2019.02.13
時代とともに変化するオフィス仕様
~オフィスピラミッドを深堀りする~
ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研という)は、2019年1月23日に公表した東京23区オフィスピラミッド2019(*1)に関し、オフィスストックを構成するビルの仕様の変化を規模別、年代別に分けて紹介する。また、旧耐震ビル(1981年以前竣工ビル)に関して、耐震化(改修等)の状況をみていく。
なお、当該調査では東京23区9,206棟のビルデータを用いているが、データ収集時点からビルの仕様に変更(例えば、リニュールによって電気容量を増強した等)があった場合に、現時点の数値と異なる可能性がある点を留意いただきたい。
1.使用したビルのデータと年代区分について
【ビルの仕様データ】
東京23区オフィスピラミッド2019(棟数ベース)と同様、以下のビルを対象としている。
・ 東京23区における延床面積300坪以上の主な用途が事務所のオフィスビル9,206棟
・ 1946年~2019年竣工
・ 中小規模ビルは延床面積300~5,000坪未満、大規模ビルは延床面積5,000坪以上
この中から、テナント募集用資料等で観測できた各仕様のデータ(収集時点)を用いている。
【年代区分】
竣工年により、~1979年、1980~1999年、2000年~ の3年代に区分した【図表1】。
【図表1】オフィスピラミッド2019(棟数ベース)
2.各仕様の平均値(規模別、年代別)
各仕様について、中小規模ビルと大規模ビルの年代別の平均値を示す【図表2、3】。
【図表2】中小規模ビル:各仕様の平均値
【図表3】大規模ビル:各仕様の平均値
中小規模ビル、大規模ビルとも、新しくなるにつれて、天井高は高く、床荷重は大きくなっている。また、大規模ビルは新しくなるにつれ高層化が顕著である。
延床面積と基準階面積は1980~1999年の年代が他の年代より小さく、徒歩分数も長くなっている。これはバブル期に小型ビルや、遠隔地に立地するビルが多く建てられた影響と考えられる。
3.各仕様の変化
ビルの基本的な仕様について、規模別に各年代の変化を示す。
(1)延床面積
延床面積300~5,000坪未満の中小規模ビルでの面積分布をみると、~1979年、1980~1999年の年代では1,000坪未満が6割以上を占めているが、2000年以降は半数に満たず、小規模なビルの竣工が少なくなっている。延床面積5,000坪以上の大規模ビルの分布は、1999年までは10,000坪未満のビルが5割を超えていたが、2000年以降は3割程度に減って大型化が進み、50,000坪を超えるビルが約1割ある【図表4】。
【図表4】規模別・年代別の延床面積の分布(n=9,206)
(2)基準階面積
基準階面積は、中小規模ビルでは1999年までは100坪未満が半数を超えていたが、2000年以降は半数に満たなくなっている。大規模ビルでは、~1979年と2000年以降は500坪以上がほぼ半分を占めているが、1980~1999年の年代では半数に満たず、300坪未満の割合が他と比べて多い【図表5】。
【図表5】規模別・年代別の基準階面積の分布(n=7,826)
(3)地上階
地上階数は、~1979年の年代では中小規模、大規模とも9階建てが最も多くみられる。これは高さ31m規制(いわゆる100尺規制)が考慮されたためと考えられる。
1960年代には規制緩和を活用した高層ビルが建築され始め、1970年の建築基準法改正によって絶対高さ制限が撤廃され、容積率規制が全面導入されると高層ビルの供給が促進された。大規模ビルにおいて10階建て以上が、~1979年の年代では6割を超え、1980~1999年には8割、2000年以降は9割を超えている【図表6】。
【図表6】規模別・年代別の地上階数の分布(n=9,206)
(4)天井高
天井高は規模を問わず、年代が新しくなるにつれて高くなっている【図表7】。特に大規模ビルは2000年以降になると2,800mm以上がほとんどを占めている。天井高が高くなると居室空間に解放感や快適さを感じられ、テナントの満足度向上につながる。OA床の普及や貸室内を無柱空間にできる施工技術の開発も、基準階面積が広い大規模ビルにおいて天井高が高くなった背景にあると考えられる。
【図表7】規模別・年代別の天井高の分布(n=6,289)
(5)床荷重
