少子化時代のキャンパスを考える

キャンパス資産を教育・経営・地域の持続性に生かす

少子化の進行により、大学を取り巻く環境は大きく変化している。これまで大学は、教育研究活動に対応するため、校舎、研究棟、図書館、講堂、体育館、グラウンド、学生寮など、多様な施設を整備してきた。しかし今後は、若年人口の減少、施設の老朽化、維持管理コストの上昇、地域社会における大学の役割の変化を背景に、キャンパスのあり方が問われる局面に入っている。

本レポートでは、大学が教育研究、学生生活、地域連携などを支える土地・建物を「キャンパス資産」と捉える。キャンパスは、教育研究の基盤であり、学生・教職員の活動空間であり、地域社会との接点を生み出す社会的インフラでもある。したがって、その活用は単なる施設の有効利用や短期的な収益確保にとどまらず、教育研究の質を高め、大学経営の持続性を支え、地域における学びの機会を広げる取り組みとして捉える必要がある。

ザイマックス総研はこれまで、企業が保有・利用する不動産を経営資源として捉えるCREの観点から、企業不動産のあり方について調査・研究を行ってきた(*1)。大学は企業ではないが、限られた資源のなかでキャンパス資産をどのように活用し、本来の使命や価値創出につなげるかという点では、企業不動産と共通する課題もある。本レポートでは、少子化が大学キャンパスに与える影響を整理したうえで、国の高等教育政策が掲げる「質の向上」「規模の適正化」「アクセスの確保」という3つの観点を踏まえ、大学不動産活用の方向性を考える。さらに、すでに始まっているキャンパス活用の動きを確認し、今後のキャンパスに求められる役割を考える。

*1 2026年5月20日公表「CRE戦略を分類する

1. 少子化はキャンパス需要を変える

少子化の進行により、大学を取り巻く経営環境は厳しさを増している。日本の18歳人口は、2000年の151万人から109万人まで減少しており、今後も減少が続く見通しである【図表1】。2050年頃には70万人を下回る水準まで減少すると見込まれており、大学の学生募集に直接的な影響を及ぼすと考えられる。

大学全体812校のうち約8割を占める私立大学(624校)では、少子化の影響がすでに顕在化している。日本私立学校振興・共済事業団の令和7年度調査によると、集計対象となった私立大学594校のうち、入学定員充足率100%未満の大学は316校に上っており、私立大学の半数超が入学定員を満たしていない状況にある。

【図表1】日本の18歳人口、大学数、入学定員未充足私立大学数の推移

さらに、入学定員充足率は大学の所在地域や規模によって大きく異なる。同調査によると、大規模大学・中規模大学では充足率が100%を超えているのに対して、小規模大学では100%を下回っている。地域別にみても、三大都市圏に比べてその他の地域の充足率は低く、特にその他の地域の小規模大学では91.0%と最も低い【図表2】。こうしたことから、地方部の小規模大学では、若年人口減少などを背景に、学生確保が課題となりやすい状況にあることがうかがえる。

【図表2】地域・規模別にみる私立大学の入学定員充足率

若年人口の減少が進むにつれ、大学は、留学生や社会人学生など多様な学修者の受け入れ、学部・学科や教育プログラムの見直し、定員規模の調整、再編・統合など、さまざまな対応を検討する必要がある。こうした変化は、講義室、研究施設、学生寮、交流スペースなど、キャンパスに求められる機能や規模にも影響を及ぼす。これまでキャンパスは、学生数や教育研究活動の内容に応じて整備されてきた。しかし、学生数や学部構成、教育研究活動の内容が変化すれば、必要とされる空間の量や機能も変わる。例えば、従来型の講義室の需要が減少する一方で、少人数教育、留学生・社会人学生への対応、学生同士の交流を促す空間など、新たな機能が求められる可能性がある。

また、キャンパスは一度整備すれば長期にわたって保有・利用される資産であり、利用が減少した場合でも、維持管理費、光熱水費、修繕費などは継続的に発生する。少子化により収入環境が厳しくなるなかで、低利用の施設や空間を抱え続けることは、大学経営にとって固定的な負担となり得る。

