2026年のワークプレイス変革:組織が直面する6つの優先課題とその対処法

英国ワークテック・アカデミーによる2026年第2四半期トレンドレポート

仕事とワークスペースをメインテーマとする世界的な知識ネットワーク「WORKTECH Academy(ワークテック・アカデミー、*1)」は、2026年第2四半期のトレンドレポート「High priority workplace challenges - and how to meet them(*2)」を発表した。本レポートは、ザイマックス総研が原文を翻訳・編集して紹介するものである。

*1 2016年に英国で設立された世界的な知識ネットワークであり、仕事とワークスペースに関する研究・情報発信を行っている。また、アンワイヤード・ベンチャーズ社と共同で、毎年各国にてカンファレンスを開催し、不動産や IT、サービス、建築、インテリアといった業界関係者を集めて新たなトレンドを生み出している。ザイマックス総研は 2017 年より加盟している。

*2 ワークテック・アカデミー「High priority workplace challenges - and how to meet them

AIの導入、従業員エンゲージメント、チームの信頼関係、空間計画、さらには多世代が共存する職場環境など、働き方が絶えず変化するなかで、ワークプレイスマネジメントはますます複雑になっている。

これらの課題は、それぞれ独立したテーマのように見えるが、実際には互いに密接に結びついている。企業は、イノベーションの加速、従業員のウェルビーイングの向上、絶え間ない変化への対応、そして新たな働き方に適応したオフィスの再設計を同時に進めることが求められており、ワークプレイスは大きな転換期を迎えている。

本レポートでは、企業がこうした課題にどのように対応し、「テクノロジーによる変革」と「人間のエクスペリエンス」をいかに両立しようとしているのかを考察する。また、ワークプレイス変革はもはや個別の施策の積み重ねではなく、人・場所・テクノロジー・デザイン・企業文化が相互に結びついた一つのエコシステムとして捉えるべきであることを示している。

同レポートは、職場が直面する6つの優先課題について解説する。

職場が直面する6つの優先課題

1. AI統合
2. 従業員エンゲージメント
3. 急速に進む変化のマネジメント
4. チームの信頼
5. 多世代間のダイナミクス
6. 空間計画と分析

1. AI統合

AIの導入が急速に進む一方で、組織がAIを業務に戦略的に組み込む取り組みは追いついておらず、同時に不信感やスキルギャップも広がっている。

AIが職場の生産性向上や企業成長に寄与することは広く認識されている。しかしAIへの不信感の高まりやスキルギャップ、さらに長期的な戦略の欠如により、実際の投資対効果は微々たるものにとどまっている。マッキンゼー社の調査によると、ソフトウェア開発ではAIの活用によって最大30%の生産性向上を実現した企業もある。しかし、その成果は単に新しいツールを導入しただけでは得られず、AIを前提としてワークフローを根本的に再構築した場合に限られる。

多くの企業は、依然としてより大きな機会を逃している。マッキンゼー社によれば、企業の80%がAIの導入目的を業務効率化と位置づけているが、より強力なリターンはAI導入の目的を成長とイノベーションへと転換したときにこそ得られるという。そのためには、より意図的で戦略的な視点が求められる。

現在のAI導入の動向からは、うまく機能しない取り組みも明らかになってきた。たとえば、多くのテクノロジー企業では、管理職にAIの利用状況を監視し、利用を推進する役割を担わせる「トップダウン型の義務化」が進められているが、従業員の動機付けとして効果を上げていない。ブルームバーグの調査では、経営層からの指示よりも、身近な同僚がAIによって実際に価値を生み出した事例の方が、人々の行動変容にはるかに大きな影響を与えることが示されている。

また、「AIウォッシング(AIの能力や効果を実態以上に主張すること)」も新たな教訓となっている。AIへの過度な期待から、人員を削減しAIへ置き換えた企業のなかには、顧客満足度の大幅な低下や、AIだけでは対応できない複雑な業務への対応に迫られ、解雇した従業員を2年以内に再雇用するケースも出始めている。

