不動産市場の変化の兆しはどこに表れるか?2026

オフィスマーケット指標とマクロ経済指標の時間的前後関係

オフィスマーケットの状況を把握するためには、空室率や賃料をはじめ、さまざまな指標が用いられる。しかし、これらの指標は同時に動くとは限らない。オフィスマーケットでは、次のような順で指標に変化が表れると考えられる。まず、テナントの退去や縮小によって募集区画が増え、その後、実際の空室として顕在化する。次に、需給バランスの変化が新規契約時の賃料に影響を与え、さらに時間をかけて既存テナントが支払う賃料にも波及する。このように、市場で起きた変化が指標に表れるタイミングには差があると考えられる。

また、オフィスマーケットは、企業活動や景況感、金融環境など、外部の経済環境とも無関係ではない。そのため、景気や株価、金利などの変化が、オフィスマーケットのどの指標に、どのような順序で表れるのかを把握することは、市場の変化を早期に捉える上で重要である。

ザイマックス総研では、こうした問題意識のもと、2021年に「不動産市場の変化の兆しはどこに表れるか?~指標の時間的前後関係~」(*1)と題し、2005年第1四半期から2021年第1四半期までの期間で7つのオフィス賃貸指標と25の経済指標の時間的な前後関係を分析した。

それから約5年が経過し、東京オフィスマーケットはコロナ禍による需要の変化やその後の空室率低下、賃料上昇など大きな市況変動を経験した。そこで今回は、コロナ禍以降のデータの追加、分析方法の見直しを行ったうえで、オフィスマーケット指標間の先行・遅行関係と、それらに先行するマクロ経済指標を改めて検証した。

なお、本レポートは2026年10月公開のARES不動産証券化ジャーナル寄稿「不動産市場の変化の兆しはどこに表れるか?2026~オフィスマーケット指標とマクロ経済指標の時間的前後関係~」(*2)の内容を概要版として再構成したものである。

*1 2021年8月10日公表「不動産市場の変化の兆しはどこに表れるか」*2 ARES不動産証券化ジャーナル Vol. 104(2026.10)「不動産市場の変化の兆しはどこに表れるか?2026」(中山善夫、曽我部哲人、中村亮太)

※<概要版>PDFはこちら

主な調査結果

  • 募集面積率・空室率の動きは新規成約賃料インデックスの動きに先行する。
  • 新規成約賃料インデックスと支払賃料インデックスの動きは、長期的には一定の関係性を保って動く。
  • 複数のマクロ経済指標が新規成約賃料インデックスに先行していた。また、GDPや短観(中小・製造)は募集面積率にも先行していた。

1. 分析の概要

本分析で対象としたのは、東京オフィスマーケットの「募集面積率」「空室率」「新規成約賃料インデックス」「成約賃料DI」「支払賃料インデックス」「平均フリーレント月数」の6指標と、「GDP」、「日銀短観(以下、短観)」、「日経平均株価」、「為替」など14のマクロ経済指標である。使用データは、2005年第1四半期から2026年第1四半期までの四半期データである(指標によってデータの開始時期は異なる)。

これらの指標について、ある指標の過去の動きが、別の指標のその後の動きを説明する手掛かりになるかを調べ、指標間の時間的な前後関係を検証した。また、短期的な先行・遅行関係(短期先行関係)に加え、中長期的に一定の関係(長期調整関係)を保って動くかについても確認した。

なお、分析手法の詳細については、ARES不動産証券化ジャーナル寄稿を参照されたい。

2. オフィスマーケットでは、どの指標が先に動くのか

6つのオフィスマーケット指標について時間的な前後関係を分析した結果、得られた主な短期先行関係、長期調整関係を【図表1】に示す。

【図表1】オフィスマーケット指標間の短期先行関係・長期調整関係の主要分析結果

分析の結果、募集面積率や空室率といった需給を示す指標が、新規成約賃料インデックスに先行する関係が明確に確認された。具体的には、募集面積率では過去3四半期(約9ヶ月)、空室率では過去5四半期(約1年3ヶ月)の動きが、その後の新規成約賃料インデックスの動きを捉える手掛かりとなることが確認された。これは、募集区画や空室の増減による需給環境の変化が、その後の新規契約時の賃料に反映されるという市場の流れと整合的な結果である。また、募集面積率から空室率に対しても、一貫した先行関係が確認された。ただし、モデルの設定を変えた一部のケースで課題が残ったため、募集面積率から空室率への関係については、他の結果より慎重に解釈する必要がある。