一方で、キャンパスは単なるコスト要因ではなく、大学の経営を支える新たな可能性も持っている。教育プログラムに応じた学修空間の整備、研究活動を支える施設の更新、学生生活を支える交流空間の充実、地域や企業との連携に資する空間の活用などは、大学の魅力や社会的価値を高めることにつながる。さらに、外部利用によって得られる収入を、施設の維持管理や教育環境の改善、学生サービスの充実に還元することも考えられる。

2. 国の高等教育政策からみるキャンパスの方向性

本章では、今後のキャンパスのあり方を考える前提として、国の高等教育政策の方向性を確認する。

少子化が進むなかで、国の政策は高等教育全体のあり方を再構築する方向に向かっている。2025年2月の中央教育審議会答申では、今後の高等教育が目指す姿として、我が国の「知の総和」の向上が掲げられている。その実現に向けた高等教育政策の目的として、「質の向上」「規模の適正化」「アクセスの確保」の3点が示されている【図表3】。急速な少子化を踏まえれば、高等教育には、規模の適正化を進めつつ、教育研究の質を高め、地域や経済状況によって学びの機会が失われないようにすることが求められる。

【図表3】今後の高等教育の方向性

大学がキャンパスを保有・利用している以上、この3つの観点はキャンパスのあり方とも密接に関わる。キャンパスは、教育研究の「器」であると同時に、教育研究の質、大学経営の持続性、地域や社会との接点を支える基盤でもある。そのため、少子化時代のキャンパス活用は、高等教育政策の実現を支える手段として捉える必要がある。

「質の向上」の観点では、キャンパスを時代の変化に合わせて更新することが求められる。学修者本位の教育を進めるには、従来型の講義室のほか、学生や教職員が議論・交流し、実践的に学ぶことができる空間も必要になる。また、多様な学生の受け入れを進めるうえでは、多言語・バリアフリー対応、生活支援機能なども重要になる。研究力の強化という点でも、キャンパスの役割は大きい。研究者、学生、企業、自治体等が分野の垣根を越えて集まり、共同研究や実証実験につながる空間を整備することは、大学の教育研究力を高め、イノベーションを生み出す基盤となる。

「規模の適正化」の観点では、学生数や教育研究機能の変化に応じて、不動産の量と機能を見直すことが必要になる。具体的には、低利用施設の活用・転用・再編、必要に応じた処分、複数キャンパスの機能分担、他大学等との共同利用が考えられる。たとえば、利用頻度の低い部屋や建物を、社会人教育、企業研修、地域連携の場に転用することが考えられる。また、複数の大学が近接する場合は、図書館、体育施設、食堂などを共同利用することで、各大学がすべての施設を単独で保有・運営する場合に比べて、負担を軽減できる。

「アクセスの確保」の観点では、キャンパスを地域や社会に開いていくことが重要になる。地理的アクセスの面では、キャンパスは地域社会の核となり得る。大学施設を公開講座、社会人教育、地域の防災、福祉、産官学連携による実証実験などに活用することで、地域における学びや交流の機会を広げ、地方創生にも貢献することが期待される。社会経済的アクセスの面では、施設の外部貸付や共同利用などによって得た収入を、奨学金、学修環境の整備、学生生活サービスの充実に活用できれば、学生を支える取り組みとなる。また、大学施設を生涯学習や社会人教育の拠点として活用することは、地域住民や社会人に対する学びの機会を広げることにもつながる。

このように、国の高等教育政策が示す「質の向上」「規模の適正化」「アクセスの確保」は、教育制度や大学経営だけでなく、キャンパスのあり方とも密接に関わっている。教育研究の質を高めるには、それを支える空間が必要であり、規模の適正化に対応するには、既存施設の量や機能の見直しが避けられない。また、地域における学びの機会を提供するうえでも、キャンパスをどのように位置づけ、活用していくかが重要となる。

3. すでに始まっているキャンパス活用の動き

実際に、公開情報から確認できる大学キャンパスの活用は、既存施設の外部貸出、教育研究環境の高度化に向けた空間整備、脱炭素や先進技術の実証フィールドとしての活用、そして産官学・地域との共創拠点化といった形で広がり始めている。