■台頭する動向

  • 重要な緊張関係が生まれつつある:世界的にAIへの不信感が高まっているにもかかわらず、個人や企業によるAIの導入は年々増加している。
  • AI導入は経営指標となっている:コインベース、メタ、スナップなどのテクノロジー企業では、管理職に対し、AIの利用状況を監視し、利用度を把握するとともに、チーム全体での導入を促進する役割を課している。
  • トップダウン型の義務化は効果的ではない:ブルームバーグによると、経営層からの指示よりも、身近な同僚がAIによって具体的な価値を生み出した事例の方が、AIの利用を促すうえで、はるかに強い動機となる。
  • 真の価値は生産性向上の先にある:マッキンゼー社の調査によると、企業の80%がAI導入を業務効率化の観点で捉えている。一方、最も大きな投資対効果が得られるのは、AIを成長とイノベーションに活用した場合である。

『フォーチュン』誌によると、AI導入に成功している企業は、これをテクノロジーと人的資本の双方を変革する取り組みとして捉えている。CIO(最高情報責任者)とCHRO(最高人事責任者)が連携し、どの業務を自動化するべきか、どの領域では人間の判断が引き続き不可欠なのか、さらにはAIによって人間の役割を空洞化させるのではなく、いかにその能力を拡張できるかについて、共同で意思決定を行う動きが広がっている。

こうした動きの根底には、ワークプレイスのリーダーが真剣に向き合うべき一つの逆説がある。個人や企業によるAI導入が年々増加する一方で、世界的にはAIへの信頼が低下しているという点である。信頼が身近な実践の積み重ねによって形成されるものであれば、透明性、トレーニング、そして確固たる戦略こそが成功の基盤となる。

■事例:ソフトキャット社、ロンドン

ロンドンオフィスは、リアルタイムデータとAIを活用して従業員体験を向上させるための実証実験の場として機能している

ITインフラ企業であるソフトキャット社のロンドン本社は、AIや高度なワークプレイステクノロジーが、ハイブリッドワークや業務効率化を支援するために、日常的な従業員体験にどのように組み込まれつつあるかを示している。同社のAI統合戦略は物理的なオフィス環境から始まり、ワークプレイスのパフォーマンスに関する意思決定を高度化するものである。

この戦略の中核にあるのは、リアルタイムのワークプレイスデータを活用して意思決定の精度を高めるとともに、利用状況の変化に応じて環境を適応させることである。Cisco Spacesテクノロジーや占有センサーによって、従業員が1日を通じてさまざまなスペースをどのように利用しているかを把握し、ワークプレイス部門がスペースの利用効率、快適性、コラボレーションをより効果的に管理できるようにしている。また、AIを搭載した音声・映像会議システムにより、ハイブリッド環境でのコミュニケーションも円滑になり、リモート勤務者とオフィス勤務者の双方により公平な体験を提供している。

同社は、AIを単独で生産性を高めるためのツールとしてではなく、より広範なデジタルワークプレイス戦略を構成する職場システムの一部として捉えている。オフィスは、将来のワークプレイス革新のための実証実験の場として機能し、従業員体験を継続的に改善するとともに、柔軟性、適応性、データに基づくワークプレイスマネジメントを支えている。

2. 従業員エンゲージメント

企業が従業員に対しより高い適応力、コラボレーション、成果を求める一方で、従業員エンゲージメントは低下している。

従業員エンゲージメントは、組織のパフォーマンスを脅かす最大の潜在的リスクの一つとなりつつある。ギャラップ社の「2026年世界の職場の現状」調査によると、世界の従業員エンゲージメントは2020年以来の低水準を記録しており、仕事に意欲的に取り組んでいる従業員はわずか20%にとどまる。同社は、従業員エンゲージメントの低下による生産性損失が世界経済全体で年間10兆米ドルに達し、世界GDPの9%に相当すると推計している。

この問題が重要なのは、企業のパフォーマンスが、従業員の創造性、適応力、コラボレーション、そして日常業務にAIを効果的に取り入れる力に、これまで以上に依存するようになっているためである。しかしその一方で、多くの従業員が、組織に対する心理的なつながりを失いつつある。

