FGNを中心としたエコシステムで、成長できる地方都市へ

福岡市

「支店経済」からの脱却を目指す福岡市は、2012年の「スタートアップ都市ふくおか宣言」以降、地方都市における創業支援を先導してきた。その中核拠点として整備されたのが、官民共働型の創業支援施設「Fukuoka Growth Next(FGN)」である。

FGNは、スタートアップ支援の拠点としてどのように運営され、福岡市の創業環境づくりにどのような役割を果たしてきたのか。FGNの運営に携わる担当者に話を伺った。

福岡市 経済観光文化局 創業推進部 真名子 健太氏

支店経済からの脱却を目指す、創業支援の中核拠点「FGN」

福岡市は、九州における人材の集積地である一方、東京や大阪などに本社を置く企業の支店が集積する「支店経済」にとどまり、高度人材がそうした大都市へ流出してしまうという課題を抱えていた。この状況を脱却し、経済規模を拡大するため、同市では本社機能や成長分野の企業誘致に力を入れるとともに、市内での創業を促し成長させることを重視してきた。

創業支援に注力するきっかけとなったのが、2011年の高島宗一郎市長によるシアトル視察だ。シアトルは、アマゾンやマイクロソフトなどを生んだ都市で、首都から離れた海沿いに位置し、大学や若者が多いなど、都市環境が福岡市とよく似ていた。このことに着想を得て、翌年同市は「スタートアップ都市ふくおか宣言」を行った。「行政は直接経済活動を行うわけではありません。しかし、トップ自らが街のビジョンを示すことで、民間や大学を巻き込む挑戦の風土をつくることができました」(真名子氏)。宣言にとどまらず、「スタートアップ法人減税」や、外国人の創業を支える「スタートアップビザ」を導入するなど、行政として制度面での支援も進めた。

そして、創業支援施策の中核拠点として2017年に開設されたのがFGNである。2014年から運営していた「スタートアップカフェ」のほか、市内に点在していた創業支援機能を、廃校となった旧大名小学校に集約したものである。

福岡市中心部に位置するFGN。

官民それぞれの強みで、事業成長を後押しする

FGNには、2026年6月時点で127社が入居している。利用期間は原則1年間。創業・成長後、まさに学校を「卒業」するようにほかの拠点やオフィスへ巣立っていく想定だ。地元の起業家だけでなく、「創業するなら福岡市だ」と、市外や県外から移ってくる例もあるという。

特徴的なのは、福岡市と民間事業者による官民共働の運営体制だ。民間事業者が入ることで、金融機関やVC、投資家、事業会社などとのネットワークを活かし、資金調達や販路拡大、協業といった、より実践的な支援が可能になる。一方、行政は制度面でのサポートや実証フィールドの提供などを担う。福岡市では民間事業者の社会実装を支援する公民連携窓口である「mirai@」を設けるなど、民間との連携に力を入れている。mirai@を通じて、衛星画像を活用した水道管漏水調査など、市内での実証実験を経て公共調達を実現した事例もある。「スタートアップにとって、行政との協業実績や接点は商談先からの大きな信用につながります。実証フィールドを提供するだけでなく、その信用力をバックアップすることも私たちの重要な役割です」(真名子氏)。官民それぞれが補完し合い、スタートアップの成長を多面的に支えている。

スタートアップカフェでの相談風景(上)、イベントスペースでのネットワーキングの様子(下)。(提供:福岡市)

スタートアップと多様な民間の支援者、そして行政が集まるFGNでは、さまざまな出会いが生まれている。入居者交流会や勉強会、ピッチ大会などの多様なイベントが開催されるほか、イベントや打合せ後にフランクな交流ができる「awabar」が施設内に設けられている。公式な商談から、人となりを感じられる柔らかい交流へ自然に移れる導線があることで関係が深まりやすく、協業につながることもあるという。

さらに、アジアに近い地の利を活かし、海外との接点づくりにも取り組む。官民が共同で開催するグローバルイベント「RAMEN TECH」では、天神・大名エリアを中心とする市内の会場で、交流イベントやピッチ大会などを集中的に開催。2025年は8日間で30の国・地域から延べ約1万2,000人もの参加者が集結し、市内のスタートアップを国内外に発信する機会となった。

FGNをハブとしたスタートアップのエコシステム

こうした創業支援施設は今でこそ他都市でも展開されているが、スタートアップという言葉がまだ広く認知されていなかった時期から取り組んできた先行性は福岡市の強みだ。現在では、市のスタートアップ施策やFGNの存在が呼び水となり、市が把握するだけでも、市内に約50もの創業支援拠点やコミュニティが集積している。

多様な機能を持つ施設の集積のなかで、起業家が成長段階や目的に応じて各施設を行き来する、FGNをハブとした緩やかな循環が生まれ始めている。「FGNは創業の入口として創業相談にはじまり、アイデアの商品化や資金調達、販路拡大に向けた成長までを一貫して支援しています。ある程度成長したら、さらなる事業拡大や資金調達につながる施設、特定のコミュニティに特化した施設など、周辺施設へ活動の場を広げていく。必要に応じてFGNに戻り、メンターからアドバイスを受けることもできます」と真名子氏は話す。

次の10年は「裾野の拡大」から「成長の高さ」へ

これまでの取り組みにより、FGNを経由した資金調達額は累計で約760億円以上、スタートアップカフェを通じた創業件数も開設以降累計で1,400件を超えた。また、福岡市の開業率は大都市のなかで7年連続1位となるなど、着実な成果をあげている。近年は、市内で増えているというソーシャルスタートアップに特化した支援に取り組むなど、さらなる起業文化の拡大を図る。

一方で、現時点では地域経済をけん引する企業の創出には至っておらず、スケールアップに向けた支援の強化が求められている。「約10年間の取り組みで創業の裾野は広がり、福岡を本社とするスタートアップも生まれてきました。次の10年は経済成長の『高さ』を目指します」(真名子氏)。

具体的には「2028年度末までに時価総額100億円の企業を10社生み出す」という目標を掲げる。その実現に向け、FGNでは、成長が見込まれるスタートアップを選抜して「High Growth Program」を提供している。IPOや100億円規模の事業成長を経験した起業家やVCなどがメンターとなり、目標から逆算した個別支援を行う。加えて、東京に集中する投資家や大企業と、市内のスタートアップとのマッチング機会の創出も進める。

High Growth Program採択式の様子。採択された企業に市長自ら任命書を渡す場面も。(提供:福岡市)

「時価総額100億円規模も成長の通過点かもしれません。それでも、これから起業を志す人にとっては確かなロールモデルとなります。街としても、『地方でも成長できる』という姿を示していきたい」と真名子氏は語る。

「成長できる地方都市」へのカギはエコシステムの発展

創業支援施設が集積し「創業できる地方都市」となった福岡市は、「成長できる地方都市」となれるか。市内に集積した施設やコミュニティを、より厚みのあるエコシステムへと発展させることができるかがカギとなるだろう。

「現在も、日々の情報共有はできていますが、個別に活動が展開されており、支援の連携と呼べるところまではまだ届いていない。エコシステム全体の共通方針や目的など、目指す方向性を共有することで、点ではなく面の支援ができるはず。行政がビジョンを示し、各施設を巻き込みながら、スタートアップの成長段階に応じて必要な支援につなぐ役割を担っていきたいです」(真名子氏)。