もっとも一般的なのは、既存施設の外部貸出である。大学では、授業や学内行事に支障のない範囲で、講義室、講堂、会議室、体育館などを外部に貸し出す取り組みが以前から行われてきた。特に、休日、長期休暇、夜間など、教育研究活動で使われにくい時間帯を活用し、試験、研修、講演の会場などとして利用する例が多い。これは、大学施設が持つ「時間の余地」を生かす取り組みといえる。今後、学生数の減少や学部・学科構成の変化に伴い低利用施設が生じる場合は、「時間の余地」に加え、「空間の余地」を外部利用につなげることも考えられる。これらの取り組みは、前章でみた「規模の適正化」を既存空間の活用・転用として進める動きと捉えることができる。

また、教育研究の質を高めるため、既存施設を改修し、先進的な学修・研究空間として整備する動きもある。文部科学省の「戦略的リノベーション及び土地等の資産活用に関する事例集」では、既存施設の改修によって、アクティブラーニングスペース、学生交流スペース、オープンラボ、共用研究スペースなどを整備した事例が紹介されている(*2)。たとえば、岐阜大学では、老朽化した工学系施設を改修し、学生実験室や講義室を大部屋化することで、研究室の枠を超えた協働研究環境や、PBL・デザイン思考教育に対応する空間を整備している。金沢大学では、既存施設の改修により共用研究スペースやオープンラボを整備し、研究者の交流を促進している。こうした取り組みは、老朽化した施設を単に更新するのではなく、学修者本位の教育や研究力強化に資する空間へ転換するものであり、「質の向上」に対応するキャンパス活用といえる。

さらに、キャンパスを脱炭素や先進技術の実証フィールドとして活用する動きもみられる。大学キャンパスは、教育研究の場であると同時に、広い敷地、建物群、一定数の利用者をもつため、省エネ・再エネ、スマートシティ、モビリティ、防災などの実証に適している。2025年9月に開設した大阪公立大学の森之宮キャンパスでは、空調、照明、入退館などの設備をスマート化し、アプリケーションによる制御やデータ連携を通じて省エネルギーモデルの構築を目指している。加えて、下水処理水の空調熱源・雑用水への活用、ルーバーやLow-Eガラスによる日射抑制、自然換気、照明制御など、ZEB化を見据えた環境配慮も取り入れている(*3)。これは、教育研究の質向上と産学連携の強化を同時に進める動きといえる。

*3 出所:大阪公立大学公式サイト(森之宮キャンパス紹介ページ、受賞ニュース等を参照)

これらの動きをさらに発展させた考え方として、文部科学省が示す「イノベーション・コモンズ(共創拠点)」がある(*4)。これは主に国立大学のキャンパスを対象に、ソフト(教育・研究活動)とハード(施設・空間)を一体的に捉え、学生、研究者、企業、自治体など多様な主体による共創活動を支える拠点へ進化させようとする考え方である。すべての大学が直ちに同じ水準で取り組むものではないが、キャンパスを教育研究の場にとどめず、社会との共創を生み出す基盤として捉える視点は、公立大学、私立大学にも参考になる。

このように、大学キャンパスは、すでに「貸す」「つくり替える」「実証する」「共創する」という形で動き始めている。では、こうした取り組みを各大学が自らの経営課題に即して進めるには、何から着手すべきか。次章では、今後求められるキャンパスマネジメントの視点を整理する。

4. 今後求められるキャンパスマネジメント

これからキャンパスの活用・再編を検討する大学にとって重要なのは、自らのキャンパス資産の現状を把握したうえで、経営課題に応じて活用・改修・再編の優先順位をつけ、段階的に取り組みを進めることである。そのためには、まず個々の施設について、老朽化の状況、維持更新負担、利用状況を把握し、次にキャンパス資産全体を分類して、対応の優先順位を定める必要がある。さらに、地域や企業など外部との協業も視野に入れながら、キャンパスを教育研究や地域連携、社会との接点づくりの基盤として生かしていくことが求められる。こうした取り組みを実行するには、学内での推進体制を整えるとともに、必要に応じて外部専門家や民間事業者の知見を活用することも重要となる。

