トピックレポート

PDF版ダウンロード

2019.09.30

不動産リアルトレンド2020

~世の中と不動産の「今」と「これから」~

わが国は戦後の高度経済成長を経て、経済大国となり、国民生活も豊かなものとなった。一方で、バブル崩壊後は失われた20年といわれる長期的な停滞を経験し、国際競争力の低下が続いている。また、少子高齢化が進み生産年齢人口は2019年の約7,500万人から2030年には約6,900万人と約600万人減少し、労働力の深刻な不足が懸念されている。このような中、グローバル化、テクノロジーの進化、データ社会、シェアリングエコノミーの進展など、われわれを取り巻く社会経済の状況は加速的に変化している。われわれは、このような変化に関してインターネットを通じてより多くの情報を得ることができるようになったものの、現実には、情報が多すぎて、“真”の(あるいは“実際”の)トレンドや影響を把握し、理解することは容易ではない。

そもそも不動産は人々が働くところ、住むところ、学ぶところ、遊ぶ・楽しむところ…などと、いつの時代にも"重要な基盤"としてわれわれの生活と活動を支えている。このことは今までも、そしてこれからも変わらない。一方、不動産の使われ方は社会経済状況の影響を受け、時代とともに変化している。つまり、社会や企業、そして個人が引き続き発展し、豊かであるためには、不動産とどう付き合っていくかがポイントとなるのである。

国土交通省は、2019年4月に四半世紀ぶりとなる「不動産業ビジョン2030」を策定し、発表した。不動産業は、わが国の豊かな国民生活、経済成長などを支える重要な基幹産業であり、今後とも成長産業としての発展が期待されることから、国交省は「ビジョン」を策定し、不動産業のあるべき将来像や目標を達成するための取り組み指針を示したのである。

前述のとおり、われわれを取り巻く社会経済状況は加速的に変化している。それらが不動産あるいは不動産ビジネスにどのように影響しているのかはとても大切なテーマであるものの、これを取りまとめた網羅的なレポートは、わが国にはほとんど存在しない。

そこでザイマックス総研では、重要と考えられるテーマを取り上げ、その状況と不動産への影響を考察することとした。取り上げるテーマは、以下の11テーマであり、特にランキングなどの優劣はない。本レポートが、不動産に関するリアル(“真”の、“実際”の)トレンドを把握し、理解するための一助となれば幸いである。ザイマックス総研では、これからも社会経済の変化と不動産へのインパクトを継続的にみていき、「不動産リアルトレンド」を定期的に発表していくつもりである。

本レポートの概要はこちら
不動産リアルトレンド2020 取り上げるテーマ

    1. 多様化する価値観

    2. 人手不足

    3. 働き方改革

    4. 国際化・外国人との共生

    5. データ社会

    6. テクノロジーの進歩

    7. 都市と地方

    8. 建物ストックの老朽化

    9. 自然災害

    10. 環境問題

    11. メガイベント

1 多様化する価値観

1.1 価値観が多様化してきた背景

人の考え方や価値観は一様ではなく、国籍や性別、育ってきた環境や社会経済の状況などによって異なるものである。考え方や価値観の違いは、進学、就職、住宅購入などの人生の大きな決断の場面だけでなく、趣味・旅行や消費行動、家族や友達とのコミュニケーションなどの普段の場面にも影響を与える。

例えば、戦後のベビーブームで生まれたいわゆる団塊の世代やバブル期を経験したバブル世代は、景気が上昇を続けた「がんばれば報われる時代」に終身雇用で就労し、比較的安定した生活を過ごしてきた。この世代の人たちは、モノを所有する意識が高く、大量生産された同規格の商品を購入し、生活向上のため多くが同じ方向を向いており、「一億総中流」といわれる時代でもあった。一方、バブル後の世代は、景気が長い後退局面に入り、就職難・終身雇用の崩壊から、個人レベルのキャリアアップや豊かさの意識が強い傾向にある。また、PCやスマートフォンの普及によりデジタル化が急速に進展し、特に1990年代後半以降に生まれた世代はデジタルネイティブと呼ばれ、生まれたころからインターネットやパソコンに慣れ親しんでいる世代である。インターネットやSNSなどを使いこなし、オンラインで新しい横のつながりを構築しているのが特徴である。また、例えば仕事においては、年収アップや出世のためにがんばって働くのではなく、むしろ、プライベートの充実に重きを置くといった傾向があり、モノへの意識も所有から利用へと変化しつつある。バブル前の大量生産の時代と比較して、バブル後世代は、多品種少量・モノ余りの時代にいて、ライフスタイルや結婚観・家族観も多様化し、晩婚・少子化による単身・少人数世帯も増加している。

米国でも同様に世代間による価値観の違いがある。ザイマックス総研で紹介している米国不動産カウンセラー協会の「不動産に影響を与える今年の10大テーマ」でも、ベビーブーマー世代とミレニアル世代やジェネレーションZは、結婚や就職、住まいやオフィス選びにいたるまで、価値観の違いによる行動の差異が出ていると指摘している。

これらの世代間の価値観の違いに加え、近年では3,000万人(2018年)を超える外国人の観光客、50人に1人といわれる外国人就労者、さらに留学生の増加は無視できない要素である。外国の文化や宗教、生活習慣による新たな価値観も加わり、生活の様々な場面で価値観が多様化してきている。

1.2 価値観の多様化が不動産に与える影響

価値観が多様化することにより、不動産においても以下のような影響がみられる。

住宅においては、「モノ」への意識が所有から利用へ変化してきたバブル後の世代は、賃貸住宅を好み、特定の家に固執せず転々と住居を変えるアドレスホッピングや、キッチン・リビングなどを共有するシェアハウスを好む人もいる。一方で、総務省の家計調査では20~30歳代の2人以上の世帯の持ち家率が10年前と比べて約10%増加しており、持ち家を購入する傾向も高くなっているといったように、今や全員が同じ方向に動く時代ではなくなってきている。また、これまでの新築住宅に住むことを重視した新築至上主義ではなく、住む場所やライフスタイルを重視する傾向が高まってきたことを受けて、利便性の良い築古の家をリノベーションするビジネスも増えている。

オフィスにおいては、従業員の一人ひとりの働きやすさを尊重し、通勤時間の短縮、職場での従業員の快適性を改善することで、ワークプレイスの多様化が進んでいる。これまでの働き方は、本社オフィスに毎日出社し、固定席で業務に従事するスタイルが主流であったが、最近の傾向として、交通利便性の高い場所に本社を集約しつつも、サテライトオフィスの設置、フレキシブルオフィスの利用、在宅勤務制度の拡充(または導入)など、本社以外のワークスペースを積極的に整備する動きが増えている。ザイマックス総研の調査では、オフィスワーカーは総じて柔軟な働き方や多様な場所を志向しているが、なかでも若手(20~30歳代の男女)や未就学の児童がいるワーカーは、在宅勤務やサードプレイスオフィスなど、本社以外の場所で働くことをより希望する結果となっている。フレキシブルな働き方・働く環境を整備することは、ワーカーの満足度を高めるとともに、生産性の向上につながることになるであろう。

商業店舗においては、Eコマースの進展により、リアル店舗での購買だけでなく、ネット上で購買を完結する、あるいは店舗で商品を確認したうえでネットで決済し自宅へ配送、または宅配便ロッカーで受け取るなど、消費者の購買行動が多様化している。それらに対応するため、最近では在庫を多く置かないショールーム化した店舗が登場したり、郊外から交通利便性の良い駅前など消費者がより利用しやすい場所へ移転する店舗もみられたりするようになってきた。

多様化した価値観にIT技術の進展も加わり、インターネットを介して使っていないものや空いている時間を有効に利用するシェアリングエコノミーサービスが普及してきた。人やペット・日用品・車・家・宿泊施設など「ヒト」、「モノ」、「カネ」、「移動手段」、「スペース」に至るまで消費者側に初期投資の負担がなく、無駄なく簡単に目的にあった各種サービスを利用することが可能となった。例えば、空き住宅を宿泊施設やサテライトオフィスに有効利用するサービス、車をシェアリングするサービス、空いた駐車場を利用した自転車のシェアリングサービスなどである。

さらに、訪日外国人の増加により、利用する建物内の設備や公共の場にも変化がみられるようになった。宗教上の習慣に合わせ、洗い場や祈祷スペースを設置したり、食材を選択できるメニュー対応の食堂を設置したりしているオフィスビルや宿泊施設もみられる。駅などの公共施設では、案内板の多言語対応やピクトグラム・記号のサインも増えている。また、同郷の外国人が集まる新たなコミュニティも、葛西(インド)、埼玉川口(中国)、高田馬場(ミャンマー)などの地域で生まれている。地方では、訪日外国人の増加により新たに観光業の需要が生まれた結果、北海道倶知安町(ニセコ)などのように観光施設への海外からの投資が増加し、地域の雇用促進や活性化につながっている事例もある。また、外国人の不動産賃借に際して、従来の保証人頼りの賃借ではなく保証会社を介しての賃借もできるようになり、言語や習慣の違いによるトラブルに対応する保険サービスも登場している。

今後、経済状況や社会構造の変化によりさらに価値観は多様化していく。しかも、その変化のスピードはかなり加速していくかもしれない。このような流れの中、不動産においても少品種大量生産から多品種少量生産の時代が到来しているといってよいだろう。多様化する価値観のコアなニーズを捉え、従来の固定的なサービスに加えて柔軟に対応できるサービスの開発・提供がますます重要となってくるであろう。

2 人手不足

2.1 人手不足の状況

厚生労働省が発表した2019年7月の完全失業率は2.2%、有効求人倍率は1.59倍と労働需給は過去に例をみないほどひっ迫した状況が続いている。就業者の数は女性や高齢者の働き手が増えたことで増加傾向が続いているため、人手不足の主因は労働需要の強さといえる。日本経済が持続的な経済成長を続けていくためには人手不足の解消が大きな課題の一つとなっている。

このような状況の中、人手不足解消の対策として、女性や高齢者の更なる労働参加と外国人労働力の確保に向け、様々な施策・取り組みが行われてきた。

まず、女性については、男女雇用機会均等法が浸透し、政府が子育てと仕事の両立支援策を進めてきたことにより、現在の就業率は7割に達している。都市部を中心とした保育所不足の問題は依然残っているものの、出産や育児の期間に相当する30歳前後から40歳前後までの間で就業率が下がるM字カーブの谷はなだらかになりつつある。

次に、高齢者については、2006年に高年齢者雇用安定法が改正され、事業主に対して、現在は65歳まで定年を引き上げ、継続雇用制度の導入などの雇用確保措置を講ずることが義務付けられている。安倍首相が議長を務める未来投資会議では、2018年10月、「人生100年時代」を踏まえた雇用制度の改革案が議論され、これからは産業の盛衰などに対応し、複数の企業を渡り歩く働き方を選択しやすくする必要があるとされた。これに基づき政府は、2019年5月、企業の継続雇用年齢を現状の65歳から70歳に引き上げる方針を発表し、希望する高齢者が70歳まで働けるように企業に必要な対応(定年延長・廃止のほか、他企業への再就職支援、起業支援など)を求めることとした。内閣府の調査によると、65~69歳の高齢者の約65%は「仕事をしたい」と感じているものの、実際に就業している人の割合は約44%にとどまることが労働力調査により明らかになっており、高齢者が意欲的に働ける環境作りが必要と考えられる。

外国人に関しては2018年10月時点ですでに146万人の労働者がおり、年々増加している。2019年4月1日からは、新たな在留資格「特定技能」を新設する改正出入国管理法が施行され、人材不足が深刻な14業種を対象に、一定の技能と日本語能力のある外国人に日本での就労を認めた。この制度により、今後5年間で最大34.5万人の外国人労働者の受け入れが見込まれている。長期にわたって人口ひいては労働人口が減少していく日本において、女性や高齢者の労働参加率の上昇には限りがあるため、今後外国人労働者の存在感が高まっていくことになるであろう。しかしながら、人手不足は他の国々でも同様である。そのため今後は外国人の争奪戦になるといわれており、いかに必要な数の外国人に継続的に日本に来てもらうかがポイントとなる。

2.2 人手不足による不動産への影響

不動産に関するあらゆる分野においても人手不足の影響が現れている。特に不動産の維持管理に関わる人手不足は顕著で、保安業、清掃業における有効求人倍率はそれぞれ7.73倍、2.20倍と非常に高く、ここ数年上昇が続いている。建築に従事する人の不足も同様で、工事着手が遅れたり、コストアップにつながったりしている。

また、不動産を利用する企業の人手不足も深刻である。特に、商業店舗、物流、ホテル、ヘルスケアといったオペレーショナルアセットでは、運営に関わる人材確保が大きな経営課題となっている。2018年にザイマックス総研が商業事業者に行ったアンケートでは、新規出店に慎重になっている要因として「パート・アルバイト・従業員が確保できない」が7割と最も多く挙げられた。ホテルでは、客室の清掃業務は手間と時間がかかり、次の宿泊者を受け入れるまでの限られた時間帯で客室清掃を行う必要がある。加えて、ホテルブランドを維持するために求められる清掃技術を習得するには、ある程度の期間が必要になる。客室清掃員の慢性的な人手不足は解消されず、今後のホテル供給計画は目白押しな中、ホテル従事者の人手不足はさらに加速するだろう。物流分野においてはドライバー不足が注目されているが、物流施設内で働く人の確保も難しくなっている。従来の物流施設は輸送の効率性の観点から幹線道路、高速道路のインターチェンジや港湾に近い交通結節点が選好されてきたが、最近は、施設内で働く人材を確保するために住宅地が背後にあるエリアの近くに建設されるなど、人手不足は物流施設の立地にも影響を与えている。介護分野においても介護従事者の不足は大きな問題である。2018年に厚生労働省から、2016年度の約190万人に加えて、2025年度までに55万人(毎年6万人程度)の人材が必要になるとの試算が発表されている。

2.3 人手不足に対する取り組み

企業では従業員の採用強化を行いながら、労働時間の短縮、休日の設定などの柔軟な勤務体系の導入、社員寮や保育施設の福利厚生施設の整備、派遣社員の正社員化など、社員の定着率を維持・改善するための様々な工夫を行い、働く人の確保に努めているのが実状だ。女性や高齢者だけでなく、働く時間と場所に制限がある社員など、多様な人が安心して長く働き続けることができるよう、労働環境の整備が求められている。

