2016.11.29
商業店舗の修繕に関する実態調査2016
~商業事業者へのアンケート・ヒアリングより~
ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は早稲田大学建築学科小松幸夫研究室*1と共同で、多店舗を運営・統括する商業事業者(以下、事業者)を対象*2に、商業店舗の修繕に関するアンケートおよびヒアリングを実施した。本レポートは、その結果を集計し、とりまとめたものである。
商業施設はオフィスと並ぶ主要な不動産であり、オフィスと比べ「不特定多数の人が利用する」「その不動産を営業の用に供している」などの特徴がある。そのため施設を維持管理する目的もオフィスとは異なってくるが、商業施設において事業者が行う店舗修繕の実態はよくわかっていない。今回の調査は、その実態を明らかにするための試みであり、商業施設および店舗修繕のレベル向上の一助になるものと考える。
(調査概要は末尾)
1. 修繕の方針として「お客様」への影響を大きく捉え、
「営業継続」を優先している
- ● 店舗運営において重視する修繕の方針は、「お客様の満足(84%)、
安心・安全(75%)」【図表1】 - ● 緊急性を要する修繕において最も重視することは、「営業継続(32%)」
【図表2】
2. 「突発的な不具合」に困っている事業者は約9割、
原因は「予兆に気づかず」が過半数を占める
- ● 故障や破損など不具合で困ったことがある割合は、「よくある(25%)」
「たまにある(61%)」【図表3】 - ● 困ったことの原因で最も多いのは、[予兆に気づかず(62%)」【図表4】
3. 店長の修繕における決裁権限は小さい、また、本部の修繕担当者は
直営店舗数が多い事業者でも少人数で対応している
- ● 店長の修繕1件あたりの決裁権限額は、約8割が「5万円以下」と低い
【図表5】 - ● 直営店舗数の多い事業者ほど、本部修繕担当者1人あたりの担当店舗数は、
増加する【図表6】
4. 修繕計画を作成、予算化している事業者は半数以下、
直営店舗数が増えるほど作成割合は高くなる
- ● 店舗ごとの修繕計画を作成している事業者は全体の約1/3【図表7】
- ● 直営店舗数が多い事業者ほど、修繕計画を作成する割合が高くなる【図表8】
- ● 事業者はさまざまな問題を抱えており、「同業他社の取り組み状況が
知りたい」との声が最も多い - ● 修繕に積極的な事業者は、修繕業務に対する経営陣の意識が高い
5. アンケートやヒアリングからわかったこと
1. 修繕の方針について
店舗運営において重視する修繕の方針についてたずねたところ、「お客様の満足(84%)、安心・安全(75%)」との回答した事業者の割合が他と比べて高く、CS(顧客満足)の観点を重視していることがうかがえる【図表1】。
【図表1】店舗運営において重視する修繕の方針(複数回答、n=657)
緊急性を要する修繕において重視することについてたずねたところ、「営業継続(32%)」「安全性(25%)」といった設備の故障や破損による二次被害を最小化する項目が過半数を占めた【図表2】。
【図表2】緊急修繕において重視すること(単一回答、n=602)
2. 突然の故障や破損などで困ったことの有無について
設備などの突然の故障や破損で困ったことがあるかについてたずねたところ、事業者の約9割(「よくある」「たまにある」)が困ったことがあると回答した【図表3】。
また、「よくある」「たまにある」と回答した事業者に、困ったことが発生した原因についてたずねたところ、 「故障や破損の予兆に気づいていなかったため(62%)」との回答が突出している【図表4】。ヒアリングからも予兆発見のための施策を模索している事業者は多く、一部の事業者では稼働が集中する前の一斉点検や更新時期を見据えた設備の調査、現場でのチェックが可能なマニュアル作成などの独自の工夫や、運用体制の構築に取り組んでいる事例がみられた。
【図表3】突然の故障や不具合で困ったことの有無(単一回答、n=657)
【図表4】困ったことの原因(複数回答、n=551)
3. 修繕の体制について
店舗修繕に携わる担当者の体制を、大きく店長・地域統括者・本部の3つに分け、修繕1件あたりの決裁権限額についてたずねたところ、店長の決裁権限額は約8割が「5万円以下(0円含む)」と低く、地域統括者・本部の順で決裁権限額が高くなることがわかった【図表5】。
