(イメージ)

③ 更地に建った建物

1997年から2017年の間に、更地に新たに建設された建物の延床面積は158万㎡、棟数は1,022棟である【図表8】。これは、延床面積、棟数ともに20年間で建った建物(建替えと更地に建った建物の合計520万㎡・3,308棟)の約1/3にあたる。用途別の割合をみてみると、約半分が住宅で、業務・商業・宿泊施設の順で建設されている【図表9】。また、地図をみると規模の大きい宿泊施設や商業施設が中心部に増加しているのがわかる【図表10】。

【図表8】更地に建った建物(延床面積・棟数)

【図表9】更地に建った建物の用途別割合(延床面積・棟数)

【図表10】更地に建った建物(イメージ)

④ 新しく建った建物

1997年から2017年にかけて、新しく建った建物(建替えによる建物と更地に建った建物)を用途別に地図にプロットして、その特徴をみた【図表11】。

【図表11】新しく建った建物(建替えによる建物および更地に建った建物)

業務施設は、比較的規模の大きい建物が博多駅及び天神駅周辺に建てられ、小規模なものはエリア全体に点在している。JR博多駅の建て替えに伴う周辺の再開発により、駅の両出口(博多口・筑紫口)で規模の大きい建物の建設が行われており、調査年以降も建築は続いている。住宅は、エリアの周辺部に点在しており、建替えによる建物より更地に建った建物のほうが、規模が大きい傾向がある。商業施設は、大規模なものは博多駅及び天神駅周辺に集中し、2つの駅間に小規模の建物が点在している。また、天神駅の南西に小規模の建物が広がっており、もともと住宅中心だったエリアに、新しい商業店舗の集積がみられる。宿泊施設は、エリア全体に広がっている。本調査では確認できなかったが、福岡市保健所への旅館業の申請内容をみると、マンションやビルの一部を民泊等の宿泊施設に用途を変更している建物も多くみられた。

天神・博多・呉服町エリアは、業務・商業施設が多く、住宅も混在するエリアだった。近年、福岡市経由で入国した外国人は毎年増加を続けており、2014年の120万人から2018年には309万と2.6倍に伸び、九州全体で入国した外国人の約6割を占めるようになった。このインバウンドの増加に伴って、宿泊施設の建築も増加している。また、商業施設も増加傾向にあり、天神駅周辺から南西方面へ小規模な店舗が増加するなど商業エリアの拡大・移動がみられる。

業務施設においては、これまで1952年施行の航空法による高さ制限があったため、既存の建物を建替えても規模が大きくならず、投資採算の面から、大規模な建替えが進んでいなかった。しかし、国家戦略特区に指定されたことで、航空法の高さ制限が緩和され、福岡市で容積率の緩和を伴うプロジェクトが可能になった。これを受けて、2015年に発足したプロジェクト「天神ビッグバン」(2024年30棟の建替え目標)や、2019年に発表されたプロジェクト「博多コネクテッド」(10年間で20棟の建替え目標)のなかで、築古化した業務施設の大規模ビルへの建替えが多数計画されている。さらに地下鉄の延伸などのインフラも整備され、今後当エリアは建物用途の多様化と大規模化が進み一層活性化すると考えられる。

⑤ 調査年以降の供給

2017年の調査年以降の供給(*2)について調査した。調査年以降に竣工が想定される建物は、延床面積は88万㎡、棟数は267棟であった【図表12】。延床面積では業務施設、宿泊施設の順で多く、棟数は宿泊施設が最も多かった。

*2 ①~④までの調査データと異なり、建設データバンクより2016年1月以降に届け出があった建物を抽出している。

【図表12】調査年以降に建った建物(延床面積・棟数)

さらに、2017年から2018年までと2019年以降に届け出た建物について、用途別の割合をみてみた【図表13】。業務施設においては、延床面積が2018年までの29%から2019年以降は61%と増加しているものの、棟数は13%から22%と増加は少ない。宿泊施設は、延床面積・棟数ともに30%以上と多く占めており、特に、2019年以降は棟数において全体の約1/2を占めている。【図表14】の1棟あたりの延床面積をみると、業務施設は7,046㎡から9,940㎡と2019年以降はさらに大規模な建物が供給されることがわかる。

【図表13】調査年以降の建物(届け出年比較)

【図表14】調査年以降の建物:1棟あたりの延床面積

【図表15】調査年以降の建物(イメージ)

おわりに

本調査では、福岡市の中心部(天神・博多・呉服町エリア)の不動産の使われ方の変化をみた。中心部は、急増するインバウンドの需要に応えるため宿泊施設や商業施設が増加し、用途が多様化してきた。また今まで建替えが少なかった業務施設も、特区の指定や市の施策などの規制緩和により今後は開発が進んでいくであろう。

不動産は、われわれの生活と活動の基盤であり、限られた資源でもある。時代毎に一定の用途に供された不動産も環境変化によりその有用性は変化する。今後どのように変化していくかを見通すことは、不動産の活用・事業戦略にとって極めて重要なテーマと考える。本調査が、個々の不動産所有者、利用者、投資家だけでなく、政策決定者など多くの人にとって、不動産の使われ方・使い方を考える一助になれば幸いである。

ザイマックス総研では、今後とも不動産を取り巻くテーマについて調査分析を行い、有益な情報を発表していく予定である。

調査概要

調査期間

1997年~2020年

調査エリア

福岡県福岡市中央区・博多区の61町丁目

調査データ

● 福岡市「土地利用現況調査」

【用途】

 業務施設:事務所、金融・保険などの業務施設

 商業施設:物販、飲食、娯楽遊戯など(商業系複合施設は除く)

 住宅:住宅、共同住宅、店舗併用住宅、店舗併用共同住宅、作業所併用共同住宅など

 宿泊施設:ホテル、その他の宿泊施設全般

【延床面積】

 「土地利用現況調査」には建物の延床面積データがないため、便宜的に「建築面積×地上階数」を延床面積としている。そのため「建築面積」または「階数」のデータがない建物については分析対象に含めていない。

【建替えの基準】

 「土地利用状況調査」 の1997年(H9)と2017年(H29)のGISデータを比較し、1997年の建物の面積のうち、2017年の建物の重なりが80%未満の建物を建替えられた建物とした。

 また、80%以上重なっているもののうち、階数の差が2階以上のものについては、Googleマップにより目視で確認し、建替えの有無を判別した。

● 建設データバンク「建築計画のお知らせ看板情報」

 2016年1月1日~2020年1月31日間で、届け出のあった建物。2017年以降竣工した建物を、工事期間を1年として集計した。

● ザイマックス総研が独自に収集した新規供給建物データ

※レポート内のグラフに関して、小数点以下第一位を四捨五入しているため増減面積が経年の差と合わない場合がある。
※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
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