また、人手不足解消の担い手として外国人の雇用も進んでいる。先に挙げた改正出入国管理法が対象とする14業種には、人材不足が深刻な介護、ビルクリーニング、建設、宿泊、外食業が含まれている。言葉の問題やコミュニケーション面などの課題はあったとしても、今後、外国人労働者への依存度は高まり、その数も増加していくと考えられる。

こうした労働人材の「量」の確保以外にも、労働不足を補うことにつながる業務の「質」の変革が進んでいる。建物の維持管理においては、スマートメーターによる電気使用量の検針や遠隔からの機器点検、クラウドを用いた建物の運営管理など、先端技術を使った省力化が進んでいる。さらに最近はロボットが様々な場面で導入されるようになってきた。三菱地所は2018年4月から、東京・丸の内エリアにおいて、街のサービス及び運営業務を担う警備や清掃など様々なロボットの段階的な導入を開始した。鹿島建設では、実際の新築工事現場において、ロボットや遠隔操作などの技術・システムの適用、実証を進めている。これらは省人化への試みといえよう。

オペレーショナルアセットにおいては、例えば商業店舗でのセルフレジの導入や、キャッシュレス決済の普及促進が図られている。また、経済産業省による電子タグを用いた社会実験など、業務効率の改善によって人手不足の解決にも寄与する取り組みも始められている。ホテルではチェックアウト時間をずらすことで、少数の清掃員でも客室清掃の時間を確保できるようにするなどの運営面の工夫や、自動チェックインや精算機の導入など機械化・省力化が進んでいる。物流施設でのピッキング・仕分けなどの工程においても機械化やロボットの導入が進んでいる。

人手不足問題は、人手がかからない工夫や働き手の多様化、技術の進展を一層加速させ、従来の不動産の立地に対する考えや建物の作り方にも変化を与えるだろう。政府が進める「人生100年時代」を踏まえた雇用のあり方改革は、働き手一人ひとりの「働く」ことに対して大きなインパクトを与え、なかでも特に高齢者ワーカーの意識を変えていくことにつながる。定年が延長・廃止されることで、そのまま従来の企業で働くケースだけでなく、別の仕事にチャレンジしたり、社会貢献活動を行うケースも増えていくことも予想される。働き続ける動機としては、生きがいや健康、社会貢献や学びなど、「幸福度(ハピネス)」につながるもので、単に経済的理由だけではなくなるだろう。

3 働き方改革

3.1 働き方の変化

前章では、人手不足問題を取り上げ、働く人の数が社会に与える影響について整理した。しかし、現在起きている社会変化を理解するには、労働力全体の数量の変化だけでなく、個人レベルの「働き方」の変化にも着目する必要がある。よって、本章では、個々人の働き方の変化が、現在そして今後において社会と不動産業界に与える影響について整理する。

これからの個々人の働き方の変化と社会への影響について考えるうえで、働き方改革は最も重要なキーワードの一つである。働き方改革は、2015年にアベノミクスの第2ステージとして一億総活躍社会を目指すことが発表され、2016年に「働き方改革担当大臣」が設置されて以降、政府の取り組みが加速した。2017年9月の衆議院選挙後には、所信表明演説で人生100年時代構想と働き方改革の実現が掲げられ、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(通称、働き方改革関連法、働き方改革一括法)が成立し、2019年4月から順次施行されている。また、総務省など中央省庁が東京都および経済界と連携し、東京オリンピック開会式の7月24日を「働くを変える日」テレワーク・デイとして、全国一斉のテレワーク実施を呼びかけるなど、社会的な取り組みも行われている。テレワーク・デイの参加団体数は、初回の2017年には約900団体、2回目の2018年には約1200団体、2019年には約2,900団体と年々増加し、社会の関心も高まりつつある。多くの企業においても様々な働き方改革に関する取り組みが行われ、労務の問題にとどまらず、HR(Human Resource:人材)、ICT、不動産など様々な産業を巻き込んだ新しい関連サービスが展開されている。さらに「働き方改革」が新語・流行語大賞にもノミネートされる(2017年)など、国民一人ひとりの関心も継続して高い。ここまで広がった背景として、労働人口の減少(第2章参照)、技術革新(第6章参照)、長時間労働の社会問題化、労働生産性の低迷、国際競争力の低下、一人ひとりの価値観の変化(第1章参照)など社会全体が大きく変化しつつあることが挙げられる。

このように注目を集める働き方改革であるが、人口に膾炙するがゆえにあいまいになっている面もあるため、今一度定義や問題意識、経緯を整理しておく。政府広報では、働き方改革を「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現」するものとし、一連の施策や取り組みを通じて、長時間労働を是正し、多様で柔軟な働き方を実現し、雇用形態にかかわらない公正な待遇を確保することを目指すとしている。

これは裏返せば、これまでの日本社会が、労働者個々の事情に応じた柔軟で多様な働き方を選択しにくい時代であったことを示している。終身雇用や年功序列に象徴されるこれまでの日本的な働き方は、戦後の高度経済成長に適したものではあったが、同時に、労働市場の流動性の低さ、正規労働者と非正規労働者の格差、出産のための退職、子供を持つことの機会費用の増加、長時間労働、介護離職など、現在の日本をとりまく様々な課題の遠因ともなった。さらに現在、全世界で第4次産業革命が進行し、同質的なコスト競争から付加価値の獲得競争へと社会と経済の構造が変化しつつある。この社会経済構造の変化により、専門・技術職など高スキル職と、対個人サービスなど低スキル職の就業者のシェアが増加する一方、製造や事務など中スキル職が減少する「労働市場の両極化(Polarization)」が、欧米のみならず日本でも進行し、収入格差拡大へつながるおそれがある。働き方改革は、企業組織のあり方や個人の仕事の内容・仕方など経済社会システム全体の再構築を通じて、先に挙げた「働く」をとりまく課題を解決し、日本全体の労働生産性向上や経済成長につながるものとして期待されている。

以上が働き方改革に関する経緯、定義、問題意識である。これら働き方改革に関する取り組みを受け、次節以降でこれからの働き方がどのように変化していくか、不動産業界へどのような影響を及ぼすかについて整理する。

3.2 これからのワークスタイル

これからのワークスタイルはどのようなものになっていくのであろうか。

まず、「時間や空間にとらわれない」働き方が普及することになるであろう。かつては、多くの人が同じ部屋に同時に集まり、一緒に仕事をしなければ、ほとんどの仕事が進まなかったが、インターネットやモバイル技術の浸透により、今や遠く離れた人ともコミュニケーションや共同作業が可能となった。コンピューターの処理速度と通信速度は今後も向上を続けると予想され、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・空中投影ディスプレイなど、時間や空間といった物理的制約に縛られないテレワーク、モバイルワークはさらに進むと考えられる。オフィスをはじめとした働くための場所も、ワーカー一人ひとりのその時々の状況にあった働きやすさを重視し、内装、什器、設備、立地、規模、拠点数の見直しが進む。また、働いた時間ではなく成果や生産性に基づいて評価するマネジメントが求められるようになり、現在の長時間労働の是正につながることも期待される。

次に、「企業とワーカーの関係性」が変わるであろう。技術革新や社会変化は、ビジネスサイクルを短命化させる可能性がある。企業にとっては、大量の正社員を抱え込み、都心の高額なオフィスを常時借り続け、稼働率の低い空間(ワークプレイス)を抱え込むより、都度必要な人員や場所、空間を調達するプロジェクト型の経営スタイルの方が、機動的かつ柔軟な変化に適している。さらに、ワーカーにとっても、一生涯同じ会社で同じ仕事を続けることはもはや一般的ではなくなる。また、健康寿命も延びるため、キャリアチェンジやリカレント教育による学び直しを通じ、幾度かのライフシフトを経験することになるであろう。こうした流れを受け、企業はミッションや目的を明確にしたプロジェクトの集合体へと変わり、ワーカーは自分の希望と状況に応じて、柔軟に企業の内外を移動する働き方になる。その結果、所属期間の長短や雇用保障の有無などによって「正社員と非正規社員」「フルタイムとパートタイム」と区分することはだんだんと意味を持たなくなるほか、副業・兼業・複業が一般化することになるであろう。ただし、企業の評判やワーカーの能力といった情報が幅広く共有され、自在に移動できる仕組みが整備されるなど、あらゆる世代や職種における労働市場の透明化、効率化が前提となる。

また、「介護・子育て・家事が、働くうえでの制約にならなくなる」と期待される。子育てや介護のためのインフラ整備が進むと同時に、クラウドソーシングやマッチングを活用した多様な介護・子育て・家事アウトソーシングサービス・ビジネスの開発も進むと考えられる。健康管理システムにより要介護状態になる前に十分な予防的措置がなされ、装着型介護ロボットスーツや車椅子として分離可能な介護ベッド、遠隔見守りシステムなどにより、ワーカーの介護負担が軽減される。家事労働はAIやロボットの活用が期待される分野の一つである。すでに掃除の自動化は進み、調理ロボットの実用化もみえてきている。また、自ら介護や子育てを行いたいワーカーが育児休職・介護休職を容易に取得できるほか、育児や介護の合間に在宅でクラウドソーシングを活用して収入を得るなど、状況に応じて柔軟な働き方を随時選択できるようになる。

最後に、ワーカーの「性別、人種、国籍、年齢、性的指向・性自認、障がいの有無による制限を受けなくなる」時代になると考えられる。今後、AI・通信・VR・翻訳などの技術進歩により、物理的距離、言語の違い、見た目やハンディキャップの有無関係なく、コミュニケーションのハードルはより下がる。多くの仕事が国境を超えてやりとりされ、それぞれのワーカーが自分の能力と志向にあった働き方を選択し、それが社会と調和する時代が訪れる。

3.3 ワークプレイスの変化

前節で挙げた、時間と空間に縛られない働き方は、すでに不動産の使われ方に影響を及ぼしている。数年前と比較し、オフィス内部のレイアウトには変化が現れており、オープンミーティングスペースやリフレッシュスペースなど、ワーカーが作業以外の時間を過ごすためのスペースが増加傾向にある。また、固定席を廃止し、オフィス使用面積を節約できるフリーアドレスの導入も進んできている。ペーパーレスを促進し、社外からアクセス可能な業務システムと遠隔会議システムを導入することで、本社オフィスに出社・在社・帰社しなければいけないという制約からワーカーを解放している。

ワークプレイス変革を通じて、企業の生産性を向上させ、ワークライフバランスを実現するうえで、注目されているコンセプトがABW(Activity Based Working)である。ABWでは、具体的にワーカーがどういう行動をしているのかをベースにして、ワークプレイスやツールを整備する。ワーカーの作業内容をとりあげてみれば、個人の集中ワーク、リフレッシュ、プロジェクトワーク、チームコミュニケーション、外部とのオープンイノベーションなど、1日の中でも様々な内容の業務が混在している。ABWを基にしたオフィスづくりでは、集中ブース、少人数オープンミーティング席、ラウンジ席、カウンター席、電話ブースなど様々な機能を持つ施設が、企業における利用実態・必要度合いに基づいて整備される。このようにして、ワーカー一人ひとりが、自身の生産性向上を意識し、日々考え、行動に移すことを可能とする環境、ツール、そして風土を作り上げるのがABWである。

ICT(情報通信技術)が発達し、遠隔で共同作業が容易になる「ツール・デバイス」が浸透する一方で、本社オフィスから離れた場所(在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィスなど)で働く、いわゆるテレワークに適した「場所」の整備は進んでこなかった。日本の住宅は必ずしも仕事に適した場所ではないこと、カフェなどは情報セキュリティ上の懸念があることなどが背景として挙げられる。そのような中、昨今利用が広がりつつあるサービスがフレキシブルオフィスである。フレキシブルオフィスとは、シェアオフィスやコワーキングスペースといった、会社のオフィスでも自宅でもないオフィススペースの総称である。契約形態としては、賃貸借契約ではなく、一時使用貸借またはサービス利用契約する形態をとり、利用側の契約主体の法人・個人は問わない。サテライトオフィス、レンタルオフィス、シェアオフィス、モバイルワークオフィス、コワーキングオフィスなど、様々なタイプが事業者によって供給されており、ハードであるスペースのみならず、スタッフ業務やイベント企画運営などのソフトサービスを提供するものも存在する。

大都市圏における課題の一つは、「通勤」である。長時間の通勤はワーカーに通勤ストレスを感じさせ、生産性や仕事やプライベートの満足度、エンゲージメントなどにマイナスの影響を与えている。今後、企業の働き方改革が進み、ワーカーの自宅近くにフレキシブルオフィスが増えることは、ワーカーにも企業にとっても好ましい方向性であろう。なお、現在、上場企業で導入が進んでいるIFRS(国際会計基準)では、オフィス賃料も資産計上することが要求されることから、会計上の観点からもフレキシブルオフィスの利用が進む可能性がある。

ビジネス習慣やワーカーの働き方は国によって様々である。フレキシブルオフィスの浸透状況もまた欧米と日本では異なっている。欧米におけるフレキシブルオフィスは、個人事業主、フリーランス、スタートアップ企業などスモールビジネスのオフィスニーズの受け皿として存在感を増してきた。さらに最近では、一般企業が本拠地としてフレキシブルオフィスを利用するケースも増えている。その背景には、欧米で主流である5〜10年間の賃貸借契約がビジネスのスピード感にマッチしにくいこと、オフィスにコミュニティ形成機能を求めるようになってきたことなどがある。日本においては、固定的な本社オフィスとフレキシブルオフィスを必要に応じて使い分けるハイブリッド型が主流になると考えられる。ハイブリッド型では、本社オフィスを「交流」「情報交換」「企業ビジョンの共有」などといった機能を持つ場所として維持しつつ、ワーカー一人ひとりの働き方改革の促進のためにフレキシブルオフィスを活用してテレワークを実施する。ザイマックス総研が実施した企業に対するアンケート調査(「大都市圏オフィス需要調査2019春」)でも、今後の企業の不動産戦略として、ハイブリット型が最も多く支持されている。

