2022.11.30
首都圏オフィスワーカー調査 2022
~ワーカーの働き方と価値観の変化を捉える~
2020年春のコロナ禍発生以降、多くの企業はテレワーク導入をはじめ働き方や働く場所の見直しを迫られてきた。こうした変化は企業の経営戦略だけでなく、オフィスワーカーの仕事や私生活にも影響を与えると考えられる。
ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)では、企業とオフィスワーカーそれぞれの視点から働き方と働く場所の変化を捉えるため、企業については「大都市圏オフィス需要調査」を2016年秋より計12回、オフィスワーカーについては「首都圏オフィスワーカー調査」を2016年末から計6回実施してきた。本レポートは2022年10月に実施した7回目のオフィスワーカー調査の結果を踏まえ、首都圏勤務者の働き方の実態や価値観について最新の潮流をまとめたものである。
- ・ テレワーカーは61.5%であった。そのうち「完全テレワーク」は5.7%にとどまり、多くのテレワーカーはテレワークとオフィス出社を使い分ける「ハイブリッドワーク」を行っている。
- ・ ワーカーは、全体平均で67.9%の時間を「在籍するオフィス」で働いていた。それ以外のテレワークしている時間のほとんどを在宅勤務が占めていた。
- ・ テレワークのメリットとしては「移動時間・通勤時間の削減」(83.0%)が、在宅勤務の不満としては「運動不足・不健康になりやすい」(44.0%)が最も多かった。
- ・ 勤務先のテレワーク施策に対する満足度を聞いた結果、39.4%のワーカーが「テレワークに対する会社の補助支援」に対して不満を感じていることがわかった。
- ・ テレワーカーに現在の働き方におけるパフォーマンス、エンゲージメントの評価を聞いたところ、それぞれ過半数が週5日の完全出社より「向上した」または「変わらない」と評価した。ストレスについては「軽減した」が約6割に上った。
- ・ コロナ禍収束後にテレワークを少しでも利用したい人の割合は65.8%であった。
- ・ 今後利用したい・利用を続けたいと思うサテライトオフィスの条件を聞いた結果、「自宅から近い」(73.1%)と「業務に集中できる個室がある」(62.6%)が半数を超えた。
1. コロナ禍における働き方
2. テレワークのメリットと不満
3. テレワークの評価
4. コロナ禍収束後の働き方とワークプレイス
1. コロナ禍における働き方
1.1. テレワーカーの割合
今回の調査では、職業が「会社・団体の役員、会社員・団体職員」、職種が「管理的職業、専門的・技術的職業、事務的職業、営業職業」、在籍するオフィスが「首都圏(1都3県)」、コロナ禍発生以前および現在の主に働いている場所が「オフィス(事務所)、自宅」と回答した20歳以上の男女2,060人から有効回答を得た。これらのアンケート回答者は、現状どのような働き方をしているのか確認していく。
まず、コロナ禍におけるワーカーの出社状況を確認すると、調査時点でテレワークを少しでも行っている「テレワーカー」は61.5%、テレワークを実施していない「完全出社」のワーカーは全体の38.5%であった【図表1】。「完全テレワーク」のワーカーは全体の5.7%にとどまり、テレワークとオフィス出社を使い分ける「ハイブリッドワーク」を行うテレワーカーが多数であることがわかった。また、2020年調査、2021年調査と比較すると、完全出社のワーカーが若干増加する結果となった。なお、参考資料として属性別のテレワーカーの割合を示すグラフを末尾に掲載している(【参考1~4】)。
【図表1】オフィス出社とテレワークの状況
次に、テレワークする場所に関する施策の実施率を経年で比較したものが【図表2】である。各施策の実施率はコロナ禍発生後の2020年調査から大きく伸びたが、今回の調査では場所ごとに違いがみられ、「在宅勤務」(57.6%)は減少した一方で「サテライトオフィス勤務」(20.8%)は増加した。
【図表2】テレワークする場所に関する施策の実施率
同様に、働き方に関する施策について現在利用・実施しているものを経年で比較した結果、「仕事でのチャットツールの活用」(45.7%)や「在宅手当(備品や光熱費等)」(17.6%)など、テレワークを後押しする施策で若干の伸びがみられた【図表3】。
【図表3】働き方に関する施策の実施率
1.2. オフィス出社とテレワークの使い分け(時間配分)
「在籍するオフィス」「自宅(在宅勤務)」「サテライトオフィス」「その他の場所」といった働く場所ごとの時間配分をみたところ、全体平均では67.9%の時間を在籍するオフィスで働いており、この割合は前回と比べて7.2ポイント増加していた【図表4】。また、在籍するオフィスで働く以外の時間、つまりテレワークする時間の大部分を在宅勤務が占めていることがわかった。サテライトオフィス勤務は、時間配分は1.6%と少ないものの、実施率は20.8%(【図表2】)であることから今後の伸びが期待できるかもしれない。
