2023.03.14
コロナ禍で変わるオフィス面積の捉え方(2022年)
~出社率が上昇、「出社1人あたり席数」は減少傾向に~
コロナ禍を契機に働き方や働く場所が激変し、その変化に即してワークプレイスの使われ方も大きく変わり始めている。企業はこうした状況を受け、働く場所のあり方を再考し、従来のオフィス面積を見直す必要に迫られている。企業は従来、オフィスの「在籍人数」をベースに必要なオフィス面積を考えてきたが、「出社率」の登場によってオフィス利用人数が流動的になり、「人数」を基にしたオフィス面積の運用が難しくなってきた。また、固定席だけではなくフリーアドレス席やソファー席などフレキシブルな席が執務可能な席として導入されてきており、出社率を考慮したうえでの「席数」をベースにオフィス面積を捉えるケースがみられ始めている(*1)。
本レポートでは、ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)が2022年の4月と10月に実施した「大都市圏オフィス需要調査」(*2)の調査結果をもとに、東京23区に所在する企業の出社状況や出社率を加味した「人数」と「席数」の関係について分析し、オフィス面積の捉え方について考察する。
1. 「出社率」と「席数」の関係をみる
1.1. オフィス回帰が進むなか、出社1人あたり席数は減少
【図表1】は、東京23区に所在する企業の出社率と出社1人あたり席数(出社するワーカー1人に対する席数)を示すものである。
ザイマックス総研が継続的に行っている企業調査において、実態の出社率についてたずねたところ、2022年の調査時点の出社率の平均は62.9%と2021年4月から3ポイント上昇した。ハイブリッドワークが定着している一方で、2022年に入り、徐々にオフィス回帰が進む傾向がみられた。
オフィスへの出社人数が増加したことにより、2022年の出社1人あたり席数の中央値は1.67席/出社者と、前年より減少した。また、出社人数増のほかに、テレワークの進展によってオフィスの利用人数が減ったことを背景に座席数を実用的な数に効率化させる動きなども、出社1人あたり席数を減少させる要因として考えられる。
【図表1】出社率と出社1人あたり席数の実態(2021年~2022年の各調査時点)
1.2. 出社1人あたり席数の実態
【図表2】は、2022年調査時点の出社1人あたり席数の分布である。この分布からわかるとおり、現状では出社人数に対する席数の整備状況は企業によってばらつきが大きいことがうかがえる。また、1.67席(中央値)に対して出社1人あたり3席を超える企業が21%と最多となっていることから、従来の在籍人数に基づいて整備された席数の調整がまだできておらず、余剰が生じている可能性が示唆された。
【図表2】出社1人あたり席数の分布(2022年調査時点、n=1,010)
1.3. 出社1人あたり席数は、今後も減少する可能性
2022年の企業調査において、コロナ禍収束後の出社率の意向についてたずねた結果、平均値は68.5%と、実態の62.9%から5.6ポイント増加しており、今後さらにオフィス回帰が進む可能性がある。なお、企業のコロナ禍収束後の出社率の意向は2020年の調査より65%〜70%の間で安定して推移している。
こうした状況を受けて、今後の出社1人あたり席数の意向をみると中央値が1.18席/出社者であり、全体的な傾向としては出社施策に合わせて出社1人あたり席数を今後も削減していく方向性であることがわかった【図表3】。
【図表3】出社1人あたりの席数(2022年の実態/今後の意向)
さらに、コロナ禍収束後の出社率別に出社1人あたり席数の意向をみたところ、出社率が低い企業ほど、出社1人あたり席数が多くなっている傾向がみられた【図表4】。特に意向出社率を6割未満で想定している企業は、実態と意向に乖離が認められることから、今後出社人数に対する席数の効率化を図る動きがあるだろう。
【図表4】意向出社率別、出社1人あたり席数(2022年の実態/今後の意向)
<参考>1席あたりオフィス面積(2022年)
【図表5】は、2022年の調査にて企業が回答した賃借面積とオフィス内の席数から算出した1席あたりオフィス面積の分布である。2022年の中央値は2.88坪/席で、2021年の調査(*1)(2.86坪/席)と比べ大きな変化はみられない。
