2017.04.17
時代とともに変化する不動産利用
大阪中心部にみる用途の多様化とエリア特徴の変化
不動産の使われ方は、経済の変動、産業構造、ライフスタイルの変化、政策などの様々な要因により、時間の経過とともに変化している。この変化の源泉は、築古化が進んだ建物の建替えや新たな用途へのコンバージョン、あるいは更地に新たな建物が建築されることなどの個別の不動産の動きによるものである。
不動産の使われ方が変化し、街が変わったイメージは感覚的には持てるものの、具体的な数値で「可視化」した調査は少ない。そこで、ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)では、近年インバウンド需要が急増し大規模開発が行われた大阪市中心部に着目し、不動産利用の実態を調査した。
このような不動産利用の基礎データが、個別の不動産所有者、利用者、投資家のみならず、政策決定者など多くの人にとって、今後の不動産の使い方を考える一助になれば幸いである。
- ● 大阪中心部では、建物は大型化し、事務所以外の用途が増加している。
- ● 新しく建築されたオフィスは梅田を中心とした本町以北に多く、オフィスの中心地の北上化がみられる。
- ● マンション建築の急増にともない、中心部への人口回帰現象がみられる。
- ● インバウンドの影響を大きく受けて、商業、宿泊施設が増加している。
はじめに
本調査にあたっては、大阪市から提供をうけた「土地利用現況調査」を用い、まず、2000年(H12)から2013年(H25)にかけて、大阪中心部の3エリア(梅田、淀屋橋・本町、心斎橋・なんば)全体の「1.建物ストックの変化」を把握したうえで、各エリアのそれぞれの特徴をみた。次に、ストック変化の源泉である「2.建替えられた建物」と「3.更地に建った建物」について、どのような用途の建物が建ったかをみていった【図表1】。
さらに、独自に入手したデータや現地調査により、事務所、住宅、宿泊施設の3用途の建物について最近の動向をみた。
【図表1】建物ストックのイメージ
1.建物ストック(延床面積)の変化
まず、大阪市北区21、中央区88、西区10の町丁目を「梅田エリア」「淀屋橋・本町エリア」「心斎橋・なんばエリア」に区分し、建物ストックの変化について延床面積から特徴をみる【図表2】。
【図表2】対象エリア
(1)3エリア全体
2013年の総延床面積は2,209万㎡あり、「梅田」が3割、「淀屋橋・本町」が約5割、「心斎橋・なんば」が約2割となっている。3エリア全体で2000年から2013年にかけて建物数は848棟(7%)減少したが、総延床面積は294万㎡(15%)増加した【図表3】。建替えによる余剰容積率の消化や総合設計による容積率の割り増し、御堂筋の高さ規制の緩和、更地だった北ヤードの新規開発などが延床面積の増加につながったと考えられる。
用途別の延床面積割合をみると、2000年は事務所がもっとも多く63%を占めている。しかし、2013年には商業施設、住宅、宿泊施設が増え、事務所の占める割合は55%まで減少した【図表4】。
2000年から2013年までの用途別の延床面積の増減をみると、事務所はほとんど変化がなく、商業施設は164万㎡、住宅は152万㎡増加している【図表5】。また、2013年の延床面積は2000年と比較して、商業施設が1.6倍、住宅は2.9倍、宿泊施設は1.3倍となっている【図表6】。
2000年時点の建物ストックのうち2013年までに変化した建物は、延床面積ベースで8%が建替えられ、3%が滅失(取壊し)した。89%の建物はそのままである。2013年時点のストックでの割合でみると、2000年から建替わった建物が16%、2000年時点での更地に建った建物が3%を占める。既存建物は面積の変化はないもののストックに占める割合は81%と減少した【図表7】。
(2)エリア別の変化
次に、エリア別に建物ストックの用途変化をみた。
① 梅田エリア
梅田駅周辺に事務所・大型商業施設が集まる「梅田エリア」の2013年における総延床面積は673万㎡あり、2000年から148万㎡(28%)増加した【図表8】。JR大阪駅北側の北ヤードでの開発前後から、周辺で大型商業施設の建替えや新築が増加し、関東からの旗艦店舗の出店も相次いだ。これにより商業施設は137万㎡増加し、延床面積は2.5倍になった。従来は住宅が少ない地域であったが、タワーマンションの建設により住宅が10倍以上になった【図表9、10】。
