生成AIは日本のデスクワーク雇用をどう変える? 採用最前線で今起きていること

桜井貴史/パーソルキャリア 「doda」編集長

生成AIがデスクワークを代替するといわれて久しい。米国ではIT企業を中心に人員削減や採用抑制の動きも報じられているが、日本企業において生成AIが雇用や採用にどのような影響を与えているのか、その実態はまだ十分にみえていない。

一方、日本では少子高齢化を背景とした人手不足が深刻化しており、企業は人材確保と生産性向上の両立を求められている。こうした状況のなかで、生成AIはデスクワーカーの仕事や求められるスキル、採用ニーズをどのように変えていくのだろうか。パーソルキャリアの転職サービス「doda」編集長の桜井貴史氏に、求人市場の最前線で感じている変化や市場データからみえる兆候、今後の予測を聞いた。

パーソルキャリア 「doda」編集長 桜井貴史氏

人材不足でも進む厳選採用、企業が求める人材像は変化している

「AIエージェント元年」といわれた2025年を経た現在も、日本のホワイトカラー領域の転職市場は売り手市場です。「doda」が公表した2026年6月の求人数は前年同月比+16.6%、転職求人倍率は2.55倍でした。人口減少に起因する人材不足は構造的な問題であり、今後も簡単には解消しないでしょう。

売り手市場はコロナ禍以前から長く続き、特にコロナ収束後の3年ほどは、人材不足を背景に業績を伸ばせない状況が続きました。そのため多くの企業は、未経験採用を増やすなど採用基準を緩和することで採用充足を優先し、結果的に企業間の人材獲得競争が激化していました。

潮目が変わったのは2025年の後半ごろです。企業は引き続き採用活動を続けているものの、即戦力を重視する採用へと変化しており、人材の厳選化が進んでいます。

変化の理由の一つは、採用基準を下げて未経験者などを幅広く採用した結果、入社後の戦力化に時間がかかり、育成コストが想定以上に膨らんだと感じる企業が増えたことです。もう一つの理由が生成AIの普及です。企業の間に「定型業務は代替できるようになるかもしれない」という認識が広がった結果、求める人材像や採用人数を見直す動きにつながっていると考えられます。

AIエージェントによる「プロセス全体の自動化」が転換点に

今後、生成AIの活用領域は、個別作業支援から一連の業務の自動化・代行に移行していくでしょう。たとえば、顧客から問い合わせを受け、必要な情報を確認し、提案や契約手続きまで一連の流れをAIエージェントが担うといった使い方は、技術的には実現可能になりつつあります。

今はまだ生成AIによる生産性向上の実感が薄い企業もありますが、自動化の範囲がプロセス全体へと広がり、成果がみえ始めることで、「AIで生産性を高められる」という想定が確信に変わるでしょう。自然言語によるシステム開発や外部サービスとの連携が進み、企業がAIエージェントを容易に実装できるようになることが一つの転換点になるのではないかと思います。

もちろん、生成AIによる影響度は職種や担う業務によって大きく異なります。「doda」が実施した企業調査(*)では、今後採用が増える職種と減る職種の双方に「企画・戦略立案」が挙がりました。ドメイン知識や経験値を要する仕事や構想フェーズの仕事は引き続き高いニーズがある一方、主に若手が担ってきた資料作成などの定型業務は代替が進むと考えられます。今後は同職種の経験があるだけではなく、どのような価値を提供できるのかがこれまで以上に問われるようになるでしょう。同様の変化は、IT系、バックオフィス、営業事務など、多くの職種で起こる可能性もあります。

*出所:パーソルキャリア「企業のAI活用実態と人材戦略に関する調査レポート第1弾"求める人材の変化編"」

社内やグループ内で人材の再配置が進む

現時点の日本企業では、生成AIを直接の理由とする人員削減や新卒採用の廃止といった動きが広がっているわけではありません。日本企業には新卒を一括採用し、長期的な育成を前提として人材を採用してきた経緯があるため、新卒採用の仕組みは今後も一定程度は残ると考えられます。

一方で、AI活用の進展に伴い、企業が求める人材像や役割には変化が生じるでしょう。企業はどの業務をAIで補完し、どの業務を人が担うべきかを見極めながら、人材配置や採用方針を見直していくことになると考えます。

ホワイトカラー職のなかでは、まず同じ職種の中で役割分担が変化していく可能性があります。資料作成や情報整理などをAIが支援するようになれば、人には意思決定や業務改善、顧客対応など、より付加価値の高い業務が求められるようになるでしょう。また、将来的には社内やグループ内の総合職という文脈のなかで、ホワイトカラー職から現場業務への再配置という動きもあるかもしれません。

若手が感じているのは雇用不安より「乗り遅れる不安」

AIエージェントの社会実装が進むと、企業が求める人材は、AIを活用して業務や組織全体の生産性を高められる人になっていくでしょう。従来、組織の生産性は働く人の人数に一定程度比例していましたが、生成AIの進展によりこの前提は崩れ、AIを含めた業務フローを設計し、部門全体の成果を高める人材の価値が飛躍的に高まると考えられます。管理職においても、人だけでなくAIも含めてマネジメントし、限られた人員で成果を最大化する力が求められます。企業や個人によってAI活用の習熟度に差が生まれることで、市場価値の差が広がる可能性もあります。

こうした変化は、これからキャリアを築いていく若年層にも影響を及ぼしており、働き方やキャリアの先行きに関心を持つ若手も増えているように感じます。背景には「AIに仕事を奪われないか」という不安だけでなく、「AI活用が進む環境で経験を積みたい」「変化の大きい時代でも市場価値を高めていきたい」といった意識もみられます。最近では、自社でのAI活用が進んでいないことに危機感を持ち、より先進的な環境を求めて転職サイトに登録する、という若手も増えています。

今後は、AIツールを使えるだけでなく、AIを活用してどのような成果や価値を生み出したのかが問われるようになるでしょう。そのため、若手にとっては「変化に乗り遅れずに自身の市場価値を高められるかどうか」が重要なテーマになっていくのではないでしょうか。

人ならではの価値を、どのように発揮するかが問われる時代

生成AIは、日本社会の生産性向上を支える重要な技術になるでしょう。企業では業務効率化や意思決定の迅速化が進み、一人ひとりが生み出せる価値も変わっていきます。こうした変化は、企業だけでなく個人のキャリアにも影響を与えていくと考えます。AIの進化によって業務の代替が進む過程においては、これまでの業務や職種がなくなる可能性もあり、その結果として配置転換が進むこともあるでしょう。

一方、ビジネスの世界において、人の意思決定には合理性だけでは説明できない要素もあり、顧客が商品やサービスを選ぶときに「この人が勧めるから買う」「いつも頑張ってくれているからお願いする」といった感情が影響することも多くあります。

今後はAIが確率論的に正しそうな情報や答えを導いてくれることで、欲しい情報へのアクセスは容易になるでしょう。知識や情報を持っていることだけでは差別化しにくくなる一方で、顧客との信頼関係を築く力や、多様な立場の人を巻き込みながら物事を進める力、新たな発想やアイデアを生み出す力など、人ならではの価値の重要性はむしろ高まっていくと考えています。

AI時代とは、人の価値が失われる時代ではなく、一人ひとりが自分ならではの強みをどのように発揮するのかが、より問われる時代になるのではないでしょうか。