1席あたりオフィス面積の分布については、2~4坪の間に回答企業の過半数が集まっていた。一方で、1席あたり6坪を超える企業も1割弱あることがわかった。
【図表5】1席あたりオフィス面積(2022年、n=1,019)
なお、「1席あたりオフィス面積」は、前述した「出社1人あたり席数」を掛け合わせることで「<出社>1人あたりオフィス面積」を算出できる。
2. コロナ禍収束後に向けたオフィス面積の方向性
今回の分析では、全体でみれば今後は出社人数に対する席数が現状より削減される可能性が示唆されたが、その結果オフィス面積も効率化されていくだろうか。ザイマックス総研がオフィス需要の実態と今後の方向性を把握するために継続的に実施する企業調査では、企業は、様々な業務内容に合わせて従業員が自由に働く場所を選んで働くABW(Activity Based Working)やハイブリッドワークの導入促進により、ワークプレイス戦略を多様化させているなかで、オフィス面積のありかたは一様ではなく、以下のシナリオのとおり多様化していくと推察される。
● 出社率を低くすることによりオフィス面積を縮小する
出社率を低く運用することにより席数を削減し、併せてメインオフィスのスペース効率化を図る動きは、コロナ禍発生直後からみられた。今後も、多くの企業はテレワークを継続する意向であり、柔軟性を高めてオフィススペースを効率化させる動きは引き続きみられるものと思われる。
● 人員増や出社率増によりオフィス面積を拡張する
コロナ禍収束に向けて、将来の人員増やオフィス回帰の強化により、今後のオフィス利用者数の増加に対応するためにオフィスを広めに確保しようとする企業は増える可能性が高い。
● 多様なスペースの導入によりメインオフィスを再設計する
ハイブリッドな働き方を推進するために、メインオフィスならではの機能を強化するためのスペースを増設・補強し、より明確な目的を持たせた付加価値の高いメインオフィスづくりを目指す企業が増えている。こうした企業は、従来の執務席以外の多様なレイアウトを導入することで、執務席を減らしてもメインオフィスの総面積を縮小せず、場合によっては拡張する可能性もある。
● ハイブリッドワークの推進によりメインオフィスや在宅以外で働く場所を拡充する
テレワークの普及に伴い、メインオフィスのほかに在宅勤務制度の導入やサテライトオフィスの整備などにより働く場所を分散させようとする動きが広がりつつあり、今後もさらに進むと予想される。
データ元
・大都市圏オフィス需要調査2022春(調査時期:2022年4月)
・大都市圏オフィス需要調査2022秋(調査時期:2022年10月)
2022年春調査と2022秋調査のデータを重複処理したうえで合算し、分析に使用する回答の欠損がないものを対象とした。
分析対象
東京23区のオフィスビルに入居する一般事務所用途テナントのうち、<在籍>1人あたりオフィス面積が0.5坪以上15坪未満のテナント
有効回答数
1,019件
備考
・面積は、契約上の賃借面積。執務室のほか、エントランス(受付)、会議室、休憩室、書庫、倉庫、専用部内廊下などが含まれている。
・在籍人数は、当該オフィスに籍を置いている人数。
・出社率は、全社員がオフィスに出社した場合を100%として、「現在の平均的な出社率」と「コロナ禍収束後の出社率」を企業に聞いたものである。
・出社人数は、調査時点で出社している平均的な人数。
・座席は、固定席(島型対向、キュービクルなど)のほか、フリーアドレス席、グループアドレス席、オープンなミーティングスペース、集中ブース・個室(電話、オンラインミーティング用など)、食堂・カフェスペース、リフレッシュスペース、外部とのコラボレーションスペースなど、メインオフィスにある一般的な業務が可能な執務席として各企業が回答した席。会議室(少人数用〜大人数用)、社長室・役員室、受付スペース、書庫・倉庫、更衣室・ロッカー、サーバールーム、喫煙室、託児スペース、ショールーム、イベントスペースなどの席は含まないとした。
・出社1人あたり席数は、出社するワーカー1人に対する席数を指す指標。
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