1㎡あたりの床が耐えられる重さを示す床荷重は、300~400kg/㎡、または500~600kg/㎡に集中している【図表8】。300kg/㎡は建築基準法によるものでスタンダードといえ、500kg/㎡はテナントが書庫やサーバールームを居室内に設置する場合に求められる水準を想定したものといえる。2000年以降は500~600kg/㎡が多数を占めるようになってきた。
【図表8】規模別・年代別の床荷重の割合(n=1,863)
(6)電気容量
電気容量はテナントが使うOA機器等の利用に伴い、時代と共に増加している【図表9】。1999年までは30~50VA/㎡が標準帯であったが、2000年以降は規模を問わず60VA/㎡が最も多くなっている。
【図表9】規模別・年代別の電気容量の分布(n=1,491)
(7)徒歩分数
年代、規模にかかわらず半数以上が徒歩5分以内にある。大規模ビルは徒歩2分以内のビルが最も多い【図表10】。
【図表10】規模別・年代別の徒歩分数の分布(n=8,903)
4.旧耐震ビルの耐震化の実態
東京23区オフィスピラミッド2019(棟数ベース)では、旧耐震の時代である1981年以前に竣工したビルは全体の約26%、2,358棟(中小規模2,220棟、大規模138棟)あった【図表11】。
【図表11】東京23区オフィスピラミッド2019(棟数ベース)
【図表12】は、これらのビル群について規模別の耐震性をみたものである(*2)。
テナント募集資料等で「耐震性を有している」旨の表記をしていたビルの割合は、大規模ビル67%、中小規模ビル22%となった。このうち「耐震改修を行った」旨を表記していたものは、大規模が13%、中小規模が3%あり、大規模ビルでは中小規模ビルに比べて耐震改修の実施が進んでいる様子がうかがえた(*3)。また、新耐震基準が適用される以前であっても、高層ビルでは耐震面において十分な許容度を確保した設計が求められたことも、大規模ビルでは耐震性を有していたビルが多かった理由と考えられる。
【図表12】耐震性の表明の有無(n=2,358)
5.考察
今回、ザイマックス総研が公表している東京23区オフィスピラミッド2019(棟数ベース)をもとに、規模別、年代別に分けてビルの具体的な仕様の変化をみていった。
オフィスビルは規模にかかわらず新しくなるほど各種仕様のグレードアップが続いていた。この背景には、法制度の変更や規制緩和等の影響だけではなく、新しいOA機器の登場により、テナントが電力容量やOA床等の設備の充実を求めるようになったことがあげられる。また、テナントニーズの変化に応える建築技術の進展も仕様向上に寄与してきたといえるだろう。
旧耐震の時代に建てられたビルの中で、大規模ビルは中小規模ビルと比べて耐震性を有するビルが多かった。また、テナント募集にあたって耐震改修工事を行ったと表記している割合も大規模ビルの方が多かった。中小規模ビルを保有する多くは1~2棟保有の賃貸事業者であり(*4)、資金面等で耐震改修工事の実施に立ち遅れている様子がうかがえた。
ビル事業者は、テナント誘致の競争で有利になるために、新築時にはより高いグレードの仕様を追及し、既存ビルでは新しい標準的な仕様水準をにらんだ設備改修を行って、テナントにアピールしようとしてきた。
しかし最近はテナントが求めるオフィスの要素が変化してきている。生産性向上のために、働く人が安心・安全に快適に過ごせるソフト面の充実さの重要性が増している。また、PCは小型化・無線化し、OA床を必要としないケースも多くなってきた。サーバールームもクラウド化によって居室内に設置することも減っている。
今までビル事業者がテナントのオフィス選択の大切な要素として競って導入した設備容量は、今後はオーバースペックになってしまう可能性がある。
時代の変化とともに場所や時間に捉われない働き方を導入する企業が増えてきている中、今後求められるオフィスの仕様は一層変化するだろう。
ザイマックス総研では、引き続きオフィスストックに関して様々な視点から研究・分析研究を行っていく。
調査時点
2018年12月(ただし、各仕様のデータに関しては収集時点におけるもの)
調査エリア
東京23区
対象物件
2019年末時点において、延床面積300坪以上、1946年以降に竣工した(予定含む)主な用途が事務所のオフィスビル
英語版:News & Research
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