人的資本を高めるワークプレイス戦略とは?(応用編)
~「WEPEX」モデルを用いたケーススタディ(職種別分析)の紹介~
持続可能な働き方改革やウェルビーイングなど非財務指標への関心が高まるなか、働く環境が人的資本を高める基盤であるという認識が広がりつつある。こうした背景を受け、企業はワークプレイス戦略を検討する際、不動産コストの効率性だけでなく、ワークプレイスの価値向上に向けた取り組みも重視する動きが強まっている。
ザイマックス総研では、人的資本向上を見据えてワークプレイスを検討するうえで、働く場所・空間の役割や心理的な効果を合理的に理解し、理想と実際のギャップを把握することが不可欠であると考えてきた。こうした問題意識のもと、従業員のエンゲージメントとワークプレイス・エクスペリエンス(職場での体験)を定量的に扱う指標として「WEPEX」モデルを独自に開発した【図表1】。
【図表1】「WEPEX」モデルの概念図
概説編(*1)では、「WEPEX」モデルの考え方を整理し、働く場所と従業員の体験価値やエンゲージメントの関係を定量的に示すことで、ワークプレイスを戦略的に捉えるための基本的な枠組みを提示した。これに続く本応用編では、ザイマックスグループを対象としたケーススタディを通じて、「WEPEX」モデルを実際の企業データに適用し、ワークプレイス施策の見直しや改善を検討する際に、どのような実務的示唆が得られるのかを明らかにしていく。これにより理論や概念の整理にとどまらず、実践に即した活用イメージを示すことを目的としている。
*1 2026年2月24日公表「人的資本を高めるワークプレイス戦略とは?(概説編)」なお、最適な働き方やワークプレイスのあり方は企業文化や従業員属性によって大きく異なる。そこで本応用編では、「職種」という切り口に着目し、業務特性やワークスタイルの異なる職種ごとに、どのような働き方やワークプレイス設計が、従業員の体験価値やエンゲージメントの向上につながるのかを、ザイマックスグループの事例をもとに検討する。
本レポートは、こうした分析結果を通じて企業が自社の状況に応じたワークプレイス施策を考えるための実践的なヒントを提供し、持続可能な働き方を支えるワークプレイス戦略の検討に資することを目的としている。なお、本研究にあたってはエンゲージメント研究の第一人者である慶應義塾大学総合政策学部 島津明人教授にご指導いただいた。
1. 分析の前提:4つの職種定義と業務特性
まず、業務特性の違いを整理するため、本研究では従業員を4つの職種群に分類した。【図表2】に示すとおり、職種別に日常の業務内容には明確な差がみられる。なお、本分類はあくまでも事例であるザイマックスグループをベースにしたものであり、必ずしも一般的な職種分類になっていない可能性があることに留意されたい。
| 職種 | 詳細例 | 業務内容 |
| 事務職 | 業務サポートなど |
業務時間の多くを一人での集中作業が占めており、業務上のコミュニケーションは主にチーム内にとどまる傾向がある。 |
| 営業職 |
営業、運営、サービス推進・開発など |
社外活動が突出して多いことが特徴的である。加えて、社内コミュニケーションも業務時間の約4割を占めており、対人業務の比重が非常に高い。 一方で、資料作成や情報整理など集中作業も一定割合含まれている。 |
| 専門職 |
設計企画、研究、デジタル推進、技術統括など |
専門性に基づく集中作業が核となる一方、知識共有や共同作業も多く、集中と協働の両立が求められる職種である。 |
| コーポレート職 |
総務、人事、内部審査など |
集中作業が一定の割合を占める一方で、社内コミュニケーションを中心とした調整・支援業務が多い。部門横断的な情報共有や意思疎通が業務成果に直結するため、社内対人の重要性が高い職種といえる。 |
【図表2】<職種別>普段主に行う業務別の時間割合
2. 職種別にみる「場所の選好」と働き方の実態
2.1. 職種別にみる「場所の選好」
こうした職種別の業務特性の違いは、各ワークプレイスに対する選好にも明確に表れている。本研究では「メインオフィス」「自宅(在宅勤務)」「サテライトオフィス(*2)」といった働く場所に対する選好度(*3)を職種別に比較し、その傾向を【図表3】に示している。
*2 サテライトオフィスとはメインオフィスや自宅とは別にテレワークのために設けるワークプレイスの総称である。なお、本研究では、ザイマックスグループが提供する法人向けサテライトオフィスサービス「ZXY(ジザイ)」を対象とした。ソロワーク、リモート会議、対面打合せなど多様な活動に対応したスペースを全国400以上の拠点から柔軟に選べる点が特徴である。
*3 各ワークプレイスに対する選好度は5段階尺度で取得しており、分析にあたっては比較を容易にするため、0点(好きではない)〜4点(好き)に数値化して用いている。
- 事務職では、自宅に対する選好度が最も高い。業務時間の大半を一人での集中作業が占める事務職にとっては、外的要因に左右されにくく、安定して効率よく作業できる環境が重視されていると考えられる。