② 淀屋橋・本町エリア
オフィスの中心地である「淀屋橋・本町エリア」の2013年における総延床面積は1,154万㎡あり、2000年から129万㎡(13%)増加した【図表11】。事務所の延床面積はほぼ横ばいで推移している。住宅は103万㎡増加して3倍以上、宿泊施設も3倍近くになるなど、新たな用途の建物が目立ってきている【図表12、13】。商業施設は3割の増加で、業種別にみると、小売業の店舗が増えて卸売業の店舗が減っている。インバウンドの増加や流通構造の変化などの影響を受けたとみられる。
【図表12】2000-2013年の増減面積(淀屋橋・本町エリア)
【図表13】面積の変化(2000年=100・淀屋橋・本町エリア)
③ 心斎橋・なんばエリア
商業店舗が多くみられる「心斎橋・なんばエリア」の2013年の総延床面積は409万㎡あり、2000年から18万㎡(5%)増加した【図表14】。事務所は10万㎡、1割減少している。住宅は他のエリア同様に大規模化により延床面積の増加がみられ、約2倍となった。一方、商業施設、宿泊施設は1割程度の増加と大きな変化はみられない【図表15、16】。商店街の多いなんば周辺では、店舗の上層階は集客の面であまり有効的とはいえず、容積率を余らせて建設するケースもみられた。
【図表15】2000-2013年の増減面積(心斎橋・なんばエリア)
【図表16】面積の変化(2000年=100・心斎橋・なんばエリア)
2.建物の建替えによる変化
前項でみたストック変化の源泉の一つである建替えについて考察する。【図表17】は、2000年から2013年にかけて建替わった建物を用途別に地図にプロットしたもので、丸の大きさは建物の規模を示している。
この間の変化の特徴の一つは、多くの建物は規模が大きくなって建替えられ、もう一つは建替えられた建物の用途は多様化している点である。具体的には、事務所(青丸)は、「梅田エリア」や御堂筋沿いで同じ事務所として大型化して建替えられ、それ以外のエリアでは、他の用途へ建替えられた建物が目立つ。商業施設(黄丸)はいくつかの大型施設に建替えられたが、多くは「心斎橋・なんばエリア」での小規模な建替えである。住宅(緑丸)は周辺部に増え、特に大型化が顕著である。宿泊施設(赤丸)は「淀屋橋・本町エリア」「心斎橋・なんばエリア」で増加している。
【図表18】と【図表19】は、建替わった建物の数と延床面積の変化を用途別でみたものである。2000年から2013年に763棟が建替わって580棟に減少し、延床面積は155万㎡から343万㎡に増加している。
建物用途の内訳をみると、多くの事務所が住宅や宿泊施設など他の用途の建物に建替わっている。ただし、事務所は138棟(6割)減少しながらも、大型ビルに建替えてられる建物も多く、延床面積は5割増加している。
商業施設は同規模への建替えが比較的多く、建物数は24棟(1割)増加しているが、大型化して建替えられた商業施設の影響で延床面積は8割増加している。住宅は建物数が2倍、延床面積は約30倍と大幅に増えた。これは既存建物がタワーマンションに多く建替わったことが影響している。宿泊施設は全体の中では少ないものの、建物数、延床面積とも3倍近く増加している。
3.更地に建った建物
次に、ストック変化のもう一つの源泉である更地*に建った建物について考察する。【図表20】は、2000年時点の更地に2013年にかけて建った建物を用途別に地図にプロットしたもので、建替えの【図表17】と同様、丸の大きさは建物の規模を示している。
本町より北側で大規模な建物が目立ち、周辺部では住宅、心斎橋・なんばエリアでは小規模な商業施設が新築され、建替えの傾向と似ている。
更地に建った建物数は331棟で、内訳は事務所84棟、商業施設118棟、住宅65棟、宿泊施設10棟、その他54棟である【図表21】。延床面積は75万㎡で、内訳は事務所が29万㎡、商業施設が24万㎡、住宅が14万㎡、宿泊施設が5万㎡、その他4万㎡であった【図表22】。
【図表20】更地に建った建物の用途と規模(2013年)
なお、更地は2000年から2013年にかけて約14万㎡減少し、土地全体に占める更地の割合は2000年の7.6%から2013年は5.4%に低下した。区画数も減少しており、1区画あたりの更地面積も小さくなっている【図表23】。
4.最近の動向