ワークテック・アカデミーとSPS社の調査では、物理的には職場にいるものの、感情的には仕事から切り離されている従業員が増えていることが明らかになっている。現在、従業員の4人に1人が、仕事に対して中立的、あるいは仕事への意欲や関与を失った状態にある。その一方で、こうした従業員は以前よりも転職しにくくなっている。経済の不確実性、組織再編、将来必要となるスキルへの懸念などから、仕事への関与が薄れていても、現在の職場にとどまる傾向が強まっている。その結果、企業は従業員を雇用し続ける一方で、従業員の自発的な努力やイノベーション、長期的なコミットメントを維持できず、職場のパフォーマンスギャップが拡大している。

AIが職場の変革を加速させるなかで、この課題はさらに切迫したものとなっている。AIには業務効率を高め、仕事上の摩擦を取り除く可能性がある一方、多くの企業は、すでに分断され、過負荷状態にある職場環境にAIを導入している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、AIがワークフローや成果への期待をますます大きく左右するなかで、社会的つながり、職場への帰属意識、共有された企業文化が剥ぎ取られていく「喜びのない仕事」の台頭を指摘している。

企業にとって、従業員エンゲージメントは、イノベーションを生み出す力や、絶え間ない変化に対応する力とこれまで以上に密接に結びついている。課題は、従業員が単に表面的な生産性を維持するのではなく、つながりを感じ、支えられていると実感し、意味のある価値を生み出せる職場を創り出すことである。

■台頭する動向

  • エンゲージメントは企業パフォーマンスのリスク要因になりつつある:エンゲージメントの低下は、単なる人事指標にとどまらない。イノベーション、適応力、AIの導入、そして組織のレジリエンスにまで影響を及ぼし始めている。
  • AIがパフォーマンスギャップを拡大させている:エンゲージメントに課題を抱える企業では、すでに分断されたワークフローや企業文化のなかでAI導入を進めているケースが多い。
  • 管理職がエンゲージメントを左右する存在になりつつある:ギャラップ社の調査では、従業員がAIや組織変革全般を「力を与えるもの」と捉えるか、それとも「脅威」と捉えるかは、管理職の関わり方が大きく左右することが示唆されている。
  • 従業員は仕事の意義をより重視するようになっている:エンゲージメントの高い従業員は、生産性を単なる活動の量ではなく、貢献、インパクト、そしてコラボレーションを通じて定義している。

■事例:ミロ社、アムステルダム

つながり、参加、そして創造的な貢献を軸にエンゲージメントを設計

デジタルコラボレーションソフトウェア企業であるミロ社は、従業員がアイデアづくりに積極的に関与し、チームのなかで目に見える形で貢献できるとき、エンゲージメントは高まるという考え方を、ワークプレイス戦略の中心に据えている。そのため、同社のアムステルダムオフィスは従来型の本社オフィスというよりも、コラボレーション拠点として設計されている。

この考え方は、柔軟に利用できるチームエリア、広々としたコラボレーションスタジオ、書き込み可能な壁面やホワイトボード、カジュアルな集いの場、そして自発的な交流や部門横断的な意見交換を促すホスピタリティ重視の社交スペースなどの物理的な環境に支えられている。従業員は、オンボーディング、イノベーションワークショップ、チームでの計画策定、創造的な問題解決など、対面で集まる価値が最も高い活動にオフィスを活用することが奨励されている。

また、同社は対面参加とオンライン参加の隔たりを縮めることにも注力している。コラボレーションソフトウェアを提供する企業として、ハイブリッドコラボレーションを日常のワークフローに組み込み、ワークショップや会議、アイデア創出の場において、リモート勤務の従業員も同様に貢献できる環境を整えている。これにより、意思決定やチーム文化から疎外感を感じがちな分散して働く従業員のエンゲージメント低下を防いでいる。

さらに同社は、従業員の自律性と意図的な柔軟性を強く重視している。出社を義務づけるのではなく、チームごとにいつ、どのように協働するかを主体的に決定できるようにすることで、出社の有無よりも信頼と成果を重視する企業文化の醸成につながっている。

3. 急速に進む変化のマネジメント

組織変革のスピードは、多くの従業員がそれを吸収し適応できる能力を超えつつある。その結果、ウェルビーイングやエンゲージメント、パフォーマンスに対するリスクが高まっている。

