2020.09.18
働き方とワークプレイスに関する首都圏企業調査 2020年8月
~刻々と変化する状況をデータで追う~
2020年春、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、日本政府が企業に対して時差出勤やテレワーク等を推奨したことにより、多くの企業やオフィスワーカーは働き方の見直しを余儀なくされた。なるべく自宅から出ず、人に会わずに働くという制約は、在宅勤務をはじめとするテレワークの推進を半ば強制的に促したとみられ、今日まで働き方改革の文脈において行われてきたワークプレイスに関する議論を活発化させる契機ともなっている。
ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)では、2016年より年2回、企業のオフィス需要を可視化するために、全国レベルの「大都市圏オフィス需要調査」を実施している。本年春調査は、緊急事態宣言解除から間もない6月4日~16日に実施し、通常のオフィス需要に関する質問項目のほか、コロナ危機下の働き方やワークプレイスに関する質問項目を追加した。前者については本年7月29日(*1)に、後者は7月15日(*2)にそれぞれレポートとして公表した。これらの調査では、多くの企業が「出社とテレワークのバランスがわからない」など、今後のワークプレイス施策に頭を悩ませていることが明らかとなった。
そこで、コロナで状況が変わっていくなか、タイムリーに情報を発信していくことは非常に有用であると考え、今回、8月19日~31日にかけて、首都圏の企業を対象に、コロナ危機下の働き方の現状や課題、施策についての特別アンケート調査を行った。本レポートはその集計結果を公表するものである。なお、6月のオフィス需要調査とは調査対象範囲が異なることや、新規質問が数多く含まれていることなどから、6月から8月の時系列比較は一部項目に限り、参考として末尾に掲載している。
- 1.オフィスの利用状況
- ・ 約8割の企業が、コロナ危機以前よりも出社率が低くなるように制御している。
- ・ 目標出社率と現在の出社率は、どちらも4割以上が50%未満となっている一方、将来的な意向は8割近くが出社率50%以上となっている。
- ・ 出社に関するルールは、「時差出勤を推奨」(66.0%)が最も多く、次いで「部署・職種など、業務内容により判断」(50.0%)、「部署ごとに運用ルールを任せている」(43.9%)となった。
- 2.テレワークの実施状況
- ・ 在宅勤務は、約9割の企業が導入している。さらに約半数の企業で、全従業員が利用可能である。
- ・ サテライトオフィスは、約4割の企業が導入している。
- 3.働き方およびワークプレイスの運用
- ・ 「時差出勤の奨励」(72.2%)、「換気や消毒などの感染症対策の徹底」(68.8%)など、出社前提の取り組みを行っている企業が多いものの、「テレワークを想定したネットワーク強化やIT機器配布の増加」(58.4%)など、テレワークを推進する取り組みもみられる。
- ・ ワークプレイス運用の課題としては、「テレワーク時のマネジメント(業務、勤怠、評価等)が難しい」(42.3%)、「決済等の電子化対応が不十分(ハンコ文化)」(41.8%)など、テレワークに起因するものが上位であった。
- 4.コロナ収束後の働き方
- ・ コロナ収束後は、出社派(39.1%)がテレワーク派(33.0%)をやや上回った。
- ・ オフィスの面積は、「縮小したい」(30.4%)が「拡張したい」(3.2%)を大幅に上回った。
- ・ ワークプレイスの方向性としては、「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」(54.1%)と回答した企業が最も多かった。
1.オフィスの利用状況
現在の従業員のオフィス出社率をたずねたところ、「極力オフィスが無人になるように制御している」(13.8%)、「出社しつつもコロナ危機発生以前より少なくなるよう制御している」(65.4%)と、約8割の企業がコロナ危機以前よりも出社率が低くなるように制御していた【図表1】。一方で、「原則出社、または出社を推奨」(7.0%)、「特に制限していない」(13.8%)といった企業も一定数存在した。
【図表1】オフィス出社率の制御状況(n=586)
