建物管理・修繕・エネルギー

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2016.09.28

修繕の経済性分析

計画的で継続的な修繕が賃料にプラスの影響

レポートの概要
  • ・ これからのストック型社会におけるオフィスビルでは、所有者、投資家、オフィスを利用する企業、オフィスを取り巻く社会それぞれにとって、不動産価値の「劣化」リスクへの対処が課題となる。
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  • ・ 将来発生しうる劣化リスクに対しては、リスクを把握・分類の上で修繕計画を準備し、こまめに対処するといったリスクマネジメントの観点を踏まえた「計画的で継続的な修繕」が重要となる。
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  • ・ ザイマックスが蓄積してきた修繕データ、賃料データをもとに統計的手法を用いて分析したところ、特定の工事種別に関して「事前に準備」し、かつ「こまめに工事を実施」していた場合、そうでない場合に比べ新規賃料が3~7%高くなることがわかった。
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  • ・ 修繕は、故障や不具合を直すだけではなく、計画的に継続的に取り組むことにより劣化リスクを抑え、経済的メリットにつながる不動産マネジメントの重要な要素である。

分析の背景

ストック型社会における重要なテーマ:劣化というリスク

 我が国は、社会の成熟化、人口減少、経済成長率の低下を背景に、大量消費を前提としたフロー型社会から、価値あるものを長く大切に使っていくストック型社会へと移行しつつある。不動産業界においても、新築・再開発に依存するのではなく、既存建物に手を入れて長く使っていく方向となっており、不動産投資においても、短期的なキャピタルゲイン重視から中長期目線でのインカム重視のスタイルに変化してきている。

 不動産、特に建物を長く使っていく上では、時間が経過する間に徐々に進行する不動産の資産価値や利用価値の減少、すなわち「劣化」という将来的なリスクの影響を無視することはできない。

 仮に進行する劣化を放置し、リスクが顕在化した場合、競争力の低下による不動産収益や資産価値の減少につながるおそれがある。また、テナントなどのオフィス利用者や周辺住民に損害を与えた場合、所有者は責任を問われることもありうる。オフィスを知的生産工場として利用する企業にとっても、故障や陳腐化によるオフィス機能の低下は企業の生産性や従業員の健康にマイナスの影響を及ぼす可能性がある。さらに、社会全体にとっても、資産価値や利用価値に欠けるストックの蓄積は却ってマイナスとなると考えられる。このように、劣化というリスクは不動産を取り巻くあらゆるステークホルダーの将来にマイナスの影響を及ぼすおそれがある(図表1)。

【図表1】ストック型社会のオフィスビルにおける劣化と修繕

1609-economic_value_of_repairment_fig1

 なお、一口に劣化といっても、そのスピードや問題として顕在化する頻度は不動産を構成する要素によって異なる。一般的に土地は劣化しないが、建物は時間の経過とともに劣化する。さらに、建物を躯体と付帯設備(※1)とで比較すると、付帯設備の方が耐用年数が短く、比較的早く劣化する傾向にある。

 また、劣化の背景も多岐にわたる。時間の経過や繰り返し使用されることで外装や設備などの品質や性能が損なわれる物理的劣化、利用者の価値観・要求水準の変化や高性能な機器の出現により従来のものが陳腐化する社会的劣化、法令の改正や都市計画変更などにより法的に適合しなくなってしまう法的劣化などに分類される。

 ※1 躯体 … 床や壁、梁など建物の構造を支える骨組み
    付帯設備 … 建物に付随して機能する設備(電気、給排水、空調、昇降機など)や内装造作など

リスクマネジメントとしての計画的で継続的な修繕

 このような複雑な劣化リスクに対処するための不動産マネジメントが「修繕」である(本レポートにおいては建物を良好な状態に維持するための工事全般を指し、性能維持工事からバリューアップ工事まで含めている)。

 劣化がリスクである以上、修繕はリスクマネジメントの観点で取り組むことが求められる。具体的には、現地調査とこれまでの記録をもとに将来起こりうる修理・改修項目を網羅的に「①把握」し、頻度と被害の大きさで「②分類」して優先順位を整理し、一時に集中させず継続的に「③こまめに対応」し、社会的責任・ニーズを踏まえたうえで修繕を「④計画・準備」して予算を確保することが望ましい。リスクマネジメントの観点を踏まえた修繕は、場当たり的で事後対応的、先延ばしで対応する場合と比較して、費用面や労力面、さらにテナントへの影響度などの点でメリットがあると考えられる。

 しかし、不動産マネジメントの実務においては、必ずしもリスクマネジメントの観点を踏まえた計画的で継続的な修繕が実施されているとは限らない。修繕の重要性の認識が不十分であったり、ノウハウやデータの蓄積、マンパワーの投入などの制約もある上、収益増など経済的なメリットが見えづらいことが背景にあると考えられる。

 そこで本レポートでは、新規賃料および修繕実績データをもとに統計的手法を用いて分析することで、リスクマネジメントの観点を踏まえた計画的で継続的な修繕の経済的なメリットを検証することとした。

分析とその結果

分析用データおよび分析手法

 本分析では、ザイマックスが不動産マネジメント業務を行う中で蓄積してきた新規成約賃料データベースおよび修繕実績のデータベースを使用している。

 分析用データとして、東京23区に所在するオフィスビル245棟における1997年から2015年までの新規賃料データ2,167件に対し、延床面積や築年数、エリアなどオフィスビルの特性を表すデータと、計画的で継続的な修繕が実施されているか否かを示すデータを付与する形で整備した(データの概要については本レポート末尾「分析概要」参照)。

