はじめに
都市における不動産ストックは、経済情勢や産業構造、人口動態、都市政策などの影響を受けながら、時間の経過とともに利用形態を変化させてきた。とりわけオフィスビルは、築年の進行や働き方の変化、テクノロジーの進展といった社会経済環境の変化を背景に、建て替えや用途転換を通じてストックの更新が進んでいる。
ザイマックス総研は、これまで都市における不動産利用の実態把握とその変化の分析に取り組んできた。本調査では、不動産ストックのうち、東京23区におけるオフィスビルの建て替え前後の動きに着目し、建物の規模、築年、用途、棟数構成など、多面的な視点からストック更新の実態を整理したものである。ザイマックス総研が独自に収集・更新している建物データベースに加え、インターネット調査や現地調査などの補完的手法を用いることで、近年のオフィスストックの変化をできるだけ正確に把握することを目指している。
本調査で得られる知見は、不動産所有者・利用者・投資家などの民間主体から、都市計画を担う行政関係者に至るまで、今後のオフィス利活用やエリアの将来像を検討する際の基礎情報となるものである。こうした建物の更新実態を俯瞰することで、東京23区における都市の成熟と再編の姿を理解する一助となれば幸いである。
主な調査結果
- 東京23区のオフィスビルの滅失率は、2014~2024年を通じて概ね年間0%で推移しており、取り壊しは長期的に安定した率で発生している。
- 取り壊されたオフィスビルは中小規模物件が中心であるが、大規模物件も一定数含まれる。
- 取り壊し後、新しい建物に建て替えの場合は、オフィス用途が半数以上を占める一方、住宅やホテル等への用途転換も多い。
- 都心5区では「オフィス→オフィス」への建て替えが主流であるのに対し、周辺18区では「オフィス→住宅」への建て替えが約半数を占める。
- 建て替え前後の棟数構成の変化は都心5区では「1棟→1棟」と「複数棟→1棟」がほぼ同程度であるのに対し、周辺18区では「1棟→1棟」が約8割を占めている。
<調査概要>
2025年3月~2025年12月
2025年3月時点で物件データベースに登録されているオフィス物件
東京23区
ザイマックス総研が独自に収集したデータに加え、インターネット調査や現地調査を実施して集計
1. 調査対象の概要と物件属性の比較
本章では、東京23区におけるオフィスビルの更新実態を明らかにするため、現存物件と取り壊し物件の基本属性を比較・分析する。
分析には、ザイマックス総研が継続的に整備している建物データベース(東京23区内の主用途がオフィスであるビルを網羅)を用いた。なお、分析の精度を期すため、竣工年が不明な物件は除外している。
本調査における「取り壊し物件」は、同データベースの記録に基づき、現地確認等を通じて物理的な解体が判明した物件と定義した。
まず、これらを2025年12月時点の現存物件と対比させ、それぞれの件数、延床面積、および経過年数(現存物件は2025年時点、取り壊し物件は解体時点)について、全体像を整理した結果を【図表1】に示す。
【図表1】現存物件と取り壊し物件の比較(棟数・延床面積・築年数)
次に、取り壊し物件がどの程度の規模の建物だったのかを把握するため、延床面積の分布をヒストグラムとして【図表2】に示す。取り壊されたオフィスビルは、延床面積500坪未満が4割強、500~5,000坪未満の中規模ビルが約5割を占める。すなわち、全体の大半は延床面積5,000坪未満の中小規模ビルである。
【図表2】取り壊し物件の延床面積ヒストグラム
また、取り壊し物件の築年数(取り壊し時点)の分布を【図表3】に示す。これをみると、平均築年数は41.9年(中央値43.0年)で、40~55年を経過したオフィスビルが多く、築古化が取り壊し判断の重要な要因となっていると推測される。一方で、築年数が比較的浅い段階で取り壊されている物件も存在しており、経年による劣化だけではなく、耐震性能や設備水準の向上、立地の高度利用といった観点から、比較的早期に建て替えが選択されるケースもあると考えられる。
【図表3】取り壊し物件の築年数ヒストグラム
さらに、東京23区のオフィスストックがどのように推移してきたかを把握するため、2014年から2024年までの各年の滅失率を【図表4】に示す。滅失率とは、各年の1月1日時点で存在していた物件のうち、その年のあいだに取り壊された物件の割合である。オフィスビルを取り壊す要因としては、老朽化や周辺の開発状況などが考えられるほか、テナントの入居状況にも左右される。年によって多少の変動はみられるものの、滅失率は概ね年間1.0%前後で推移しており、オフィスビルの取り壊しは長期的にみて比較的安定した確率で発生していることが分かる。
【図表4】東京23区オフィス物件の年間滅失率(2014-2024年)
2. 取り壊し後の用途と棟数構成の変化
本章では、前章で整理した取り壊し物件について、その後にどのような建物が建てられたのか、用途別・棟数構成別に整理する。
その特定にあたっては、まず取り壊し物件の所在地および敷地をもとに、ザイマックス総研の建物データベースとの突合を行い、同一敷地上で新たに建設された物件を特定した。データベース上で把握や判別が困難なケースについては、インターネット調査や現地調査などにより現況を確認し、取り壊し後の主用途や棟数構成の情報を補完している。
このプロセスにより、取り壊し前がオフィス用途であった物件について、取り壊し後の主用途および棟数構成を把握した。
2.1. 取り壊し後の用途別の傾向