従業員は、AIや自動化の普及、組織再編、経済の不確実性、そして進化するビジネスモデルによって引き起こされるかつてない速さで進む変化についていくのに苦労している。そして、従業員がこうした変化を吸収できる限界に達すると、企業はすでに顕在化しているエンゲージメントの危機をさらに深刻化させるリスクを抱えることになる。

組織変革を成功させるには、従業員が変化に適応できることが不可欠であるが、実際にその適応を支えているのは管理職である。経営戦略と現場をつなぐ存在として、管理職は業務上の変化を日々のワークフローに落とし込んでいる。しかしこうした重要な役割を担う管理職層にはますます負荷がかかっている。ギャラップ社によると、管理職のエンゲージメントは22%まで低下し、全従業員のなかで最も大きな低下幅となっている。期待が高まるなか、管理職のエンゲージメント低下は組織変革の実行を阻害する可能性がある。特にAI導入においては、管理職は現場への浸透を促し、従業員の不安を軽減する重要な役割を担っているため、その影響が大きくなる可能性がある。

こうした状況のなか、従業員の自信やレジリエンスは着実に低下していることが各種調査から明らかになっている。グラスドア社の調査では、従業員の自信は2025年10月時点で45.7%となり、前年の51.9%から大きく低下した。これは、従業員と組織戦略との間に乖離が広がっていることを反映している。また、ソフトウェア企業アクシオスHQの「2025 State of Internal Communications(2025年社内コミュニケーションの現状)」では、組織の目標と一致していると感じる従業員はわずか9%にとどまった。こうした状況は、AIの導入、キャリアの不安定さ、将来のスキルや要件に対する不確実性などに伴うストレスの増加とも重なり、従業員は変化へ適応する時間を十分に確保できないまま、次々と新たな変化への対応を求められている。

今後、AIの普及によって組織変革のスピードはさらに加速し、従業員に求められる適応力も一層高まると考えられる。AIがより多くの業務やワークフローに組み込まれることで、新たなスキルや働き方を習得するための期間はさらに短縮され、従業員が適応するための時間はさらに限られていく。人間の適応がテクノロジーの進化に追いつけなければ、組織は変化への抵抗感や変革疲れ、スキルギャップを悪化させるリスクを負うことになる。

変革の時代に組織の推進力を維持するためには、管理職と従業員の双方が継続的な変化に対応できるよう、企業が十分な支援を提供することが不可欠である。適応力と変革への備えを従業員体験の中核に組み込むことは、人材を疲弊させることなく組織の俊敏性を維持するための重要な戦略的ステップとなるだろう。

■台頭する動向

  • 「変革疲れ」が組織変革のリスクとなりつつある:従業員は絶え間ない変化を受け入れる能力の限界に達しつつあり、エンゲージメント、生産性、そして変革の成果を脅かしている。
  • 管理職が変化への適応を支える重要な存在になりつつある:経営戦略と現場の架け橋として、管理職は従業員が変化やAI導入にどれほど効果的に対応できるかをますます大きく左右する存在となっている。
  • AIは変化への適応期間を短縮している:AI導入が拡大するにつれ、従業員が新たなスキルを習得し、変化する期待に応えるための時間はますます少なくなっている。
  • 人間の適応能力が戦略上の制約となりつつある:組織の俊敏性は、従業員の自信やレジリエンス、そして継続的な変化に適応し続ける能力にますます依存するようになるだろう。

■事例:ワイズ社、ロンドン

働き方の変化に対応し、組織の長期的な俊敏性を支える、進化し続ける環境

フィンテック企業であるワイズ社のロンドン新本社は、急速な事業成長と働き方の変化が進むなかで、ワークプレイス戦略がいかに組織の変化への適応を支援できるかを示している。1,000人を超える従業員を収容するこのオフィスは、チームが変化するビジネスの要求に迅速に適応し、効果的にコラボレーションできるよう、柔軟なABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の原則に基づいて構築された。