- 営業職と専門職では、サテライトオフィスへの選好度が最も高い。複数の業務活動が混在し、集中や協働の切り替えが求められるこれらの職種にとって、多様な業務活動に対応したスペースを柔軟に選択できるサテライトオフィスの環境が高く評価されていると考えられる。
- コーポレート職では、メインオフィスへの選好度が最も高い。部門横断的な調整や情報共有が業務の中心となるため、「つながり」機能が充実したメインオフィスは業務遂行上の重要な基盤として位置づけられている。
【図表3】<職種別>各ワークプレイスに対する選好度
2.2. 職種別の働き方の実態
続いて【図表4】では、職種ごとの「働く場所」と「出社時のオフィス内での過ごし方」に着目し、職種別の働き方の実態を確認する。
- 多様な働く場所の利用時間割合:職種別に明確な違いがみられた。
事務職と専門職はテレワークで働く時間割合が多い傾向にある点が共通している。しかし、事務職は在宅勤務が中心であるのに対し、専門職は多様な場所を使い分けており、テレワークでの働き方に違いがみられる。
一方、コーポレート職と営業職はメインオフィスで働く時間割合が多い傾向にある。ただし、コーポレート職は出社と在宅勤務を組み合わせた2拠点型の働き方が中心であるのに対し、営業職はメインオフィス、サテライトオフィス、その他の場所(顧客先など)を業務内容に応じて使い分ける分散型の出社スタイルが特徴的である。 - 出社時の業務時間帯におけるオフィス内スペースの利用時間割合:いずれの職種においても執務席の利用が中心である点は共通している。
ただし内訳には職種差があり、営業職・専門職・コーポレート職では会議室やリモート会議用個室など他のスペースも比較的多く利用されているのに対し、事務職では執務席の利用時間割合が特に高く、出社時においても個人作業が中心となっている傾向がうかがえる。
上記の結果から、ワークプレイスや働き方の選び方には明確な職種差が存在し、その実態は前節で示した業務特性や従業員の選好と整合しているといえる。すなわち、多様な場所が整備され、自律的に選択できる環境のもとで、従業員は業務内容や選好に応じた柔軟な働き方を実現できていることが示唆される。そのなかでも、集中業務の比重が比較的高い事務職や専門職では、業務効率を重視する観点から、テレワークや個人作業を中心とした働き方が選択されやすい傾向があることもみられた。
【図表4】<職種別>働き方の実態
2.3. 職種別のワークプレイス・エクスペリエンスの評価
現在の働き方に対する従業員のワークプレイス・エクスペリエンスを定量的に把握するため、「A.基本品質」「B.業務効率性」「C.つながり」「D.心理的快適性」の4因子を0点(あてはまらない)〜4点(あてはまる)で評価し、職種別に比較した結果を【図表5】に示す。
全体として、「A.基本品質」「B.業務効率性」はいずれの職種においても比較的高い水準にあり、現在のワークプレイス環境が業務を遂行するための基盤として良好に機能していることがうかがえる。
一方で、「C.つながり」「D.心理的快適性」については職種間で差がみられ、特に事務職や専門職では他職種に比べて相対的に低い傾向がみられた。これらの職種では業務特性上、個人の業務効率を重視した働き方になりやすい傾向があり、その結果チームや組織との心理的なつながりの実感に影響している可能性が考えられる。
【図表5】<職種別>ワークプレイス・エクスペリエンスの評価
3. 職種別のワークプレイス施策の方向性
3.1. <職種別>ワークプレイス・エクスペリエンス4因子の重要性
前章では、職種別に業務特性やワークプレイス選好、働き方の実態に違いがみられ、その結果としてワークプレイス・エクスペリエンスの水準にも職種差が生じていることを確認した。しかし、職種ごとに働き方の前提条件が異なるため、単に「スコアが低い=課題」と捉えるのではなく、その因子が当該職種にとって重要なのかという視点をあわせて検討することが重要である。
そこで本章では職種別のワークプレイス施策の方向性を検討するために、ワークプレイス・エクスペリエンスを構成する4因子が従業員エンゲージメント(*4)にどの程度影響しているかを、重回帰分析により確認した。その結果、職種を問わず、「A.基本品質」「B.業務効率性」「C.つながり」「D.心理的快適性」の4因子はいずれもワーク・エンゲージメントおよび組織エンゲージメントと有意に正の関連を示しており、どの職種においても4因子すべてが従業員エンゲージメント向上に寄与する不可欠な要素であることが明らかになった【図表6】。
*4 本研究では、従業員エンゲージメントを仕事に対するエンゲージメントである「ワーク・エンゲージメント」と組織に対するエンゲージメントである「組織エンゲージメント」の2つに分けて捉えている。ワーク・エンゲージメントは、著作権者であるTriple i Human Capital社の許可のもとSchaufeliらによる尺度(UWES-9日本語版)を用いて測定した。また、組織エンゲージメントについてはMowdayらの提唱するOCQ-9尺度を採用している。
【図表6】<職種別>ワークプレイス・エクスペリエンス4因子が従業員エンゲージメントに与える影響