【図表5】修繕1件あたりの決裁権限額(単一回答、n=619)
事業者の本部修繕担当者1人あたりの担当店舗数についてたずねたところ、直営店舗数の多い事業者ほど、1人あたりの担当店舗数も増加している。店舗数に比例して本部修繕担当者が増加するわけではなく、少人数で対応している傾向がうかがえる【図表6】。
【図表6】本部修繕担当者1人あたりの担当店舗数(n=623)
4. 修繕計画の作成について
店舗ごとの修繕計画作成の有無についてたずねたところ、「作成している」と回答した事業者は全体の約1/3であった【図表7】。また、直営店舗数が多い事業者ほど、修繕計画を作成する割合が高くなる傾向がみられる【図表8】。修繕予算のコントロールや営業継続のために、設備のライフサイクルや経年状況に応じた効率的な修繕の必要性が高まるためと考えられる。
【図表7】修繕計画作成の有無(単一回答、n=657)
【図表8】直営店舗数と修繕計画作成の関係(単一回答、n=649)
5. アンケートやヒアリングからわかったこと
今回のアンケートとヒアリングから事業者における店舗修繕の現状の問題点を以下に整理した【図表9】。
【図表9】店舗修繕の現状の問題
(1)本部の体制
本部では限られた人数で対応しているため、繁忙期には対応が煩雑になり、取り残しや先送りが発生する。
(2)突発時の緊急対応
夜間対応や相見積ができずコストが割高になる、部品の型番確認などで余計な時間がかかってしまう。
(3)修繕計画・予防保全
計画修繕の大切さは認識しているが、設備台帳や修繕履歴が整備されておらず、予防保全が合理かわからないため実施できないなど、計画的・予防的に取り組めない。
(4)情報不足
修繕業務の最適化を検討したいが、成功事例の検索や比較ができない。
アンケートの自由回答では、同業他社の取り組みや状況が知りたいといった情報不足の声が最も多く、ほかに、売上とのバランスで修繕は後回しになりがち、店舗のP/Lに紐づいているから営業に支障がないと対応が遅くなる、経営者が修繕に理解を示してくれないなどの声がみられた。
一方、積極的に修繕業務に取り組んでいる事業者には共通した意識や方針があることがヒアリングからわかった。不具合箇所の放置は、ますます建物や設備の劣化を進め、店舗施設の資産の低下につながるおそれがある。資産価値の低下が進めば、お客様の満足度も下がり、ひいては売上に影響していくという、負のスパイラルに陥ることのないよう、事業者の経営陣自らが修繕業務に対する理解を深め、実行しているということである【図表10】。業種による店舗営業に影響のある設備の数の違いや事業者の方針により、施策の内容や程度は異なるが、外部の協力会社と連携、店舗P/Lからの切り離し、従業員に修繕の方針や具体的な取り組みが浸透するように修繕体制における役割の整理やマニュアル作成・研修の導入などのアクションにつなげているようである。
【図表10】修繕の負のスパイラル
調査期間
2016年7月~11月
調査対象
個人消費を目的とした小売業・飲食業・娯楽業(※1)のうち、2015年度売上高が30億円以上の企業 4,879社(※2)
有効回答数
- アンケート:663社(回答率:13.6%)
- ヒアリング: 13社
調査地域
全国
調査方法
郵送およびWEBにてアンケート調査、およびヒアリング
備考
- Ⅰ.事業および店舗について
- Ⅱ.修繕業務について
- Ⅲ.修繕実行時の具体的な対応について
注釈
- ※1:総務省日本産業分類に基づき、現在、日本の主力商業施設であるショッピングセンター・商業ビル・単独店(ロードサイド)などに出店している業種業態を選定
- ※2:東京商工リサーチ社データに基づき、対象を抽出
- 1-1. 事業者の属性:業種・直営店舗数
- 1-2. 事業者の属性:施設形態・保有形態
- 1-3. 事業者の属性:売場面積・お客様の滞在時間
- 1-4. 事業者の属性:出店地域
- 2. 修繕の方針
- 3. 修繕の体制
- PICK UP:修繕に関する地域統括者の有無
- 4. 修繕計画の作成
- 5. 修繕の運用:困ったこと
- PICK UP:設備の情報管理と修繕計画作成の関係
- 6. 緊急時の特別な運用・予防的観点での取組み
- ザイマックス不動産総合研究所
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