このプロジェクトの大きな特徴は、従業員エンゲージメントと継続的なフィードバックに重点を置いた点にある。同社は、ワークショップやインタビューに加え、ワークプレイス管理部門と各チームをつなぐ架け橋となる社内ネットワーク「チェンジ・チャンピオンズ」を通じて、従業員と緊密に連携した。また、回答率85%を超える社内サーベイ「ワイザー・パルス」を定期的に実施することで、従業員のニーズや行動の変化に合わせてワークプレイス戦略を進化させ続けている。

さらに、このプロジェクトは、ワークプレイスデータを活用して継続的な変革をマネジメントする新たなアプローチも示している。毎月のオフィス利用状況レビュー、在席・稼働状況の分析、環境センサーのデータを活用し、スペースを継続的に最適化することで、働き方の変化にワークプレイスが適応できるようにしている。同社は変化を一度限りの移行として捉えるのではなく、オフィスを組織の長期的な俊敏性、従業員のウェルビーイング、そしてコラボレーションを支える「進化し続ける環境」として位置づけている。

4. チームの信頼

チーム内の信頼度は過去最低水準にまで低下しており、オフィス設計やリーダーシップのあり方を見直す必要がある。

チームのパフォーマンスは企業の成否を左右する重要な要素である。しかし近年、チームは分散化が進み、専門分野を横断して構成されることが増え、マネジメントが複雑になっていることから、チーム内の信頼関係は揺らいでいる。信頼にはさまざまな側面がある。メンバーはリーダーを信頼し、同僚から信頼されていると感じる必要がある。また、重要な情報が共有される「輪の中」に入り、意思決定のプロセスに関与し、帰属意識を感じることを求めている。こうした信頼が築かれることが、従業員エンゲージメントの向上に直結する。

ワークプレイスの計画や管理のあり方は、信頼形成に直接的な影響を与える。ワークテック・アカデミーとアコ・ブランドズが共同で実施した研究レビューでは、オフィスで働くことは、チームに必要な物理的な近接性と心理的安全性の両方をもたらし、チームワークと創造性を大幅に向上させることが示されている。一方、米国経営協会(AMA)の調査によると、ハイブリッドワークやリモートワークはチームビルディングを阻害する可能性がある。

しかし、従業員をオフィスに戻すだけでチームの信頼が自然に築かれるわけではない。特に、AIの急速な活用によって組織の階層構造や業務の進め方が変化し、不信感が生まれやすくなっている現在ではなおさらである。より効果的なチームを構築するためには、人事制度、リーダーシップ、職場環境設計、そしてテクノロジーシステムを一体的に設計する意図的かつ統合的な戦略が必要となる。

また、エデルマン社のグローバル信頼度調査「エデルマン・トラスト・バロメーター2026」によると、現在の世界的な信頼危機は「閉鎖性」に起因しており、限定的な世界観、意見の狭まり、文化的な硬直性が新たな障壁を生み出している。チーム構成やデザイン、空間計画の面で、より多様性のある職場環境は、こうした障壁を乗り越えることができる。少なくとも企業は、チームが知識を構築・共有できるよう適切に整備された安全な空間を設けるとともに、分散して働く従業員全体に対して、説明責任を果たし、透明性と信頼を重視するリーダーシップモデルを育む必要がある。

■台頭する動向

  • 重要な情報が共有される「輪の中」にいることが重要になっている:研究では、こうした情報共有やコミュニケーションは給湯室などでの偶発的な出会いに頼るのではなく、意図的に計画される必要があることが示されている。
  • オフィスへの出社はチームのダイナミクスを高める:チームの信頼構築は、職場でメンバーが物理的に同じ場所で働くことが大きな効果を発揮する数少ない分野の一つである。
  • チームのつながりを強化する新たなリーダーシップ:AI時代の急速な変化に対応するために、新たなリーダーシップには明瞭さ、共感、そして創造性が求められる。
  • オフィスはミッションと人間関係を軸に計画されるようになっている:チームを円滑に機能させるのは、共通の目的意識と人と人のつながりである。

■事例:サノフィ社、世界各地の拠点

信頼とつながりを築くための人間中心の不動産戦略への転換

ライフサイエンス業界ほど、画期的なイノベーションの実現がチームのパフォーマンスに全面的に依存している業界はない。研究開発を中核とするグローバルなバイオ医薬品企業であるサノフィ社は、オフィス面積や従業員数といった指標を重視するコスト主導の考え方から、文化、コラボレーション、目的意識、そして帰属意識を重視するワークプレイス戦略へと転換した。