 なお、計画的で継続的な修繕が実施されているか否かの判定は、「成約時点以前の過去3年連続で工事実績が存在した場合(継続性)」かつ「成約時点の前年度に修繕計画で事前に計画された工事を実施した場合(計画性)」で行っている。

 また、どのような工事において計画的で継続的な修繕の効果がみられるかを検証するため、修繕工事を6種類に分類した。修繕工事の分類には、建築・電気・空調など工種による分類、工事部位による分類、会計上の区分による分類、日常保全やバリューアップなど目的による分類など様々な方法が存在するが、本分析においてはこれら既存の多様な分類を主成分分析により6種類まで整理したものを用いている(図表2)。

【図表2】分析に用いた修繕工事の分類

1609-economic_value_of_repairment_fig2

 分析手法としては、回帰分析のテクニックを用いて品質や性能と価格の対応関係を明確化する統計的な手法であるヘドニック・アプローチを用いた。これにより立地、規模、新しさなど他の影響を取り除いたうえで、計画的で継続的な修繕による新規賃料への影響を計測することができる。

分析結果および考察

 分析の結果、計画的で継続的な修繕が実施された場合、そうでない場合に比べ、空調工事で+3.5%、設備工事で+6.9%、法令対応工事で+5.2%、改善工事で+6.9%新規賃料が高いという統計的に有意な結果が得られた。一方、入居対応工事、清掃工事の係数推定値については有意な結果が得られなかった(図表3の中央の列)。

 なお、参考までに、計画性や継続性を考慮せず単純に修繕を実施したか否かで同様の分析を行った場合、改善工事では有意にプラスな結果が得られたが、空調工事・設備工事・法令対応工事では有意な推計結果とならず、新規賃料への影響は確認されなかった(図表3の右列)。

【図表3】計画的で継続的な修繕による新規賃料への影響

1609-economic_value_of_repairment_fig3

 空調工事・設備工事・法令対応工事は、故障や不具合が発生した際にテナントの不満や不安につながりやすい。計画的で継続的な修繕に取り組むことは、トラブルの発生を未然に防ぎ、発生したとしても被害を最小限に抑えることにつながる。本分析結果は、このような不動産マネジメントの姿勢をテナントが評価していることを示していると考えられる。また、照明のLED化や耐震改修などの改善工事は、オフィスビルの性能を向上させることにつながるため、新規賃料へプラスの影響が確認されたと考えられる。

まとめ

 本レポートでは、ストック型社会のオフィスビルにおいて課題となる劣化と修繕について、リスクおよびリスクマネジメントの観点から整理した上で、計画的で継続的な修繕の実施による新規賃料への影響について分析を行い、修繕工事の種類によっては約3~7%程度プラスの効果があることを示した。

 ザイマックス不動産総合研究所が行った「オフィスの利用に関するアンケート調査」(2014)によると、オフィスビルを選ぶ際「大変重視する」条件として「ビルの清掃衛生・維持管理状態」を挙げた企業は41%に及ぶ。なお、これは賃料が安いこと(62%)、耐震性(51%)、24時間365日利用可能(42%)に続く第4位である。今回の分析は、利用者である企業が立地・規模・新しさだけでなく、良質な不動産マネジメントを求めていることを定量的な分析により裏付けたものといえる。

 修繕は故障や不具合を直すだけではなく、計画的に継続的に取り組むことにより劣化リスクを抑え、また経済的メリットにつながる不動産マネジメントの重要な要素である。ストック型社会への移行、不動産投資行動の変化、テナントニーズの変化、ワークスタイルの変化、労働力不足や建設費の上昇など、不動産を取り巻く状況が変わっていく中、これからは、ますます中長期的な視点を持った不動産マネジメントの重要性が高まっていくものと考える。

 本分析は修繕と新規賃料の関係をみているため、もっぱら賃貸用不動産を対象としたものといえるが、計画的で継続的な修繕を行っていくことの重要性は、自社ビルの場合でも同様であり、社員の安心・安全、生産性の維持・向上、事業の継続性等の観点で重要である。

 今回の調査結果が、建物ストックの良好な形成、リスクの軽減、良好な不動産マネジメントの一助となれば幸いである。

分析概要

分析対象

東京都23区に立地するオフィスビル245棟

対象期間

1997年~2015年

データ数

2,167

データの平均像

  • 新規賃料の平均値 : 17,029円/坪
  • 延床面積の平均値 : 1,844坪
  • 築年数の平均値  : 18.1年

分析に使用した変数

<被説明変数>

  • 面積あたり新規賃料 ※共益費含む

<説明変数>

  • 延床面積、地上階数、基準階面積、築年数、OAフロアの有無、個別空調の有無、機械警備の有無、 最寄り駅からの徒歩分数、所在するオフィスエリア、成約年、計画的で継続的な修繕の実施有無(※)
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  • ※…「成約時点以前の過去3年連続で工事実績が存在した場合(継続性)」かつ「成約時点の前年度に修繕計画で事前に計画された工事を実施した場合(計画性)」に1とするダミー変数を 6種類の工事分類ごとに判定
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