次に、【図表1】で「極力オフィスが無人になるよう制御している」または「出社しつつもコロナ危機発生以前より少なくなるよう制御している」と回答した企業に対して、ルール・目標として設定している出社率(目標出社率)をたずねた。さらに、すべての企業に対して、現在の出社率(現在出社率)、コロナ危機収束後に目標としたい出社率(将来意向)を、全員が出社した場合を100%してたずね、「0%」、「0%超50%未満」「50%以上100%未満」「100%」の4つに分類した【図表2】。目標出社率、現在出社率はともに4割以上が50%未満となっているものの、将来意向は「50%以上100%未満」(57.5%)が最も多く、「100%」(18.9%)とあわせるとコロナ危機収束後には出社率を50%以上にしたい企業が8割近くを占めた。
さらに内訳を10%単位で細かくみたところ、目標出社率は「30%以上40%未満」(24.6%)と「50%以上60%未満」(26.9%)が突出しているものの、どの区分でも現在出社率と差がみられ、目標と実態に乖離がみられることが分かった【図表3】。将来意向は「50%以上60%未満」(23.4%)が最も多く、全体の約1/4がコロナ危機収束後は出社率を半分にしたいと考えていることが分かった【図表4】。一方で、「100%」(18.9%)と、完全出社に戻す意向を示した企業もあった。
【図表2】オフィス出社率
【図表3】目標出社率と現在出社率のヒストグラム
【図表4】出社率の将来意向のヒストグラム(n=586)
出社に関するルールについてたずねたところ、「時差出勤を推奨」(66.0%)が最も多く、次いで「部署・職種など、業務内容により判断」(50.0%)、「部署ごとに運用ルールを任せている」(43.9%)となった【図表5】。画一的な判断ではなく、部署や職種に合わせた柔軟な運用を行っている企業が多いことがわかった。
そのほか、「フレックス制を元来導入しているが、コロナを機にコアタイムを廃止した」「各自の判断で必要性があれば出社」など、コロナ危機をきっかけにこれまでの「全員出社し、一斉に業務を開始する」といった働き方から、「場所、時間にとらわれない」働き方への変化が多くの企業で起きているようだ。
【図表5】出社に関するルール(複数回答、n=586)
このような状況のなか、よりオフィスに出社している割合の高い職種をたずねたところ、「総務・人事・経理」(57.7%)が突出して高く、次いで「一般事務・受付・秘書」(22.1%)、「経営・企画」(20.6%)となった【図表6】。多くの企業で、職種による出社の割合に差があることがわかった。
【図表6】オフィスに出社している割合の高い職種(複数回答、n=525)
※出社率100%の企業を除く
2.テレワークの実施状況
1.在宅勤務
在宅勤務の状況についてたずねたところ、「コロナ危機発生以前から導入していた」(11.4%)、「コロナ危機発生以前から導入しており、コロナを機に強化・拡大」(34.6%)、「コロナを機に導入し、現在も継続中」(41.3%)と、9割近くが在宅勤務を現在に至るまで継続して行っている【図表7】。また、コロナを機に導入、またはコロナを機に強化・拡大した企業が全体の7割以上を占めており、コロナ危機が在宅勤務の普及の後押しをしたことがみてとれる。
【図表7】在宅勤務の状況(n=586)
在宅勤務を導入している企業に対して、全従業員に占める在宅勤務を利用できる人(対象者)と在宅勤務を実際に利用している人(利用者)の割合をたずね、「100%」「50%以上100%未満」「0%超50%未満」「0%」の4つに分類した【図表8】。在宅勤務の対象者については、約半数の企業が「100%」(46.5%)と回答し、「50%以上100%未満」(40.2%)と合わせると、従業員の50%以上を在宅勤務の対象者としている企業は、全体の約9割にのぼった。在宅勤務の利用者も、従業員の50%以上が利用している企業が7割以上(「100%」(25.6%)と「50%以上100%未満」(48.4%)の合計)と、制度があるだけではなく実際に利用もされている実態が明らかとなった。10%単位で区切った内訳をみると、対象者、利用者ともに「100%」が最も多かった【図表9】。
【図表8】全従業員中の在宅勤務の対象者と利用者の割合
【図表9】在宅勤務の対象者と利用者の割合(ヒストグラム)
【図表7】で「コロナを機に導入し、現在は廃止」(7.0%)と回答した企業に対し、在宅勤務を廃止した理由をたずねたところ、「緊急事態宣言が解除されたため」という、そもそも在宅勤務が緊急事態宣言下の一時的な措置であったことによるもののほか、「在宅勤務では仕事にならない」「在宅勤務での業務管理・人員管理が難しい」など、実際に在宅勤務を行ってみて感じた不便さややりづらさが理由として挙げられた。