以上のようなフレキシブルオフィス、ABWを機能させるには、それぞれの企業における経営課題の整理、ワーカー一人ひとりの働き方とワークプレイスの利用実態の把握が不可欠である。企画立案から実行まで、単体で完結させられる企業は少なく、特にワークプレイス分野における不動産事業者への期待は大きい。不動産事業者にとって、働き方改革とは、従来の貸主借主の関係にとどまらず、サービスとしての不動産(REaaS:Real Estate as a Service)という新しい収益機会を得るチャンスであるとも考えられる。

4 国際化・外国人との共生

4.1 来てもらう国際化

近年、日本において外国人との共生社会構築の必要性が活発に喧伝されるようになった。背景には、国際化に関する二つの大きな動きがある。

一つは訪日外国人(インバウンド)の急増である。2013年に年間の訪日外国人数が初めて1,000万人を超え、それからわずか5年後の2018年には3,000万人を突破した。2020年に4,000万人とする政府目標も、実現不可能な数字ではないだろう。一方で、フランスの2018年訪仏外国人数は9,000万人を突破しており、観光立国としては後発である日本は、今後も他国との競争の中で日本のプレゼンスを高めていく必要がある。

もう一つは、2019年4月から施行された改正出入国管理法である。特に人手不足である14業種を対象に新たな在留資格(特定1号)を創設し、これまで認めてこなかった外国人の単純労働に門戸を開き、5年間で最大約34万人強の受け入れを想定している。現在、技能実習生と留学生(資格外活動)が、深刻な人手不足に陥っている職場の貴重な働き手となっている一方で、悪質ブローカーの存在や劣悪な労働環境、低賃金など解決すべき課題も多い。これら顕在化している諸問題を棚上げすることなく、国・監理団体・受け入れ企業・学校などが一体となって、課題解決に取り組む姿勢が求められるだろう。

共生社会のポイントは、外国人に「(また)日本を訪れたい」「日本で働きたい・学びたい」「日本に住み続けたい」と思ってもらうことであり、日本が選ばれる国であり続けることが重要になる。そのためには、日本人の意識改革や、ソフト・ハード面のインフラ整備が必要となり、不動産のあり方にも変容が迫られる。

以下では、訪日外国人(インバウンド)と外国人労働者・留学生の観点から、共生社会のトレンドと不動産に与える影響、課題などについて整理する。

4.2 訪日外国人(インバウンド)

2019年現在、訪日外国人の9割以上が空路で入国しており、さらなる訪日外国人の増加には空港キャパシティの拡大が必要となる。具体的な取り組みとしては、羽田空港では新たな飛行ルートの運用、成田国際空港では発着時間の1時間延長、関西国際空港では第1ターミナルの大規模改修などがある。

また、近年では訪日外国人の訪問先が多様化している。観光庁の訪日外国人消費動向調査によると、2017年の訪日外国人のうち、61.4%が訪日回数2回以上のリピーターであり、訪日回数が増えるにつれて地方への訪問率が増加する傾向がみられた。こうした有名観光地から穴場的観光地への広がりは、交通インフラの整備、観光資源のアピール、宿泊施設の開発により促進され、地域経済の活性化につながっている。2019年3月に発表された地価公示では、浅草のような都市部の観光地だけでなく、北海道倶知安町(ニセコ)など、訪日外国人が多く集まり、商業店舗や宿泊施設などの需要を引き出している地方観光地の地価上昇率も総じて高くなっている。今後も「コト消費」の充実など、様々な訪日外国人のニーズに対応し続けることが、観光地の魅力アップ、差別化の鍵となり、「(また)日本を訪れたい」訪日外国人の増加につながると考えられる。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、ホテルの建設ラッシュが続いている。東京近郊では、五輪後のホテル客室数が供給過剰になるとの予測もあるものの、政府は2030年に6,000万人の訪日外国人数を目指しており、日本全体でみれば、今後もホテルや民泊などの総需要が現状より低下する可能性は低いと思われる。わが国には、既に一定数のホテル・客室があるが、多くはビジネスホテルのように、国内の短期宿泊を前提としたシングルルームが中心で、部屋も決して広くない。一方、訪日外国人は通常、家族や友人とともにホテルに宿泊し、買い物などにより荷物も増えるため、ツインルーム以上かつ広い部屋が必要となる。また、祈祷室やユニバーサルコンセント、多言語対応など、日本人とは異なるニーズもある。このようにホテル自体は数多くあっても、未だ訪日外国人向けのホテルは決して多くないのが実状である。

宿泊場所自体も多様化しており、具体的な取り組みの一つとして、国内不動産事業者と米国ホテルチェーンが、2020年以降、全国各地の「道の駅」に隣接したホテルを開業すると発表した。宿泊特化型のホテルをハブとして、地域の観光資源を渡り歩く旅のスタイルを提案するものであり、食事や買い物などの消費支出増加による地域への経済波及効果も期待される。

民泊については、民泊新法が施行された2018年6月15日から2019年5月末までの間で、宿泊者数が約132万人(延べ宿泊者数で約367万人泊)となった。民泊新法によって違法民泊が排除されたこともあり、出足こそ低調だったものの、2019年4~5月の宿泊者数は約34万人(延べ宿泊者数で約93万人泊)、うち約7割強が外国人の利用であった。届け出物件数も2019年8月には1万8,000件を超え、新法施行時から8倍以上に増加した。大手コンビニ各社が店舗を鍵の受け渡し拠点にするなど、民泊を支援するサービスや関連産業の広がりが要因としてあげられる。また、年間180日以上の営業が可能な簡易宿所も2017年時点で3万件を超えており、訪日外国人の受け皿として拡大していくものと考えられる。

2018年のインバウンド消費は4兆5千億円を超え、過去最高を更新した。消費支出のおおよその割合は、宿泊費が30%、買い物が35%、飲食費が20%とされており、商業施設や店舗にとってインバウンド消費は大きなマーケットである。インバウンド消費の取り込み・拡大を図るためには、訪日外国人のニーズに合致した商品・サービス・体験をいかに提供することができるかがポイントになる。例えば、各地方自治体と連携し、地域ごとの歳時カレンダーに連動した催事イベントを行うなどである。それらをSNSで情報発信し、訪問客に口コミを投稿してもらうといった積み重ねが、施設の認知度を向上させ、新たな観光客の誘致につながるのではないだろうか。

そのほか、ソフト面のサービスとしてキャッシュレス決済があるが、2019年10月の消費税率引き上げ時の景気対策として、政府はポイント還元を打ち出しており、また、2020年東京オリンピック・パラリンピックを一つの契機として多言語対応の機運も高まっており、普及率は徐々に上昇していくものと考えられる。

4.3 外国人労働者・留学生

2018年の集計時点における外国人労働者数は約146万人(前年同期比14.2%増)、外国人留学生数は約29万人(同12.0%増)となっており、ともに過去最高を更新した。

2017年に総務省が「多文化共生事例集」を発表しており、地方公共団体や地域国際化協会、NPO法人などから募った取り組みのうち、52事例が紹介されている。事例は、コミュニケーション支援(9事例)、生活支援(28事例)、多文化共生の地域づくり(9事例)、地域活性化やグローバル化への貢献(6事例)の4つに分けて紹介されており、全体的には生活支援に関する事例が多い。また、内容的にはハード面よりもソフト面の支援事例が多く、特に「日本で働きたい・学びたい」外国人のための住宅支援事業などは、不動産業界がより積極的に関与していく余地がありそうだ。地方における外国人が使いやすい社員寮・学生寮の整備などは具体例の一つである。事例集においても触れられているが、外国人労働者・留学生に共通する課題として、雇用・採用の東京への一極集中が挙げられる。人口減少社会においては、地方での外国人材のニーズが高まると考えられるため、外国人に来てもらうためのマッチング・動機付け施策の一つとして有効だろう。

今回の改正出入国管理法では、さらに高度な試験に合格し、熟練した技能を持つ特定2号の在留資格を得れば、在留更新で事実上の永住が可能となる。この在留資格では家族の帯同も認められるため、将来的には「日本に住み続けたい」外国人の増加が予想される。政府は平成30年12月の第3回外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議において、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を提示し、その中で、自治体と入管の一元的窓口となる「多文化共生総合相談ワンストップセンター」を全国に100カ所に設置する計画を発表した。しかし、外国人が安全に、安心して暮らせるようにするためには、自治体任せではなく、雇用する企業や学校などがより積極的に生活支援コストを負担する必要がある。また、それに関わる不動産ビジネスにも変化が求められる時代が到来するだろう。

外国人との共生のあり方についての議論は、未だ黎明期の段階であろう。上記の総合的対応策の冒頭に記載のとおり、受け入れる側の日本人が、共生社会の実現について理解し協力するよう努めていくだけでなく、受け入れられる側の外国人もまた、共生の理念を理解し、日本の風土・文化を理解するよう努めていくといった相互理解の醸成が、持続的な共生社会を実現するための鍵になるだろう。

5 データ社会

5.1 データ社会

データは21世紀の石油といわれている。IoTやAIなどの各種テクノロジーの進化にも後押しされ、日々、膨大なデータが生まれ、質量を持たないそれらのデータが付加価値を創出し、産業、経済のみならず社会構造全体を駆動する時代が到来している。

このようなデータ社会においては、多くのデータを持っていることが重要となる。現状、GAFA(グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の4社のこと)など世界の大手デジタル・プラットフォーマーは大量のデータを持ち、世界各国の国家安全保障レベルにまで影響を与えうる存在となっている。

なぜ日本ではGAFAのような大手デジタル・プラットフォーマーが誕生しなかったのだろうか。一つには、戦後、製造業を中心にモノ作り大国として成長してきたことからハードウェアからソフトウェアへ産業構造の転換がなかなか進まなかったことが理由として挙げられる。また、自前主義の傾向が強く、諸外国と比較してオープンイノベーションが起こりにくい環境だったことも影響しているだろう。

しかし近年、国が新たな社会制度設計を検討する際の産官学連携や、新たなビジネスモデルを模索する企業などでは、業界の垣根を超えた民間企業同士の連携が増加してきている。

次節では、世界を席巻するGAFAを取り巻く環境を確認する。3節ではデータ社会における日本の潮流を紹介し、4節では、データ社会の拡大に伴う様々なテクノロジーの進化が今後の不動産に与える影響について整理する。

5.2 世界を席巻するGAFAを取り巻く環境

GAFAの事業起点は、検索・ブラウザ(グーグル)、PC・スマホ(アップル)、SNS(フェイスブック)、Eコマース(アマゾン)など、Web中心のデジタル領域であったが、近年では、収集した膨大なデータとインフラ基盤を武器に、キャッシュレス決済、小売(リアル店舗)、スマートホーム、自動運転・ドローンなどリアル領域に事業を拡大している。また、グーグルやアマゾン、マイクロソフトなどはAI関連のサービスにも注力し、様々なクラウドサービスを提供している。

このように、彼らは BtoB・BtoC 双方の顧客を広く囲い込みつつ、近未来技術の世界標準規格を確立し、データ社会の覇者を目指す競争を繰り広げており、様々な産業・市場・国家に大きな影響を与えている。

一方で、こうしたGAFAのビジネスモデルに対しては、特にEUが積極的に下記の規制を行っている。

● 個人情報(GDPR:EU一般データ保護規則):合法的に収集した個人情報であっても、それを欧州圏の外に持ち出すことを禁止。

● 公平な競争(EU競争法):グーグルで商品の価格を検索すると、自社のグーグルショッピングの商品が優先的に表示されるのは独占的な地位を利用し、公平な競争を妨げている。

● 税金(デジタル税):2019年にフランスが課税。対象は世界的に展開しているIT企業で、自国内の売上高に課税。


米国においてもGAFA規制の動きが出始めている。2019年7月に米司法省がIT企業に対して、反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)違反の可能性を視野に調査を始めると発表した。GAFA4社が対象とみられており、米国でも規制強化の流れに転換する可能性がある。

日本政府は2019年6月の「未来投資会議 成長戦略」の素案に、巨大IT企業の規制方針を盛り込んだ。公正な取引環境を確保するため独占禁止法を補完する新法「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法(仮称)」の成立を進めるほか、個人情報保護法も改正しプライバシーの保護を強化する。デジタル市場を評価する専門組織を早期に創設することにより技術革新(イノベーション)の促進にも留意し、規制と成長の両立を目指している。また、同月に福岡で開催されたG20での財務相・中央銀行総裁会議では、巨大IT企業の課税逃れを防ぐ国際的な「デジタル課税」の統一ルール取りまとめを進めていくことで一致した。

今後も諸国の法整備などにより、GAFAへの規制強化の動きが進むこと、中国のBAT(Baidu, Alibaba, Tencent)など新たな勢力が台頭してきていることから、GAFAだけが世界市場の中で勝ち組であり続けることは考えにくく、世界的に展開してるインターネット企業の動向とこれに対する規制などの動きについて注視する必要がある。

5.3 データ社会~日本の潮流~

本節では、データ社会に関する日本の取り組みの一部を紹介する。総務省が主導している情報銀行は、データ流通における新たな概念で、個人から本人に関するデータを預かり、そのデータを個人に代わって蓄積・管理・活用し、その結果得られた便益を個人に還元する事業者を指す。膨大な個人情報を持つGAFAへの対抗策であり、対価が支払われるというメリットを明確にした世界でも新しい取り組みとして注目されている。個人の情報提供者にとっては、自分の情報管理の窓口が一本化され、データが提供される相手を認識できることなどがメリットとなる。なお、日本IT団体連盟による事業者認定は2019年6月からであり、具体的にどのようなメリットを享受できるのかについては現在のところまだ事例が少ない。今後、情報銀行を普及させるためにはまず、個人情報は自らが管理すべき財産・商品であることの啓蒙から始めることが必要ではないだろうか。

経済産業省は、2017年にConnected Industries(以下、CI)として日本が目指す新たな産業のあり方を発表した。具体的な内容としては「モノ×モノ」「人×機械」「生産×消費」「大企業×中小企業」「地域×地域」「現場力×デジタル」など、国境や世代を超えた様々なデータがつながり新たな付加価値を生み出す産業社会を構築し、超スマート社会(Society 5.0)の実現を目指す。各産業の競争力を高めるキーワードの一つとして「多品種少量」があり、CIの進展によってスマートファクトリーが普及すれば、人件費の安い国ではなく、消費者に近い所に工場を建設する動きが加速していくと考えられる。

