仕事の未来を創る世界都市:シドニー、ロンドン、東京、ニューヨーク

仕事とワークスペースをメインテーマとする世界的な知識ネットワーク「WORKTECH Academy(ワークテック・アカデミー)」は、2026年第1四半期にトレンドレポート「Cities in the spotlight: How major cities are performing in the future of work」を発表した。同レポートは、人材、不動産、テクノロジーの観点から、シドニー、ロンドン、ワルシャワ、トロント、東京、ニューヨーク、ブエノスアイレス、アトランタの世界8都市が、仕事の未来においてどのようなパフォーマンスを示しているのかを洞察したものである。

不確実な経済情勢のなかで成長を迫られる企業にとって、生産性と効率性の重要性はこれまで以上に高まっている。「パフォーマンス」は組織評価の中心的な指標であると同時に、都市の評価においても重要な視点として存在感を増している。

こうした背景のもと、各都市にはいくつかの共通した傾向がみられる。

  •  「質への逃避」は一段と強まっている。アメニティが充実した高付加価値ビルと老朽化したビルとの格差は拡大しており、人を惹きつけ、パフォーマンスを引き出す空間が市場で評価されている。
  • ハイブリッドワークは各都市で定着している一方、そのあり方をめぐるせめぎ合いも強まっている。従業員は柔軟性を求め続ける一方で、企業は成果や投資対効果の可視化を背景に出社方針を強化している。
  • テクノロジー、とりわけAIへの投資も共通の潮流である。ニューヨークやロンドンのベンチャー投資から、シドニーや東京の政府主導の取り組みまで、各都市の将来競争力はAIの活用に大きく依存している。

一方で、各都市には異なる特徴もある。スピードと成長を重視する都市がある一方で、持続性やレジリエンス、人材定着に重点を置く都市もある。人材の獲得と定着、柔軟性と統制、最適化と持続的な人的パフォーマンスといった相反する要素のバランスの取り方は、都市ごとに異なり、それぞれのアプローチが浮き彫りになっている。

今回はシドニー、ロンドン、東京、ニューヨークに関するパートを一部抜粋し、翻訳・編集して紹介する。

1.シドニー

都市タイプ:居住性が高く、イノベーションが根付いた都市

シドニーにおける今後の働き方は、ハイブリッドワークを中心とした構造と、二極化するオフィス市場によって特徴づけられている。オーストラリア統計局によると、2025年には従業員の36%が在宅勤務をしている。特に、管理職や専門職では5人に3人が在宅勤務をしていることから、知識労働において柔軟な働き方が全国的に定着していることが示唆される。

シドニー中心部では、企業はオフィス選定においてより慎重で選別的になっている。古くて魅力の乏しいオフィスではなく、CBDの新興エリアに立地する新築または高品質なビルを選ぶ傾向が強まっている。CBREによると、2025年末時点でCBDのオフィス空室率は約13.8%に達しているが、同年下半期には、解約されるスペースよりも新規契約されるスペースの方が上回った。 また、一部のエリアで賃料が5%以上上昇しており、企業は適切なスペースには依然として投資する姿勢を示している。

JLLは、この傾向が2026年も継続すると予測している。企業は今後も高品質なオフィスを優先する一方で、建設コストの高騰や既存の空室の多さにより、新規開発は抑制される見通しである。

ニューサウスウェールズ州は、テック・セントラル地区を軸に、地域密着型の集積化を推進している。この約6平方キロメートルのイノベーション地区には、2025-26年度予算で3,850万ドルの支援が計上され、420億ドル規模の経済と10万人の雇用を支えるとされている。

パフォーマンス評価

  • 人材の定着性
    シドニーは住みやすさと大規模なイノベーション分野の雇用基盤により人材を惹きつけている。一方で、ハイブリッドワークの普及により、CBD外に居住する選択肢も広がっている。
  • 摩擦
    ハイブリッドワークは多くの労働者の通勤負荷を軽減しているが、オフィス市場は依然として需要のばらつきや選別的な賃借行動への適応過程にある。
  • 将来競争力
    政府主導のイノベーション投資と、高品質なオフィス市場のひっ迫は、同都市における働き方の将来に対する強い期待を示している。
  • 居住性
    シドニーは『エコノミスト』誌の「2025年世界の住みやすい都市ランキング」で総合スコア96.6を記録し、第6位にランクインしており、医療、教育、インフラの分野で高い評価を得ている。
  • 最適な対象:テクノロジー、金融、専門サービスなどのグローバル志向の知識産業と、ワークプレイスの質やアメニティ、柔軟性を競争力とする企業

