2014.07.14
企業の賃貸オフィスの選び方を4タイプに分類
~オフィス選びの検討当初と決定時では何を重視して選ぶのか、タイプでみるオフィス選びの特徴~
ザイマックス不動産総合研究所は、ザイマックスグループが運営するオフィスビルに入居したテナント企業へどのようにビルを選んだかなどのヒアリング調査を継続的におこなっている。 本分析は、その調査によって得られたデータから、企業が賃貸オフィスを借りる際の検討当初と決定時の段階別の選択基準を分析し、その特徴をまとめたものである。 企業がオフィスビルに入居する期間は平均10年間程度であり、専任部署がない多くの企業ではオフィス選択のノウハウや知見の蓄積は少ないのではなかろうか。今回、企業のオフィス選択基準を分析することで、企業にとって効率的な移転をするための参考情報となり、一方、ビルオーナーにとっては、自ら保有するビルが選ばれるためのヒントを提供することになると考える。※本データのクラスタリング分析は、京都大学大学院工学研究科建築学専攻加藤直樹教授との共同研究によるもの。
- ■賃貸オフィス選びにおいて重視される条件(選択条件)は段階により異なる
- ・耐震性はもはや当たり前の前提条件となっている
- ・当初は「エリア」「面積」「賃料」が重視される。 最終的な決め手はばらつくなか、感性的な項目が目立つ
- ■京都大学加藤直樹研究室との共同研究により、選択条件の特徴から賃貸オフィス選択のパターンを4つのタイプに分類した
調査期間
2010年8月 ~ 2013年12月調査対象
ザイマックスグループが管理するオフィスビルに新たに入居したテナント企業155社調査地域
東京23区を中心とする首都圏調査方法
対面ヒアリング調査内容
・移転理由、背景 ・移転前の状況、課題 ・どのように物件を探したか 当初重視した選択条件(「当初条件」)・最終的に決め手となった選択条件(「最終条件」) 検討した物件数、内見数、検討から決定までの期間、ネット利用の有無、 仲介会社のルート、何に苦労したか ・入居人数・担当者の移転経験の有無 など分析方法
Ward法によるクラスタリング※クラスタリング:データやクラスタ(かたまり)間の類似度、あるいは非類似度に従って、似たものどうしを集めてクラスタを作る方法 ※Ward法:クラスタ間の距離を、それらが融合したときのクラスタ内変動の増加分で定義し、距離の小さなクラスタから融合していく方法。階層型クラスタリングの一つ。
オフィス選びで重視される選択条件は段階により異なる
「耐震性」はもはや当たり前の前提条件
【図表1】は、企業の移転理由を東日本大震災の前後で集計したものである。震災後に「耐震性不安」を理由に移転した企業が増えていることがわかる。テナント企業のビル耐震への関心の高さは、「オフィスの防災アンケート調査2013」*においても、9割超の企業が「地盤の安全性」や「耐震性」をビルを選定する際に重視することが確認されている。しかし、今回のヒアリング調査で、何を選択条件としてオフィス選びをしたかという問いにおいては、「耐震性」はほとんど挙げられていない(後述【図表2】および【図表3】参照)。これは耐震性に問題がないビルであることがもはや当たり前の前提条件であり、その結果、選択条件としては意識されていないためと考えられる。*2013年10月24日公表「オフィスの防災アンケート調査2013」参照
【図表1】震災前後の移転理由(複数回答)
当初は「エリア」「面積」「賃料」が重視され、最終的な決め手は感性的な項目が目立つ
オフィス選びにおいて、当初重視した条件(当初条件)と最終的に選んだ物件の決め手となった条件(最終条件)を聞き、挙げられた項目を集計したのが【図表2】である。当初条件、最終条件ともに項目は多岐に亘っているが、当初条件では「エリア」「面積」「賃料」が3大条件となっている。当初にこの3つの条件をある程度決めてから、仲介会社等に候補物件の選定を依頼するのが一般的だからであろう。最終条件をみると、「賃料」のほか、「使いやすい形」「明るさ」「キレイさ」といった複数の項目が目立つ。つまり、テナント企業が候補物件を実際に内覧して得た感性的な情報やイメージが、オフィス選びの決め手となっている。【図表2】オフィスの選択条件(複数回答)
選択条件の特徴からオフィス選択のパターンを4つのタイプに分類
選択条件を「エリア」「面積」「賃料」「利便性」「快適性」「安全性」の6種類に整理する
当初に重視された3大条件の「エリア」「面積」「賃料」以外で挙げられた項目を「利便性」「快適性」「安全性」のカテゴリに整理し、当初条件と最終条件を再び集計したのが【図表3】である。特に「快適性」については検討当初より最終的な決め手として重要視される傾向がある。整理した項目内容
カテゴリ | 項目 |
---|---|
快適性 | ビルグレード、新しさ、明るさ、キレイさ、トイレ、空調方式、1フロア1テナント、入居テナントの顔ぶれ、眺望 |
