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2019.02.06

これからのオフィスの在り方

~集約と分散のベストミックスを考える~

1.はじめに――日本における働き方改革とオフィス

働き方改革は重要な国家戦略と位置付けられ、人材確保や生産性向上の観点から企業の取り組みも加速しつつある。

企業が働き方改革を推進する上では、「経営層のコミットメント」「人事制度」「ICT投資・活用」「ワーカーの啓発・教育」、そして「オフィス環境」という5つの要素が重要となる【図表1】。例えば「制度だけ」「ICTツールだけ」を変えるような限定的な取り組みでは不十分であり、5つの要素すべてを横断的に考える必要がある。中でもワーカーの新しい働き方を支えるオフィス環境、ワークプレイスを設計することは、他の取り組みとの相乗効果を得るうえで非常に重要だろう。

【図表1】働き方改革に必要な要素

その一つの方法として注目されているのがテレワークである。ザイマックス不動産総合研究所(以下ザイマックス総研)が2018年10月に行った企業調査(*)では、66.7%の企業がテレワークを推し進めるために何らかのICT投資を行い【図表2】、26.6%の企業がテレワークするための場所や制度を整備していることがわかった【図表3】。

* 2018年12月18日公表「大都市圏オフィス需要調査2018秋

【図表2】テレワーク支援のためのICT投資の状況

(n=1,352)

 

【図表3】テレワークする場所や制度の整備状況

(n=1,352)

 

また、同調査では働き方改革に取り組む目的として「生産性の向上」(70.7%)や「従業員の満足度向上」(61.9%)を挙げる企業の割合が高く、特に従業員満足度を重視する企業は2017年調査と比べて14.6ポイント伸びていた【図表4】。こうした企業の意識やテレワーク活用といった働き方の変化は、働く場所の在り方にも影響を与えていくものと考えられる。

【図表4】働き方改革の目的

企業がワーカーの働きやすさを重視する流れは、日本だけでなく欧米諸国などの海外でも同様である。ただし、他国よりも少子高齢化が先行し、労働力人口不足が深刻化する日本では、高齢者や女性、障害者などの新たな人材にオフィスワーカーとして活躍してもらう必要がある。大都市における中心部へのオフィスの偏在や、満員電車での長時間通勤といった課題も視野に入れつつ、多様なワーカーがそれぞれ快適に、生産性高く働くことのできる環境を考えていかなくてはならない。

本レポートは、今後オフィスワーカーの働く場所がどのように変化していくのか、現状や調査結果を踏まえつつ推測し、その方向性を示唆することを目的とするトピックレポートである。

2.オフィスの役割の変化

働く場所の今後の方向性を考える上で、まずは企業にとってのオフィスの役割の変化について考えたい。オフィスの役割が変化している要因は2つある。

1つ目は仕事内容と、それを反映する組織の在り方の変化である。オフィスレイアウトとして長年主流だった島型(対向型)は、事務処理を行う従業員とそれを監視する上司というヒエラルキー型組織に適したタイプであった。しかし現在、日本企業の7割以上は第三次産業であり、そのオフィスは単なる事務処理の場ではなく、価値を生み出す知的創造の場となっている。

2つ目は、働き方の多様化および流動化である。従来のオフィスは「全員が同じ時間、同じ場所に集まって働く」という働き方を前提に設計されてきたため、人数分のスペースを確保できること、そして電気容量や通信環境、安全性など最低限のニーズを満たしていればよく、自ずと画一的なものとなっていた。しかし働き方の多様化・流動化が進むと、オフィスに求められる役割が変わると考えられる【図表5】。

【図表5】働き方の変化がオフィス需要に与える影響

前述の企業調査でも、オフィスに求めるソフト面の要素として「従業員が快適に働ける」「従業員のモチベーション向上につながる」「生産性の向上」といった価値を8割以上の企業が重視(「非常に重視する」「重視する」の合計)しており、オフィス環境がワーカーの生産性に影響しうるという認識が広がっていることが示唆された【図表6】。

【図表6】オフィスに求める要素(ソフト面)

(2017年秋:n=1,294、2018年秋:n=1,352)

 

では、第三次産業における生産性の向上とは何か。製造業においては機械化や技術革新、人件費・原材料費などの削減により「安く多く」作ることで実現してきたが、第三次産業は人に頼っているため機械化しづらい。「安く多く」よりも付加価値を高めることが求められ、人間による創意工夫、新しいアイデアやビジネスの創造といった知的生産性を高めることがポイントとなる。