オフィスビルが取り壊された後の用途が判明している物件について、主用途区分ごとに件数、取り壊し前の平均延床面積、取り壊し時点の平均築年数を整理した【図表5】。
オフィスを取り壊した後の主用途はオフィスが半数以上を占めるものの、住宅やホテル、商業等の他用途もみられる。「オフィス→オフィス」の建て替えが行われた物件は、取り壊し前の平均延床面積が1,977坪と、他用途へ転換された物件に比べて大きい。一方、取り壊し時点の平均築年数は概ね40年前後となり、用途間で大きな差はみられなかった。
【図表5】取り壊し後の主用途別件数と平均延床面積・平均築年数
次に、これらの物件について、取り壊し後の主用途が都心5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)と周辺18区でどのように異なるかを比較する【図表6】。
都心5区では取り壊されたオフィスビルのうち約6割がオフィスに建て替えられており、オフィス用途の継続が主流であることがわかる。一方で、周辺18区においては約半数が住宅へと建て替わり、オフィスとして更新されたものは約3割にとどまっている。周辺18区ではオフィスより住宅需要が底堅く、土地の最有効使用の観点から、住宅への建て替えが進んでいると考えられる。
【図表6】取り壊し後の用途(エリア別)
さらに、取り壊し後の物件の主用途が地域的にどのように分布しているかを把握するため、主用途別に物件を地図上にプロットした結果を【図表7】に示す。
これをみると、オフィスとして建て替えられた物件は、都心5区を中心とした主要オフィスエリアに比較的多く分布していることが分かる。一方、住宅への用途転換が行われた物件は、都心部に限らず周辺18区に広く分布しており、住宅需要の高いエリアで用途転換が進んでいる様子がうかがえる。ホテルや商業施設への転換については、主要駅周辺や人流の多いエリアに点在しており、立地特性を活かした用途選択が行われている模様だ。このように、取り壊し後の用途は一様ではなく、エリアごとの機能や需要構造を反映して分布していることがわかる。
【図表7】建て替え後の物件の主用途別のエリア分布
* 背景地図はMapboxおよびOpenStreetMapを使用
2.2. 建て替え前後の棟数構成の変化
用途だけでなく、建て替え前後で敷地内の棟数構成がどのように変化したかについても整理した。具体的には、取り壊し物件ごとに、取り壊し前に同一敷地内に存在していた建物棟数と、取り壊し後に同一敷地内で新たに建設された建物棟数を把握し、その組み合わせに基づいて棟数構成の変化を以下のように定義した。
- 1棟のビルが取り壊され、同じく1棟のビルが建てられるケース(1棟→1棟)
- 1棟が取り壊され、複数棟のビルが建てられるケース(1棟→複数棟)
- 複数棟のビルが取り壊され、1棟のビルが建てられるケース(複数棟→1棟)
- 複数棟が取り壊され、複数棟が建てられるケース(複数棟→複数棟)
これらのパターンごとに、取り壊し前の物件の平均延床面積および取り壊し時点の平均築年数を整理したものが【図表8】である。
棟数構成の変化は、「1棟→1棟」と「複数棟→1棟」のケースがほとんどである。「複数棟→複数棟」の建て替えでは、取り壊し前の平均延床面積が他のパターンと比べて大きいが、一部の大規模物件が平均値を押し上げている可能性がある点には留意が必要である。そのほか、いずれのパターンも取り壊し前の平均延床面積や築年数に差はみられなかった。
【図表8】棟数構成の変化別の取り壊し前物件の平均延床面積・平均築年数
棟数構成の変化が都心5区と周辺18区でどのように異なるかを確認するため、各エリアにおける構成比を集計した結果を【図表9】に示す。
都心5区では、「1棟→1棟」の建て替えと「複数棟→1棟」の建て替えがほぼ半々となる一方、周辺18区では「1棟→1棟」の建て替えが8割弱を占めた。
【図表9】棟数構成の変化(エリア別)
あわせて、棟数構成の変化別に物件を地図上にプロットし、その空間的な分布を示したものが【図表10】である。「1棟→1棟」の建て替えは、都心部に加えて周辺18区にも広く分布している一方で、「複数棟→1棟」の建て替えは、都心5区を中心とした主要オフィスエリアに比較的多く分布している。
【図表10】棟数構成の変化別の物件分布
* 背景地図はMapboxおよびOpenStreetMapを使用
おわりに
本調査では、東京23区におけるオフィスビルについて、建て替え前後の主用途と棟数構成の変化に着目し、その全体像を整理した。
都心5区では、取り壊し前後で主用途がともにオフィスである建て替えが多数を占めており、業務機能の集積を維持・強化する動きが継続していることが確認された。一方、周辺18区では、比較的小規模なオフィスビルが住宅へと建て替わるケースが半数を占め、ビジネス用途から居住用途への転換が進んでいる状況がうかがえる。また、棟数構成の変化に着目すると、都心5区では「複数棟→1棟」の集約パターンが半数近くを占めた。これは、中小規模ビルをまとめた再開発が都心エリアにおいて一定程度進んでいることを示している。
今後、日本の産業構造や働き方の変化がさらに進展するなかで、オフィスストックの更新は、単なる老朽化対策にとどまらず、都市全体の機能配置や競争力、さらには居住環境の質にも影響を及ぼすだろう。ザイマックス総研では、今後も都市における不動産ストック更新の実態を継続的に観測し、データに基づく分析を通じて、不動産マーケットの変容や都市の将来像を考察するための基礎的な情報を提供していきたい。
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