建物管理・修繕・エネルギー

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2022.10.20

ESGからみるオフィスビル設備①

~企業はどのようなESGの取り組みを入居ビルに求めるのだろうか~

脱炭素や環境保全への取り組み要請、コロナ禍によるワーカーの働き方やオフィスのあり方の変化、健康や安心安全への関心の高まりなど、ビルを取り巻く環境は大きく変化し、ビル利用者の価値観も多様化してきている。このような流れのなか、ビルの環境認証を取得する動きも増加しており、SDGsやESGに配慮したビルの設備や仕様への関心が高まっている。しかし、どのような設備がビル利用者にとって重要か、満足度や生産性の向上につながるかはわかっていない。こういった背景から、ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は、早稲田大学石田航星研究室との共同研究で、ESGの観点で企業が入居するビルを選ぶ際に求める項目や設備について、アンケート調査を実施した。このアンケートが、ビルの価値向上への対策の一助になれば幸いである。なお、本レポートに続き第2弾として、企業の属性からみた調査結果を今後公表する予定である。

主な調査結果
  • ・ 企業が入居するビルを選ぶ際に特に重要と思う項目は、執務スペースで「快適な温度・湿度、空気環境が保たれていること」(76%)、トイレ・給湯室で「健康や衛生に配慮していること」(74%)、その他共用部・ビル全体で「セキュリティ性能が高いこと」(75%)が最も多かった。
  • ・ 従業員からの要望の多い設備や仕様についてたずねたところ、多くの企業で「WEB会議用の個室や会議室」があげられており、関心の高さがうかがえた。一方で、設置にあたっての課題は、専用部に余裕がないことやレイアウト変更が難しいこと、コスト面の不安あることなどがあげられた。そのため、共用部や近隣での展開を希望しているコメントが多かった。
  • ・ オフィスビルにおいて今後重要度が高まる項目として、「災害対応がしっかりしていること」「セキュリティ性能が高いこと」「健康や衛生に配慮していること」「省エネや環境に配慮していること」「快適な情報通信環境が整っていること」が5割を超えた。
  • ・ 今後オフィスビルに求めることや変化していく設備についてたずねたところ、多くの企業が「災害・緊急時対応、BCP」に関心を示した。具体的には、ビル側で計画している対策の定期的な情報共有や、共用部での食料など備蓄スペースの確保があげられた。また、エネルギー性能が高い設備、再生可能エネルギーや個別の状況に応じて自ら調整または自動制御できるシステムの導入、電力の見える化など「省エネや環境」に関する要望が多く見られた。

1.  企業が関心の高いESGの要素

1.1.  E(環境)について

関心の高いESGの要素について回答企業にたずねたところ、E(環境)については、「省エネルギーの推進」(60%)が最も高く、「再生可能エネルギー(太陽光・風力・地熱など)の使用」(37%)、「再生資源の利用促進など資源の循環」(35%)と続いた【図表1】。

【図表1】関心の高いESGの要素(E:環境)(複数回答、n=555)

1.2.  S(社会)について

S(社会)については、7割以上の企業が「労働環境への配慮」(72%)、「健康と安全への配慮」(70%)と回答し、従業員のウェルネスに対する関心の高さがうかがえた【図表2】。

【図表2】関心の高いESGの要素(S:社会)(複数回答、n=555)

1.3.  G(企業統治)について

G(企業統治)については、「法令遵守」が88%と最も高い結果となった【図表3】。

【図表3】関心の高いESGの要素(G:企業統治)(複数回答、n=555)

2.  オフィス選びにおける建物設備の重要度について

本アンケートでは、利用する目的や滞在する時間の長さにより重要と考える項目が異なると考え、ビルの場所を「執務スペース(業務をするための部屋)」「トイレ・給湯室」「その他共用部・ビル全体」の3か所に分けて調査することとした。また、企業がオフィス選びにおいて重要と思う項目は、CASBEE評価認証(建築およびウェルネスオフィス)(*1)の評価項目(152項目)とほぼ一致することから、そのなかからビル利用者に関係の深い項目や設備に絞って整理した。

