2022.08.18
商業店舗の出退店に関する実態調査 2022(退店編)
~出退店の実態と課題を明らかにする~
ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は早稲田大学建築学科石田航星研究室と共同で、多店舗を運営・統括する商業事業者(以下、事業者)を対象(*1)に、各種アンケート調査を継続的に行っている。
6回目となる今回は、2017年(*2)と同様に商業店舗の出退店に関するアンケートを実施した。本レポート(退店編)は、事業者の退店戦略や社会情勢・消費者行動の変化に関する調査結果を集計し、とりまとめたものである。なお、同日公表の(出店編)(*3) では、事業者の新規出店時の契約形態・期間や重視することなどの出店戦略についてまとめている。
- ・ コロナ禍以降の賃借店舗の状況で、「契約期間満了前に中途解約し、退店した」と回答した事業者は全体では31%であり、業種別では飲食業が68%と最も高かった。
- ・ 「中途解約を検討したが、契約の縛りがあり解約できなかった(営業継続)」と回答した事業者は全体では13%であり、業種別では飲食業が32%と最も高かった。営業継続に際して事業者が行った対応としては、「賃料減額」(60%)が最も多く、次いで「何も行っていない」(40%)となった。
- ・ 出退店に関わる戦略について「実施している」割合が最も高いのは、「サステナビリティ」(37%)および「DX(デジタルトランスフォーメーション)」(37%)であった。
- ・ 出退店戦略に影響を与える項目について、社会情勢の変化は「少子高齢化、人口減少、人口の都心部集中」(79%)、消費者行動の変化は「コロナ禍の長期化による巣ごもり消費の普及」(52%)が最も高かった。
1. 退店について
1.1. コロナ禍以降の賃借店舗の状況
コロナ禍以降の賃借店舗の状況をたずねたところ、「契約期間満了にともない、(自動)更新または再契約を締結した」(57%)が最も多かった【図表1】。ほかにも、退店や移転など、相当数の事業者が現状変更を行っていた。一方で、「中途解約を検討したが、契約の縛りがあり解約できなかった(営業継続)」(13%)と回答した事業者も一定数存在する。
【図表1】コロナ禍以降の賃借店舗の状況(複数回答、n=329)
1.2. 中途解約
【図表1】の「契約期間満了前に中途解約し、退店した」について、業種別にみると「飲食業」が68%と最も高かった【図表2】。コロナ禍の影響による「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」などの断続的な発出により、休業・時短要請のほか、特に飲食業に対しては酒類の提供禁止といった厳しい措置が取られた。もともと、飲食業界の損益分岐点比率は一般的に90%台とされており、緊急避難・止血的な意味で中途解約を実施した飲食事業者が多いと考えられる。
【図表2】契約満了前に中途解約し、退店した(業種別)
さらに、「契約期間満了前に中途解約し、退店した」と回答した事業者にその理由をたずねたところ、「コロナ禍の影響により業績が悪化したため」が80%と突出して高かった【図表3】。
【図表3】中途解約した理由(複数回答、n=103)
1.3. 中途解約できず営業継続した店舗の賃借条件変更
【図表1】の「中途解約を検討したが、契約の縛りがあり解約できなかった(営業継続)」と回答した事業者を業種別でみると、小売業(食品)は2%と少なく、飲食業(32%)、娯楽業(24%)、サービス業(21%)で多いことが分かる【図表4】。
【図表4】中途解約できず、営業継続した(業種別)
「中途解約できず、営業継続した」と回答した事業者が行った対応としては、「賃料減額」(60%)が最も多く、次いで「何も行っていない」(40%)となっている。その他「業態転換」(21%)、「(一部)転貸」(14%)、「部分解約」(7%)と、何らかのアクションを取った事業者が多い【図表5】。
【図表5】中途解約できず営業継続した店舗の対応(複数回答、n=42)
【事業者のコメント】
コロナ禍を受けて、従来の契約形態での出店がしにくくなっており、時代に合わせた柔軟な契約形態を求める事業者のコメントが多く寄せられた
● コロナ禍による収支悪化店舗を中心に、退店及び減賃交渉を実施している。また、先行き不透明な店舗については、満了時に短期契約での巻き直しで対応している。
● 飲食店は投資がかかるため、契約期間は10年以上でないと投資回収面から難しい。ただし、コロナ禍のような外部環境による閉店リスクは大きく、中途解約についてはペナルティがないよう契約協議をしている。
● 中途解約に違約金が発生するのを改定していただけると出店しやすいと感じる。
● 中途解約や賃料減額について協議にも応じないデベロッパーもいる。貸主側も厳しいことは理解しているが、大きな転換期にある現在、時代にそぐわないと感じている。
● 定期借家契約は再契約が出来ないと、飲食業はほぼ採算が取れない。投資回収前の期間満了による退店は厳しい。
2. 今後の出店・退店戦略に影響を与える要因
出退店に関わる以下の戦略について、取り組み状況を聞いた結果が【図表6】である。「実施している」割合が最も高いのは「サステナビリティの取り組み」(37%)であり、ほぼ同率で「DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組み」(37%)であった。また、「実施を検討中」と回答した企業が多かったのは「プロトタイプ変更(拡大・縮小)、新業態の開発、出店」(25%)だった。