2.サテライトオフィス
サテライトオフィスの導入状況をたずねたところ、「コロナ危機発生以前から導入していた」(26.6%)、「コロナ危機発生以前から導入しており、コロナを機に強化・拡大」(6.8%)、「コロナを機に導入し、現在も継続中」(8.7%)と、導入している企業が全体の約4割を占めた【図表10】。まだ全体のなかでは「導入したことがない」(55.8%)が過半数を占めているものの、コロナを機に導入あるいは強化・拡大した企業もいることから、サテライトオフィスが浸透してきている姿がうかがえる。
【図表10】サテライトオフィスの導入状況(n=586)
サテライトオフィスを導入している企業に対して、全従業員に占めるサテライトオフィスを利用できる人(対象者)の割合と、実際に利用している人(利用者)の割合をたずねた結果が【図表11】である。従業員の50%以上がサテライトオフィスの対象者と回答した企業が約半数(「100%」(27.5%)と「50%以上100%未満」(25.5%)の合計)を占めていた。サテライトオフィスの利用者については、従業員の50%以上と回答した企業は約1割(「100%」(2.4%)と「50%以上100%未満」(5.3%))であった。10%単位での内訳をみると、対象者は「100%」(27.5%)が最も多く、利用者は「0%以上10%未満」(47.4%)が最も多かった【図表12】。
【図表11】サテライトオフィスの対象者と利用者の割合
【図表12】サテライトオフィスの対象者と利用者の割合(ヒストグラム)
そのほか、テレワークに関する運用ルール全般については「コロナ危機により、これまであった上限回数を解除した」「基本的にはテレワークを推奨し、必要があれば事務所に出る運用としている」など、よりテレワークを推進する動きがあった。
3.働き方およびワークプレイスの運用
現在の働き方およびワークプレイスについて、取り組んでいるものをたずねたところ、「時差出勤の奨励」(72.2%)や「換気や消毒などの感染対策の徹底」(68.8%)、「オフィスのソーシャルディスタンス確保(座席間隔や会議室利用者数の制限等)」(52.4%)など、出社前提の取り組みを行っている企業が多かった【図表13】。一方で、「テレワークを想定したネットワーク強化やIT機器配布の増加」(58.4%)、「ペーパーレス化」(43.7%)など、テレワークを推進する取り組みを行っている企業も多くみられた。
【図表13】働き方およびワークプレイスについての取り組み(複数回答、n=586)
さらに、【図表13】で「オフィス面積拡張(増床、移転、分室開設等)の検討」(3.1%)や「オフィス面積縮小(減床、移転、分室解約等)の検討」(21.8%)と回答した企業に対して、その理由・目的をたずねた【図表14・15】。拡張の理由としては、「ソーシャルディスタンスの確保」(61.1%)が最も多く、次いで「人員増加への対応」(44.4%)、「快適性向上」(33.3%)となった。縮小の理由としては、「テレワークによる必要面積の減少」(85.2%)が最も多く、次いで「オフィスコスト削減」(74.2%)、「レイアウトの見直し(オフィススペース効率化)」(39.8%)となった。
【図表14】オフィス面積拡張の理由・目的(複数回答、n=18)
【図表15】オフィス面積縮小の理由・目的(複数回答、n=128)
ワークプレイス運用について、困っていることや課題をたずねたのが【図表16】である。「テレワーク時のマネジメント(業務、勤怠、評価等)が難しい」(42.3%)、「決裁等の電子化対応が不十分(ハンコ文化)」(41.8%)、「ペーパーレス対応が不十分」(39.1%)といった、テレワークをする上での課題が上位に挙げられた。このコロナ危機において、急遽在宅勤務などのテレワークを導入した企業も多いため、制度設計や運用に課題を感じている企業が多いと考えられる。
【図表16】ワークプレイス運用の課題・困りごと(複数回答、n=586)
4.コロナ収束後の働き方
企業のコロナ収束後の働き方として、オフィス出社とテレワークのどちらを重視しそうかたずねたところ、出社派が39.1%(「出社を重視」+「どちらかといえば出社を重視」)、テレワーク派が33.0%(「テレワークを重視」+「どちらかといえばテレワークを重視」)と、出社派がテレワーク派をやや上回る結果となった【図表17】。
