2017.01.23
オフィス空室増減量調査(東京23区)を公開
空室率だけではわからないマーケットメカニズムを探る新たなベンチマーク
今般、ザイマックス不動産総合研究所では、ザイマックスグループが独自に入手・蓄積してきた空室募集データを利用し、「オフィス空室増減量」を調査した。今回のレポートでは、本調査の概要を紹介し、今後は、四半期ごとに発表する「オフィスマーケットレポート 東京」でも公表していく予定である。
オフィス賃貸マーケットの需要と供給のギャップは「空室」に表れ、これを測る指標としては、「空室率」が最もよく知られている。空室率は、ある時点の総賃貸面積における空室面積の割合であり、一般的に空室率が低いと空室在庫が少なくマーケットが好調で、逆に、空室率が高い場合は空室在庫が積みあがっており、マーケットが後退していると考えられている。
しかし、空室率は特定時点における需給ギャップを示した、いわばスナップショットである。仮に空室率が低下した場合、それはマーケットが良くなって需要が拡大した結果なのか、あるいはたまたま新規供給が少なかった影響なのかといった、オフィス需給の背景は捉えにくい。また、空室率が一定の場合、賃貸マーケットには変化がないように見えてしまうが、需給のどちらに起因する結果であるかにより、数字の持つ意味が変わってくる。
現実のオフィス賃貸マーケットでは、図表1のように、既存物件のテナント退去(a)や新規竣工物件の供給(b)による空室の増加があり、その一方で、既存物件の空室への新規入居(c)、新規竣工物件のプレリース(d)、また、数は少ないが空室の貸し止め(e)などによる空室の減少もあり、空室率はこれらの動きの結果を示したものとなる。
【図表1】空室変化のメカニズム
こういった、オフィスマーケットにおける空室ボリュームの動きを把握するために、ザイマックス総研では期間中に消化された(減少した)空室面積(主にテナント入居面積)と生じた(増加した)空室面積(主にテナント退去面積、新規竣工面積)を調査・集計し、「空室の増減量」としてまとめることとした。
本調査は、空室の増加量・減少量を区画単位の面積ベースで加減して集計したものである。新規竣工物件の面積に加えて、既存物件における空室面積の増減も調査に含めており、期間中の空室在庫とそれに対応する取引ボリュームの大きさやその推移を把握できる点で、これまでにない特徴的な調査である。
調査内容
本調査では、ザイマックスが独自に収集した空室データを用い、空室増加面積と空室減少面積を算出している。対象は東京23区に所在するオフィス用途の区画である。なお、館内増床は含まれない。 定義は以下のとおりである。
①空室増加面積
前月末時点では入居中であったが、当月中に空室となった面積。
以下のものを「空室増加面積」とした。
・既存物件のテナント退去面積
・新規竣工物件の総賃貸面積
②空室減少面積
前月末時点では空室だったが、当月中に入居中となった面積。
以下のものを「空室減少面積」とした。
・既存物件のテナント新規入居面積
・新規竣工物件の総賃貸面積のうち、竣工時点でテナント入居が決まっている面積
・既存物件の空室で、貸止めされた面積
調査結果
図表2は、空室増加面積と空室減少面積の推移を四半期ごとに表したグラフである。空室増加面積と空室減少面積を棒グラフで、また空室率を折れ線グラフで示している。
【図表2】空室増減量の推移
上図を見ると、トレンドとしては、空室率の低下に伴い、空室のボリュームが小さくなっていることがわかる。また、各期においては、空室減少面積(棒グラフ右)が空室増加面積(棒グラフ左)を上回っているときは、空室率が低下する。逆に、空室増加面積が減少面積を上回っているときは、空室率が上昇している。
個別に見ると、2016Q2では、空室率は4.45%、前期比-0.01pで一見需要が停滞しているように見える。しかし空室増減量をみると、2016Q2は空室増加量(供給量)が前後の期間と比較して多いにも関わらず、それを吸収するだけの需要も十分にあったことがうかがえる。これは、潜在的に移転や拡張の意思はあったが、空室在庫が少なかったため条件に合う物件がなく、移転や拡張に至らなかった層(テナント)が、供給の増大(空室在庫の増加)に伴って空室を消化していったためと考えられる。このように、空室率に変化がない場合であっても、需要が停滞しているとは一概にはいえず、様々な背景があることがわかる。
マーケットメカニズムと指標
図表3は、オフィス賃貸マーケットの変動メカニズムを図式化したものである。オフィス床の需要と供給は、国内外の社会・経済情勢の変化を受ける。例えば、企業の業績の改善は人の採用や設備投資につながり、オフィス需要が拡大する。需要が供給を上回れば空室率は低下し、それが継続すれば次第に賃料は上昇していく。一方、オフィス床の供給は不動産開発業者の事業戦略によるところが大きい。オフィス床の需要に対して過剰な供給を行えば、需給ギャップが拡大し、空室が増加し、賃料は下落圧力がかかる。
企業にとっては、オフィス賃料はファシリティコストの多くを占める固定費であることから、賃料の変動は企業の不動産戦略に影響を与える。一方、不動産開発業者にとっても、空室や賃料は自らの事業採算性に影響を及ぼす重要なファクターとなっている。このように、需給ギャップを示す「空室」そして「賃料」はオフィス賃貸マーケットの動きを示す“羅針盤”となっている。
【図表3】オフィス賃貸マーケットのメカニズム
わが国では、オフィス賃貸マーケットの動きを示すものとして、空室率や募集賃料が広く知られている。しかしながら、諸外国においては賃料に関しては成約賃料が信頼性の点で評価が高く、また空室率についても、単に結果としての数値だけでなく、その動きの背景を説明する指標提供が広がっている。本調査もそのように、空室率を補足するものとして、マーケットの実態を表す材料となることを期待するものである。
上図のとおり、オフィス賃貸マーケットのメカニズムは複雑であり、1つの指標で全て説明できるものではない。マーケットの動きを正しく理解するためには、複数の指標を用いて統合的に分析・判断する必要がある。ザイマックス総研では、本指標を含めた有益な指標を定期的に発表するとともに、さらなる透明性の実現のために新たな指標づくりや情報提供を続けていくつもりである。
名称
空室増減量調査
特徴
期間中の空室面積の増減を調査
調査対象
東京23区に所在するオフィス用途の区画
集計単位
区画単位
集計期間
2011年3月~2016年9月 ※以降継続
発表頻度
四半期
データソース
ザイマックスが独自に収集した空室区画データおよび物件データ
サンプル数
2016Q3:31,123区画
英語版:News & Research
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