2.ロンドン

都市タイプ:レジリエンスを備えたグローバル知識都市

ロンドンはこれまでも高いレジリエンスを発揮してきた都市である。ハイブリッドワークは働き方の文化に深く根付いており、世界でも最もハイブリッドワークを推進する都市の一つとしてしばしば挙げられる。一方で、出社日数の義務化が進むなど、柔軟性のなかにも一定の規律を求める方向へとシフトしつつある。

他の主要都市と同様に、エントリーレベルの仕事の確保は難しくなっており、求人倍率も低水準にとどまっている。それにもかかわらず、ロンドンは文化的魅力に加え、金融やテクノロジー分野の集積を背景に、依然として多くの学生や起業家、多国籍企業を惹きつけている。

都市開発は、依然としてロンドンの成長戦略の中心に位置している。ニューヨークのハイラインに着想を得て2027年にオープン予定の北ロンドンの「カムデン・ハイライン」などのプロジェクトは、都市の居住性向上と再生への取り組みを象徴している。

さらに戦略面では、ロンドン市庁とロンドン・カウンシルズが策定した「ロンドン成長計画」において、世界で3番目に教育水準の高い人口を有する都市としての強みを活かし、2028年までに15万人の高付加価値雇用の創出、さらに2035年までの生産性向上を目標としている。

一方で、ロンドンは世界的な金融ハブとして確固たる地位を維持しているが、セクター別の動向にはばらつきもみられる。特にライフサイエンス分野では、大手企業が投資を撤退させるなどの打撃を受けている。

パフォーマンス評価

  • 人材の定着性
    グローバル都市としての高い魅力を持つ一方で、生活コストの上昇、従業員エンゲージメントの低下、そして雇用機会の不足が課題となっている。
  • 摩擦
    公共交通インフラは充実しているものの、ロンドンの通勤時間は欧州でも最長クラスである。また、住宅の手頃さも政府にとって喫緊の課題となっている。
  • 将来競争力
    長期的な戦略計画と街づくりへの投資が、将来志向の都市としての世界的地位を支えている。
  • 居住性
    ロンドンは『エコノミスト』誌の「2025年世界の住みやすい都市ランキング」において、世界173都市中54位にランクインし、前年から9位順位を下げた。この低下は主に、市民の動乱や英国全体が抱える課題に関連する安定性指標の低下に起因している。
  • 最適な対象:グローバルに活躍する知識労働者や、金融、テクノロジー、イノベーション主導の分野で事業を展開する成熟企業

3.東京

都市タイプ:世界的なメガシティおよび国際ビジネス拠点

東京は、高密度でシームレスかつ24時間稼働する都市生産性とグローバル競争力の最適化を特徴とする都市である。そのパフォーマンスの優位性は、交通、デジタルインフラ、オフィス市場といったシステムの高い信頼性にあり、大規模でありながら極めて安定した運用がなされている。人、情報、資本の流れにおける摩擦を体系的に低減してきたことで、東京は世界有数の強靭なビジネス環境としての地位を確立している。

しかし、その優位性はもはや揺るぎないものではない。2025年には国連の「世界都市化見通し」において第3位に後退し、国内においても大阪の台頭が目立っている。大阪は『エコノミスト』誌の「2025年世界の住みやすい都市ランキング」でトップ10入りを果たした一方、東京は同ランキングで13位にとどまった。大阪がバランスや安らぎを特徴とするのに対し、東京は強度と生産性によって特徴づけられる。

東京では、効率を追求する圧力が個人に負荷をもたらす側面もある。生活の質は依然として高いものの、長時間の通勤、混雑した交通拠点、成果重視の職場文化が、心身の回復時間を圧迫している。東京の課題は、絶え間ない活動を前提としたシステムのなかで、人々の活力とエンゲージメントをいかに持続させるかにある。