民間企業の取り組み事例としては、2018年にセブン&アイ・ホールディングスが立ち上げたセブン&アイ・データラボが挙げられる。彼らは異業種の企業が保有している統計データから得た知見を相互に活用し、社会課題の解決を目指している。複数業界のリーディングカンパニー10社が参加しており、セブン&アイと各企業が1対1でいくつかの課題を設定、実証実験を通じて解決を図る。それと同時に、得られた結果はラボ内で共有し、さらなるデータ活用の可能性も検討しており、企業間でのビッグデータの連携としては過去最大級となる。

また、経済産業省によると、2030年に不足するIT人材は約79万人と推計されており、データサイエンティストなどの育成を目指した産官学の連携が進んでいる。データサイエンティスト育成を目的とした学部(例:滋賀大学、兵庫県立大学)も創設され、その数は徐々に増えてきている。

5.4 不動産に与える影響

データ社会の拡がりに伴う様々なテクノロジーの進化によって、消費者行動が変わり、既存のビジネススタイルにも変容をもたらす。本節では代表的なキーワードとそれらが不動産に与える影響を整理する。

● Eコマース:経済産業省によると、日本における2018年のBtoC Eコマース比率は6.22%と、フリマアプリなどのCtoC Eコマースとともに拡大し続けており、現状、市場の成長を阻害する要因は見当たらない。家計消費支出が伸び悩み、人口減少が続く日本においてBtoC Eコマースなどの成長は、リアル店舗の売上高減少につながるトレードオフの関係にあり、別個のビジネスとして捉えるべきものではない。消費者は利便性・快適性・楽しさなど様々な目的に応じてEコマースとリアル店舗を使い分けるようになっており、近年、米国アマゾンが大手食品スーパーを買収したり、ユニクロが国内Eコマースの売上比率目標を30%とするなどの動きは、Eコマースとリアル店舗がシームレスに顧客接点の機会を提供するための相互補完機能であることを示している。小売業者は消費者の購買行動の変化に対応すべく、継続して自社Eコマース事業とリアル店舗のポジショニングを整理し、戦略を検討していく必要があるだろう。このように商業を取り巻く環境が大きく変わりつつある中で、商業施設という「不動産」をどう使うかは大きな課題である。米国では、オーバーストアとEコマースなどの影響で廃墟となったデッドモールが増えており、その一部は物流施設などの別の用途に転換されている。わが国の商業施設の今後についても、しっかりと注視し、考えていく必要がある。

● フィンテック(FinTech):金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結びつけた様々な革新的な動きを指す。具体的には、仮想通貨、クラウドファンディングやキャッシュレス決済など、FinTechが包摂する概念は幅広く、インターネットやスマートフォン、AI、ビッグデータなどを活用したサービスを提供する新しい金融ベンチャーが次々と登場している。その結果、これまでほぼ独占的に金融商品・サービスを提供していた金融機関のリアル店舗の位置づけは変わりつつある。金融機関も、従来の資金の流通から情報の流通へとビジネスモデルの転換を志向しており、今後のリアル店舗は、コンサル特化型店舗や、銀行・信託・証券をワンストップで提供する共同店舗など、機能別に立地や面積が多様化していくものと考えられる。また、店舗の統廃合や閉鎖によって市場に出てくる遊休不動産の有効活用などは不動産プレーヤーにとって大きなビジネスチャンスになるであろう。

● MaaS(Mobility as a Service):ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念のことで、日本ではまだ黎明期ではあるものの、今後、カーシェア・ライドシェアなどのシェアリングエコノミーが普及し、中長期的には、自家用車なども「所有から利用」が主流となる時代が到来すると考えられる。MaaSの進展によって、移動や移動手段に関する負荷が軽減されたり、まちづくりにおける建物や駐車場など不動産のあり方も変容し、交通事故の減少、渋滞などの都市問題の解決や、人口減少に苦しむ地方の諸課題の解消が期待されている。その中で、トヨタ自動車は2018年、専用次世代電気自動車を活用し、移動・物流・物販など多目的に活用できるモビリティサービス、「e-Palette Concept」を発表した。これは、現在「不動産」をベースに提供されている各種サービスを、リアルEコマース・多目的移動スペース・オンデマンド繁華街・ワンストップ物流などといった多様なコンセプトの「動産」に置き換える試みであり、不動産の概念や価値を大きく変化させていく可能性がある。

● 不動産テック(RealTech、PropTech):日本の不動産業界では、物件情報が未だに電話やFaxでやりとりされていることも珍しくない。こうした日本の不動産業の情報産業化を目指すために、一般社団法人不動産テック協会が「不動産テック カオスマップ」を公表している。これは、テクノロジーを活用して業務効率化、高付加価値化を進める不動産プレーヤーを業務領域ごとにカテゴライズしたものである。カオスマップには「仲介業務支援」「マッチング」「リフォーム・リノベーション」など従前から存在する業務領域に加え、少額から好利回りの不動産投資を可能とする「クラウドファンディング」、スマートデバイスで不動産の内覧などが可能となる「VR・AR」や、民泊やシェアオフィス事業を行う「スペースシェアリング」などの領域があり、不動産業界の慣習を変える様々なビジネスが登場している。

6 テクノロジーの進歩

6.1 リアルとデジタルの融合

テクノロジーは、国家および企業における競争力の要素の一つであり、その重要性は高まり続けている。ダボス会議で知られる世界経済フォーラムでは、2018年国際競争力ランキングの評価方法を、より技術革新、特にテクノロジーを評価する方向へ改定した。これを受けて主要国は科学技術予算を増やし、企業も研究開発投資を増やしている。

各国の戦略的な投資を背景にテクノロジーは大きく進歩し、あらゆる産業で構造変化が起きている。このトレンドを象徴するキーワードが、X-Tech(クロステック)である。X-Techとは、金融(FinTech)、健康・医療(HealthTech)、教育(EdTech)、広告(AdTech)、農業(AgriTech)、人的資源(HRTech)、食品(FoodTech)など、リアルとデジタルが融合したビジネス領域を指す。これまで情報通信技術が浸透していないビジネス領域にも、情報化が浸透し、デジタル革命による産業構造の再定義(第4次産業革命)により新たな業界や企業が出現している。様々な産業において、洗練された情報通信技術を駆使した革新的な製品やサービスがグローバルに広がることで、既存の産業構造や競争原理が破壊・再定義(デジタル・ディスラプション)される現象が起きている。不動産業界では、デジタルテクノロジーの力によって業界課題や従来の商慣習を変えようとする価値や仕組みとして、不動産テック(RealTech、PropTech)が注目されている。日本でも2018年に一般社団法人不動産テック協会が設立され、現在は70社以上が参加している。

次節以降では、不動産業界に関連の深いテクノロジーと、テクノロジーが生み出すビジネスイノベーションに着目したうえで、多種多様なテクノロジーを整理して理解するため、不動産におけるテクノロジーの3つの側面「建てる・動かす」「利用する」「取引する」ごとに関連付けて紹介する。

6.2 不動産を「建てる・動かす」ためのテクノロジー

不動産に関するテクノロジーの進歩は、不動産をできるだけ少ない資源で「建てる・動かす」ことを可能にする。この場合の資源とは、鉄や石、砂といった資材のほか、電力や水のエネルギー、建築物やインフラを建設する・メンテナンスするための労働者(人数と時間)も含む。特に、建設作業員や清掃員など人的資源の不足は、不動産ビジネスの持続性や生産性へ影響を及ぼしており(第2章参照)、テクノロジーによる問題解決への期待が大きい。

建てる技術では、3Dプリンターが代表例として挙げられる。3Dプリンターはデータと素材を与えることで複雑で立体的な造形物を出力する。現場で複雑な形状の部材を成型することで、組み立て作業を減らすほか、廃棄資材や資材置き場、搬送作業を削減することもできる。さらに溶接などの高い現場施工技術を要する作業が減少することにより、品質の安定化にも貢献するだろう。施主のニーズや好みに応じた一点ものの部材や建築物も製造可能となり、価値観の多様化にも対応できる可能性がある。世界ではすでに3Dプリンターを用いた不動産の建築事例がいくつもある。中国では2015年に住宅が、2019年に橋が建築されている。ドバイは2030年までに建築物の25%を3Dプリント技術を用いる戦略を計画しており、2016年に2,700平方フィートのオフィスビルが17日間・14万ドルで建築された。アメリカでは600~800平方フィートの住宅を3Dプリンターを使ってわずか24時間・4,000ドルで建築するスタートアップ企業ICONが登場している。日本では耐震基準を満たせるかという問題もあるため、まだ実用化はされていないが、大林組・大成建設などが研究開発を進めている。

ロボティクスは建設・管理現場における人的資源不足への解決策の一つとして注目されている。大規模建設現場では、自動制御技術が組み込まれた地ならし機やローダー、バックホー、トラックが導入されている。これらはGPSやデジタル図面、LIDAR(レーザーを用いたリモートセンシング)により自律的に作業を行うとともに、離れた場所からの制御も可能となっている。この分野の代表企業であるコマツのGPS付き掘削機はセンチ単位で地面をさらうことができる。また、人間と共に働くロボットも現れている。アメリカのConstruction Roboticsの石工アシスタントロボットSAM100は不安定な足場でも自動で補正しながら1日に1000個のブロックを正確に積んでいく。日本では、人手不足とあわせ現場作業員の高齢化(建設作業員の55歳以上が3割、10代20代が1割)が深刻となっているため、大手ゼネコンもロボティクスの研究開発を進めている。鹿島建設は2019年に鹿島伏見ビルで鉄骨溶接・耐火被覆吹付・外装部材取付けなどの作業にロボットを導入した。また、深刻な人手不足により人件費の上昇圧力にさらされる清掃・警備の分野でも、作業を自動・長時間行うことができるロボットが実導入の段階に入りつつある。例としては、清掃ロボットのWhiz(ソフトバンクロボティクス)、警備ロボットのSQ-2(SEQSENSE)などが挙げられる。

ドローン(UAV:Unmanned aerial vehicle)は、測量、検査、点検、防犯など広い範囲での活躍が期待されている。ドローンによる測量は、測量に要する時間を大幅に節約するほか、不動産・インフラ建設における他工程の生産性を向上させるだろう。ドローン空撮画像を合成して作成される3次元測量データは、設計図面や施工計画の作成、ICT建機の自動制御、施工量の自動算出、施工後検査の省力化に役立ち、国土交通省が推進するi-Constructionでも重要な役割を果たすと考えられている。道路、橋、トンネル、ダムなどのインフラ施設や建築物での点検においても、ドローンの活用が始まっており、期間やコストの削減だけでなく、従来足場が必要だった危険な場所でも安全に点検することが可能となった。また、侵入者を検知し、コントロールセンターや警察へ通報する防犯用のドローンも開発され、2015年にはセコムがサービスを開始した。そのほかの社会・不動産への影響としては、無人配達の実現による物流のラストワンマイルの効率化、ランディング・パッド(離着陸場)用の床面積需要の創出などが挙げられる。しかしながら、改正航空法や小型無人機等飛行禁止法などドローン関連の法規制により、人口集中地区での飛行、人や建物から30m以内の空域での飛行、私有地での飛行、目視外飛行、道路からの離着陸などは禁止されている(2019年時点)。ドローンの本格的な普及や都市部での活用に向けては、これらの法規制のほか、小型軽量化、積載能力の向上、騒音対策、操縦者の育成など、引き続きいくつかの課題が存在する。

人間の作業負荷を軽減する技術も開発されている。竹中工務店の疲労軽減ウェアは鉄筋工、左官工などが装着し前かがみや中腰作業、膝の屈伸を楽にする。鹿島建設のウェアラブルバイブレータは、10kgと軽量な背負い式のバイブレータであり、従来複数人必要だったコンクリート締固め作業を1人でも可能にした。パワーアシストスーツは、内部に搭載されたモーターやバネ、ガス圧力などで人間の動きをサポートする機器である。経済産業省および厚生労働省の補助金制度が開始されたことをきっかけに介護分野で導入事例が増えたのち、建設や物流の現場での導入も進んでいる。サイバーダインのHALは、脳から筋肉に送られる生体電位信号を読み取り電力でアシストすることで腰への負荷を低減させている。大和ハウス工業ではパワーアシストスーツを2018年全工場に導入した。

建築プロジェクトに携わるあらゆる関係者の生産性を向上させると期待されているのが、BIM(Building Infomation Modeling)である。BIMは、コンピュータ上に作成した建築物の3次元モデルに、コストや仕上げ、管理情報、地理情報などの属性データを付与できる。作成された3次元モデルは、意匠設計者、測量技術者、構造設計者から、建設会社、所有者までBIM上で共有することができる。設計や施工におけるミスや手戻りを削減し、関係者の合意形成を円滑にすることで、設計・施工・維持管理までの建築物のあらゆる工程で生産性を向上させる。代表的なソフトとしてAutodeskのRevit、GRAPHISOFTのArchiCAD、NYKシステムのRebroが挙げられる。日本建設業連合会によると会員企業の67%がBIMを導入している回答している。また、全天球カメラを用いて既存建築物を短時間でデジタルデータ化する製品も開発されており、改修や修繕、リノベーションにけるBIMの活用も期待されている。スターツ総合研究所はGIS(Geographic Information System)とBIMとAIを連動させ、都市計画法などによる建築条件を満たしたうえでの建築計画および事業計画を短期間で自動作成するシステム(LAPLACE)を2018年に開発した。国土交通省も建築BIM推進会議を新設し、官民一体の推進体制を構築しようとしている。