【図表4】働く場所ごとの時間配分
在籍するオフィスに出社するメリットとしては、1位の「働きやすい環境が整っている(通信、什器、執務スペース等)」(49.0%)に続き、「業務上のコミュニケーションがとりやすい(交渉等)」(45.5%)、「コミュニケーションがとりやすい(雑談等)」(39.7%)といったコミュニケーションに関する評価が高いことがわかった【図表5】。一方、「業務に集中しやすい」も29.2%と上位にあることから、オフィスにも一人で集中できるスペースが求められていると考えられる。
【図表5】出社のメリット
2. テレワークのメリットと不満
テレワーク経験者(*1)にテレワークのメリットをたずねた結果が【図表6】である。最も多かったのは「移動時間・通勤時間の削減」(83.0%)で突出しており、次いで「感染症の感染リスク低減」(45.9%)や「ストレス軽減」(36.1%)などが並んだ。また、「特にメリットは感じない」(5.7%)は前回(10.4%)からさらに減少し、テレワーク経験者の多くは何かしらのメリットを感じていることもわかった。
【図表6】テレワークのメリット
同じくテレワーク経験者に、勤務先のテレワーク施策に対する満足度を「満足」から「不満」の5段階で聞いた【図表7】。不満(「不満」と「やや不満」の合計)が最も多いのは「テレワークに対する会社の補助支援」で、合計39.4%のワーカーが不満を感じていることがわかった。次いで「コミュニケーション促進」(合計30.7%)でも不満が満足(「満足」と「やや満足」の合計)を上回り、コミュニケーションがテレワークの課題となっている状況がうかがえた。ただし、上記2項目以外はすべて満足が不満を上回った。
【図表7】勤務先のテレワーク施策に対する満足度
続いて、在宅勤務の経験者に対して在宅勤務の不満を聞いた【図表8】。上位は「運動不足・不健康になりやすい」(44.0%)、「仕事のオン・オフが切り替えづらい」(37.2%)であった。また、【図表7】で不満の割合が高かった「テレワークに対する会社の補助支援」に関連する「費用負担(光熱費、通信費)」については、在宅勤務の不満でも上位に挙がった。
【図表8】在宅勤務の不満
3. テレワークの評価
ここからは、テレワークの評価についてみていきたい。テレワーカー(*2)に対し、週5日オフィスに出社する場合を100としたときの現在の働き方の評価(テレワーク時だけでなく出社時も含めた総合評価)をパフォーマンス、エンゲージメント、ストレスの3つの観点で聞いたところ、平均でパフォーマンスは97.6、エンゲージメントは86.3、ストレスは83.3であった。
それぞれの観点ごとに評価を3分類し(*3)その割合を【図表9】に示した。パフォーマンスやエンゲージメントはテレワーク下での低下が懸念されていたが、どちらも「向上した」と「変わらない」の合計は半数を超えた。また、ストレスについては「軽減した」が57.4%、「変わらない」もあわせると8割超に上った。
【図表9】テレワーカーのパフォーマンス、エンゲージメント、ストレスの評価
(週5日出社との比較)
続いて、パフォーマンスの評価が向上したワーカーと低下したワーカーとの間で、勤務先のテレワーク施策に対する満足度(【図表7】)を比較した【図表10】。縦軸の「満足度DI」は、各項目について「満足/やや満足」と回答した割合から「不満/やや不満」と回答した割合を引いた値であり、プラスであれば満足しているワーカーの方が多いといえる。
【図表10】からは、パフォーマンスが向上したワーカーは低下したワーカーよりも全項目において満足度DIが高いことが読み取れる。このことから、企業のテレワーク施策に対する投資とワーカーのパフォーマンスとの間には一定の関係性があると考えられる。特に「コミュニケーション促進」に対する満足度は、パフォーマンスが向上したワーカーと低下したワーカーとの間のギャップが大きい。今回わかったこれらの事実を起点に今後、テレワーク施策がワーカーのパフォーマンスに与える影響についてさらなる分析を行う必要があるだろう。
【図表10】<パフォーマンスの評価別>勤務先のテレワーク施策に対する満足度
さらに、テレワークの時間の大半を占める在宅勤務(【図表4】)についての不満をパフォーマンスの評価別に比較した【図表11】。ほとんどの項目で、パフォーマンスが低下した人の方が向上した人よりも不満に感じている割合が高く、特に差が大きかったのは「集中しづらい・気が散る」(低下した-向上したの差、以下同:17.4pt)や「仕事のオン・オフが切り替えづらい」(16.9pt)、「コミュニケーションがとりづらい、減る」(13.3pt)であった。