この転換は2021年、同社が不動産の管轄を財務部門から人事・文化(HR)部門に移管した際に始まった。これは単なる管理上の変更ではなく、ワークプレイスを単なる貸借対照表上の項目から、従業員のウェルビーイングや信頼、そしてアイデンティティを支える基盤として再定義するものだった。同社は、グローバル共通のワークプレイス戦略として、次の4つの柱を確立した。

  • 文化とコラボレーション:チームを越えた帰属意識とつながりを育む。
  • サステナビリティとウェルビーイング:環境への影響を低減しつつ、心身の健康を支える空間を設計する。
  • テクノロジーとイノベーション:業務の効率化と適応性を高めるデジタルシステムを導入する。
  • ホスピタリティとワークスペース:上質なホスピタリティ環境が備えるサービス精神と、五感に訴える要素をオフィスに取り入れる。

この変革は、マサチューセッツ州の「ケンブリッジ・クロッシング」キャンパスから始まった。90万平方フィートのこの拠点は、研究開発機能とオフィス機能を融合し、データ、ホスピタリティ、そして目的意識を組み合わせた新たなワークプレイス戦略を検証する実証の場となった。当初は社内のさまざまなチームから懐疑的な見方もあったが、同社は新たな不動産プロジェクトの意思決定に活用するグローバル共通のデータ基準を構築し、データに基づく知見を示すことで、組織内の信頼を築いていった。

同社は、2028年までに世界全体のオフィスおよび研究開発拠点の75%を、この新しいワークプレイスモデルへ移行させることを目標としている。

5. 多世代間のダイナミクス

世代間の違いは組織の一体感を損なう要因となりうる。しかし、包括的な戦略と設計によって、世代間の相互理解と尊重を生み出すことができる。

現在の職場は、年齢構成の面でかつてないほど多様になっている。一方で、世代ごとの価値観や期待の違いもこれまでになく表面化している。それぞれの世代には特定の固定観念がつきまとい、それが組織の団結力を損なう要因となっている。そのため、多世代が共存する職場をいかにマネジメントするかは、ワークプレイス担当者にとって重要な優先課題の一つとなっている。

Z世代(1997年〜2012年生まれ)は「扱いにくく、権利意識が強い世代」と広く見なされている。しかし、研究者・起業家であるアマンダ・シュナイダー氏は、著書「Work for What's Next: Why Workplace Culture is Failing and How the Next Generation Can Fix It(これからの時代のために働く:なぜ職場文化は機能不全に陥っているのか、そして次世代はいかにそれを立て直せるのか)」のなかで、こうした特徴を厄介なものとしてではなく、仕事の未来を先取りする兆候として捉えるべきだと指摘している。同氏は、Z世代は次世代の職場における労働力の原型であると述べている。

X世代(1965年〜1980年生まれ)は「燃え尽き、行き詰まり、仕事に飽きている世代」と特徴づけられることが多い。しかし、マザー研究所の「2026 Gen Xperience Study(2026ジェンXエクスペリエンス)」調査によると、X世代は、ベビーブーマー世代のAI活用を後押しするとともに、若い世代に対する調整役としての役割を果たしうる独自の立場にあるという。同調査では、特に若い世代ほど職場での対立が多く、「自分は理解されていない」と感じている傾向が強いことから、企業はX世代を多世代間の架け橋として積極的に活用することを推奨している。

ベビーブーマー世代(1946年〜1964年生まれ)では、職場における年齢差別が依然として解消されていない。2026年5月にレジュメナウ社が実施した調査によると、50歳以上の米国労働者の83%が、若い同僚から敬意を払われていないと感じている。しかしその一方で、多くの研究は、高齢層の従業員が持つノウハウ、経験、組織的な知恵が企業に大きく貢献していることを示している。

