働き方の多様化を背景にシェアオフィス市場が広がり、各施設が立地や価格、設備、コミュニティなど、さまざまな特徴を打ち出している。一方で、企業にとって本当に必要なオフィスの機能は何だろうか。
Zero-Ten Parkは、シェアオフィスブランド「Zero-Ten Park」の直営店を、福岡を中心に国内で5拠点、海外で4拠点展開する。また、直営店舗の運営で培ったノウハウを生かし、全国61店舗に及ぶ他社施設の運営にも携わっている。約10年にわたり、地域に根差した施設運営を続けてきた実績から、地元企業や福岡進出する県外企業からも地場ビジネスに関する相談が寄せられる存在となってきた。福岡でのシェアオフィス企画・運営を軸に培ってきた経験から、利用者に求められるオフィス像をどのように捉えているのか。代表取締役COOの勝呂方紀氏に話を聞いた。

時代とともに進化する「オフィスに求められる機能」
勝呂氏は、オフィスに求められる機能の変化を「ver.1」から「ver.4」の四段階で整理する。
「数十年前からあるレンタルオフィスを『ver.1』とすると、当時の主なニーズは、少人数から借りられることと、初期費用を抑えて手軽に入居できることでした。2010年代半ば以降の『ver.2』では、それらに加えて、オープンスペースやコミュニティという付加価値が求められるようになりました。コロナ禍を経た『ver.3』では、リモートワークの普及により、オンラインミーティングに適したフォンブースや、セキュリティの重要性が高まりました。そして現在の『ver.4』では、一つのオフィスに固定されず、自宅の近くや、社員が集まりやすい都心の拠点など、複数のオフィスを状況に応じて柔軟に使い分けることが求められていると思います」(勝呂氏)。
同社はこうしたニーズの変化を施設内の設備やサービスに反映することを重視しており、フォンブースに加え、契約者が追加料金なしで複数店舗を利用できるマルチロケーションなどは、利用者からも好評だという。

好立地と現実的な価格を両立する
変化するニーズがある一方で、企業のオフィス選びにおいて、「立地」と「価格」は普遍的な条件である。従業員や取引先がアクセスしやすいかどうかという立地の価値は大きく、登記する住所としての信用度もビジネスに大きく影響する。しかし、都心の新しいフラッグシップビルに入れば、賃料も高くなる。そのためZero-Ten Parkは、築年数が経過していても、アクセスがよく比較的手頃なビルを選び、内装や設備を整えることで、立地のよさと利用しやすい価格の両立を図っている。

