建物管理・修繕・エネルギー

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2023.02.17

ESGからみるオフィスビル設備②

~企業規模やオフィス面積で求められる設備は違うのか?~

1. はじめに

世の中のサステナビリティへの意識の高まりとともに、ESGに配慮した不動産に対するテナント企業の関心も高まっている。ESGに配慮した不動産を評価する制度として、環境や省エネ、ウェルネスなどの認証制度があり、これらの認証を取得することは、ビルオーナーにとって経済的にプラスの効果があるとされている(*1)。

オフィスビルにおいて、ESGに配慮するためにビルオーナーが行う施策は、ハード面(躯体や設備)からソフト面(運営)まで多岐にわたるが、具体的にどのような設備や施策が利用者(テナント企業)にとって重要で、満足度を向上させるかはわかっていない。

そこで、ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は、ESGの観点で入居するビルに求める項目や設備の重要度についてアンケート調査(*2)を実施し、回答企業全体の集計結果を2022年10月に公表した(*3)。

第2弾となる本レポートでは、ESGに関心の高い企業はどのような企業で、どのようなオフィス設備を重視しているのかを紹介する。

本レポートの内容が、ビルオーナーやマネジメント関係者にとって、今後取るべき方策の参考となれば幸いである。

*2 早稲田大学石田航星研究室との共同研究。ビルの場所を「執務スペース(業務をするための部屋)」「トイレ・給湯室」「その他共用部・ビル全体」の3か所に分け、企業がオフィス選びにおいて重要と思う項目や設備を調査した。対象項目や設備は、CASBEE評価認証(建築およびウェルネスオフィス)評価項目から、ビル利用者に関係の深い項目や設備に絞って整理している。
*3 2022年10月20日公表「ESGからみるオフィスビル設備①

2. 回答企業をESGの関心度に応じて3つのグループに分類

まず、ESGに関心が高い企業を抽出するため、アンケートにおける14の質問項目のなかで、関心が高いと回答した数が0~4個の企業を【関心度 低】、5~7個を【関心度 中】、8~14個を【関心度 高】と3つのグループに分けた。【図表1】は、各項目において関心があると回答した割合をグループごとに集計したものである。赤枠のESGに最も関心の高い【関心度 高】グループでは、すべての項目において関心が高いと回答した企業が半数を超えていた。

【図表1】企業の関心度別でみたESGの項目

次に、各グループにはどのような属性の企業が含まれているのかを明らかにするため、企業規模(従業員数)とオフィス面積についてみてみた。

企業規模(従業員数)をみると、【関心度 低】~【関心度 高】にかけて100人以上の企業の割合が緩やかに増加し、【関心度 高】グループでは56%を占めた【図表2】。

【図表2】各グループの属性(企業規模)(n=555)

入居しているオフィス面積をみると、【関心度 低】~【関心度 高】と関心度が高くなるにつれてにかけて200坪以上の割合が徐々に増加し、より規模の大きいビルに入居していることがうかがえる【図表3】。

企業規模が大きく、オフィス面積が広いほど、ESGに対する関心度は高くなる傾向がある。しかし、ESGに最も関心の高い【関心度 高】グループにおいては、従業員数100人未満の割合が44%、オフィス面積が200坪未満の割合が56%を占めている。このことから、ESGへの関心が高い企業は、中小企業や中小規模ビルに入居している企業も一定程度存在することがわかる。

【図表3】各グループの属性(オフィス面積)(n=555)

そして、【関心度 高】グループがビルに入居する際に、特に重要と思う項目をビルの場所ごとにみてみた。執務スペース、その他共用部・ビル全体においては、ほぼすべての項目で重要と考える企業が50%を超え、入居するビルにESGへの配慮を求める傾向が高いことがわかった【図表4】。

【図表4】【関心度 高】グループが入居ビルに重要とする項目

以上の分析結果を整理すると、【関心度 高】グループは、企業規模や入居ビルのオフィス面積に関係なく存在し、ESGに配慮したビルを重視するということがわかった。これは今後のビル運営にかかわるビルオーナーやマネジメント関係者には重要なポイントとなる。

3. ESGに最も関心の高い企業グループが重視するビル設備や管理とは?

ここからは、ESGに最も関心の高い【関心度 高】グループが重視するビルの設備や管理についてみていく。

具体的な設備や管理について、「あることが望ましい」「満足度が向上する」と回答した企業数の割合を重要度として、場所ごとに上位の項目を列挙した。

執務スペースにあることが望ましい空調設備については、「ゾーン単位で制御できる空調システム」が8割超と最も高く、換気システムや加湿システムは6割を超えていた【図表5】。

ゾーン別制御・個別制御などの制御システムの導入は、大半の企業が望ましいと考え、非常に有効な施策である。換気システムの改善も、コロナ禍で需要の高まった換気容量の見直しに加え、室内と室外の空気を効率的に換気する全熱交換器などを導入することで、省エネだけでなく、テナント企業の健康や快適性の向上に期待できる。

【図表5】【関心度 高】グループが望ましいと考える執務スペースの空調設備
(上位のみ表示)