【図表17】コロナ収束後の出社とテレワークの重視度(n=586)
コロナ収束後のオフィス面積の意向についてたずねたところ、「縮小したい」(30.4%)が「拡張したい」(3.2%)を大幅に上回った【図表18】。6月に発表したオフィス需要調査においても、調査開始以降初めて縮小意向が拡張意向を上回っており、コロナ危機によりオフィスの需要が変化してきていることがわかる。
【図表18】コロナ収束後の面積の意向(n=586)
最後に、コロナ危機収束後の働き方とワークプレイスの方向性についてたずねた【図表19】。「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」(54.1%)が最も多く、次いで「在宅勤務を推進し、出社を減らす」(37.7%)、「健康や感染症対策に配慮したオフィス運用に見直す(衛生管理、人口密度等)」(29.7%)、「オフィスをフレキシブルなレイアウト(フリーアドレス等)に変える」(29.0%)となった。コロナ危機を経て企業は、従来の全員がメインオフィスに出社して決まった時間働く、という働き方から、テレワークを活用した柔軟な働き方へとシフトしていく意向がうかがえる結果となった。
【図表19】コロナ危機収束後の働き方とワークプレイスの方向性(複数回答、n=586)
5.おわりに
2020年春以降、企業は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、出社を制限したり、テレワークや時差出勤を導入したりと、これまでとは異なる働き方を余儀なくされている。この動きは漸進的だった働き方改革の歩みを加速させているといっても過言ではない。
今回の調査では、コロナ危機下における働き方と企業が抱える課題、そしてコロナ危機収束後の意向について明らかにしてきた。多くの企業は在宅勤務をはじめとするテレワークを利用しているものの、業務管理や勤怠管理、制度や文化の面で課題を感じている。いかにこれらの課題を解決していくかが、今後のテレワーク定着のカギになるであろう。ザイマックス総研は引き続き、有益な調査結果を公表していく予定である。
【参考】オフィス需要調査6月との比較
参考として、6月に行ったオフィス需要調査(以下、6月調査)と比較可能な質問項目につき、その比較を掲載する。なお、6月調査は全国および東京23区での集計結果であり、本レポートで紹介した企業調査(以下、8月調査)は首都圏(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)の結果である。調査対象、および集計対象が異なるため、参考としての掲載にとどめる。
【参考1】在宅勤務を導入している企業の割合(「その後廃止」も含む)
【参考2】今後の面積の意向
【参考3】働き方とワークプレイスの方向性
調査期間
2020年8月19日~31日
調査対象
- ・ ザイマックスインフォニスタの取引先企業
- ・ ZXY 会員企業
- 上記合計 1,372社
有効回答数
586社 回答率:42.7%
調査地域
首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)
調査方法
メール配信による
調査内容
- オフィスの利用状況について
- ・ オフィスの出社制限の有無
- ・ 出社率(現在の目標・実態・将来の意向)
- ・ 出社のルール、出社している職種
- テレワークの利用状況について
- ・ 在宅勤務の状況
- ・ 在宅勤務の対象者、利用者
- ・ サテライトオフィスの状況
- ・ サテライトオフィスの対象者、利用者
- ・ 具体的な運用ルール
- 働き方およびワークプレイスの運用
- ・ 現在取り組んでいるもの
- ・ 拡張、縮小の理由・目的
- ・ ワークプレイス運用の課題・困りごと
- コロナ危機収束後の働き方
- ・ 出社とテレワークの重視度
- ・ オフィスの面積意向
- ・ 働き方とワークプレイスの方向性
- 入居中オフィスについて
- ・ 契約面積/利用人数
- 企業属性
- ・ 業種/従業員数
回答企業属性(上段:%、下段:n)
英語版:Greater Tokyo Company Survey on Work Styles and the Workplace | August 2020
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