建築後も不動産は、日々稼働させるために莫大な資源を消費する。わが国では、産業部門・運輸部門のエネルギー消費が減少する一方で、民生部門(家庭・業務)のエネルギー消費は増加を続け、2011年度時点で全体の33.8%を占めるまでになった。建築物における省エネルギー対策の必要性がさけばれるようになり、2015年には建築物省エネ法などにより規制が強化され、BELSなど建築物の省エネルギー性能を認証する制度も整備された。このような流れを受けて、様々な省エネ技術を導入することで正味のエネルギー消費ゼロを実現する、ZEB(Net Zero Energy Building)やZEH(Net Zero Energy House)が登場している。用いられている技術は、パッシブ技術、アクティブ技術、創エネ技術の大きく3つに整理される。パッシブ技術は必要なエネルギーを減らす技術であり、自然換気や自然採光、Low-E複層ガラスなどの断熱技術が挙げられる。アクティブ技術はエネルギーを無駄なく使う技術であり、より室温に近い冷温水を用いる中温空調、夜間に熱を蓄える蓄熱技術、気体と液体の比重差を利用し冷媒を自然循環させる熱搬送技術、LED照明など照明技術がある。創エネ技術は、太陽光発電など再生可能エネルギー技術を指す。また、センサーで得られたデータから消費エネルギーを見える化し、最適に設備を制御することで、快適さと省エネルギーを実現するエネルギーマネジメント技術も製品化されている。IoTセンサーや最適化コントロールにAIを用いる研究も進んでいる。

6.3 不動産を「利用する」ためのテクノロジー

20世紀後半、コンピュータの処理速度の向上、通信容量の増大、ネットワーク技術の進歩など、ICT(Infomation and Communication Technology:情報通信技術)は大きく発展した。1960年代から1980年代にかけ誕生したインターネットは、世界中の人や機械をつないで情報をやり取りできる環境を作り上げ、経済成長と社会の発展に貢献した。わが国におけるインターネット産業単体でのGDPは2020年には35兆円まで成長し、各産業への生産性向上効果は9兆円にのぼるとの調査もある。本節では、インターネットに代表される、人々と不動産をつなぐ技術を活用することで、不動産の稼働状況を最適化し、時間あたり面積あたりの不動産の価値を高めるテクノロジーやサービスを紹介する。

第1章で紹介した「価値観の多様化」を背景に、人々は時間や場所に縛られないライフスタイルやワークスタイルを求めるようになった。このような新しいニーズを受け、多数の利用者と出品者を集めてつなぐマッチングサービスが、様々な業界で生まれた。Amazonや楽天、メルカリなどモノを扱うプラットフォームだけでなく、Uber(タクシー・デリバリーフード)、Airbnb(空き部屋)などサービスを扱うプラットホームも出てきており、インターネットを介したモノやサービスの個人間取引が盛んに行われるようになってきている。これにより、人々や企業は、欲しいモノやサービスを十分に比較しながら、欲しいと思った瞬間に購入、あるいは利用できるようになった。また、不要なモノや余った時間を持つ人は、それら遊休資産を手軽に収益化することができるようになった。このトレンドは、インターネット上のプラットフォームを介して遊休資産を個人間で賃借・売買・交換することでシェアしていく新しい経済の動き、シェアリングエコノミーへと昇華し、様々な業界において既存のルールやビジネスモデルに影響を与えつつある。

不動産業界にもシェアリングエコノミーの波が押し寄せている。従来、不動産が必要になったときは購入するか賃借するかの二択、不要なときも売却するか賃貸するかの二択であった。一般消費財に比べ、不動産の取引頻度は低く高額であることから、個人のライフサイクル、企業のビジネスサイクルに合わせた柔軟な入手と処分は難しく、その結果、有効活用されない不動産が放置され、空き家問題などの社会課題につながった。そのような状況下で生まれたスペースシェアリングは、短期から中長期で不動産や空きスペースをシェアするサービス、マッチングをするサービスである。インターネット技術の発展により、狭小なスペースであっても時間単位で管理が可能となり、膨大な数の多種多様な空きスペース情報と数多くの需要者がインターネット上で直接繋がることができるようになった。また、2010年代前半からのスマートフォンの普及に伴い、スペースの登録や利用のハードルは下がり、さらに多くの利用者を呼び込んだ。現在、スペースシェアリングは、会議室・イベントスペース(SPACEMARKET、SPACEE)、駐車場(akippa)、民泊(Airbnb)、シェアオフィス、美容室(AirSalon)、空きスペース(軒先ビジネス)など様々な用途に拡大している。中には、定額で複数の住居に住み放題となるサブスクリプション型のサービス(ADDress、OYO LIFE)も現れ、所有や賃貸以外の新しい選択肢を提供し始めている。スペースシェアリングは、付随的・派生的なサービスを生んでいる。スマートフォンによる解錠施錠を操作、管理できるスマートロックは、不特定多数が出入りすることになるスペースシェアリングのセキュリティ確保に欠かせない。スマートロックの一つであるSESAMEは既存の鍵に取り付けることができ、Wi-Fiを通じて遠隔操作もできる。

一方で、ICTの発達は、不動産各所にセンサーを取り付けることで、会議室、カフェテリア、リフレッシュルームなどの施設やサービスの利用状況、室内の人の流れに関するデータを収集することを可能にした。働き方改革が進む中、ワーカー一人ひとりの利用状況も画一的ではなくなり多様化しており、今後、不動産内部の利用状況を最適化することで利用価値を高めるFM(ファシリティマネジメント)サービスが重要になると考えられる。コワーキングオフィスを展開するWeWorkは、ビルをデータ収集の場と捉え、入退室記録、ヒートセンサーなどからスペース内の移動パターンを検出し、座席、ミーティングルーム、共有スペース、電話ブースの数や配置における最適なバランスを導き出そうとしている。また、WeWorkでは室温や照明などの室内環境を計測し、ユーザーの満足度を高めるオフィス環境づくりに取り組んでいる。そのほかに、センサーを看板に設置し、傾きや加速度を計測することで、落下・倒壊などの異常の危険性を検知するサービスも始まっている。これにより、今まで現地での近接目視に頼っていた点検作業を、長期間にわたり遠隔から高頻度、かつ安全に行うことが可能になる。IoTセンサーを活用した保守管理は、看板以外にも屋外照明灯やブロック塀、電柱や標識など幅広い範囲での応用が期待され、不動産のリスクマネジメントをより効率的にする。

6.4 不動産を「取引する」ためのテクノロジー

不動産は、所有権、信託受益権、借地借家権など様々な権利の集合体であり、立地や規模、築年、取引履歴など膨大な情報の集合体でもある。本節で紹介するのは、大量の情報を迅速に流通させ、円滑かつ安全に権利を移転する行為=「取引」に関するテクノロジーやサービスである。近年、ICTを活用することで、市場における公平性を担保しながら、決済スピードを向上させ、価格を可視化し、市場の透明性や効率を高めようとする技術や企業が現れている。これを可能にしたのが、ICTの飛躍的な向上である。コンピュータの計算処理能力は指数関数的に向上、データを蓄積するストレージは大容量化し、データ処理と蓄積はクラウドコンピューティングへと進展した。光ファイバー・5Gに代表されるように通信も急速に大容量化が進み、あらゆるデータが瞬時に共有可能な状況になった。

紙からビッグデータの時代へ変化する中で、売買や賃貸取引のプロセスを効率化する技術が浸透した。比較的早期に現れたサービスとして、不動産ポータルサイトが挙げられる。サイト運営者が不動産会社から販売物件情報や賃貸物件情報を入手、データベース化し、不動産を買いたい・借りたい人がインターネット上で検索や問い合わせができるようにしたサービスである。代表的なサイトとしてSUUMO、HOME’S、アットホームなどがある。紙媒体では掲載できる情報量に限りがあるが、サイトにはその制限がないため、面積や募集価格、平面図といった基本的な情報だけでなく、詳細な設備、写真、動画など豊富な情報が掲載できるようになっている。現在、不動産ポータルサイトはその対象を広げつつあり、個人の居住用不動産だけでなく、オフィス、店舗、物流施設など法人間取引でも活用されるようになってきた。会員制の店舗マッチングサービスであるインフォニスタは、空き店舗を探す企業に対して、条件に合致した物件情報を直接届けることで、高額かつ条件が複雑で秘匿性も求められる法人間不動産取引を円滑にしている。また、LIFULLは世界最大級のアグリゲーションサイトTrovitと提携し、複数の国の情報を集積して、利用者が1つのサイトで一括して情報が閲覧できるようにする取り組みを進めている。

不動産を取引するうえで「現地確認」は欠かせないステップの一つである。しかしこれまで、現地までの移動や立会いは、顧客および不動産会社双方にとって時間的・空間的制約となっていた。VR(virtual reality:仮想現実)、AR(augumented reality:拡張現実)、MR(mixed reality:複合現実)はコンピュータグラフィックスなどを利用し、現地まで行かずにいつでも物件を確認できるVR内見を可能とする技術である。ナーブは、画像からVRコンテンツを作るクラウドサービスを提供している。VR内見、無人不動産接客店舗、仮想住宅展示場などを活用することで、不動産会社の業務効率、集客力、成約率の向上が期待されている。

不動産には個別性があり、同じものは二つとない。売手と買手それぞれの事情や情報量による影響を受けやすいため、不動産価格の決定構造は極めて複雑である。高額なことも相まって、真の不動産価格を知りたいという市場参加者のニーズは非常に強い。そこで、不動産ポータルサイトをはじめとした各種不動産データの整備および、統計やAI(artificial intelligence : 人工知能)など分析技術の進歩と普及を背景に、不動産価格や賃料、およびそれらの将来見通しなどを可視化・査定するサービスが現れている。LIFULLのプライスマップは、統計的分析手法を用いて立地要素、時間要素、物件属性要素から推定された参考価格を、誰でもウェブサイトの地図上で確認できるサービスである。リーウェイズのGate.は、AIにより賃料を最長50年先まで予測し、長期のキャッシュフローを分析、リスクを評価するクラウドサービスである。このサービスは不動産事業者だけでなく、金融機関、投資家、税理士などにも提供されている。

ソーシャルレンディングは、お金を貸したい個人投資家とお金を借りたい事業者をインターネット上でマッチングするサービスである。不動産向け融資を中心に急激に成長し、2017年には1,316億円まで市場規模が拡大した。インターネットを通じて多数の投資家から少額の資金を集めるこの資金調達手法は、創業年数や実績の浅い事業者にとって、不動産プロジェクトのための資金を集めるうえで有効な方法である。投資家にとっても、少額でインターネットで申し込みや決済ができるため気軽で取り組みやすい不動産投資手法である。しかしながら、ソーシャルレンディングは、匿名組合契約によるファンドへの融資であり、貸金業としての規制を受けるため、個別の投資対象不動産を把握できないという性質があった。また、2017年から2019年にかけ7社が行政処分を受けるなど、法整備や安定性で発展途上な面もあった。そこで、2017年の不動産特定共同事業法の改正により、小規模不動産プロジェクト(投資家に募る資金総額が1億円以内)への直接的な投資、およびインターネット上での契約締結や書面交付が可能となった。これを受け、CREALやビットリアルティなど、インターネットを活用した小口の不動産投資サービス(クラウドファンディング)を行う事業者が増えている。これらのサービスでは投資物件の詳細情報が確認できるほか、運営会社が先に損失を負担する優先劣後スキームを採用するものもある。国土交通省は、空き家などの再生を目的として、2019年に不動産クラウドファンディングに係るガイドラインを策定するなど、クラウドファンディングの環境整備を推進している。

ICTを活用することで、不動産取引に際しての契約手続きを効率化する取り組みも進んでいる。電子契約が実現されれば、契約締結のスピード化や、郵送代印紙代、事務作業のコスト削減が可能になるだろう。2017年の宅建業法規制緩和により、Web会議システムでの賃貸借契約おける重要事項説明(IT重説)が可能となり、2019年5月からは重説書面の電磁的方法による交付について社会実験がスタートした。弁護士ドットコムはクラウドサインという契約書作成、締結、保管をWeb上で行うことできるサービスを提供しており、不動産取引の電子化へ向けた基盤が整備されつつある。

不動産取引を効率化させる技術としてブロックチェーンが期待されている。ブロックチェーンは、世界中に点在するコンピュータ上に分散された台帳へ、時間や取引内容を記録する技術であり、暗号資産(仮想通貨)ビットコインの基盤技術として用いられている。中央管理型のシステムはサーバーへ集中攻撃されやすく、改ざんされるおそれがあるのに対し、ブロックチェーンは改ざんが難しいとされているため、税金徴収・年金分配(イギリス)、投票(ロシア)、文書管理(ドバイ)、個人認証(オーストラリア)、決済のほか、不動産分野では不動産登記への適用(アメリカ、オランダ、ドバイ、ガーナ、スウェーデンなど)が見込まれている。ブロックチェーンを用いることで、書類手続きに伴う人的コスト、時間コスト削減、取引の透明化、セキュリティの向上が期待されており、ドバイは2020年までに全土の土地登記情報をブロックチェーン上に記録するとしている。わが国ではすでに不動産登記システムが整備されていることもあり、内閣府や民間で既存システムを置き換えるだけのメリットがあるか議論と実験が進められている段階である。不動産登記以外にも、各社個別で整備している不動産データを、常に改ざんなく最新の状態で不動産会社間で共有できるプラットフォームの構築を目指すコンソーシアム(ADRE)でも、ブロックチェーンの活用が検討されている。

7 都市と地方

7.1 巨大化する都市と過疎化が進む地方

1960年代から1970年代の日本経済が飛躍的に成長を遂げた高度経済成長期には、東京オリンピック(1964年)や大阪万博(1970年)の開催による特需も加わり、実質経済成長率は年間10%前後と、当時、日本の国内総生産(GDP)はドイツを抜き、米国に次ぐ世界第2位になった。

