コクリが支える産官学金の連携。行政とスタートアップが共創できる仕組みの整備

静岡市

東京一極集中により地方の人口減少は深刻化している。人口減少は産業の担い手不足や市場縮小をもたらし、地域産業の衰退にもつながる。こうした課題に対し、静岡市は産官学金のネットワークを構築し、スタートアップが活動しやすい環境整備に取り組んでいる。加えて、補助金制度の拡充によって移住者を呼び込む施策も並行して進めている。ネットワークをいかにして機能させているのか、また補助金制度の実態など、同市の取り組みについて担当者に話を聞いた。

スタートアップを惹きつける産官学金のネットワーク構築

静岡市は開業率(*事業者数に対する新規開設事業者数)が全国平均より低いなど、産業の新陳代謝に課題を抱えている。そこで産業政策として、スタートアップと市、そして市内企業が連携しながら、社会課題解決や地域産業活性化につなげていくための環境づくりを進めている。

その一つが、2024年度から開催する「知・地域共創コンテスト」だ。市が抱える社会課題を提示し、スタートアップと行政、地域団体の共創事業となる提案を全国から募集する。第2回目の今年度は、18項目の課題に対し207件の応募があった。

知・地域共創コンテストの様子。(提供:静岡市)

単なるビジネスコンテストと異なる特徴として、一次審査を通過したスタートアップが、市の所管課と「共創チーム」を組んで取り組みを進めていく点があげられる。二次審査では外部有識者の審査員に対して共創チームでプレゼンを行い、選定されれば市からの実証支援金を活用しながら、社会実装に向けた最大1年間の実証実験に進む。

2025年度の最優秀賞は、「伐採跡地における再造林・育林促進の循環モデル構築」に対する提案だった。森林面積が大きい静岡市では、林業従事者不足などにより裸地が放置されることが課題となっており、山地災害を防ぐため、持続的な造林・伐採が求められる。本提案ではスタートアップが有する植物との共生や植物育成をサポートする植物内生菌と、通常よりも成長の早いエリートツリーを組み合わせ、持続可能かつ収益性の高い再造林モデルの構築を目指している。

「昨年度は海外からの応募もありました。静岡に拠点を置く企業に限らず、市の姿勢に共感した企業に応募いただいています。今年度からは新たに、事業化・拡大段階での出資制度も創設しました。行政が直接出資する制度は全国的にも珍しいものです。市内に本店を置く金融機関等とも連携協定を締結し、資金支援体制を強化しながら、継続的なスタートアップ支援を目指します」(経済局 商工部 産業政策課 田中渉氏)。

知・地域共創コンテストだけでなく、市内企業とスタートアップのマッチング支援や、大学と連携しての中高生向けのアントレプレナーシップ教育なども展開しており、多面的な取り組みを通じてスタートアップ、行政、企業、大学、金融機関といった産官学金のネットワークを広げている。

リアルな場がネットワークを「仕組み」へと昇華させる

このネットワークを支えているのが、静岡駅からすぐ近くに位置する、市運営のコ・クリエーションスペース「コクリ」だ。コクリは無料で誰でも利用できる共創スペースで、2名のコミュニティマネージャーが常駐し会員同士の交流を促すほか、必要に応じてインキュベーションマネージャーが来訪し事業化支援も行っている。

コクリの様子。芝生やキャンプ用品が取り入れられ、柔軟な発想を促す。(提供:静岡市)

「各種産業施策は、必ずしも市内へのスタートアップ誘致をゴールとしているわけではありません。目指すのは、革新的な技術やビジネスモデルを持つスタートアップが、市内で活動・共創することによる、市の課題解決や市内企業の成長。そのために、スタートアップが活動しやすい仕組みを整えているのです。この考え方において、コクリもあくまで共創の場の選択肢のひとつ。市内には多様なコワーキングスペースもあるので、各々が活動拠点を持ちながら、市内外の企業や学生、行政など、誰もが気軽に立ち寄れる場所になればと思います」(田中氏)。

「今年度(4~12月)の延べ利用者数は4,848名。週2~3回、直近はほぼ毎日イベントが開催され、50人規模が集まることもあります。これらのイベントはコクリの会員が主催するものも多く、自身の領域を紹介して協業者を募ったり、勉強会を開いたりと、内容は多種多様です」と朝比奈拓也氏(同課)が話すとおり、施設内のイベントカレンダーにはさまざまな分野のイベント予定が記載されていた。単に同じ空間を共有するのではなく、イベントを介して共通のテーマで人が集まることで、つながるべき人同士の深いつながりが生まれていく。田中氏が「市が主導する共創コンテストに限らず、オープンイノベーションや外部との協業が自発的に広がっていく環境を整えたい」と語るとおり、まさにコクリは各種施策で紡いできたネットワークをリアルな場により深め発展させる、いわば「仕組みとして機能させるための土壌」となっている。

施設内にあるイベントカレンダー。

独自の制度でより多くの移住検討者にアプローチ

産業停滞の背景には人口減少も一因として考えられる。全国的に人口減少対策が急務となるなか、静岡市も例外ではない。「1990年の73万9,300人をピークに減少に転じた人口は、このまま対策をしなければ2050年には50万人を切ると推計されています。企画課では、2050年に人口55万人を維持することを目標に、移住者数年間700人を掲げ移住促進を行っています」(総合政策局 企画課 阿部学氏)。

同市はこれまでも、「適度に都会・適度に田舎」の住環境や、東京まで新幹線で1時間というアクセスの良さを発信してきた。2025年は特に課題感の強い若年層の流出に対応するため、20〜40歳にターゲットを絞り補助金制度を拡充している。たとえば、国が用意する就業支援の補助金は、東京一極集中是正を目的としているため、東京23区内からの移住者のみが対象となるが、首都圏外からの移住者も対象とする市独自の制度を創設した。また、住宅確保の補助金も複数用意している。こうした制度を組み合わせれば、県外からの移住で最大1,000万円と、全国でもトップクラスの支給額となる。

充実した制度は、さまざまな移住のニーズに応えている。住宅確保の補助金は住宅の購入・賃借だけでなく、増築や改修の費用にも活用できるため「東京からUターンし、実家をリフォームして家族と住む例も増えています」と阿部氏は話す。第2子以降の保育料無償化など、市の子育て支援策も後押しとなり、結婚や出産といったライフステージの変化をきっかけに補助金制度を利用した若年層の移住が着実に増えている。また、赤池茜音氏(同課)は「コロナ禍で働き方が変わり、移住への熱が高まっていると感じます。テレワークで仕事はそのまま、住所だけ静岡に移す申請者も増えています」と話す。

「次のステップとしてこれらの制度をより多くの移住検討者に届けていきたい。これまで実施してきた移住に関するセミナーやツアーに加え、SNSでの情報発信も強化していきます。また、移住後の定住促進や地域コミュニティ活性化についても、市として取り組みたいです」(阿部氏)。

産業施策と移住促進を通じ、スタートアップや移住者を惹きつけ、活躍できる環境づくりを進める静岡市。「働く」「暮らす」を支える取り組みが、市の持続的な活力となることが期待される。