*1
CASBEE建築評価認証:建築物の環境性能で評価し格付けする手法である。省エネルギーや環境負荷の少ない資機材の使用といった環境配慮や室内の快適性や景観への配慮なども含めた建物の品質を総合的に評価する制度である。
CASBEEウェルネスオフィス評価認証:建物利用者の健康性、快適性の維持・増進を支援する建物の仕様、性能、取組みを評価するツールで、建物内で執務するワーカーの健康性、快適性に直接的に影響を与える要素だけでなく、知的生産性の向上に資する要因や、安全・安心に関する性能についても評価するツールである。

2.1.  執務スペース(業務をするための部屋)

執務スペースにおいて、入居する際に特に重要と思う項目についてたずねたところ、「快適な温度・湿度、空気環境が保たれていること」(76%)と「セキュリティ性能が高いこと」(72%)が7割を超えた【図表4】。

【図表4】執務スペースで入居する際重要と思う項目(複数回答、n=555)

【図表4】の「快適な温度・湿度、空気環境が保たれていること」について、執務スペースにあることが望ましいと思う設備についてたずねたところ、「ゾーン単位で制御できる空調システム」(68%)が最も多かった【図表5】。

【図表5】執務スペースにあることが望ましい空調設備(複数回答、n=555)

2.2.  トイレ・給湯室

トイレ・給湯室で入居する際特に重要と思う項目についてたずねたところ、「健康や衛生に配慮していること」が74%と最も高く、「維持管理がしっかりしていること」(58%)、「快適な温度・湿度、空気環境が保たれていること」(57%)と続いた【図表6】。

【図表6】トイレ・給湯室で入居する際重要と思う項目(複数回答、n=555)

次に、健康や衛生に配慮するうえでトイレ・給湯室にあることが望ましい設備についてたずねた。コロナ禍を通して衛生への関心が高まり、8割以上が「自動水栓」(82%)と回答した。続いて「自動石鹸」(62%)、「除菌・抗菌シートの設置」(57%)の順となった【図表7】。

【図表7】トイレ・給湯室にあることが望ましい健康や衛生に配慮した設備
(複数回答、n=555)

さらに、省エネや環境に配慮するうえでトイレ・給湯室にあることが望ましい設備についてたずねた。「人感センサー」(71%)、「LEDなどの省エネ照明」(69%)の項目が上位にあがった【図表8】。

【図表8】トイレ・給湯室にあることが望ましい省エネや環境に配慮した設備
(複数回答、n=555)

最後に、トイレ・給湯室にあることで従業員の満足度が向上すると思う設備やスペースについてたずねた。「パウダースペース」(55%)、「個室ブース内の荷物置き」(45%)、「バリアフリー(多機能・ジェンダーレス)トイレ」(38%)の順で回答が多かった【図表9】。そのほかトイレに関する要望として、ブースの増設や擬音装置、温水洗浄便座、使用状況を知らせるセンサーなどの設置があげられた。

【図表9】トイレ・給湯室にあることで従業員の満足度が向上する設備やスペース
(複数回答、n=555)

2.3.  その他共用部・ビル全体

エントランスや階段、屋上、外構、共用の施設など、トイレ・給湯室以外の共用部およびビル全体について、入居する際に重要と思う項目についてたずねたところ、「セキュリティ性能が高いこと」(75%)、「快適な温度・湿度、空気環境が保たれていること」(69%)、「快適な明るさが保たれていること」(61%)の順で回答が多かった【図表10】。

【図表10】その他共用部・ビル全体で入居する際重要と思う項目(複数回答、n=555)

入居する際に重要と思う項目について場所別に比較すると、「執務スペース」と「その他共用部・ビル全体」は重要と思う項目に同様の傾向があり、約7割が「快適な温度・湿度、空気環境が保たれていること」や「セキュリティ性能が高いこと」を重視していた【図表11】。一方、「トイレ・給湯室」では7割以上が「健康や衛生に配慮していること」を重要視していた。