経済の成長に伴い、企業の都市への集積や地方から都市への人口流入が継続的に起こり、都市が巨大化し、地方が過疎化するという格差がだんだんと大きくなっていった。日本国土の利用、開発及び保全に関する総合的かつ基本的な計画としては全国総合開発計画(全総)があるが、当時の全総は国土の均衡ある発展をめざし、都市と地方をつなぐ高速道路や新幹線などの交通インフラを積極的に整備していったものの、都市への人口流入は止まらず、一層拍車がかかった。そして都市の中では、業務集積による中心部の土地価格の高騰と人口増大に伴う郊外への大規模住宅開発が広がっていった。経済成長の陰で、人口の集中による過密問題、交通渋滞、急速な工業化に伴う環境破壊や公害の問題、大量生産によるごみ問題などの社会問題は深刻化していった。一方、地方では、労働人口が都市部へ流失し、地方の産業は低迷に陥り、過疎化と高齢化が進んだ。その後、インフレ、オイルショック、バブル崩壊などを経て、高度成長期には年間10%前後であった日本の実質経済成長率は、現在では1%前後となっている。特にバブル崩壊後は長らく経済が減速し、都市の開発は滞り、国の活力の源泉である都市の国際的な魅力や競争力が低下したため、都市再生が喫緊の課題となってきた。そこで政府は、2001年に都市再生本部を設置し、翌年2002年には都市の再生の推進に関する基本方針を定めた都市再生特別措置法を制定し、都市構造改革に取組んだ。都市再生本部では、経済の牽引役となる大都市圏の再生と地方都市の豊かで快適な生活の実現の2つに重点を置き、環境、防災、国際化の観点から都市の再生を目指す21世紀型都市再生プロジェクトの推進や土地の有効利用等都市の再生に関する施策を総合的かつ強力に推進している。内容としては、基幹的広域防災拠点の整備や不動産証券化の推進、PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)の積極的な活用、地域の特性に応じた規制の特例を導入する構造改革特区が制定された。その後、産業集積による国際競争力の強化と子育て支援や交通網整備などで地域の活力を高める総合特区が2011年に制定された。

しかし、東京への一極集中は継続し、人口急減・超高齢化という日本が直面する大きな課題に対し、各地域がそれぞれの特徴を活かした取り組みで自律的に創生できる施策が必要と考えた政府は、2014年の第2次安倍政権で地方創生をかかげ、地域再生法とまち・ひと・しごと創生法の2つの法律を両輪とし、就業機会の創出・経済基盤の強化・生活環境の整備などを推進している。具体的には、観光業の強化や地元産業の創生、生活インフラの機能を集約させるコンパクトシティや点在する小さな生活の拠点を結ぶネットワーク化や地域運営組織、生涯活躍できるまちの推進などに取り組んでいる。地方創生の主な政策としては、これまでの中心市街地の活性化や地域再生、環境モデル都市構想などに加えて、2014年には“世界で一番ビジネスをしやすい環境”を作ることを目的に、地域や分野を限定することで大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う規制改革である国家戦略特区が制定された。これにより、スマートシティ化やスタートアップ企業の支援・外国人材の活用、観光業や医療の促進など様々な事業を推進している。

さらに、2018年には、数値・空間データに基づく都市の再生であるi-都市再生の推進や、未来への投資や生産性向上などの新たなニーズに対応すべく都市再生に取り組む基本的な考え方を見直し、地方移住につながる施策として関係人口の創出・拡大などが掲げられている。

7.2 都市再生と地方創生

前節のように、都市や地方はそれぞれ異なる特徴や課題を持っており、政府を中心に都市再生や地方創生の取り組みが行われてきている。本節では、これらの取り組みを紹介するとともに、不動産業の今後の役割について考えていく。

【都市】

東京都は、大規模再開発などの計画が進み、オフィスビルや住宅、ホテルが継続的に供給されている。国家戦略特区に指定されたエリアでは不動産開発が加速し、遊休地や小規模のビル、耐火性の低い木造住宅が密集していた地域は道路が整備され超高層ビルや高層マンションで形成される大街区となり、災害にも強い都市へと生まれ変わりつつある。一方、大規模なマンションが集中的に供給されたエリアでは、都市生活に必要な学校や保育園などの公共施設の不足が問題となっている。東京都によると、都内で保育園の入所を待つ待機児童数は約3,690人おり、女性の社会進出を阻む一因となっている。また、最近の外国人観光客の増加に伴い、ホテルなどの宿泊施設は年々増加しているが、ロンドンやニューヨークなどの海外の都市と比較すると、ハイクラスホテルは不足しているといわれている。東京都は文化的観光資源のアピールが弱いとの指摘もあり、今後、さらなるグローバルな視点での都市の魅力をアップするためには、これらへの対策が望まれる。

地方自治体としての東京都では「世界一の都市・東京」の実現を目指し、東京都長期ビジョンを策定しており、課題を解決し、将来にわたる東京の持続的発展の実現を目標にしている。さらに、「東京未来ビジョン懇談会」を設置して各界の新進気鋭の若手と意見交換を行い、2050年へ向け「テクノロジーと文化と人間力が衝突する世界一魅力的な都市」を目指すとしている。

大阪市においては、2014年から2017年にかけて訪日外国人が約3倍に急増し、観光客の滞在時の消費額が1兆円を超えた。大阪市では、2025年の大阪万博の開催といったメガイベントに加えて、統合型リゾート(IR)を核とした国際観光拠点形成の実現を計画しており、これらによるさらなる観光客の増加が見込まれる。今後は、ホテルなどの宿泊施設の建設も進むほか、2024年に万博会場をつなぐ大阪メトロ中央線の延伸、2031年に関西国際空港と大阪、京都をつなぐなにわ筋線など、新たな交通インフラの建設が進められる。なお、大阪では、20~30年先の将来を見据えて、日本を支えるもう1つの軸として、もっと力強い都市にするための大阪都構想が検証されている。

福岡市においては、県内外から福岡市へ人口が流入する現象が続いている。これに伴い老朽化した団地の建替えの推進や郊外の宅地開発が行われている。福岡市では、将来の進むべき方向性を定めた福岡市総合計画を策定し、生活の質の向上と都市の成長の好循環を創り出し、アジアのリーダー都市の実現を目指している。具体的な施策としては、航空法による高さ規制の緩和および容積率の緩和により、天神ビッグバンや博多コネクティッドなど既存ビルの建替えを伴う大規模な計画や地下鉄の延線、ウオーターフロントの開発などの複数の計画が進行している。

【地方】

地方においては、前節の政策や法律をもとに活性化した自治体や地域も多い。環境都市構想の自治体SDGs(SDGs:持続可能な開発目標)モデル事業の例としては、森林資源を活用し環境と共生しながら地域経済を活性化した北海道下川町や、地域公共網の形成とエネルギーマネジメントの融合によるコンパクトシティモデルを目指した富山県富山市などがある。地域再生法に基づいたふるさと納税を下敷きに、まちの事業への株主制度を導入、外国人向けの日本語教育と移住を促進させ教育・育児に注力した結果、20年間人口が増加し続けている北海道東川町の例もある。また、まちづくりの主体として国や自治体だけでなく、民間企業が参入することもある。生産性向上を目的に地方に注目している東京本社の企業や外資系の企業が地方にサテライトオフィスを設置するなど、産業と雇用、まちの活性化が生まれる。例えば、歴史的資源を活用、空家を宿泊施設やレストラン、工房に利用し、地域で雇用と産業を創造した観光開発である兵庫県のNIPPONIAや古民家を活用しICTサテライトオフィスを誘致し、移住・雇用を増加させた徳島県神山町などである。

今後の都市及び地方に共通した課題として、全国的に高度成長期に集中的に整備された社会インフラの急激な老朽化が挙げられる。平成22年度国土交通白書によると、建設後50年を経過した社会インフラの割合は2010年と2023年(予測)で比較すると、道路橋が8%から63%に、下水道が2%から21%に、湾岸壁が5%から58%に急増すると推計されている。また、都市部では、今後とも保育施設や介護施設、医療機関などの生活利便施設の不足およびそれを運営するための人材不足が続くだろう。地方における空き家などの使われなくなった不動産の再利用も大きな課題である。

以上のように、都市と地方の問題は日本経済の過去の発展の歴史であり、都市再生と地方創生は政府及び自治体にとって大きなチャレンジである。このような大きなフレームワークの中で、不動産業は、わが国の豊かな国民生活、経済成長を支える重要な基幹産業として今後とも成長産業としての発展が期待されている。都市再生において不動産業は、地域や不動産の主な開発主体であるとともに、その後のハード面及びソフト面のマネジメントを行う主体でもある。新規開発のみならず、既存不動産ストックへのニーズの変化に合わせた最適な使い方を考え、実行していくことも不動産業の重要な役割である。一方、地方創生においては、地方の魅力を高め、多様化する価値観の下での新しいニーズ(例えば、二地域居住など複数不動産利用の誘引など)や空き家・空き地といった遊休不動産の活用、エリアマネジメントなど、不動産業が社会に貢献できる部分は多いのではないだろうか。

8 建物ストックの老朽化

8.1 建物ストックの老朽化問題

前章で触れたように、社会インフラの老朽化が進んでいるのと同様に建物の老朽化も進んでいる。

老朽化とは、一般的に“古くなって、役に立たなくなる”ことを指す。築年が古くても管理が行き届いた建物は多く、その中には歴史的な価値を有する「歴史的建造物」として国の重要文化財に指定される建物も数多くある。したがって、このような建物は築古化していても老朽化しているわけではない。“役に立たない”とは、構造、材料、設備などの劣化が進み、保安・衛生上危険・有害となる恐れのある状態といえ、経年による物理的な劣化だけでなく、時代の変化に伴い社会のニーズに応えきれず使われなくなった建物も“役に立たなくなった”といえるだろう。このような建物は、倒壊や建材の飛散などによる保安上の危険や治安や景観の悪化、地域の衰退など外部不経済をもたらす。スクラップアンドビルドからストック社会へ移行したわが国では、これからは、築古化した建物が大量に増えるため、その中に“役に立たない”、つまり老朽化する建物が増えていくことが懸念される。

8.2 建物の老朽化と築古化の状況

本節では建物ストックの老朽化、築古化の状況を住宅と商業用不動産(オフィスビル、物流施設、商業施設など)に分けてみていく。

【住宅】

総務省の平成25年住宅・土地統計調査によると、住宅ストックは6,063万戸に達し、1968年に世帯数を超えて以降も増加を続けている。居住世帯のある住宅5,210万戸のうち約3割の1,369万戸が築35年を超えており、腐朽・破損ありの住宅は448万戸ある。また、空き家も820万戸と増加を続け、空き家率は13.5%まで上昇した。この空き家のうち、長期不在・取り壊し予定のその他空き家が318万戸、そのうち「腐朽・破損あり」が105万戸となっている。また、別荘などの「二次的住宅」、「賃貸・売却用の住宅」まで含めると、腐朽・破損ありの空き家は213万戸にのぼる。4月に公表された「平成30年住宅・土地統計調査(概数集計)」では、空き家が846万戸とさらに増えていることから、腐朽・破損あり住宅も増加しているとみられる。

分譲マンションに限ると、国土交通省では、2018年末時点でマンションストック総数は約654万戸、そのうち築40年超は81万戸、総ストックに占める割合は約1割で、10年後には約2.4倍の197万戸になると見込んでいる。5年に1度行われる「マンション総合調査」では、修繕積立金不足のマンションが増え、現在の積立額が計画に比べて不足するマンションは35%にのぼっていることが明らかになった。また、空室があるマンションの割合は築年が古いほど高くなる傾向がみられ、2010年以降に完成したマンションでは2割だったのに対して、1979年以前に完成したマンションでは約7割が空室を抱えていた。

日本の世帯数は2023年に5,419万世帯とピークを迎え、その後減少に転じると見込まれている。現在も毎年90万戸近くの住宅が建てられており、今後、住宅の新規供給のペースが落ちたとしても、滅失を超える新規供給が続く限り住宅は余り、余った住宅は空き家となる。空き家を更地にすると「住宅用地の特例」から除外されて固定資産税が増加するケースがあることや、住宅から飲食店や宿泊施設に変更しようとしても用途の規制や用途変更にかかる費用が必要になるといった経済的な側面も空き家が減らない要因となっている。老朽化住宅の予備軍といえる築古化した空き家がこれから増加していくだろう。

【商業用不動産】

オフィスビルに関しては、ザイマックス総研の集計(オフィスピラミッド)によると、東京23区の延床300坪以上の賃貸オフィスビルは9,206棟あり、築35年以上が2,884棟、約3割を占めている。また、延床5,000坪未満の中小規模ビルが8,459棟と全体の9割以上を占める。そのうちバブル期を含む1985年~1991年の7年間に3,062棟と集中しており、10年後には築35年以上のビルが倍増することになる。ただし、オフィスビルは多くが堅固な構造であるため、築35年を経過しても適切な維持管理を行えばオフィスとしての機能を十分維持できる。また、現在のオフィスマーケットは極めて良好で空室は少なく、老朽化したオフィスビルはほとんど見当たらない。

しかし、1970年代までに竣工した中小規模ビルの平均天井高は2.5mに満たず、2000年以降のビルの平均2.7mに比べて20cm以上低い。これは高さ規制により、賃貸床面積を確保するためにできるだけ階高を低くして階数を増やしたといった背景がある。改修によって設備を最新機器に更新することはできても、天井高を高くすることは難しい。現在の感覚では天井高2.5mは低さを感じるレベルといえ、オフィスとしての商品力が劣るのは否めない。

また、ザイマックス総研と早稲田大学建築学科小松幸夫研究室と共同で行っている中小規模ビルの所有者を対象にしたビルオーナーの実態調査では、ビルオーナーの6割が60歳以上、7割が1~2棟のビルを保有していた。大量供給が集中したバブル期の中小規模ビルには、オフィスエリアから離れ、駅からも遠くオフィス適地とはいえない立地のビルが数多くある。この時期に賃貸ビル事業を始めたビルオーナーは高齢になり、採算面からも大改修や建替えの実施に躊躇し、将来のビル事業に不安を抱えている。今後も都心中心部で大規模な再開発が続き、最新鋭の大規模ビルが増加していく。オフィス市況が悪くなった際には、空室の増加で賃料収入が減少し、適切な管理や改修を行えずテナントが退去、さらに空室が増える、という悪循環に陥ってしまう。このような老朽化したビルが増えることで、「空きビル」が社会問題化する可能性がある。

物流施設に関しては、国土交通省の「平成25年東京都市圏物資流動調査結果」において、東京都市圏に立地する物流施設のうち約3割が築30年以上経過し、そのような物流施設は小規模で建物や設備・機械などの状況が悪いと報告されている。物流施設の新規供給は続いており、通販事業者や3PL事業者などの需要は強く、現在の需給バランスは安定している。最近の物流施設は大型であるだけでなく、各種スペック面、自然災害や環境負荷への対応や、シャワールームや託児所といった働く人のための環境整備が求められている。築古の物流施設はグローバル化や高度化といった近年の物流を取り巻く動きに取り残される可能性がある。