つまりオフィスとは「知的生産工場」であり、企業にとっては、よい人材を採用し、その能力を最大限に発揮できる環境づくりが重要である。こうした状況を受け、従来「節減すべきコスト」と捉えられてきたオフィスを「投資」とみなす流れも生まれている。

3.ワークプレイスの多様化

では、知的生産性を高めるオフィスとはどのようなものか。前述の通りオフィスワーカーも、仕事内容も、働き方も多様化してきていることから、働く場所についても一律で考えるのではなく多様な選択肢を用意し、ワーカー一人ひとりの働きやすさを担保することが一つの答えとなるだろう。

例えば今後、育児・介護や高齢により長距離通勤が難しい人、副業のためにパートタイムで働く人などが増えていけば、都心のオフィスに加えて、郊外などに働く場所を準備していくことも考えていかなければならない。仕事内容についても、事務処理だけでなくブレインストーミングやアイデア出し、社外の人とのコラボレーションなど多様になっている。そういった仕事に適した機能を持つスペースを、本社などのメインオフィスの中に備えていくとともに、必要に応じて外にも用意していくべきだろう。

前述の企業調査では、企業の本社および本社以外のオフィスについて中長期的な戦略を聞いている。その結果、本社については「交通利便性が高い都心に集約する」と回答した企業が66.0%(「そう思う」「ややそう思う」の合計)で最多だったが【図表7】、本社以外のオフィス戦略としては「在宅勤務を拡充する」が50.4%、「本社以外の多様な場所にワークスペースを整備する」が44.2%で、ともに「できるだけ本社に拠点を集約していく」(31.4%)を上回った【図表8】。つまり、本社については都心に集約しつつ、本社以外については自宅を含む多様なワークスペースを利用しようと考えている企業が多いようだ。

【図表7】今後のオフィス戦略(本社)

(n=1,352)

 

* BPO(Business Process Outsourcing)… 企業の特定業務などを専門企業に外部委託すること。

【図表8】今後のオフィス戦略(本社以外)

(n=1,352)

 

集約・分散のどちらかを選ぶのではなく、集まるための本社オフィスと分散するための多様なワークプレイスといった選択肢を用意したうえで、機能ごとに使い分け、一体的に活用することが、ワーカーの働きやすさやワークライフバランスを担保し、企業の生産性向上やイノベーション創出を実現するワークプレイスの一つの在り方となるのではないだろうか【図表9】。

【図表9】働く場所の多様な選択肢

* サードプレイスオフィス … 会社のオフィスでも自宅でもなく、主に事業者がサービス提供するオフィススペース。サテライトオフィス、レンタルオフィス、シェアオフィス、モバイルワークオフィス、コワーキングスペースなどさまざまなタイプがある。契約主体が会社か個人かは問わない。

 

もちろん、集約と分散の内容やそのバランスは、業務内容やワーカー属性、働き方、企業風土などによってそれぞれ異なるだろう。営業職が多い企業では移動を効率化するためにテレワークを推し進め、企画職やエンジニアが多い企業では本社オフィスの快適性を高める、といった具合だ。

また、集約と分散それぞれの強み・弱みも踏まえて使い分けるべきだろう。分散型ワークプレイスの強みは、従業員の移動時間削減や、それによるワークライフバランスおよびウェルビーイングの向上、ひいては生産性向上や雇用維持などが考えられる。対して本社などの集約オフィスの強みはコミュニケーションやコラボレーションの創出、経営ビジョンの共有、エンゲージメントの向上などであり、そうした効果が得られるのであれば通勤時間をかけてでも行く価値があるといえる。これからのオフィスは、企業特性にあわせて集約と分散を上手く組み合わせること(ベストミックス)が重要となるだろう【図表10】。

【図表10】集約・分散それぞれの強み

4.サードプレイスオフィス市場の拡大

民間事業者によるサードプレイスオフィスサービスの現在の市場規模は、ザイマックス総研の推計によると東京23区で約68,000坪、賃貸オフィス市場のストック(12,810,000坪*1)の0.5%ほどとなっている。なお、マンハッタンではこの割合が約1.7%(*2)ともいわれており、このような「不動産のサービス化」(REaaS、リアルエステート・アズ・ア・サービス)の流れは、米国では今から10年ほど前のリーマンショック後に始まり拡大してきた。一方、日本での盛り上がりはまだここ数年間の動きに過ぎず、今後は働き方改革の進展と相まって拡大していくものと考えられる。

*1 ザイマックス不動産総合研究所「東京23区オフィスピラミッド2019」(2019年1月23日公表)より
*2 米国Yardi Matrix「Shared Space: Coworking's Rising Star」(2018年2月公表)より