【図表11】場所比較:入居する際重要と思う項目(複数回答、n=555)

その他共用部・ビル全体にあることが望ましい災害対策についてたずねたところ、「非常用発電設備(専用部にも対応)」(83%)、「耐震性能の高さ」(82%)、「無停電電源設備(エレベーターやセキュリティ・通信設備など)」(77%)が7割を超えていた【図表12】。災害対策はほとんどの項目で5割を超えており、地震や台風などに見舞われやすい日本における災害対策への意識の高さがうかがえた。

【図表12】その他共用部・ビル全体にあることが望ましい災害対策(複数回答、n=555)

その他共用部・ビル全体において、省エネや環境に配慮するために特に推進されることが望ましいことについてたずねたところ、「節電や節水のための省エネ設備の導入と効率的な運用」(73%)が最も多かった【図表13】。

【図表13】その他共用部・ビル全体で推進が望ましい省エネや環境への配慮
(複数回答、n=555)

その他共用部・ビル全体においての維持管理について特に重要と思う項目についてたずねたところ、「適正な日常の修繕や清掃、衛生管理」(88%)が約9割と最も多く、「建物設備における法令遵守(定期点検を含む)」(66%)、「災害時の対応マニュアルや緊急連絡先の作成などビルのBCP計画の策定」(58%)と続いた【図表14】。

【図表14】その他共用部・ビル全体で重要と思う維持管理(複数回答、n=555)

その他共用部・ビル全体において備え付けられていることで従業員の満足度が大きく向上すると思う設備やスペースについてたずねたところ、「リフレッシュ・コミュニケーションルーム」(55%)が最も多く、「屋上テラスやバルコニー」(50%)、「個室ワークスペース」(49%)と続いた【図表15】。コロナ禍により働き方が変化しているなか、専用部内のコミュニケーションやWEB会議をするためのスペースの不足、及びそれらを設置するコストを負担に感じている企業が、ビルの共用部での提供を要望していると考えられる。

【図表15】その他共用部・ビル全体で従業員の満足度が向上する設備やスペース
(複数回答、n=555)

最後に、現在従業員から要望の多い設備や仕様について自由記入でたずねた。複数あった回答を分類したものが【図表16】となる。

【図表16】従業員から要望の高い設備や仕様(自由回答より)

多くの企業がWEB会議用の個室、スペース、会議室に関して記述しており、関心の高さがうかがえた。コロナ禍で浸透したWEB会議が定着し、これまでの執務スペースや会議室だけでなく、WEB会議専用のスペースが求められているようだ。しかし、テナント企業が専用部内に設置を検討するにも、スペースの不足やレイアウト変更の難しさ、さらにコスト面での不安により実現が難しい場合が多い。そのため余裕のある共用部や近隣での展開を希望するコメントが多く見られた。また、防音遮音効果を備えた個室・会議室の要望もあった。

トイレに関しては、これまでと同様に衛生面での維持管理に対する関心が高い一方、ブース数の不足やそれによる混雑に対する不満の声があがっている。満室になりやすいことと、執務スペースから遠いことでストレスを感じるため、ブースの増設や利用状況が見える化できるシステムの導入などの要望がみられた。

通信環境については、働く場所の自由度が高まり、業務スペースの快適な環境の確保だけでなく、ビル内どこでも利用できるWi-Fiの整備を求めるコメントがあった。

リフレッシュやコミュニケーションスペースについては、共用部で確保してほしい、オープンキッチンが欲しいなどの要望があげられた。オープンキッチンに関しては、専用部に設置を検討したものの、排水管の引き込みに制限があることや工事にあたりオーナーとの調整があるため実現が難しいといったコメントがあった。