一方、新規成約賃料インデックスと支払賃料インデックスの間では、どちらかが明確に先行するという関係は確認されず、中長期的に一定の関係を保って動く傾向が確認された。新規成約賃料は足元の市場環境を反映しやすいのに対し、既存契約を多く含む支払賃料は、その変化が表れるまでに時間を要する。このため、短期的には両者の動きは必ずしも同じではないものの、契約更新などを通じて市場環境の変化が支払賃料にも徐々に反映され、中長期的には一定の関係が保たれると考えられる。

こうした関係は、主要指標の時系列推移からも確認できる【図表2】。募集面積率や空室率と新規成約賃料では変化のタイミングが必ずしも一致せず、新規成約賃料と支払賃料も大きく乖離することなく推移していることが分かる。

【図表2】主要オフィスマーケット指標の時系列推移

3. オフィスマーケットに先行するマクロ経済指標は何か

14のマクロ経済指標と6つのオフィスマーケット指標について時間的な前後関係を分析した結果、明確に得られた主な短期先行関係、長期調整関係を【図表3】に示す。

【図表3】マクロ指標からオフィスマーケット指標への先行関係の主要分析結果

最も特徴的だったのは、GDP、短観、日経平均株価、景気動向指数、コールレートなど多くのマクロ経済指標が新規成約賃料インデックスに先行していたことである。これらの指標では、主に過去4~5四半期(約1年~1年3ヶ月)の動きが、その後の新規成約賃料インデックスの動きを捉える手掛かりとなることが確認された。

また、GDPや短観(中小・製造)については、募集面積率に先行する関係も確認された。一方、今回の分析では空室率、支払賃料インデックスについては、マクロ経済指標からの安定した短期先行関係は確認されなかった。

新規成約賃料は、その時点の市場環境のもとで貸主と借主が新たに合意する価格である。そのため、企業活動や景況感、金融環境などの変化が比較的早く反映される可能性がある。

こうした関係を主要指標の時系列推移からみると、マクロ経済指標と新規成約賃料の転換点は必ずしも一致せず、リーマンショック期やコロナショック期などでは、マクロ経済指標がピークから下落した後、新規成約賃料インデックスが下落する傾向があることが分かる【図表4】。

【図表4】新規成約賃料インデックスに先行する主要マクロ指標の時系列推移

以上から、オフィス賃料の先行きを考えるうえでは、足元の募集面積率や空室率といった需給指標に加え、過去1年から1年半程度の企業活動や景況感、株価、金利などのマクロ経済環境の変化もあわせて確認することが重要と考えられる。

4. まとめ

本レポートでは、オフィスマーケット指標とマクロ経済指標について、時間的な前後関係を分析した。その結果、主に以下の3点が明らかとなった。

第一に、オフィスマーケットでは、募集面積率や空室率といった需給の変化が新規成約賃料インデックスに先行する関係が確認された。これは、需給環境の変化がその後の新規契約時の賃料に反映されるという市場の流れと整合的な結果である。

第二に、新規成約賃料インデックスと支払賃料インデックスは、短期的には異なる動きをしながらも、中長期的には一定の関係を保つ傾向が確認された。新規成約賃料は市場環境を比較的早く反映する一方、既存契約を多く含む支払賃料は変化に時間を要するためと考えられる。

第三に、GDP、短観、日経平均株価など、複数のマクロ経済指標が新規成約賃料に先行する関係が確認された。このことから、オフィス賃料の先行きを考えるうえでは、足元の需給状況に加え、過去1年から1年半程度のマクロ経済環境を確認することが有用と考えられる。

以上から、オフィスマーケットでは各指標が時間差を伴って変化することに加え、マクロ経済指標も新規成約賃料の先行きを考える手掛かりとなることが示された。ただし、本分析で確認されたのは統計的な前後関係であり、直接的な因果関係や一連の因果の流れを示すものではない。それでも、複数の指標を組み合わせ、その変化の順序に注目することは、市場の転換点を捉えるうえで重要と考えられる。

今回確認された結果は、現時点での指標間の関係を示したものであり、今後の市場環境の変化に伴い、その関係も変化する可能性がある。ザイマックス総研では、今後もデータを蓄積し、継続的に検証を行っていく。