勝呂氏は、福岡のシェアオフィスの価格帯を大きく三つに分けて考える。「いわゆるハイブランドは、1人あたり月額10万~13万円程度になることがあります。反対に、最もリーズナブルな施設は2万~3万円が目安となりますが、オープンスペースやカフェの延長に近く、セキュリティなどの面で用途が限られる場合もあります。私たちは1人あたり4万~5万円程度に抑えながら、一定のセキュリティ、個室、法人登記など、一般的な企業が求めるサービスを網羅しています」(勝呂氏)。単に低価格を追求するのではなく、企業が業務を行ううえで必要なサービス水準とのバランスが重要だという。
コミュニティにも「最大公約数」の距離感を
立地や価格を前提に、時代に応じたニーズも取り入れることで、同社は幅広い企業が使いやすいオフィスを目指す。入居企業同士の交流や協業が生まれる可能性も踏まえ、地域や業種に偏りのない多様な企業構成が望ましいと考えている。「フレキシブルオフィスの利用者としてイメージされやすい、スタートアップやフリーランスの利用も歓迎します。ただ、福岡全体でみればスタートアップの割合は非常に小さい。そこだけに焦点を当てるのではなく、最大公約数的に、たくさんの企業が使いやすい場所でありたいと考えています」(勝呂氏)。実際、リーズナブルな価格設定もあり、同社拠点の利用企業のうち地場企業がおおよそ半分を占め、他のシェアオフィスと比べるとローカル色が強いことなども同社施設の特徴だ。
入居企業の幅広さを生かし、直営拠点を横断して、毎月開催する入居者向けの交流イベントは、情報交換や人脈作りの場になっている。普段は接点のない人同士が知り合うことで、ビジネスマッチングに発展することもある。また同社は、シェアオフィス事業とは別に、行政などから受託して行う成長支援事業も展開している。なかでも、自社の海外事業で培った経験を生かす海外進出支援は強みの一つだ。成長支援の取り組みとして、イベントを数多く企画する同社のコミュニティに期待し、同社のシェアオフィス拠点に入居する企業もある。成長支援事業の関連プログラムをシェアオフィス入居者に案内したり、シェアオフィスをイベント会場として使用したりするなど、両事業は連動し相乗効果を生んでおり、コミュニティは同社のシェアオフィスサービスのコンセプトを語るうえで重要な要素ともいえる。ただし、ビジネスマッチングや交流そのものを施設の目的にはしていない。「各社にはそれぞれの働き方があり、オフィスへの期待も異なります。私たちが大切にしたいのは、誰もが快適にビジネスを進められ、自分に合った距離感で過ごせること。コミュニティが求められる場面はありますが、交流を強制されると心地よさを損なう人もいるでしょう」(勝呂氏)。
多様な企業が集まる場だからこそ、企業に共通して求められる機能やサービスをおおむね網羅し、何を利用するか、人とどう関わるかを各利用者が選べる「最大公約数」のオフィスを目指している。
地場ビジネスの知見から、地域課題の相談を受ける立場に
同社は、初期投資を抑えて利用できる内装済みオフィスが今後も増えるとみている。「自社のブランドや独自の働き方に合わせてオフィスをつくり込まなくても、オフィスとして十分な機能を備えることは可能です。企業に理想のオフィスを尋ねると、オープンな雰囲気、カフェスペース、フォンブース、一定のデザイン性など、業種を超えて共通する要望も多い。内装済みオフィスは、入居工事と原状回復を繰り返すよりも経済的で、環境にも配慮できます」と勝呂氏は語る。
一方、多くの企業に共通して求められる機能を備えることと、どの場所にも同じオフィスをつくることは別だ。「現状は『最大公約数』を目指して拠点を展開していますが、実際に拠点を設けると、そこに集まる企業や人には、その場所ならではの傾向が表れます。そうなると、どのようなデザインや形でもよいというわけではないでしょう。博多なら、天神なら、薬院や赤坂なら、と、そのエリアの特性に合った働く場が見えてくるはずです」と、勝呂氏は、地域ごとに適した働く場所をつくることを通じて、街づくりに貢献することを見据える。そのために、特定の運営形式を唯一解とせず、複数のパターンを持ちながら、建物や利用者、その時々のニーズに応じた形を提案していく方針だ。直営か受託か、有人か無人か、大規模か小規模か、都心か郊外か。さらに、商業施設や住宅との組み合わせなど、多様な条件で経験を重ね、さまざまな要望に応えられるよう、運営のバリエーションを広げていくという。
こうして企画・運営の知見を蓄積する同社には、県内企業をはじめ大手デベロッパーなどからもシェアオフィスに関する相談が寄せられることがある。たとえば、コロナ禍の2021年、飲食店の退店が相次いだJR九州の商業施設では、空き区画の活用策としてシェアオフィスが検討され、運営経験を持つ地元企業として相談を受けた。また、西日本シティ銀行では、キャッシュレス化などを背景に銀行の支店の在り方が変わったことにより、地域経済を支える新たな用途の一つとしてシェアオフィスが選択肢となった。この際も、Zero-Ten Parkが運営を支援する拠点を通じて相談が寄せられたという。現在では両施設の運営に携わっている。街のなかで商業や金融の機能を担ってきた建物を、それぞれに適した形のシェアオフィスとして活用する取り組みは、働く場所づくりを街づくりへ展開することにもつながるだろう。
立地と価格を土台とし、変化するニーズをオフィスに反映してきたZero-Ten Park。その延長線上に生まれる「ver.5」のシェアオフィスは、エリアの特性や建物の役割、地域が抱える不動産の課題などに応じながら、福岡の街をつくっていくのかもしれない。