2013.10.24
オフィスの防災アンケート調査2013
~企業はどう防災対策に取り組んでいるのか。その実態が明らかに~
国民生活及び企業活動に大きな打撃を与えた東日本大震災は、地震災害に備える防災対策の重要性を企業にも強く意識づけた。オフィスは企業活動の重要な拠点であり、一日の大半を過ごすオフィスワーカーが安心・安全に働けることは事業の継続性のうえで非常に重要なことである。 それでは、実際に企業は防災に関し、どのような意識を持ち、備えているのであろうか。今回、ザイマックスは東京・大阪・名古屋の主要都市においてオフィスビルに入居するテナント企業にアンケート調査を実施し、その実態を探った。調査結果のまとめ
- ・事前対策(災害発生前) 「什器類の固定」や「ヘルメットの配布」を実施している企業は3割程度 応急対策と比較し、実施割合は低い傾向に
- ・応急対策(災害発生後~3日目) 「水」を備蓄している企業は7割(首都圏) うち、「3日分(東京都条例*義務)またはそれ以上」は半分に留まる
- ・復旧対策(災害発生後4日目以降、事業再開に向けた取り組み) 最も取り組みが進んでいるのは、データのバックアップ体制の整備 BCP(事業継続計画)を策定している企業は4割未満
- ・9割超の企業が「地盤の安全性」や「耐震性」をビルを選定する際に重視している
*東京都帰宅困難者対策条例・・・事業者に従業者の一斉帰宅の抑制と従業者の3日分の水、食糧等の備蓄についての努力義務を 課した条例。2013年4月1日施行。
調査の概要
調査時点
2013年8月調査対象
首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県)・名古屋市・大阪市内における ザイマックスグループが管理するオフィスビルに入居するテナント企業 計2,100社回答結果
1,312社(回答率:62.5%)調査項目
- 事前対策(地震発生時の初期対応)の実施状況
- 応急対策(備蓄・安否確認体制)の実施状況
- 復旧対策(オフィスの事業再開に必要な対策)の実施状況
- ビル選定の際、ビルの機能として重視する項目
調査結果
1. 事前対策(災害発生前)
「什器類の固定」や「ヘルメットの配布」を実施している企業は3割程度。 応急対策と比較し、実施割合は低い傾向に
「什器等を壁・床に固定している」は30%、「ヘルメットを従業員に配布している」は33%【図表1】。発災時にまずオフィス内でも命を守ることが最重要となるため、事前対策に対するさらなる推進が望まれる。 「従業員に避難誘導灯の位置や避難経路の確認を指示しているか」、「従業員に避難場所を周知しているか」、「従業員に消火器・消火栓の使い方を周知しているか」については、「している」と答えた割合は半数程度か半数以下であった。後述する応急対策である備蓄や安否確認に比べ、これら事前対策の実施割合はやや低いことが分かる。【図表1】事前対策の実施状況
2.応急対策(災害発生後~3日目)
首都圏では、「水」を備蓄している企業は7割。 うち、「3日分(東京都条例義務)またはそれ以上」は半分に留まる
「水」を備蓄している企業は全体で66%であり、特に条例施行により備蓄が義務付けられた東京都を含む首都圏では75%と、3都市圏で最も高かった【図表2】。【図表2】水の備蓄状況
備蓄量については、従業員数に対して平均すると2日分であり、そのうち、3日分またはそれ以上を備えている企業は、いずれの都市においても半数程度であった【図表3】。
【図表3】水の備蓄量(従業員数あたり)
「食糧」については、備蓄している企業が全体で52%となった【図表4】。そのうち、従業員数に対し3日分またはそれ以上を備えている企業は、いずれの都市においても半数程度であった【図表5】。
【図表4】食糧の備蓄状況
【図表5】食糧の備蓄量(従業員数あたり)
なお、「水」を備蓄している企業のうち7割は「食糧」「防災用品」ともに備蓄しており、逆に「水」の備蓄をしていない企業の約7割は「食糧」「防災用品」についても備蓄していないことが分かった。
備蓄している防災用品の上位は「懐中電灯・照明器具類」「医療・衛生用品」「毛布・保温シート」。 オフィスに留まる際の必需品「簡易トイレ」は比較的低い
防災用品については、全体で61%の企業がなんらかの防災用品を備蓄していることがわかった【図表6】。その内訳上位は、「懐中電灯・非常用照明器具類(85%)」、「医療用品・衛生用品(61%)」、「毛布・保温シート(59%)」と、災害直後に必要となるものが続いた。一方、オフィスに留まる際に必要性が高い「簡易トイレ」は43%と、準備の程度が低く、見落とされがちであることがわかった【図表7】。【図表6】防災用品の備蓄状況