パフォーマンス評価

  • 人材の定着性
    日本は依然として人材の定着率が高い労働市場であるが、東京においてはその定着性に変化がみられる。特に若年層や外国人労働者では、長時間労働や職務とのミスマッチ、文化的な摩擦を背景に、キャリア初期における離職率が高まっている。
  • 摩擦
    運用システムは極めて高い信頼性で機能している。一方で、パフォーマンスを阻害する主な要因は認知的な負荷にあり、長い通勤時間や高密度な環境、仕事の激しさによって生じている。
  • 将来競争力
    高度な研究開発能力、先進的なスマートシティ基盤、そして積極的な政策実験により、東京は世界有数の将来志向の都市として位置づけられている。ただし、その前提として、労働者のウェルビーイングがシステムのパフォーマンスに追いつくことが求められる。
  • 居住性
    安全性、交通、医療といった分野で高い評価を得ており、生活の質の水準は非常に高い。一方で、幸福度に関する指標では相対的に低い順位にとどまっており、ワークライフバランスに関する課題が依然として存在することを示している。
  • 最適な対象:グローバル本社機能、金融・専門サービス、信頼性と規模を重視する研究開発集約型組織

4.ニューヨーク

都市タイプ:サービス志向の文化を持つ国際的な人材集積拠点

ニューヨークは現在、ワークプレイスの革新において活発でダイナミックな局面を迎えている。JPモルガン・チェースは最近、パーク・アベニュー270番地に新たなグローバル本社をオープンした。同ビルはホスピタリティ型のアメニティと高機能なワークスペースを融合させた未来の働き方を象徴し、オフィスへの大規模な投資と強い信頼を示している。さらに、ペイパル社もハドソン・スクエアで26万1,000平方フィートの大規模な賃貸契約を締結し、3フロアにわたる高品質な旗艦拠点として、ニューヨークでの存在感を拡大している。こうした動きは、ニューヨークがフィンテックやイノベーションのハブとして成長していることを示すとともに、テック企業が長期的かつ高付加価値なエクスペリエンス重視型オフィスに注力する潮流を浮き彫りにしている。

ニューヨークは、機動力の高いテック系スタートアップの集積地として注目を集めており、特にリーガルテック分野での存在感が高まっている。法律AIスタートアップやリーガルテック企業が顧客や専門人材に近接するためにマンハッタンにオフィスを拡大していることから、ニューヨークは「リーガルテックのサンフランシスコ」とも称されている。

ケスレーシステムズ社の「オフィス出社率指数」によると、ニューヨークのオフィス稼働率は週平均で59.5%に達しており、A+クラスのビルではさらに高い水準となっている。マンハッタンの不動産市場データによると、2026年には2019年以来最も堅調な年間賃貸契約が見込まれ、空室率の低下と賃料の上昇が同時に進行している。

こうした動向は、企業がワークプレイスを文化醸成や人材確保を支える戦略的資産として捉え直していることを反映している。テックやフィンテック分野が高品質オフィスへの需要を牽引する一方で、ニューヨークは依然として多様な産業と高度人材がコンパクトな都市空間に集約するという、世界的にも独自の地位を確立している。

パフォーマンス評価

  • 人材の定着性
    ニューヨークは依然として世界的な人材の磁石であるが、人材の定着やキャリアアップは、生活コストの高騰や、雇用環境の競争激化と成長鈍化の影響を受けている。
  • 摩擦
    公共交通網は充実しているものの、手頃な住宅の不足や入手可能性の低さ、政治的な不安定さといった要因が主な摩擦となっている。
  • 将来競争力
    ニューヨークの規模、産業の多様性、そしてイノベーションへの継続的な投資は、将来に向けた強固な基盤を築いている。特にテクノロジーの導入が産業横断的に加速するなかで、その優位性は一層強まっている。
  • 最適な対象:金融、テクノロジー、リーガル、専門サービスなど、密接なネットワークの恩恵を受ける知識集約型企業やスケールアップ企業