マーケット指標

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2015.10.15

支払賃料インデックスを公開

~企業が支払うオフィス賃借料の時間的な変化、オフィス不動産の安定性を示す~

ザイマックス不動産総合研究所は、東京23区のオフィスビルのテナント契約データをもとに、「支払賃料インデックス」を開発した。今後、ホームページで3ヶ月ごとに公表する。

これまで、オフィス賃貸マーケットの動向を示す「新規賃料」に関する指標は多く発表されてきたが、企業のオフィス賃借料およびオフィスビルの収益性を示す「支払賃料※」に関する指標はなかった。

※…支払賃料は、新しく成約・入居したテナントの賃料である新規賃料だけでなく、以前から入居し続けるテナントの賃料である「継続賃料」を含んでいる。このうち、継続賃料はビルオーナーとテナントとの継続的な関係をベースに決定されるため、賃貸マーケットの需給状況で決まる新規賃料とは異なるメカニズムを持つものと考えられる。

今回開発した「支払賃料インデックス(図表1)」は、以下のような特徴を持ち、企業が支払うオフィス賃借料の時間的変化を示している。
  1. 新規賃料と継続賃料の両方をサンプルに含んでいる。
  2. オフィスビル単位ではなく、テナント単位で集計した賃料を用いている。
  3. 統計的手法(ヘドニック法)を用いることで、サンプルの入れ替え、オフィスビルの経年劣化、テナントのオフィス選好の変化に対応している。

図表1 支払賃料インデックス(2005年第1四半期~2015年第2四半期)

図表1 支払賃料インデックス(2005年第1四半期~2015年第2四半期)
本指標は、不動産所有者、投資家にとって、オフィスビルの不動産収入の実態を把握し、適切な意思決定する上で有用なツールとなる。これまで定量的に示すことが難しかった収益の安定性を理解し、説明する際にも役立つと考えられる。また、オフィスを賃借する企業にとっては、継続使用している区画も含めた賃借料の時間的な変化を理解し、戦略的な経営判断を行うためのベンチマークとなることが期待される。

1. 使用したデータ

本指標の調査対象は、東京23区に所在するザイマックスが運営管理業務を行うオフィスビルである。ザイマックスでは、業務を受託したオフィスビルにおけるテナントの賃貸借契約を契約書、覚書単位でデータベース化しており、本指標ではこれを利用し、テナント単位で賃料単価を集計した。このテナント単位の賃料単価データに、物件属性としてオフィスビルの立地・規模・性能を対応させ、1サンプルとしている。 直近の2015年第2四半期のサンプル数は4,374テナント(187棟)、延床面積の平均は5,111坪、築年数の平均は23.63年であった(データの大まかな特徴、分布を「4.指標の概要」に掲載)。

※なお、以下のような、一般的なオフィスビル像、オフィス仕様とは異なるサンプルは取り除いている。 ・倉庫や店舗といった事務所とは異なる用途の区画 ・地下階や1階の区画 ・延床300坪未満、基準階面積30坪未満のオフィスビル ・上記のほか、外れ値と考えられるサンプル

2. 支払賃料インデックスの算出

サンプルの性質上、テナントの入退去および運営管理業務の開始終了などにより、サンプルは常に一定ではなく、少しずつ入れ替わっていく。そのため、賃料の単純平均をとるだけでは、巨大で築浅なオフィスビルがサンプルに入ると賃料水準が上昇し、サンプルから外れると下がることになり、賃料水準の時間的な変化だけを抽出して観察することが難しい。 そこで、本指標では、賃料への影響を取り除くための手法として、消費者物価指数(性能変化が激しいパソコンなど)でも用いられているヘドニック法を採用した。 このようにして算出した支払賃料インデックスを示したものが図表2である。2009年1四半期にピーク、2013年第3四半期にボトムと循環的に推移していることがわかる。なお、直近2015年第2四半期は81であり、ボトムからゆるやかに上昇しつつある傾向が読み取れる。

図表2 支払賃料インデックス(2005年第1四半期~2015年第2四半期)

図表2 支払賃料インデックス(2005年第1四半期~2015年第2四半期))

新規賃料の指標である新規成約賃料インデックス(※)と並べたものが図表3である。ともに7、8年程度で循環していることがわかる。

※新規成約賃料インデックスについては、2014.9.19付リリース「ザイマックス新規成約賃料インデックスを発表」を参照

直近のピークを比較すると、新規賃料が2008年第2四半期、新規と継続を含んだ支払賃料が2009年第1四半期と、約1年のラグがある。同じくボトムを比較すると、新規賃料が2012年第2四半期、支払賃料が2013年第3四半期と、約1年半のラグがある。また、ピークからボトムまでの変動を比較すると、新規賃料が164から74なのに対し、支払賃料は109から73と変動幅が狭い。 以上から、支払賃料は、新規賃料と比べて遅れて変化し、変動幅が狭く、安定的に推移する性質を持つことがわかる。