【図表6】出退店に関わる戦略の実施時期(n=329)
飲食業について、以下の項目の実施時期を聞いたところ、「テイクアウトの実施」は61%と半数以上が「コロナ禍前から実施」していた【図表7】。一方で、「宅配デリバリーの活用」は半数が「コロナ禍以降に実施」していた。
【図表7】飲食業の出退店に関わる戦略の実施時期(n=38)
以下の社会情勢の変化のうち、今後の出退店戦略に影響を与えるものについてたずねたところ、「少子高齢化、人口減少、人口の都心部集中」(79%)、「人手不足による人件費、物流費などのコスト増」(74%)が上位となった【図表8】。次いで、「原油価格、食料品値上げなどによる物価上昇」(53%)が続き、「新型コロナウイルス感染症の影響の長期化」(48%)を上回っている。
【図表8】出退店戦略に影響を与える社会情勢の変化(複数回答、n=329)
以下の消費者行動の変化のうち、今後の出退店戦略に影響を与えるものについてたずねたところ、「コロナ禍の長期化による巣ごもり消費の普及」(52%)が最も多かった【図表9】。「SNSを通じて情報収集する消費者の増加」(45%)が上位となっているのは、出退店戦略そのものよりも事業全体の戦略として、SNSを含めたデジタル領域において消費者との接点をいかに増やしていくかが事業者の重要な課題になっているためと考えられる。これらに次いで、「テレワーク、在宅勤務などによる働き方の多様化」(44%)も関心が高くなっている。
【図表9】出退店戦略に影響を与える消費者行動の変化(複数回答、n=329)
【事業者のコメント】
今後の出退店に関わる戦略については、先行きがなかなか見通せないなか、現状はDXや働き方など試行錯誤の状況にあるといったコメントが多かった。
● DXが浸透するにつれてリアル店舗のあり方が変わり、投資コスト圧縮にもつながると期待しているが、幅広く認知・浸透されるまでにはまだまだ時間が必要。現状は「移行期」であり、二重の検討・提案が必要で方針決定までに時間がかかっている。
● 商業施設における飲食店舗のDX推進はデベロッパーと出店者で協調しないと非常に難しいと思う。デベロッパーのポイントやクレジット端末の指定等が効率化を阻害している。
● 多くの食品スーパーはコロナ禍で業績好調と思われる。しかし、水光熱費や仕入価格の上昇が自助努力を上回っており、コロナ禍前より実施している賃料減額も限界にきている。出店コストも同様に上昇し、新規出店や既存店の増益に非常に大きな足かせとなってきており、先行きは不透明である。
● 出店・退店については、労働人口の減少・建築コスト増・消費行動の変化などさまざまな環境変化に対応できるかにかかっている。また、DXを含めた生産性の向上、効率経営がマストであるとともに、各社とも今までの延長線上での経営では、20年後は全く違った景色になっていると思う。
● SC、百貨店などは従来の長い営業時間だとスタッフ数が増加し、利益が圧迫する。働き方改革、人材不足などを踏まえて、館ないしはテナントごとに営業時間の短縮、定休日の設定などが必要だと考えている。
● 東京・神奈川に関しては、都市計画の用途地域において出店可能なエリアが少なすぎるように感じている。見直しても問題はないように思う(その方が住民の方にとってもメリットが大きい)。
3. まとめ
今回のアンケートにより、商業店舗の退店戦略の実態が明らかになった。コロナ禍の影響を特に強く受けた飲食業では退店は「戦略」というよりも、事業継続のために「そうせざるを得ない」側面が強かったものと思われる。
2020年・2021年は多くの事業者が新型コロナウイルスという新たな事業リスクに振り回される結果となった。2022年もコロナ禍の収束が未だ見込めないなかで、「ロシアによるウクライナ侵攻」「物価上昇」「円安の進行」といった新たなリスクが発生している。現時点においてはこれらが事業者の出退店戦略に与える影響は限定的ではあるものの、ビジネスモデルに対する影響は大きく、中長期的には店舗の出退店戦略により大きな変化をもたらすと思われる。事業者は、社会情勢や消費者行動の変化を敏感に捉えつつ、出退店戦略の最適化・再構築が求められる時期にあると言えるだろう。
ザイマックス総研では、今後も商業施設や商業店舗に関する研究を続け、有益な情報を発表していく予定である。
調査期間
2022年6月1日~2022年6月30日
調査対象
個人消費を目的とした小売業(食品)・小売業(非食品)・飲食業・娯楽業・サービス業(※1)のうち、直近調査年度の売上高が30億円以上 5,458社(※2,3)
※1:総務省日本産業分類に基づき、現在、日本の主力商業施設であるショッピングセンター・商業ビル・ロードサイドなどに出店している業種・業態を選定
※2:サービス業は、一般的な商業施設に出店している理美容・旅行・教育・保険・不動産を選定
※3:東京商工リサーチ社データに基づき、対象を抽出
有効回答数
329件(回答率:6.0%)
調査地域
全国
調査方法
郵送およびweb
調査内容
Ⅰ.貴社の事業および店舗について
Ⅱ.契約形態について
Ⅲ.出退店について
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