商業施設やホテル・旅館は、消費者や宿泊者のニーズに応えることができていれば、建物が古くても大きな問題にはならない。しかし、築古化していなくても、現状の建物用途でニーズに応えることができなければ利用されなくなる。稼働率が極端に低い状態のまま営業しているデッドモール化した郊外のショッピングセンターや、温泉街で観光客が激減して廃墟化したホテルや旅館などが、各地でみられるようになっている。

8.3 建物の老朽化に対する取り組み

【住宅】

戸建て住宅に関しては、老朽化した空き家の存在は近隣住民や地域に悪影響を及ぼすことから、国や自治体で様々な対策が取られてきた。2015年に空家等の対策の推進に関する特別措置法が施行され、そのまま放置すれば倒壊など著しく保安上危険となるおそれのある状態など管理不十分な空き家を「特定空き家」とし、除却や修繕などを市町村が助言・指導できるになり、改善されない場合は勧告、命令、代執行が可能になった。また、勧告した場合には「住宅用地の特例」の税制優遇措置も除外されることになった。そのほか、戸建て住宅の用途転用を円滑化させるための建築基準法改正や空き家バンクの構築の支援など、様々な空き家対策が進められている。

2002年に施行されたマンション建替え等の円滑化に関する法律は、2014年に改正が行われ、耐震性不足のマンションついては、区分所有者等の5分の4以上の賛成があれば建物およびその敷地の売却が可能となった。2019年時点でマンションの建替え実績は実施準備中も含め300件に満たないものの、徐々に増えてきている。

民間においては、空き家の増加をビジネスチャンスととらえた動きがある。リフォーム産業新聞社が2016年に発表した推計では、空き家の潜在市場規模は9兆601億円、その内訳は中古住宅としての流通(売却)が6兆4,069億円、リフォームが1兆717億円、建替えが9,284億円、解体・撤去が4,150億円、賃貸が2,208億円、管理委託が163億円としている。賃貸では、今までになかったシェアハウス、民泊といった形で、空き家の利活用が進んでいる。住宅宿泊事業法(民泊新法)が2018年6月に施行され、法的な位置づけが明確になった民泊は、2019年7月16日時点での届出住宅数は17,343戸と右肩上がりを続けている。地方においても空き家が趣のある古民家として新たな価値を見出され、再生されるケースが増えている。

【商業用不動産】

商業用不動産の場合は、所有者が建物の収益を向上させるために改修や用途転換、建替えなどを行うケースが多く、住宅と比較すると老朽化した建物は少ない。現在も都心部では、大手不動産ディベロッパーが主導して中小ビルを巻き込んだ再開発が行われ、築古の中小ビルが大規模ビルへと再生されている。オフィスビルがマンションやホテルへの建替えや用途転換されることは今までもよく行われていた。最近では、オフィスビル1棟がトランクルームや貸会議室として使われるケースもある。また、テレワークの進展によりシェアオフィスやサテライトオフィスといった新たなニーズが増え、今まで立地の面で競争力に劣っていた郊外のオフィスが、住宅に近いオフィスとして見直されてきている。築古の中小ビルであっても、多額の投資は行わず、「テナントが望む改修ときめ細かい管理を実践する」、「テナントコミュニケーションを良好なものにする」、「築年の古さを逆手に”レトロ感”として特徴を打ち出す」といった様々な差別化を行って、テナントニーズに応えているビルは多い。

商業施設やホテル・旅館でも、経営上の戦略や採算の面などから建物が売却されて新しい経営者の手に渡り、コンセプトの刷新やコスト見直しなどが行われて再生・復活したケースは多い。ロードサイドの大型家電量販店が宿泊特化型ホテルに用途転換した例(大阪府泉南郡:からくさスプリングホテル関西エアゲート)もある。このように、商業用不動産においては事業者の創意工夫によって建物に新たな価値が見出され、時代の変化に合わせた使われ方に変化することで建物の再生・活用が行われているものも多い。

また、熱海ではバブル崩壊後に宿泊客が激減し、ホテル・旅館が次々と廃業、廃墟化することがあった。しかし2007年に熱海市と民間が連携して様々な取り組みを行った結果、2011年に256万人まで落ち込んだ宿泊客数は2017年には330万人まで増加し、ホテルの新築や再生が行われている。このようにエリア自体が活性化することで、個別の建物の再生・活用が進むケースもみられる。これはオフィスや商業施設でも同様である。

しかし、いずれの用途の建物においても、新規供給が今後もある程度継続していく中で、需要の量と質の両面でギャップが生じてくると、誰にも見向きされず、買い手も借り手も見つからない建物が増加する可能性がある。これは住宅が通ってきた道であり、個々の事業者だけに委ねていれば、今後「空き〇〇問題」が起こりかねない。良質なストックの維持・形成のため、今から検討していく課題といえるだろう。

9 自然災害

9.1 自然災害とは

異常気象や火山噴火、地震、地滑りなどによる危機的な自然の現象によって、人命や、人々の経済活動、社会生活に損失や被害が発生することを自然災害という。具体的には、異常乾燥や落雷による山火事、地震による建物崩壊・火災、地盤沈下や液状化現象、津波による建物の流失や浸水、近年の異常気象による大規模なハリケーンや台風・局所的大雨による洪水や土砂災害、干ばつや少雨による食料不足や疫病の発生、バッタやクラゲなどの異常発生による農業や漁業への影響、伝染病の蔓延などである。

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震では、地震そのものに加えて津波の発生により、大きな被害を出した。総務省によると2019年3月現在の被害状況は、死者行方不明者が22,252人、負傷者6,233人、家屋の倒損壊(一部破損含め)が約115万棟、被害総額は約16兆9,000億円(2011年6月内閣府)といわれている。被害はその年にとどまらず、震災不況による倒産件数は2011年以降2017年までで約1,800件に及ぶ(帝国データバンク「TSR情報」)。この地震以降も平成28年の熊本地震や平成30年の北海道胆振東部地震など大規模な地震は続き、人的被害のあった地震は約100件にのぼる。日本政府地震本部の発表では、南海トラフで、今後30年以内にマグニチュード(M)8~9クラスの巨大地震が起こる確率は70~80%と予測されている。同本部のホームページでは、全国の主要活断層の情報や海溝型地震の発生確率が公表されている。

これに加えて、地球温暖化の影響で都市部や郊外に関わらず短時間での局所的豪雨が観測されるようになってきた。1時間に100mm以上の雨が観測された回数が1977年からの10年間で20数回に対し、1997年からの10年間では50回を超え、数倍に増加している。2018年の西日本豪雨では、砂防ダムが破壊され大量の土砂が民家を襲い、土砂災害による死者が100人にのぼった。

9.2 自然災害に対する対策と備え

自然災害は、自然の現象に加え人為的な施策の脆さにより被害を拡大させることがある。

自然災害の対策として政府は、2013年施行の国土強靱化基本法をもとに「国土強靭化計画」を打ち出し、人命の保護・国家及び社会の重要な機能の維持・国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化・迅速な復旧復興を目標に掲げた。これをもとに、ハード・ソフト面での効率的な推進、自助・共助・公助を組み合わせ、さらに民間資金も活用し、予防面と災害発生後の早期対応・復旧に向けたアクションプランを毎年講じている。内容としては、防波堤や護岸工事などの治安工事、建築物の適正な点検維持とそれに向けた法律改正、地域連携と災害に強いまちづくりなどが挙げられる。

地域レベルでは、1995年施行の耐震改修促進法に基づき、災害時の緊急輸送道路の確保のため、道路に面する倒壊の可能性のある建物に対して、耐震化の推進のための処置を2011年以降各自治体は建物所有者などに義務付けた。東京都では耐震診断実施済みの建物が97.4%、耐震化率が84.3%、全国においても大半の自治体が耐震補強進捗率60%を超える状況となっており、耐震に対する意識も高まってきている(2018年6月現在)。また、国や各自治体は、浸水・土砂災害などのハザードマップをインターネットで公開し、防災拠点の見直しと公共施設・公園への防災備品の備蓄を進めている。民間のショッピングセンターやビルでも帰宅困難者用の避難拠点として防災備蓄を行っている。

9.3 不動産に与える影響

2011年の震災後は、地域と人命や財産を守るために、安全に対する意識も高まってきており、個々の不動産においても安全性が求められてきている。建物の安全性の確保と早期復旧を可能にする不動産の価値は今後ますます高まっていくものと考えられる。

地域レベルでの活動として、小学校や地域コミュニティ、消防局など、複数の公共団体が連携して実施している防災訓練などのほか、民間企業が主体となって活動している事例もある。大阪ビジネスパーク(OBP)では、個々の不動産の安全性を確保するだけでなく自助・共助が伴った災害に強いまちづくりに取り組んでおり、2016年から地域ぐるみで防災訓練を実施している。

住宅においては、補助金や融資・税制の優遇が与えられることもあり、戸建ての耐震化は進んでおり、防災用品を備蓄する集合住宅も増加している。

商業用不動産においては、備蓄に関する条例や容積率の緩和制度などがあるため、BCP対策の一環として防災用品を備蓄するビルや商業施設が増加している。さらに高層ビルでは長周期振動の対策として免震・制振装置を導入するビルも少なくない。一般の帰宅困難者や避難所・防災拠点の役割として、テントや食料品、通信設備を配置する時間貸しパーキングもみられる。

建物の設備に関しては、エレベーターの停電・閉じ込めに対応できる遠隔操作機能、浸水対策として急な豪雨に対応する止水シャッターや簡易土嚢・水嚢の開発などが進み、日常利用する設備に何らかの災害対策がみられるようになった。緊急時にWiFiと飲料水が開放される自動販売機もある。

建物を利用するテナントにおいても安心・安全に対する意識が高まっている。ザイマックス総研によると、オフィスビルに求める要素として、「耐震性能が高い」を重視する割合が83.5%、「BCPに適応する」が71.3%となっており、利便性の良い立地や維持管理状態の良さに続きテナント企業が重視する項目となっている。

近年、日本で建物を利用する人々の多様化が進んでいる。外国人や障がいのある人などは一般的な防災対策では満たされないこともある。政府、自治体や各団体で、緊急時の対策マニュアルを発行しているが、まだまだ認知度は低く、今後スムーズな情報伝達や支援を可能とするため個々の建物で対策を講じていくことが重要であろう。

10 環境問題

10.1 人類社会における環境問題

環境問題とは、人類の活動の結果、周辺環境の変化によって発生した問題で、それによって直接もしくは間接的に、人の生命や健康への被害、地球の生態系の破壊が発生する危険性が高いものを指す。環境問題に起因する大気・水質・土壌の汚染、食糧危機、食の安全、災害対策、都市問題、人口爆発といった諸問題は、われわれの文明が持続的に発展するうえでの大きな課題であり、本章では、気候変動、公害、生態系の破壊などの環境問題とその社会的・経済的対策を整理したうえで、わが国の不動産業界へ与える影響について考察する。

環境問題に関する社会的な認識は、20世紀半ば以降、徐々に人々の間で広がってきた。ボールディングは1966年のエッセイ「来たるべき宇宙船地球号の経済学」の中で、地球の資源は有限であり、人間は循環する生態系やシステムの中にいると説いた。レイチェル・カーソンの「沈黙の春」、アル・ゴアの「不都合な真実」は環境問題を告発し、環境保護運動へのさきがけとなった。やがて、アメリカのENERGY STAR(1992年開始)、日本のエコマーク(1989年開始)など電化製品や商品に付与される各種環境ラベリング制度も整備されるようになった。その後、環境や社会、地域に配慮した製品を選ぶグリーンコンシューマーやフェアトレード、エシカル消費といった新しい消費行動が生まれた。昨今は、企業活動による社会問題がクローズアップされ、グローバル企業ほど環境、人権・労働、社会貢献、平和・非暴力、アニマルウェルフェアへの貢献とその情報公開が求められるようになった。

また、環境問題は、人類発展の持続可能性に対する最大の不確実性、リスク要因の一つとして、政治的にも認識されるようになった。国連は2003年に「人間の安全保障」を提唱し、人間の生存や生活、尊厳を広範かつ深刻に脅かす脅威として、人権侵害や難民、貧困とならんで環境破壊を挙げている。世界経済サミットの「グローバルリスク報告書」では、発生可能性が高いリスク、影響の大きいリスクのトップ5ランキングを発表しており、その中で、大量破壊兵器、大規模なテロ攻撃、データの不正利用とならび、異常気象、自然災害、水危機、気候変動緩和・適応への失敗など環境問題関連のリスクが上位にランクしている。

さらに、社会的、政治的な環境問題への問題意識の高まりを受け、国際的な枠組みにもとづいた排出規制などの直接的手段も模索されてきた。1997年の京都議定書や、2015年に採択されたパリ協定などの削減目標設定や進捗報告は、その代表例である。ただし、これらは多国間の合意が不可欠であり、先進国と開発途上国の対立、大国の離脱など、極めて政治問題化しやすい傾向にあった。一方、環境問題の多くは、自由な競争活動のもとでの外部不経済効果によるものであり、個人や企業がその経済活動を自主的に抑制することは基本的には難しい。このため、環境税、補助金、排出量取引などの経済的手段も検討されてきた。排出量取引は、京都議定書締結以降、欧州や北米、アジアなど世界中で導入が始まっている。2005年にスタートした欧州のEU-ETS(欧州連合域内排出量取引制度)は、2005年から2015年にかけて温室効果ガスを24%削減させた。ほかにも、31の国と地域が参加するICAP(国際炭素行動パートナーシップ)など国・地域横断的な連携の動きもある。

10.2 環境問題と不動産を経済的に結びつけるESG投資

このような中、新しい経済的手段として注目されているのがESG投資である。ESG投資とは、キャッシュフローや利益率などの財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)で構成されるESG要素を考慮した、新しい投資スタイルである。投資家の間では、環境問題・社会問題・企業統治問題を長期リスク要因とみなすコンセンサスが存在し、これらの問題に積極的に対応する企業や不動産はダウンサイドリスク(環境規制、売上減少、粉飾決算)に耐性があると考えられている。