【図表11】<パフォーマンスの評価別>在宅勤務の不満
4. コロナ禍収束後の働き方とワークプレイス
最後に、コロナ禍収束後の働き方とワークプレイスに対するニーズをみていきたい。
【図表12】は、現在テレワークを利用している人(テレワーカー)の割合(【図表1】)と、コロナ禍収束後にテレワークを少しでも利用したい人(テレワーク希望者)の割合である。テレワーク希望者の割合は65.8%と、現在のテレワーカーの割合よりも若干高い結果となった。
【図表12】テレワーカーとテレワーク希望者の割合
テレワーク以外の働き方に関する施策について、現在利用・実施しているもの(現状、【図表3】)とコロナ禍収束後に利用・実施したいものを聞いた結果、現状よりもニーズが大きく伸びたのは「在宅手当(備品や光熱費等)」(+15.4pt)や、「勤務先の許可を得た副業・兼業」(+12.3pt)、「勤務先の許可を得たワーケーション」(+13.5pt)、「2拠点居住で働く、郊外・地方へ移住して働く」(+9.5pt)などであった【図表13】。
【図表13】働き方に関する施策のニーズ
また、在籍するオフィス内のレイアウトについて、現状あるものとコロナ禍収束後にあってほしいと思うものを聞いた結果が【図表14】である。現状よりもニーズが大きく伸びたのは「リフレッシュスペース」(+14.3pt)、「食堂・カフェスペース」(+9.4pt)、「リモート会議用ブース・個室」(+6.1pt)、「集中するためのスペース」(+13.7pt)、「電話専用ブース・個室」(+6.7pt)であり、これらは今後導入が進むかもしれない。
【図表14】オフィス内のレイアウト(現状とニーズ)
【図表8】で在宅勤務の不満が多岐にわたることを確認したが、自宅に代わるテレワークの場所であるサテライトオフィスを利用しているワーカーは現状まだ多くない。そこで、サテライトオフィスについてこれまでの利用経験を問わず、今後利用したい・利用を続けたいと思う条件を聞いた結果が【図表15】である。多様な条件のなかで、「自宅から近い」(73.1%)と「業務に集中できる個室がある」(62.6%)が半数を超えた。
【図表15】今後利用したい・利用を続けたいと思うサテライトオフィスの条件
5. おわりに
本レポートでは、コロナ禍発生から2年半ほどが経過した現在の首都圏オフィスワーカーの働き方と、コロナ禍収束後のニーズを把握することでこれからの働き方について考察した。
コロナ禍発生を機に急速に普及したテレワークは、今回の調査時点(2022年10月)でも引き続き実施されており、テレワーカーは全体の約6割にのぼった。ただし、2021年調査(67.7%)と比べると若干テレワーカーの割合が減ったことから、コロナ禍の感染拡大抑制と経済活動の両立が進むなかでオフィス出社に回帰しつつあると考えられる。
また、今回の調査結果からは、企業のテレワーク施策に対する満足度とワーカーのパフォーマンスとの間に一定の関係性があることが示唆された(【図表10】)。テレワーク施策がワーカーのパフォーマンスに影響を与えるのか、与えるのであれば具体的にどのような施策の影響が大きいのかは引き続き研究していく必要がある。しかし、在宅勤務に不満を感じるワーカーが少なくない現状を鑑みても、今後テレワークを継続するのであればワーカーの生産性やエンゲージメントを損なわないための投資、具体的には業務環境を整えるための金銭的な補助や、自宅以外の働く場所の整備などが重要になるのではないだろうか。
刻一刻と変化する状況のなかで、働き方とワークプレイスがどのように変化していくのか、今後も動向を注視する必要がある。ザイマックス総研は引き続き、有益な調査結果を公表していく予定である。
調査期間
2022年10月
調査対象
①スクリーニング調査…20歳以上の男女5,000人を対象に実施
②本調査…スクリーニング調査で職業が「会社・団体の役員、会社員・団体職員」、職種が「管理的職業、専門的・技術的職業、事務的職業、営業職業」、在籍するオフィスが「首都圏(1都3県)」、コロナ禍発生以前および現在の主に働いている場所が「オフィス(事務所)、自宅」と回答した人
有効回答数
2,060人
調査地域
首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)
調査方法
インターネット調査
《回答者属性》
参考資料
【参考1】<職種別>テレワーカーの割合
【参考2】<役職別>テレワーカーの割合
【参考3】<勤務先の業種別>テレワーカーの割合
【参考4】<勤務先の従業員数別>テレワーカーの割合
【参考5】【図表10】の各項目のDIおよびDIの差一覧
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