2016.04.28
オフィスマーケットレポート 東京 2016Q1
- ・東京23区全体のオフィスマーケットでは、企業の床需要が引き続き堅調で、かつオフィスの新規供給が限定的であることから、空室率、成約賃料はともに改善を続けている。一方、企業のコスト意識は強く、本格的な賃料上昇は一部に限られ、全体で見ると緩やかなスピードに留まっている。
- ・空室率は4.46%。前期と比べ0.37ポイント下降(15四半期連続の下降)。企業の集約移転ニーズを受け、大規模ビルを中心に空室が順調に消化されている。
- ・新規賃料の水準を示す新規成約賃料インデックスは97。前期と比べ+1。賃料が上昇した物件の割合から下落した物件の割合を引いた成約賃料DIは+17。賃料上昇のスピードは緩やかである。
- ・新規と継続賃料両方を含む支払賃料インデックスは84。前期と比べ2ポイント上昇した。
- ・平均フリーレント月数は3.2か月。前期と比べ0.3か月増加。6か月フリーレントを付与する割合は6.6ポイント増の35.2%。
空室率
図表1は、2011年から東京23区の空室率の推移を示したものである。2016年第1四半期は4.46%、前期4.83%から0.37ポイント下降し、15四半期連続の下降となった。
図表1:空室率
前向き移転を検討する企業が多く、オフィス床への需要は相変わらず堅調である。
都心部の新築オフィスビルで竣工前に空室が消化されたケースもあり、主に都心5区がけん引して全体の空室率が順調に下がりつつある。
また、業務効率化を図る集約移転が多くみられ、大規模ビルの人気が根強い。都心部の空室在庫が極めて少ない状況が続いており、品川シーサイドなどの周辺エリアにも需要が広がっている。
基準階100~200坪ぐらいの中規模ビルにおいても、使い勝手の良さや値ごろ感が評価され、空室在庫が急激に減少している。
背景には、昨今、事業拡大、人材確保及び業務効率化を前提に、企業が一定のグレード以上の物件を求めるようになってきたことがある。この流れを受け、これまで都心エリアのハイスペックビルを中心に空室率が下がってきたと考えられる。
一方で、景気の先行きには不透明感が漂いつつあり、固定費用となるオフィス賃料の増加をなるべく抑制したいと考えている企業が多い。都心部に立地する築浅物件での空室在庫の減少や賃料上昇を受け、企業が希望する立地やスペックを緩め、広い範囲で候補物件を検討するケースが多く見られるようになった。
また、希望と合致するような物件が見つからず、企業が現時点での移転自体を見送るケースも出てきている。このような場合に、レイアウトや内装、書類整理、ワークスタイルの見直しなど、オフィススペースを効率的に利用する工夫で対応している企業が見られた。
新規成約賃料
図表2は、新規成約賃料インデックスの推移を示したものである。2016年第1四半期は97、前期96と比べ+1で微増となった。空室の需給が引き締まっている一方で、マーケット全体で見れば、新規成約賃料の上昇傾向は緩やかなペースに留まっている。
図表2:新規成約賃料インデックス
図表3は規模別の新規成約賃料インデックスの推移を示している。東京23区全体では、延床面積5,000坪未満の中小規模物件では99、延床面積5,000坪以上の大規模物件では105となった。中小規模ビルの賃料上昇が引き続き緩やかである一方、大規模ビルの賃料上昇が加速しつつあることが読み取れる。
図表3:規模別の新規成約賃料インデックス
大規模ビルでの賃料上昇の背景には、テナント企業において業務効率の向上を目指した拠点集約の動きが引き続き多いことが挙げられる。また、まとまった面積を確保できる大規模ビルがニーズを集め、都心部の大規模空室在庫が極めて少なくなり、やむを得ず周辺エリアへの移転を検討するケースも現れ、大規模ビルはエリア問わず堅調な賃料上昇が見られるようになってきた。
中小規模ビルでは、空室率の低下を受け、賃料上昇傾向が見られるものの、スペックや立地によっては企業の前向き移転のニーズと合致しにくいこともあり、上昇スピードは緩やかなペースに留まっている。
図表4、図表5は、成約賃料DI(東京23区、都心3区)の推移である。2016年第1四半期は、東京23区で「+17」、都心3区で「+13」と、いずれも4期連続でプラスであり、上昇した物件が下落した物件より多い状況が続いている。
図表4:成約賃料DI(東京23区)
図表5:成約賃料DI(都心3区)
東京23区での内訳をみると、ここ一年、成約賃料が上昇した物件の割合は約40%、下落した物件の割合は20%台と安定している。好立地の大規模ビルの空室在庫がわずかしかない状況を受け、オフィス探しの企業が移転先に対する希望条件がより柔軟になっている。以前選ばれにくかった物件でも成約まで至り、成約賃料が上昇するケースが見られるようになった。マーケット全体で見ると回復が広く浸透してきたことが分かった。
支払賃料
支払賃料インデックスは、新規賃料と継続賃料の両方を含む支払賃料を調査対象としており、企業がオフィスに支払う賃借料、オフィスビルの収益の時間的変化を示している。図表6は2005年以降の推移を示している。
図表6:支払賃料インデックス
2016年第1四半期は84と、前四半期と比べ2ポイント上昇し、(2010年第1四半期を100としたときの水準)、2四半期ぶりの上昇となった。支払賃料は、2013年第3四半期に底を打って以降、非常に緩やかな動きを示していたが、直近では、やや上昇スピードが上がりつつある状況が観察された。
先述のように新規賃料が緩やかながら上昇傾向を続ける中、賃貸借契約更新に際してオーナーから賃料増額の申し入れが見られるようになり、継続賃料も上昇しつつあることが背景にあると考えられる。
フリーレント
図表7は、新規契約のうちフリーレントを付与した割合(付与率)と、フリーレント期間の平均値(平均フリーレント月数)の推移を表したものである。
図表7:フリーレント
2016年第1四半期のフリーレント付与率は、いずれの区分においても増加した。平均フリーレント月数に関しても、フリーレントあり契約平均が横ばいとなったが、全契約平均が前回よりさらに増加し、3.2ヶ月となった。
2、3ヶ月程度のフリーレントが慣行化しつつある中、都心大規模物件を中心に、より高い水準の賃料を確保するため戦略的にフリーレントを活用するケースが見られるようになった。
マーケットの循環
図表8は、横軸に空室率、縦軸に新規成約賃料インデックスをとって、四半期ごとにプロットしたものである。
図表8:マーケット循環
図上では、2001年以降右下方向(空室率上昇・賃料下落)に移動し、2003年から2004年の停滞期を経て、2005年以降左上方向(空室率低下・賃料上昇)へ移動し、2008年以降再び右下(空室率上昇・賃料下落)方向へ移動、とマーケットが循環しながら推移する様子が観察できる。
オフィス賃貸マーケットは回復期に移行し、2016年時点でもその傾向は継続している。空室率が着実に低下している一方で、新規賃料の上昇スピードは鈍い。前回の循環において賃料が急上昇し始めた空室率水準にすでに到達しつつあり、一部では顕著な賃料上昇も見られるものの、東京23区全体で見ると賃料の本格的な上昇はまだ見られない。経済の先行きの不透明感やオリンピック前のオフィスの大量供給が懸念され、今後のマーケット動向に注目する必要がある。
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