 

また、量の増加に伴い、サードプレイスオフィスのタイプも多様化している。現状では用途や立地により概ね下記の5タイプ【図表11】に分類できるものの、複数の特徴を併せ持つサービスなども登場しており、今後はより多様化が進むだろう。

①タッチダウン型

主に都心の主要オフィスエリアに立地し、外出中や直行直帰の際などに都合の良い場所を選んですぐ利用できる。短時間、1人で集中して行う事務作業などに向いている。

②プロジェクトルーム型

システム開発や期間限定プロジェクトなどのため複数名のチーム単位で利用。社内だけでなく、社外の人と協業する際にも利用される。

③「シェア型サテライト」オフィス

主に郊外エリアに立地し、近隣に住む従業員が集まって働ける。複数の企業がサテライトオフィス的に共同利用し、専用回線なども使える企業専用区画と共用スペースがある。

④「子育て支援機能付き」オフィス

託児スペースが併設されており、主に育児中の社員が必要に応じて利用できる。

⑤「コワーキング型」オフィス

様々な業種・職種の人がオープンスペースを共同利用し、コラボレーションやイノベーションの創発が期待できる。法人契約だけでなく、個人契約も可能な場合が多い。

【図表11】主なサードプレイスオフィスのタイプ

このように、分散して働く場所の選択肢は量・タイプともに増え続けており、こうした多様なタイプの中からサードプレイスオフィスサービスを選ぶ場合には自社の導入目的を明確にする必要がある。例えば、営業担当者の取引先回りを効率化するためであれば、都心の主要オフィスエリアにネットワークを持つシェアオフィス(タイプ①)を契約する。従業員の育児支援やワークライフバランス向上のためであれば、郊外の託児スペース付きのサテライトオフィス(タイプ③+④)を契約するとよいかもしれない。

5.まとめ

ビジネス環境が急速に変化している現代において、オフィス戦略は重要な経営戦略となっている。これまでテレワークをはじめとする働き方改革およびワークプレイス改革は大企業やIT系などの先端企業が牽引してきたが、最近では中小企業も、また比較的保守的な業界でも取り組む流れが生まれており、何もしないことが企業経営にとってマイナスともなりつつある。

本レポートで提言してきた働く場所の多様化、集約と分散のベストミックスを探る努力は、企業だけでなくワーカー一人ひとりにとっても重要なものとなっている。なぜなら今後は、様々な事情を抱えたワーカーが共に働き続ける時代になるためだ。場所と時間に縛られない柔軟な働き方が進展すれば、出産や育児、介護、闘病などのライフイベントに直面した際の仕事と人生の選択肢はより広がるだろう。休職や退職するしかなかった時代と違い、自律的に長く働くワーカーが増えることがまた、企業活動にも還元されていく。

働く場所の集約も分散もあくまで手段であって、目的は多様かつ柔軟な働き方を実現することである。そうした新しい働き方を支援する場所として、コミュニケーションやコラボレーション促進機能を持つ本社オフィスや、どこででも効率的に働けるテレワーク環境が必要になる。

また、従業員満足度の観点から、郊外で分散して働く場合のアメニティ(利便施設)についても考えていくべきだろう。ワーカーが生活と仕事を両立していくためには、ただ働く空間だけあればよいわけではなく、例えば食事や買い物、平日しかできない用事など、勤務に付随する個人的活動が存在し、それを支えるアメニティが必要となる。飲食店やコンビニ、銀行、郵便局などが高密度に整備された都心のオフィス街に比べ、郊外のワークプレイス周辺ではそういったアメニティが十分でない場合も多い。業務の面でも、オープンワークスペースや貸会議室など集まって働くための機能が充実すれば、分散型ワークプレイスでできる業務の範囲は広がるだろう。移動時間やコストの効率化のみを追求するなら在宅勤務で済むが、自宅にはない支援機能を持つフレキシブルオフィスを利用することで、単なる効率化に留まらないテレワークの効果を得ることができるかもしれない。

ここまで述べてきた通り、企業が考えるべきワークプレイス戦略は複雑化しており、最適な在り方を検討するには専門性や自社を客観視する力も必要となっている。場合によっては専門人材などの支援も借りながら、目指すべき働き方に向けたオフィスの在り方を検討していくべきだろう。

* レポート内のグラフに関して
・構成比(%)は、小数点第2位を四捨五入しているため内訳の合計が100%にならない場合がある。
※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
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参考:働き方×オフィス 特設サイト

英語版:News & Research

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