この結果は、ワークプレイス施策において特定の因子だけを重視するのではなく、職種特性を踏まえつつも、4因子をバランスよく高めていく視点が重要であることを示唆している。
そこで、次節ではワークプレイス・エクスペリエンス4因子について0~4点のうち2点を中間点とみなし、すべてが2点を超えるグループ(以下「EX高群」)とそうでないグループ(以下「EX低群」)に分類し、両者の働き方やオフィスの使い方を比較する。ワークプレイス・エクスペリエンスが高い状態を実現している従業員の働き方の特徴を明らかにすることで、ワークプレイス施策の改善に向けた具体的な示唆を探っていく。
3.2. 職種別にみるワークプレイス施策の方向性
■ 従業員の働き方の特徴をみる
働き方の特徴をみるために、職種ごとにEX高群・低群別の各ワークプレイスの利用時間割合を確認した【図表7】。
コーポレート職では、EX高群のメインオフィスで働く時間割合がEX低群に比べて明確に高く、週3.5日程度の出社が一つの目安となる可能性が示唆された。
一方で、他の職種においてはEX高群とEX低群の間で働く場所の時間配分に大きな差はみられなかった。また、職種別のEX高群のメインオフィスで働く時間割合をみると、事務職と専門職では40%(週2日程度)、営業職では51%(週2.5日程度)であり、これらの水準が各職種における一つの参考値となる可能性が示唆される。
これらの結果から、自律的に働く場所を選択できる環境のもとでは、多くの職種において業務特性や状況に応じた働き方がすでに一定程度確立されており、ワークプレイス・エクスペリエンスの高低が「出社頻度の違い」によって生じているというよりも、出社時にオフィスをどのように使っているかという「出社時の働き方の違い」によって生じている可能性が高いと考えられる。
【図表7】<職種別>EX高低群別にみる各ワークプレイスの利用時間割合
■ オフィスの使い方の特徴をみる
次に、メインオフィスの使い方の特徴をみるために、職種ごとにEX高群・低群別で、出社時の業務時間帯におけるオフィス各スペースの利用時間割合を確認した。【図表8】のとおり、各職種の業務特性に応じてオフィス空間の利用の仕方には違いがうかがえる。
ただし、すべての職種に共通してEX高群ではEX低群に比べて執務席の利用時間割合が約6〜7ポイント低かった。これを1日8時間勤務に換算すると、EX高群は執務席での滞在時間を約30分程度短縮し、その分をコミュニケーションやオン・オフの切り替えのための他スペース利用に充てていることに相当する。
また、EX高群とEX低群の間で、リモート会議用個室やオープンミーティングスペース、リフレッシュ・コミュニケーションスペースの利用時間割合には職種ごとにばらつきがみられるものの、いずれの職種においても、EX高群では会議室(複数名用個室)の利用時間割合が相対的に高いという共通傾向が確認された。
これは、EX高群における出社が、個人作業の延長にとどまらず、対面での打合せや協働が行われる場面が相対的に多い使い方になっている可能性を示唆している。
【図表8】<職種別>EX高低群別にみる出社時のオフィス各スペースの利用時間割合
4. おわりに
本レポートは、概説編で紹介した「WEPEX」モデルを用いた事例分析であり、従業員の業務特性や選好、働き方の実態を定量的に捉え、課題発見や改善につなげるための方向性を考察した。その結果、弊社グループが進めている柔軟性と選択肢を取り入れたワークプレイス戦略は、従業員のワークプレイス・エクスペリエンスおよびエンゲージメントの向上に資する可能性が示唆された。
一方で、職種別に詳細をみると、ワークプレイス・エクスペリエンスの水準には差異が存在することも明らかとなった。特に働く場所の分散が進むなかで、チームや組織との心理的つながりについては改善の余地がある職種もみられた。EX高群の特徴からは、職種ごとに働き方の前提条件は異なるものの、集中と協働のバランスが取れた働き方を後押しする環境を整えることが、ワークプレイス・エクスペリエンスを高めるうえで重要であることが示唆された。そのためには、個人が集中できる空間を確保しつつ、チーム単位での出社調整や、対面での打合せ、偶発的なコミュニケーションが生まれやすい空間構成・運用を意図的に設計することが有効であると考えられる。
なお、本レポートでは「職種」に着目して分析を行ったが、「WEPEX」モデルは年代、部門、役職などさまざまな視点から働き方やオフィス環境を包括的に捉えることが可能である。また、最適な働き方やワークプレイスのあり方に一律の正解はない。本レポートおよび「WEPEX」モデルが、各社において自社の事業特性や経営方針、人材戦略に即した「最適なワークプレイス」のあり方を見直し、今後の戦略を検討する際の一助となれば幸いである。
《調査概要》
働く場所と従業員エンゲージメントに関する調査
東京都内勤務のザイマックスグループ従業員1,286名
2024年12月9日~12月20日
首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)
993件(回答率80.4%)
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