利便性 | 最寄り駅からの時間、分かりやすい場所・幹線道路沿い、周辺環境、使いやすい形、 OA・電気容量・通信、エレベーター、階数、駐車場 |
安全性 | 耐震・地盤・防災、セキュリティ |
【図表3】6種類に整理した当初条件と最終条件
注記:上記集計値の「エリア」「面積」「賃料」の値が社数割合となるのに対し、「利便性」「快適性」「安全性」については、各カテゴリの延べ回答数/社数としており、社数割合ではない。
6種類の条件データを使い、クラスタリングで企業のオフィス選択パターンを4タイプに分類
図表3のとおり分類した当初条件と最終条件を使い、京都大学大学院工学研究科建築専攻加藤直樹研究室と共同でクラスタリングにより企業を「余裕型」「スタンダード型」「こだわり型」「消極型」の4タイプに分類した。タイプごとに「当初条件」「最終条件」をどう重視したかをみたのが【図表4】である。これをみると、各タイプで当初または最終条件にどのカテゴリを重視するかに違いがみられることが確認できる。【図表4】
分類された結果から特徴をみる
次に、各タイプの選択条件と移転理由、オフィス用途、その他の特徴を【図表5】にまとめた。余裕型:
当初も最終も賃料を重視していない。ポジティブな「拡張」移転が多く、取引先企業などが来社する来客型が多い。駅近で立地利便性が高いビルを選んでいる。スタンダード型:
当初はエリア、面積、賃料を重視し、最終では快適性と利便性を重視するスタンダードな選び方。「拡張」「立地改善」「耐震性不安」などポジティブ移転。会社規模は大きく、設立年が古い企業の支店や営業所などが多い。こだわり型:
当初、最終とも賃料を重視し、最終では快適性も重視して選んでいる。移転理由は「拡張」「設備改善」「コスト削減」などポジティブ、ネガティブが混在。会社規模は中小で、内勤型企業が多い。物件の内見数も4タイプの中で最も多い。消極型:
当初、最終とも比較的こだわりが少ない。「コスト削減」「拠点統合」などややネガティブな移転理由が多い。外に営業に出かける比重が高い営業型。駅からやや遠い立地でも賃料を最終的に優先してビルを決めているまた、業種およびビルの規模についてはタイプごとにあきらかな傾向はみられなかった。
【図表5】
タイプ名 | 選択時重視した条件 | 移転理由 | オフィス 用途 | 備考(その他特徴) |
---|---|---|---|---|
余裕型 構成比16% (n=25) | <当初>エリア・面積 <最終>利便性・快適性 どの段階でも賃料を重視していない | 拡張が大多数 ポジティブ | 来客型 | <業種>混在 <入居ビル>延床平均面積3,034坪 最寄駅徒歩平均3.0分 (駅から近いビル) <契約>移転前より面積拡大 賃料単価上昇 ●平均賃料単価が4タイプで最も高い |
スタンダード型 構成比27% (n=42) | <当初>エリア・面積・賃料 <最終>利便性・快適性 | 拡張 立地改善 耐震性不安 ポジティブな傾向 | 来客 内勤 営業型 混在 | <業種>卸売業がやや多い <入居ビル>延床平均面積3,390坪 最寄駅徒歩平均3.5分 <契約>移転前より面積拡大 賃料単価は上昇と下落が混在 ●会社規模が大きい ●非本社用オフィスが多い |
こだわり型 構成比30% (n=46) | <当初>エリア・面積・賃料 <最終>快適性・賃料 条件項目が多い | コスト削減 拡張・設備改善も混在 | 内勤型 | <業種>情報通信業・学術研究など <入居ビル>延床平均面積3,255坪 最寄駅徒歩平均4.1分 <契約>移転前より面積拡大 賃料単価減 ●会社規模は中小 ●平均賃料単価4タイプ中で最も低い ●内見数が多い |
消極型 構成比27% (n=42) | <当初>エリア・利便性 <最終>快適性・賃料 条件のこだわりが少ない | コスト削減 拠点統合 ネガティブな傾向 | 営業型 | <業種>混在 <入居ビル>延床平均面積3,341坪 最寄駅徒歩4.5分 (比較的駅から遠いビル) <契約>移転前より面積縮小 賃料単価減 |
(注)当調査は155 社の移転データを基に分析したものであり、各社の事情や今後のオフィスマーケットの変化により、上記の分類にあてはまらない場合もあることに留意されたい。
最後に
本調査分析は、企業が賃貸オフィスビルを選ぶ際、段階別に重視した条件をもとに企業をタイプ分けし、その特性を整理したものである。ビルを選ぶ企業にとっては、移転理由やオフィスの使用用途別によって重視する条件や優先順位が参考情報となり、また、ビルオーナーにとっては、自らのビルの「快適性」や「利便性」などの可変的な要素の向上に注力することや、また、テナント候補企業のオフィス選択行動を迅速に見極めることでリーシング強化のためのヒントとなりうると考える。 今回は選択時の重視条件をもとにオフィス選択パターンを分析したが、ザイマックス総研では、今後も企業およびビルオーナー双方に有益な情報提供ができるよう、企業のオフィス選択行動について様々な視点で調査分析を続けていく予定である。