現時点では大阪市の「土地利用現況調査」は2013年が最新であるため、それ以降について、別のデータや現地調査で追加の調査分析をおこなった。
【図表24】は、2013年までに建て替わった建物(【図表17】の右側)を用途別に薄い丸で示し、「土地利用現況調査」以降に竣工(開業)した事務所(賃貸オフィスビル)、住宅(分譲マンション)、宿泊施設(ホテル)の分布を濃い丸でプロットしたものである。
事務所(賃貸オフィス)は本町以北の供給、住宅(分譲マンション)は中心部に寄った供給、宿泊施設(ホテル)は地域全体的に増加が目立ち、今までみたそれぞれの用途における変化がさらに加速している様子がみえる。
おわりに
本調査では、大阪市の「土地利用現況調査」等を用いて、2000年からの大阪中心部における不動産利用の変化をみた。大阪中心部の不動産利用は時代とともに変化しており、用途の多様化とエリア特徴の変化が認められ、その背景には社会的・経済的要因の影響があるといえる【図表25】。
事務所は、オフィス立地の中心といえる「淀屋橋・本町エリア」の御堂筋沿いで大型オフィスビルに建替えられていたが、通りから少し奥に入った区画では住宅や宿泊施設などへの建替えがみられた。また、北ヤードをはじめとする「梅田エリア」では複数の大型オフィスビルが竣工し、移転してくる企業が増えて企業集積が高まった。オフィスの中心エリアは「淀屋橋・本町エリア」から「梅田エリア」に移りつつある。
商業施設は、「梅田エリア」に百貨店・家電専門店などの大型商業施設の進出や増床が相次ぎ、集客力が増して人の流れが大きく変わった。「心斎橋・なんばエリア」では急増するインバウンド需要を見込んだ小型店舗が数多く出店し、商店街が活性化している。
住宅は、エリア全体で増加している。子育て終了世代やDINKSといった世帯の実需を中心としたマンションの取得意欲は堅調で、特にタワーマンションの人気が高い。中心部で住宅が増え、人口の都心回帰の動きが進んでいる。
宿泊施設は住宅と同様、エリア全体で増加している。ビジネス客だけでなく急増する訪日外国人を取り込むホテル需要は高く、他の用途の建物から宿泊施設にコンバージョンするケースもみられる。
不動産は、用途の多様性と有用性により時代毎に一定の用途に供され、われわれの生活と活動の基盤となっている。不動産は限られた資源であり、これをどのように使っていくかは、極めて重要なテーマである。
本調査が、個別の不動産所有者、利用者、投資家のみならず政策決定者など多くの人にとって、今後の不動産の使われ方を考える一助になれば幸いである。ザイマックス総研では、今後とも不動産を取り巻くテーマについて調査分析を行い、また有用な基礎データの提供を行っていく予定である。
調査期間
2000年~2016年
調査エリア
大阪市中心部、北区・中央区・西区の119町丁目
調査データ
- ●大阪市「土地利用現況調査」
【用途】
事務所: 事務所、金融・保険等の業務施設
商業施設:卸売・小売店舗、飲食、興業、サービス業などの主に一般消費を目的とする施設
住宅: 一戸建住宅、長屋建住宅、共同住宅、店舗併用共同住宅(店舗および工場併設は除く)
宿泊施設:ホテル、その他の宿泊施設全般
その他: 上記以外の建物施設すべて(学校・病院・供給施設・工業・通信運輸・官公署など)
【延床面積】
「土地利用現況調査」には建物の延床面積データが無いため、便宜的に「建築面積×階数」を延床面積としている。そのため「建築面積」か「階数」のデータが無い建物については分析対象に含んでいない。
【建替え・取り壊しの基準】
「土地利用状況調査」 の2000年(H12)と2013年(H25)のGISデータを比較し、建物形状が異なっている建物を建替えとして抽出した(約5,000件)。しかし、明らかに同一建物でありながら形状が異なるGISデータがみられたため、個々の建物データを2000年と2013年とで比較して、「階高数の差が5階以上」「建築面積の差が±10㎡以上」「建築面積の誤差が10%以上」のいずれかの建物を抽出(約500件)し、Googleストリートビューを用いてH25のデータの建物に建替えられているかを確認して絞り込んだ。
- ●ザイマックス総研が独自に収集した「賃貸オフィス」「ホテル・宿泊施設」「分譲マンション」の建物データ
英語版:News & Research
- ザイマックス不動産総合研究所
- お問い合わせ