トイレ・給湯室では、「自動水栓」「LEDなどの省エネ照明」「人感センサー」と省エネや健康衛生に配慮した設備を望む企業が多かった【図表6】。水回りの改修の際には、さらにテナント企業が重要と考えるこれらの設備仕様を取り込むことで、テナント企業の満足度を高めるとともに、ビル運営での節電や節水などの効果も期待できる。

【図表6】【関心度 高】グループが望ましいと考えるトイレ・給湯室の設備
(上位のみ表示)

その他共用部・ビル全体では、日常の適正な管理、災害対策、省エネ・環境に関するものが上位を占めていた【図表7】。耐震性能の確保や免振・制振装置の設置など、既存ビルで新たに導入するには大規模な改修が必要とされるもののほか、工夫や運営の見直しで対策できるものもある。例えば、災害対策として、設置場所が限られる非常用発電機の代わりに、各フロアに小型の蓄電池を予備電源として配置することや、ノウハウのある管理会社の協力のもと、BCPマニュアルを整備することは少額の投資で実施でき、難しくはない。ESGに最も関心の高い【関心度 高】グループが重視するビル設備は、今後その他のグループにも波及・拡大する可能性が高いことを考慮すると、ビルオーナーとしては、着手できるところからの早めの対策が重要となろう。

【図表7】【関心度 高】グループが望ましいと考えるその他共用部
・ビル全体の設備や管理(上位のみ表示)

なお、【図表5~7】中の「*」印の設備や管理は、【関心度 高】グループとその他のグループで比較した時、重要度の差が大きい設備(*4)である。その多くは「省エネ・環境」「災害」「健康・衛生」に関するもので、これらは、現在グループ間で認識に差があるものの、今後テナント企業の認識が高まる可能性があり、注目すべき項目である。
つまり、【関心度 高】グループとその他のグループ間で重要度に差がある設備は、今後の気候変動や自然災害の増加、テナント企業のESGへの意識の益々の高まりによって、現在関心が高くない企業においても、ビルへのニーズとして顕在化すると考えられるのだ。

*4 統計的に極めて高い水準で重要度の有意差が確認された設備

4. おわりに

今回のレポートでは、ESGに関心が高い企業は、大企業だけでなく中小企業や中小規模ビルに入居する企業も含まれていることや、特に「省エネ・環境」「災害」「健康・衛生」に配慮した設備や管理を入居ビルに求めていることを明らかにした。

ESGの流れは今後確実に加速し、テナント企業のESGに配慮したビルのニーズは益々高まることとなろう。その意味でも、今回フォーカスしたESGに最も関心の高い企業グループの意見は、その他の企業グループにも広がり、いずれはオフィスビルのデファクトスタンダードとなる可能性がある。
また、テナント企業のESGへの関心の高まりに伴い、ビルのESG性能を客観的に示す各種認証制度の活用が、今後拡大していくことが予想される。入居ビルの選定にあたって認証というラベルがあることで「築古の中小ビルはESG性能が低いのではないか」といった先入観を払拭し、ステークホルダーへESG性能を客観的に説明しやすくなる。さらに、入居前にはわかりにくいESG性能が事前に確認できるなど、テナント企業が受けるメリットは大きい。

このような変化の中で、今まさにビルオーナーの意識改革と今後の取り組みが求められているのである。ビルオーナーは、テナント企業のニーズに応えるべく工夫し、設備投資などの努力を行うことが求められ、一方で、それを怠れば、ビルの空室率の上昇で賃料収入が下落し、適切な管理や必要な修繕ができなくなる。健全で継続的なビル経営のためには、ESGへの対応は欠かすことができないだろう。
ビルへESGの観点からの工夫や施策を組み入れることは、テナント企業の満足度の向上のためにやってきた今までのビル運営の延長線上にあり、足りない要素を取り込むものである。大規模な改修が必須となる施策だけでなく、計画的な設備更新時にESG性能を付加することや、運用の改善することでもESGへの対応は可能である。一人ひとりのビルオーナーが、テナント企業が望むESGの取り組みを理解し組み入れることで、テナント企業に選ばれる、喜ばれるビルとなり、ひいては地球環境にも優しい良質なストック形成につながることとなろう。

今回のレポートが、ビルオーナーやマネジメント関係者にとって、今後のビル経営・運営を考える上での重要な指針となれば幸いである。ザイマックス総研は引き続き、有益な調査結果を公表していく予定である。

調査概要

調査期間

2022年7月~8月

調査対象

ザイマックスインフォニスタの取引先企業 27,801社

有効回答数

555件(回答率2.0%)

調査地域

首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)

調査方法

WEB調査

調査内容

I. ご関心の高いESGの項目について

II. オフィスビル選びにおける建物設備の重要度について

III.貴社について


レポート内のグラフに関して
・構成比(%)は、小数点第1位を四捨五入しているため内訳の合計が100%にならない場合がある。


《回答企業属性》



【参考】ビルに関する早稲田大学とのこれまでの共同研究

【ビルオーナーの実態調査】

・ 2015年11月26日公表「ビルオーナーの実態調査 2015
・ 2017年10月25日公表「ビルオーナーの実態調査 2017
・ 2018年10月25日公表「ビルオーナーの実態調査 2018
・ 2019年12月17日公表「ビルオーナーの実態調査 2019
・ 2021年10月5日公表「ビルオーナーの実態調査 2021

【中小規模ビルのベストプラクティス事例集】


【修繕費予測】

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