図表3 支払賃料と新規成約の比較

図表3 支払賃料と新規成約の比較

3. 考察

前項で指摘した「新規賃料と比べ遅れて変化し、変動幅が狭く安定的」という支払賃料の持つ性質の背景について以下で考察する。 テナント契約データを基に、入居中のテナントについて「1年間のうちに賃料が変化しなかった確率」を算出したところ、78.5%となった(2009年第4四半期時点)。なお、賃料が変化しないケースとは、契約更新のタイミングが無かった場合(図表4の①)、新しいテナントに入れ替わったが賃料水準が変わらなかった場合(同②×③)、契約更新のタイミングだったが賃料を据え置いた場合(同④×⑤)が該当する。

図表4 賃料が変更するイベントが発生する確率と賃料が変化する確率

合計
うち上昇 うち据置 うち下落
イベントが発生しない 31.6%① - - -
テナント退去(空室のまま) 5.0% - - -
テナント入替 2.0%② 20.0% 5.7%③ 74.3%
契約更新 61.4%④ 8.5% 76.2%⑤ 15.3%
「1年間のうちに賃料が変化しなかった確率」を四半期ごとに算出したものが図表5である。対象期間にマーケット好調だった時期と不調だった時期がともに含まれるにも関わらず、8割程度で変化していないことからも、支払賃料はマーケットの影響を受けづらい性質を持つことが確認できる。

図表5 1年間のうちに賃料が変化しなかった確率

図表5 1年間のうちに賃料が変化しなかった確率

テナントは、自身の事業上の問題や戦略を背景に賃貸借契約の解約や変更を検討する。移転により、コスト削減や業務効率の向上、立地改善などのメリットを得ることができる一方で、引越や原状回復のコスト、マーケットの状況によっては賃料上昇のリスクなどのデメリットもある。

オーナーとってテナントの移転は、テナント入れ替えによる収益増加のチャンスである一方で、仲介手数料などの募集コスト、次のテナントが決まるまでのダウンタイム、契約開始から賃料が発生するまでのフリーレントによる収益ロスが発生するなど様々なリスクがある。 このように、テナントとオーナーがそれぞれの事情を抱えながら交渉に臨み、最終的に退去、値上げ、値下げ、据え置きなど継続賃料が決定されることになる。 以上から、継続賃料の決定に際しては、オフィス賃貸マーケットだけでなく、テナントとオーナー双方の事情や交渉が影響を与えている。このことが、新規賃料と継続賃料を含む支払賃料が、新規賃料と比べ遅れて変化し、変動幅が狭く安定的であることの背景にある。

※本考察に関しては、2015年8月発行の不動産証券化ジャーナルvol.26「オフィス賃料変化のマイクロ構造~不動産(オフィスビル)収益の安定性を考察する~」(p61-67)にて詳述。

4. 支払賃料インデックスの概要

名称 支払賃料インデックス
特徴 企業が支払っているオフィス賃借料面積単価の時系列変化 (新規に契約した区画と継続的に使用する区画を含む)
対象 東京23区に所在するオフィスビル
集計単位 テナント単位
集計期間 2005年第1四半期から2015年第2四半期まで ※以後継続
発表頻度 四半期
発表までのラグ 40日程度
データソース ザイマックスが不動産マネジメント業務を受託するオフィスビルにおけるテナント賃貸借データ
サンプル数 4,347テナント(187棟) 2015年第2四半期
指数作成手法 ヘドニック法
指数の特徴
  1. 新規賃料と継続賃料の両方をサンプルに含んでいる。
  2. オフィスビル単位ではなく、テナント単位で集計した賃料を用いている。
  3. 統計的手法(ヘドニック法)を用いることで、サンプルの入れ替え、オフィスビルの経年劣化、テナントのオフィス選好の変化に対応している。

使用したデータの基本統計量

使用したデータの基本統計量

使用したデータの分布(延床面積、築年数)

使用したデータの分布(延床面積、築年数)

5. 支払賃料インデックスの推移

時期 支払賃料 インデックス (参考) 新規成約賃料 インデックス
2005Q1 100 99
2005Q2 97 101
2005Q3 96 101
2005Q4 96 105
2006Q1 95 116
2006Q2 95 118
2006Q3 94 120
2006Q4 94 129
2007Q1 91 135
2007Q2 92 139
2007Q3 94 150
2007Q4 95 147
2008Q1 100 146
2008Q2 102 161
2008Q3 104 148
2008Q4 105 145
2009Q1 105 129
2009Q2 105 117
2009Q3 104 111
2009Q4 102 109
2010Q1 100 100
2010Q2 97 96
2010Q3 93 100
2010Q4 91 94
2011Q1 89 93
2011Q2 87 91
2011Q3 85 93
2011Q4 84 90
2012Q1 83 85
2012Q2 82 76
2012Q3 81 82
2012Q4 79 83
2013Q1 78 93
2013Q2 78 81
2013Q3 77 87
2013Q4 77 87
2014Q1 78 94
2014Q2 79 91
2014Q3 80 94
2014Q4 80 94
2015Q1 80 92
2015Q2 81 93
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