【図表7】防災用品の種類(備蓄していると答えたn=799)
安否確認体制を決めている企業は7割。その連絡手段は携帯電話が多い
安否確認体制を決めていると答えた企業は70%であった【図表8】。その手段については「携帯電話(通話)(61%)」、「携帯電話(メール)(59%)」、そして「安否確認サービスの導入(34%)」と続く【図表9】。【図表8】安否確認体制の整備状況
【図表9】安否確認の連絡手段(決めていると答えたn=902)
なお、安否確認体制を決めていると回答した企業のうち4割は「携帯電話(通話)」および「携帯電話(メール)」以外の連絡手段を決めていない。 東日本大震災時は、携帯電話が大規模な通信障害により長時間つながりにくい状態になった。その経験から安否確認には携帯電話だけでなく、複数の連絡手段を併用することが望ましいとされている。
3.復旧対策(災害発生後4日目以降)
最も取り組みが進んでいるのは「データのバックアップ体制の整備」 「BCP(事業継続計画)を策定している」企業は4割未満 BCPを策定している企業は、防災対策全般に積極的に取り組んでいる
復旧対策として「重要なデータのバックアップ体制をとっている」は62%と、最も取り組みが進んでいる。東日本大震災以降その必要性が指摘されているBCPについては、策定している企業は38%と、半数に満たなかった【図表10】。【図表10】復旧対策の実施状況(不明をのぞく)
BCPの策定と他の防災対策との関係をみてみると、「BCPを策定している」企業のうち、「安否確認体制を決めている」企業が9割、「防災用品」や「水」を備蓄している企業が8割程度、「什器類を壁や床に固定」している企業も8割程度となるなど、いずれも全体の実施率を上回る割合で対策がなされている。BCPを策定している企業は、事前対策、応急対策から復旧対策まで、防災対策全般に積極的に取り組んでいることがわかった【図表11】。
【図表11】BCPを策定している企業の取組
4.今後、ビルを選定する際に重視する項目
9割超の企業が「地盤の安全性」や「耐震性」を重視している 耐震性を重視する企業のうち4割は、旧耐震ビルでも耐震補強等していることを新耐震ビルであることと同様に重視している
テナントが今後オフィスビルを選定する際の重視項目については、「地盤の安全性を重視する(大変重視する、ある程度重視するの合計、以下同様)」割合が90%、「新耐震ビルであることを重視する」が94%、「旧耐震ビルであっても、耐震補強等していること」が92%と非常に高い結果となった【図表12】。震災をうけて、土地および建物の安全性がビルを選ぶ際の外せない条件となっていることがわかる。 また、「停電時に電力供給ができること」も85%が重視すると答え、東日本大震災で計画停電、電力不足等を体験したことから電力の安定供給に対する意識も高まっている。【図表12】ビルを選定する際に重視するビルの機能
*新耐震ビルとは・・・1981年6月1日に施行された新耐震設計法で建てられたビル。大地震が起きた場合でも、建物倒壊による人命の被害が起きない強度をもたせることを目標としている。
**旧耐震ビルとは・・・新耐震設計法が施行される前の設計法に基づき建てられたビル。
耐震性を重視する(「新耐震ビルであること」または「旧耐震ビルでも耐震補強等していること」あわせて)と答えた93%のうち、約4割は新耐震ビルであることを最重要視せずとも、「旧耐震ビルであっても耐震補強等している」ことを重要視しているといえる【図表13】。
【図表13】耐震性に対する考え方
【所見】
今回のアンケートでは、テナント企業に、発災前の事前対策から応急対策、そして復旧対策に係る計21の項目について実施状況の有無等を調査し、オフィスにおける防災対策の実態を明らかにした。 たとえば防災対策の代表である「水」の備蓄において、条例による備蓄義務が課せられている東京都を含む首都圏では特に進んでいる様子も伺えるが、その量について見ると条例の基準を満たしている企業は半数程度と、十分とは言えない。引き続き企業の防災対策の実施向上が望まれる。また、備蓄以外にもオフィス内での防災対策は多岐にわたり、企業にとって何をどのように備えるのかは重要な課題であろう。 ザイマックスグループでは、本調査を通じて、各テナント企業がさらに防災対策への意識を高め、備えを促進していくための情報発信を続けていく予定である。