2006年に国連環境計画の金融イニシアチブ(UNEP-FI)でPRI(責任投資原則)が策定、提唱され、国内外の巨大年金基金がESG投資を意識するようになった。2015年には国連でパリ協定と同時にSDGs(持続可能な開発目標)が国際的に合意され、同年にイングランド銀行総裁であるマーク・カーニー氏が「Breaking the Tragedy of the horizon -climate change and financial stability」と題したスピーチを行い、気候変動が金融・投資の文脈でも長期的なリスクとオポチュニティとなる認識を示した。2017年にはTCFD(G20金融安定理事会が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース)が最終報告書を提出し、企業における気候関連財務情報の開示を提言し、2019年9月時点で世界の834機関から賛同の署名を得ている。世界のESG投資市場は、2016年の23兆ドルから2018年の31兆ドルと2年間で34%増加し、日本でも同期間で360%増の2.2兆ドルまで拡大した(GSIAによる調査)。

ESG投資の手法としては、武器・たばこ・ギャンブル・化石燃料など特定業界を投資対象から外す(ネガティブ・スクリーニング)、財務情報だけでなくESG情報も含めて評価する(ESGインテグレーション)、対話や議決権行使を通じて企業にESGへの取り組みを促す(エンゲージメント)、クリーンエネルギーやグリーンテクノロジーなど持続性に関連あるテーマや資産へ投資する(サステナブル・テーマ投資、グリーンボンド・ソーシャルボンド・サステナビリティローン)が挙げられる。

ESG投資のトレンドは、わが国の不動産投資業界にも影響を及ぼしつつある。不動産投資家は持続可能性を重視した投資にシフトし、投資期間は短期から中長期投資へと変化している。三井住友トラスト基礎研究所の不動産投資に関する調査によると、投資期間5年未満の割合は2012年の46%から2018年は34%へ減少し、7年以上は2012年の18%から2018年は47%へ増加した。さらに、今後は、投資家やテナントによる中長期目線での不動産の選別は厳しくなる方向に進むと考えられる。不動産の環境性能の向上、エネルギー消費量データの蓄積と分析、環境認証の取得、取り組み内容の説明の充実は、投資資金の呼び込みにプラスに働く。一方で、このトレンドに対応できない不動産は撤退(Divestment)の対象となるおそれがある。

また、直接的な不動産投資だけでなく、株式や債券など企業投資を通した間接的な経路でも環境不動産への選好が強まりつつある。2017年の「伊藤レポート2.0」(経済産業省)は、企業の持続的な成長性を評価するには従来の財務指標だけではなく、ブランド・無形資産・ESGといった非財務情報が重要になると指摘し、企業と投資家をつなぐ共通言語として価値協創ガイダンスを策定した。2018年には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がグローバル環境株式指数を選定するなど、投資家が企業の投資選別にESG情報を利用するようになっている。そのほかにも、SBT(Science Based Targets)、CDP(Carbon Disclosure Project)、RE100(Renewable Energy 100%)など、投資家が企業のESG対応状況を把握するための情報基盤も整備されつつある。資源の枯渇、政府の規制、テクノロジーの進歩、社会規範の変化で価値が大きく毀損する企業は、投資家にとっては「座礁資産」とみなされ、これらの企業への投資の場合には投資家に対して説明が求められるようになった。企業投資におけるESG投資のトレンドは、持続的な成長を目指す企業が、環境性能の低い不動産を避け、環境性能が高い不動産を選好する動きにつながっている。これを裏付けるように、環境認証を取得している不動産は、取得していない不動産に比べ賃料や不動産価格が高いという実証研究結果が、日本を含めた世界各国で発表されている。

10.3 不動産への影響

本節では、前節までで整理した環境問題に関する社会的経済的なトレンドを背景に、わが国の不動産市場で起きている変化について整理する。具体的な変化としては、環境不動産の増加、ESG投資のための情報開示、建築環境技術の進歩が挙げられる。

まず、環境不動産の増加である。パリ協定を踏まえた温室効果ガス排出量の削減目標の達成へ向け、2017年に建築物省エネ法の規制措置が開始された。建築物省エネ法成立の背景には、産業部門や運輸部門のエネルギー消費量が減少傾向にある一方で、住宅・建築物分野のエネルギー消費量が高止まりしていたことがある。この規制により、一定規模以上の建築物を新築・増改築する際、エネルギー消費性能基準に適合しなければ、建築主は確認済証を受領できなくなった。同法には、容積率特例や基準適合の認定・表示制度などの誘導措置も含まれるほか、2021年には中規模ビルが規制対象に含まれるようになるなど、その範囲を徐々に広げている。また、耐震・環境性能を有する良質な不動産(環境不動産)の形成のための官民ファンドとして、2013年にRe-Seed機構が設立され、環境性能や耐震性能が低い老朽不動産を改修・建替・開発する特別目的会社(SPC)に対して出資を行っている。ほかにも、環境省が2017年にグリーンボンドガイドラインを公表し、資金調達面での環境整備も進めており、J-REITでもすでに10投資法人がグリーンボンドを発行している(2019年時点)。わが国における不動産ストックの環境不動産化は、急激ではないが、徐々に進んでいくものと考えられる。

次に、ESG投資のための情報開示である。不動産は、その財の特性(地域性、固定性、用途の多様性)から、ESGの観点で社会課題の解決に貢献できるポテンシャルが大きい。例えば、エネルギー使用量の削減、健康性・快適性の向上、エリア価値の向上、少子高齢化など地域社会・経済への貢献、災害への対応などである。不動産へのESG投資にはこれら社会へのポジティブなインパクトと、中長期的に安定した経済リターンとの両立が求められ、そのために投資家への情報開示を含めた環境整備が重要と考えられている。不動産業界における情報開示の例としては、企業やファンド単位のESGベンチマーク評価であるGRESB、環境性能の評価ツールであるCASBEEやDBJ Green Building認証、BELSが挙げられる。特に、GRESBは時価総額ベースでJ-REIT市場の89%が参加(2018年時点)しており、REIT運用会社は社会や投資家へ向け積極的にESGへの取り組みを開示している。さらに、環境負荷の軽減だけでなく、不動産を利用する人の「健康性」や「快適性」に優れた不動産ストックの普及促進に向けた取り組みも進みつつある。2019年には一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構(IBEC)によるCASBEE-ウェルネスオフィスの評価認証が開始された。また、公益社団法人 日本不動産鑑定士協会連合会では、環境性や快適性が優れた不動産に対する不動産鑑定評価への反映方法についての検討が行われた。このように、不動産業界における環境情報開示の環境は徐々に整いつつある。しかし一方で、開示情報の内容や分量の妥当性、国際的観点を踏まえた比較容易性、アクセスのしやすさ、ESG投資の効果についての研究蓄積、企業や投資家の意識を高める情報発信など、引き続き課題は存在する。

そして、建築環境技術の進歩である。第6章(テクノロジー)で挙げたように、これまで自然換気や自然採光、Low-E複層ガラスなど必要なエネルギーを減らす技術、中温空調や蓄熱技術などエネルギーを無駄なく使う技術、太陽光発電などの創エネ技術が開発されてきた。近年、これら技術を組み合わせた省エネルギー性能が高い不動産が登場している。ZEB(Net Zero Energy Building)やZEH(Net Zero Energy House)は、省エネによって使うエネルギーを減らし、創エネによって使う分のエネルギーをつくることで、快適な室内環境を実現しながら、建物の消費する一次エネルギーの収支をゼロにする。2018年に閣議決定されたエネルギー基本計画では、2020年までに新築公共建築物で、2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現することを目指している。現在も環境・エネルギー分野における研究開発投資は継続されており(2019年度予算案で377億円)、今後も引き続き新しい技術が登場するものと考えられる。エネルギー効率の高い照明技術や空調技術、再生可能エネルギー技術、発電・蓄電・送電技術、これらをICT(AI、IoT)で接続しスマート化する汎用目的技術などを通じて、引き続き温暖化対策を含めた環境問題への対策コストが低下していくことが予想される。

11 メガイベント

11.1 メガイベントとは

1964年に開催された東京オリンピックとそれに続く1970年の大阪万博は、大規模なインフラ整備を加速させ、同時に戦争からの日本の復興を世界にアピールする場となった。このようなメガイベントの開催は、社会経済に大きなインパクトを与え、開催都市の魅力向上と国際的な知名度を一層高めることにつながる。

今回、2020年に東京オリンピック・パラリンピックが、そのわずか5年後の2025年に大阪・関西万博が開催される。既にインフラが整備された現在の日本においては、これらのイベントの位置づけはかつての高度成長時代に行われた時とは異なるだろう。しかし、これをきっかけにして様々な変化が日本に起こり、都市やまちづくり、不動産市場に変化をもたらす可能性がある。次節以降では東京オリンピック・パラリンピックと大阪万博のそれぞれが不動産に与える影響についてみていく。

11.2 東京オリンピック・パラリンピック

東京オリンピック・パラリンピックは、2020年7月24日~9月6日の間に、延べ30日間にわたって開催される。期間中には国内外から1,000万人を超える来場者が見込まれている。日本経済に与える効果については、様々な試算が行われているが、東京オリンピック・パラリンピックは限られた期間での開催のため、不動産市場に対しては、宿泊施設や商業店舗などを除き直接的な影響は限定的といえる。宿泊施設(特にホテル)は、2020年の五輪開催に合わせた開業が数多く計画されている。一方で、現在営業しているホテルはすでに高稼働状態が続いており、五輪開催は稼働率に大きな影響を与えないとの見方もある。しかし、訪日外国人(インバウンド)の中には、観戦後も日本に残って他の地域を観光したり、大会期間中の東京訪問予定を別の時期にシフトしたり(需要置換効果)する人も多いと考えられ、観光客向けの小売店などの商業店舗と同様に、ホテルにおいても大会期間中とその後の一定期間は売り上げの増加が期待できる。また、住宅に関しては、選手村がある東京都中央区晴海では、選手宿舎を五輪終了後に改装し新築マンションとして、合計23棟、総戸数5,632戸(うち分譲19棟、4,145戸)供給する「HARUMI FLAG」プロジェクトがある。引き渡しは2023年3月予定にもかかわらず、立地や眺望の良さ、今後のインフラ開発などの期待もあり、2019年7月下旬に開始された最初の分譲販売は好調であった。都心最大規模の巨大なこのプロジェクトは、今後の販売状況次第ではマンション市場に一定の影響があるだろう。また、大会期間中の道路混雑によって物流の停滞が懸念されても、物流施設自体への影響は少ないと考えられている。オフィスに関しても、需要と供給の両面において五輪の直接的な影響は少ないと考えられる。

五輪開催に先立ち、日本文化を世界に発信する「東京2020 NIPPONフェスティバル」が開催される。このような日本側が行うプロモーションだけでなく、五輪観戦に訪れた観光客が日本の伝統や文化に触れ、彼ら自身がSNSを使って情報発信することで、日本の魅力が諸外国に伝わり、訪日外国人の増加につながると期待される。訪日外国人が増加することで人々の意識の国際化が進み、パラリンピックの開催は人々の障がいのある人への理解を深め、サービスだけでなく施設や建物における多言語対応化やユニバーサルデザイン化、バリアフリー化の進展につながると考えられる。また、ロボットや通信などの先端技術が導入された環境に配慮した都市が実現されると、国際観光都市、グローバルビジネス都市としての東京の魅力度を一層上げることになる。

さらに、大会期間中の交通混雑緩和のために東京都や国などが時差通勤やモバイルワークの実施を呼びかけている。大会本番前のテスト期間と位置づけて行われた2019年のテレワーク・デイズには約2,900の団体が延べ60万人以上の規模で参加した。このような取り組みは、企業で進みつつある「働き方改革」における働く場所と時間のフレキシビリティさを体感する絶好の機会となり、働き方の多様性への理解を深め、テレワークの普及と利用の加速につながる可能性が大きい。東京オリンピック・パラリンピックの開催が国民の意識変化のきっかけとなり、不動産市場に対して間接的な影響を与える可能性がある。

11.3 大阪・関西万博

2018年11月に2025年の大阪・関西万博開催が決定された。開催期間は5月3日~11月3日の185日間にわたり、国内外から約2,800万人の来場者が見込まれている。開催地の大阪市此花区の夢洲は大規模な埋立地であり、関西の新たな国際観光拠点として、統合型リゾート(IR)を誘致し、国際会議場や展示場(MICE)の拠点を形成していくまちづくり構想が進められている。また、現在、大阪メトロ中央線の延伸が2024年度の開業を目指して行われている。そんな中、今回2025年開催の万博が決まったことで、夢洲におけるまちづくり構想の実現に向けて大きな弾みがついたことは間違いない。

大阪・関西万博では世界から最先端の技術が披露され、大阪・関西に集積するライフサイエンス、バイオメディカルなどの最先端テクノロジーを持つ企業のプロモーションの場ともなる。既に関西の訪日外国人の増加は著しいが、ビジネス面での取引も増加していくと期待される。また、様々な分野の若いクリエーターが世界へ情報発信できる機会にもなり、2020東京オリンピック・パラリンピックと同様、ビジネスや歴史・文化の面における大阪、関西の魅力が伝わり、認知度の向上につながる。また、万博の開催期間は185日と比較的長いため一定の集客効果が見込める。さらに、万博が終了しても夢洲がIRやMICEが整備された今までにない新たな国際観光拠点へ変貌を遂げることにより、継続的な集客が期待でき、施設運営に伴う様々な効果が生まれるだろう。

このようなメガイベントの開催に対して、「既に成熟社会となった日本においては大きな効果は無い」、「財政面の負担が増えるだけ」といった見方もある。しかし、今までみてきたように、イベント開催の直接的な経済効果だけでなく、人々の生活スタイルや意識の面で変化をもたらし、不動産のあり方自体にも影響を与えることになるだろう。

※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
※当社の事前の了承なく、複製、引用、転送、配布、転載等を行わないようにお願いします。
レポートに関するお問い合わせ

ザイマックスグループホームページへ
レポートの一覧へ