健康への関心の高まりによりビル内のシャワー、ジム、利便性の向上につながる充実した自動販売機や宅配BOXも要望する声があった。

3.  今後重要度が高まる建物設備について

オフィスビルにおいて今後重要度が高まる項目についてたずねたところ、「災害対応がしっかりしていること」(70%)、「セキュリティ性能が高いこと」(66%)、「健康や衛生に配慮していること」(54%)、「省エネや環境に配慮していること」(54%)、「快適な情報通信環境が整っていること」(50%)が5割を超えた【図表17】。

【図表17】オフィスビルにおいて今後重要度が高まると思う項目(複数回答、n=555)

さらに、今後オフィスビルに求めるものや変化していくと思う設備を自由記入でたずね、複数あった回答をまとめた【図表18】。

【図表18】今後オフィスビルに求めるものや変化していく設備(自由回答より)

災害・緊急時対応・BCPに関しては、取引先からBCP対策の開示を求められることもあり、ビル側で計画している対策を定期的に共有してほしい、共用部でも食料などを備蓄するスペースを設けてほしいなどの声が多く聞かれた。また、近年の電力の需給ひっ迫もあり、電力・電源の確保への関心は高かった。

今後コロナ禍のような大きな環境変化があった際に対応できるよう、スペース的に余裕があり、柔軟にレイアウト変更ができる、またコミュニケーションの促進につながるような共用部のあり方についても多くの意見があった。

省エネ・環境配慮については、入居の際に重要と思う企業があまり多くなかったものの(【図表11】)、省エネ性能の高い設備や再生可能エネルギーへの関心は高く、これからは省エネ性能の高い設備への更新だけでなくZEBが求められるとの意見もあった。運用面でも個別の状況に応じてテナント自らが調整または自動制御できるシステムの導入、電力の見える化などの要望もあった。

コロナ対応としては、消毒や検温などの対策に加え、空調や換気性能の向上といった対策への関心も高かった。通信環境においては、ビル全体の性能向上と緊急時でも通信可能な設備や電源の確保が重要とのコメントがあった。

4.  おわりに

今回、企業が入居するビルに重視する項目や求める建物設備について調査した。社会環境変化のスピードは速く、企業の価値観が多様化していくなか、オフィスビルに求められる設備も変化している。清掃や適切な修繕の実施など、良好な維持管理をしたうえで、脱炭素に向けた動きや働き方の変化などに合わせてESGに配慮した新たな施策をすることは、今後のビルの価値向上においては、ますます重要となるであろう。既存ビルのうち、築20年以上のものが半数以上占めており、共用部改修や設備更新など大規模な計画修繕実施の時期にある。実施を検討する際に、このようなESGの観点からの工夫や施策を組み入れることで、テナントに選ばれる、喜ばれるビルとなり、地球環境にも優しい良質なストック形成につながるであろう。

ザイマックス総研は引き続き、ビルオーナー、テナント企業など、幅広い方々に有益な調査結果を公表していく予定である。

調査概要

調査期間

2022年7月~8月

調査対象

ザイマックスインフォニスタの取引先企業 27,801社

有効回答数

555件(回答率2.0%)

調査地域

首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)

調査方法

WEB調査

調査内容

Ⅰ ご関心の高いESGの項目について

Ⅱ オフィスビル選びにおける建物設備の重要度について

Ⅲ 貴社について

レポート内のグラフに関して
・構成比(%)は、小数点第1位を四捨五入しているため内訳の合計が100%にならない場合がある。

《回答企業属性》

【参考】ビルに関する早稲田大学とのこれまでの共同研究

【ビルオーナーの実態調査】

・ 2015年11月26日公表「ビルオーナーの実態調査 2015
・ 2017年10月25日公表「ビルオーナーの実態調査 2017
・ 2018年10月25日公表「ビルオーナーの実態調査 2018
・ 2019年12月17日公表「ビルオーナーの実態調査 2019
・ 2021年10月5日公表「ビルオーナーの実態調査 2021

【中小規模ビルのベストプラクティス事例集】


【修繕費予測】

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