まず把握すべきは、施設の経年状況と維持更新負担である。大学全体を対象とした施設の経年状況を網羅的に把握することは難しいが、公表データで確認できる国立大学の保有施設をみると、建築後長い時間が経過したものが多い【図表4】。老朽化が進めば、修繕、設備更新、防災・省エネ対応などの負担は増える。少子化によって学生数が減少する局面では、こうした固定的な負担が大学経営に与える影響は大きくなる。施設ごとに、築年数、建物および設備の状態、改修履歴、維持管理費、将来の更新費、教育研究上の必要性を調査・整理したうえで、それぞれの施設を改修して使い続けるのか、機能を転換するのか、あるいは手放すのかを、大学の経営方針と一体で判断する必要がある。

【図表4】国立大学法人の保有施設の経年状況(面積ベース)

次に、施設の利用状況を把握する必要がある。施設ごとの時間帯別稼働率、利用者、利用目的、維持管理コストを見える化することは、教育研究上必要性の高い空間、共同利用が可能な空間、外部貸出に適した空間、将来的な転用・集約を検討すべき空間を見極めるための基礎となる。現在、一部の大学では、施設利用者に利用面積や利用時間に応じた費用負担を求めるスペース・チャージ制度が導入されている。これは、空間の利用状況を可視化し、施設をより効率的に利用するとともに、利用料を維持管理費に還元する仕組みとして位置づけられる。

こうした施設の状態や利用状況の把握を踏まえ、活用・改修・再編の優先順位を決めていく必要がある。すべての施設を同じように維持し続けることは難しいため、キャンパス資産を分類し、それぞれに応じた対応を検討することが求められる。たとえば、学生の利用頻度は下がっているが交通利便性が高い講義室や講堂は、企業研修や公開講座などに活用できる可能性がある。研究設備や実験施設は、他大学や企業との共同利用、共同研究、実証実験の場として活用できる場合がある。郊外キャンパスや運動施設、広場などは、防災、スポーツ、地域交流の拠点としての可能性もある。一方で、老朽化が進み、教育研究上の必要性が低く、維持費も大きい施設については、処分も含めた検討が必要になる。

キャンパスの今後を検討するにあたっては、大学自身の経営方針に加え、自治体や民間企業との協業も視野に入れるべきである。キャンパスを地域や社会に開くことで、施設の稼働率向上につながるほか、大学の存在感を高める効果も期待できる。自治体と連携する場合、学び直し、子育て、福祉、防災、地域交流などの拠点としてキャンパスを活用できる。企業と連携する場合、共同研究、実証実験、インターンシップ、リスキリングなど、教育研究と実務をつなぐ場をつくることができる。こうした場は、学生にとっても社会とつながる機会となり、将来の就職やキャリア形成に結びつく可能性がある。また、卒業後の進路や地域での活躍につながる教育環境そのものが、大学の魅力を高める要素にもなり得る。このように、キャンパスのあり方は、施設管理の問題にとどまらず、教育プログラムの魅力づくり、地域での認知度向上、学生募集にも関わる。

こうした取り組みを進めるには、学内の体制づくりが欠かせない。施設の維持管理に加え、大規模改修、自治体や企業とのマッチング、共同利用のルールづくり、場合によっては大規模な共同開発も含まれるため、不動産、建築、ファシリティマネジメント、法務、財務、事業運営などの専門的な知見が求められる。そのため、学内体制の整備とあわせて、必要に応じて外部の専門家や民間事業者の知見を活用することも有効である。

少子化時代のキャンパスマネジメントは、教育研究の質を高め、大学経営の持続性を支え、地域や社会に開かれた学びの機会を広げるための経営課題である。大学には、自らのキャンパス資産を見える化し、老朽化や利用状況を踏まえて優先順位をつけ、自治体や企業とも連携しながら、段階的に活用・再編していくことが求められる。キャンパス資産をどう使い、どのような価値を生み出すかが、これからの大学経営において一層重要になっていくだろう。