こうした多世代間の緊張を和らげるためには、物理的な職場環境、人事施策、コミュニケーションのあり方、テクノロジーへのアクセスに至るまで包括的なアプローチを採用し、すべての世代が対等な立場で能力を発揮できる環境を整えることが不可欠である。これは、すべての世代に画一的な基準を押し付けることではなく、世代ごとのニーズや価値観に応じた、柔軟で人間中心のアプローチを採ることを意味する。何より重要なのは、職場の設計においてそれぞれの世代の従業員に十分な発信の機会を与え、そしてその声に真摯に耳を傾けることである。

■台頭する動向

  • インクルーシブな空間設計はすべての世代に共通する価値となっている:柔軟に利用できる空間、自然光、人間工学に基づいた家具、良好な空気質など、職場のウェルビーイングを支える設計要素は、すべての世代に恩恵をもたらす。
  • リバース・メンタリングが世代間の関係性を再構築している:企業では、若手社員とベテラン社員がペアを組み、「デジタルネイティブ」世代のスキルとベテラン社員が持つ組織のノウハウを相互に学び合う取り組みが広がっている。
  • 共有空間が世代間の相互理解を育んでいる:中央カフェ、ブレイクアウトスペース、ラウンジ、テラスなど、異なる世代が自然に交流できるコミュニティ空間の整備が進んでいる。
  • コミュニケーション憲章が誤解を防いでいる:企業では、どのような内容をどのチャネルで伝えるべきか、使用する言葉遣い、期待される応答時間、そして誤情報の発生源までを定めた「コミュニケーション憲章」が活用されている。

■事例:キャピタル・グループ(米国カリフォルニア州アーバイン、テキサス州サンアントニオ)

従業員全体の実際の行動から学ぶ

多世代の従業員が共存し、ニーズや要望が対立する時代においては、大規模なオフィス改革に投資する前に、仮説を検証し、従業員の行動を調査し、空間設計を実証的に検証することでリスクを低減することが重要である。米国の資産運用会社キャピタル・グループは、カリフォルニア州アーバインとテキサス州サンアントニオの両キャンパスで新たなワークプレイス戦略を展開するにあたり、このアプローチを採用した。

課題は、20年近く使用されてきたワークプレイスを、誤った判断による改修を避けながら進化させることであった。同社は、業界のベンチマークや第三者の一般的な前提に頼るのではなく、「人々が実際にどのように働いているのか」という実態を起点として、ゼロからワークプレイス戦略を構築した。

この戦略では、両キャンパスで定量的および定性的な調査を組み合わせ、12ヶ月分の入退館・オフィス利用データと、座席や会議室の利用状況を分析したほか、24名の経営幹部へのインタビューと、400名以上の従業員を対象とする48回のグループインタビューを実施した。実際の行動に関する詳細なデータを把握したうえで、各キャンパスの従業員の10%を対象に、2週間ごとのサイクルで実験スペースを体験してもらい、家具レイアウトを検証した。

実証実験では、集中作業向けの個室空間からカジュアルなコラボレーションゾーンまで、多様な空間を用意し、従業員はさまざまな家具や空間を自由に試すことができた。その結果、フィードバックから得られた最も明確な知見の一つは、「近接性」の重要性であった。チームが実証スペースで同じ場所に集まって働くと、自発的な交流が増え、正式に予定された会議の数は減少した。

こうした調査と実証実験の成果は、個人作業スペース、コラボレーションスペース、サポートスペース、アメニティスペースから構成される「キット・オブ・パーツ(空間構成要素)」フレームワークへと落とし込まれた。同社の取り組みは、さまざまな仮説を実証的に検証しながらワークプレイスを再構築するための有効なモデルを示している。

6. 空間計画と分析

空間に関する意思決定は、依然として場当たり的で断片的、あるいは時代遅れの前提に基づいて行われている。

企業を取り巻く事業環境の不確実性が高まるなか、空間計画はワークプレイス担当者にとって最も重要な課題の一つとなっている。課題はもはや「どれだけのオフィス面積が必要か」ではなく、変動する従業員数、進化する働き方、そしてAIが組織構造やワークフローに与える影響の増大に適応できるワークプレイスを、いかに設計するかへと移行している。

