東京23区におけるオフィス賃料と住宅賃料の比較分析

エリア別賃料の推移から見る用途間のパワーバランスの変化

ザイマックス総研が実施したオフィスビル建て替え調査(*1)では、解体されたオフィスビルのうち住宅へ用途転換された割合は都心5区で18%、周辺18区では48%と、住宅へと建て替えられた事例が一定数確認された。

このような建て替え用途の地域による違いは、立地ごとにオフィスと住宅のどちらがより高い収益性を見込めるかという用途競合が一つの要因として影響していると考えられる。

特に、近年は住宅賃料や住宅価格の上昇が続いており、各エリアにおけるオフィスと住宅の収益性のバランスは変化している可能性がある。

以上の背景を踏まえ、本レポートでは東京23区の主要オフィスエリアを対象に、2020年第1四半期(以下、2020Q1)から2025年第4四半期(以下、2025Q4)にかけてオフィス賃料と住宅賃料の推計・比較分析を行う。これにより、各エリアにおけるオフィスと住宅の賃料バランスの変化を明らかにすることを目的とする。

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主な調査結果

  • オフィスの新規成約賃料と住宅総合のモデル賃料について、2020Q1を100としてインデックス化したところ、2025Q4のオフィスは2020Q1と同じ100であったのに対し、住宅総合は120と、20ポイントの上昇となった。【図表1】。
  • 主要10区のオフィスにおいて、一部エリアを除いて明確な賃料上昇はみられなかった【図表2】。
  • 東京 23 区の住宅において、全てのエリアで賃料の上昇が進んだ【図表 3】
  • オフィスと住宅を比較すると、2020Q1では対象エリアの広範で"オフィス優位"であったのに対し、2025Q4では"住宅優位"の方向への転換が進んだ【図表4】。
<分析概要>
分析データ

オフィス:ザイマックス総研が収集した賃貸オフィス成約事例データ
住宅:株式会社不動産経済研究所の住宅データベース「BRaiN」の賃貸住宅募集情報

調査地域

オフィス:東京23区のうち、対象成約事例数が年平均50件以上の10区
                (以下、主要10区)
                (港、中央、千代田、新宿、渋谷、品川、豊島、江東、文京、台東)
住宅:東京23区のうち、分析対象事例が年平均100件以上のエリア

対象期間

2018年4月から2025年12月までの募集終了・成約事例

分析方法

オフィス、住宅それぞれでヘドニックアプローチによってモデルビルの賃料を推計し、それらをエリアごとに比較する。

住宅の部屋タイプは、専有面積に応じて、次の区分で定義する。住宅総合の賃料はこれらの部屋タイプの賃料を件数に基づく加重平均により算出した。

シングル:15㎡以上30㎡未満 / コンパクト:30㎡以上60 ㎡未満 / ファミリー:60㎡以上100㎡未満

topic 1

東京23区のオフィス賃料と住宅賃料を、それぞれ2020Q1 = 100としてインデックス化したところ、オフィスは2025Q4で100と2020Q1と同じ値となった一方、住宅総合では2020Q1から20ポイント上昇し120となった。分析期間の賃料変化は、オフィスと住宅の間で大きな差がある。

【図表1】オフィス・住宅賃料インデックス(2020Q1 = 100)

topic 2

主要10区の各エリアについて、2020Q1と2025Q4のオフィスモデル賃料を比較すると、「渋谷・恵比寿・広尾」、「代々木・千駄ヶ谷・神宮前」などの一部エリアで明確な賃料上昇があったが、下落したエリアや横ばいとなったエリアもみられる。

【図表2】2020Q1と2025Q4のオフィスモデル賃料の比較

topic 3

東京23区の各エリア別について2020Q1と2025Q4の住宅モデル賃料を比較すると、全てのエリアで賃料が上昇した。

最も賃料が高い「赤坂・六本木・青山」では、2020Q1の16,968円/坪から、2025Q4には19,711円/坪まで上昇した。また、2020Q1では17,000円/坪を上回るエリアはなかった一方、2025Q4では10エリアが17,000円/坪を上回った。

2020Q1の最低値は「足立区」の9,270円/坪で、5つのエリアで10,000円/坪を下回っていた。それに対し、2025Q4の最低値は「江戸川区」の11,122円/坪と、全エリアが11,000円/坪超となり、市場全体の底上げが起こっている。

【図表3】2020Q1と2025Q4のエリア別住宅賃料の比較

topic 4

エリアごとのオフィス住宅賃料レート(*2)を2020Q1と2025Q4で比較すると、2020Q1では対象の10区の広範で"オフィス優位"であったのに対し、2025Q4では都心の一部エリアを除き多くのエリアが"住宅優位"に転換した。

*2 オフィス住宅賃料レートおよびエリアの"住宅優位"と"オフィス優位"は以下の定義による。
延床面積換算モデルオフィス賃料 = オフィスモデル賃料 × 0.7
延床面積換算住宅モデル賃料 = 住宅モデル賃料 × 0.8
オフィス住宅賃料レート = 延床面積換算住宅モデル賃料 ÷ 延床面積換算オフィスモデル賃料
オフィス住宅賃料レート > 1の場合"住宅優位"、オフィス住宅賃料レート < 1の場合"オフィス優位"のエリアとして定義

【図表4】2020Q1と2025Q4のオフィス住宅賃料レートの比較(地図)

これらの結果は、従来オフィス立地と評価されてきたエリアでも、近年の住宅賃料の上昇によって、「職」と「住」の立地特性が変化している可能性を示唆している。

一方、2026年に入ってからはオフィス賃料も上昇基調が明確となっており、両者の差は再び変動している可能性がある。用途の優位性は市場環境に応じて常に変化するため、ビルオーナーが建て替えやコンバージョンを検討する際は、従来の用途を前提とせず、エリアごとのニーズや収益性を継続的に捉え、用途を検討することが重要である。

ザイマックス総研では、今後も不動産市場の動向について、多面的な視点から調査研究を行っていく。