ワークプレイスにおける空間配分にも明らかな変化がみられる。AIS社がケルスティン・ザイラー博士およびワークテック・アカデミーと共同で実施した調査によると、オープンプランのデスクスペースの床面積に占める割合は、パンデミック前の34%から現在ではわずか19%に減少している。一方で、コラボレーションスペースは現代の職場のほぼ半分を占めるまで拡大している。その結果、廊下や通路の割合は24%から30%に増加した。人の移動がワークプレイスの基盤として扱われるようになり、オフィスは固定的な執務空間ではなく、人の流れや出会い、つながりを中心に構成されるようになっている。

また、AIの導入や組織再編も、オフィスの空間計画をさらに複雑なものにしている。マーサー社の「2026年グローバル人材トレンド」調査によると、CEOの99%が、今後2年以内にAIと自動化が組織構造を変革すると考えており、多くの企業ではすでに組織階層の簡素化やワークフローの再設計が進められている。その結果、オフィス利用率、チームの隣接性、部門規模の拡大といった従来の長期的な空間計画の前提は、ますます信頼性を失いつつある。

こうした状況を受け、ワークプレイス責任者は、静的な空間計画から、より動的な「空間インテリジェンス」へと移行しつつある。企業では、占有センサー、入退館データ、予約システム、コラボレーション分析などを組み合わせ、現在のスペースの利用状況だけでなく、将来どのような空間が求められるかを把握する動きがますます広がっている。空間分析を活用することで、集中作業、学習、交流、そして高付加価値のコラボレーションを真に支える空間を特定することが可能になる。

長期的には、こうした取り組みがワークプレイス戦略の役割を根本的に変える可能性がある。企業は、固定的な不動産資産を管理するのではなく、従業員の行動、事業戦略、AI主導の変革に合わせて継続的に進化する適応型システムとしてワークプレイスを運用するようになるだろう。このような環境下では、空間計画は、変化しないことを前提とした計画から、絶え間ない変化を見据えた設計へと重点が移っていく。

■台頭する動向

  • 「移動」がワークプレイスの基盤となりつつある:コラボレーションスペースが拡大し、デスクスペースが縮小するなか、動線空間(廊下や通路など)は、視認性を高め、交流や偶発的なコミュニケーションの促進を図る設計となってきている。オフィスはデスクの配置ではなく、人の流れを中心に構成されるようになりつつある。
  • 空間インテリジェンスが重要な指標になりつつある:利用率の測定にとどまらず、さまざまな空間が集中、コラボレーション、学習、ウェルビーイングをどのように支えているかを理解することが求められる。重点は、組織に必要なスペースの「量」から、スペースがどれだけ効果的に機能するかという「質」へと移りつつある。
  • ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)は十分な成果を上げられていない:ABWを成功させるには、戦略的な空間計画と適切なチェンジマネジメントの両方が不可欠である。これらが重視されなければ、ABWが本来持つ効果を十分に引き出すことはできない。

■事例:セージ社、ロンドン

空間戦略は縄張り意識を減らし、コラボレーションを促進することを目的としている

ソフトウェア企業であるセージ社のロンドンオフィス(約3万平方フィート)は、意図的な空間計画によって、単に人々をワークステーションに詰め込むのではなく、組織行動や職場文化を形成できることを示している。同社の設計戦略では、ワークプレイス全体を通じて人の移動、交流、柔軟性を優先するとともに、空間レイアウトを綿密に設計することで縄張り意識を減らし、コラボレーションを促進している。

大規模な会議室は、特定チームのエリア内に配置するのではなく、共有ゾーンに集約することで、空間は特定のチームの所有物ではなく、組織全体の資源であるという考え方を反映している。タッチダウンスペースはオフィス全体に分散配置され、動線も同僚同士の偶然の出会いを増やすよう意図的に設計されている。

また、集中用ポッドや静かな個室から、即興的なコラボレーションのための「Solve(解決)」スペースまで、幅広いワークシーンに対応したスペースをバランスよく整えている。2つのフロアを結ぶ階段は、交流スペース同士をシームレスにつなぎ、オフィス全体を一体感のある環境として機能させている。

このプロジェクトを通じて同社は、空間計画を、行動や文化、そして長期的な適応性を支える戦略的な基盤として位置づけている。