2020.01.31
フレキシブルオフィス市場調査2020
~東京23区におけるフレキシブルオフィスの供給拡大~
企業がワーカーに働く場所の選択肢を与えることは重要である。働き方改革への取り組みが加速していく中で、必要に応じて時間や場所をフレキシブルに利用できるワークプレイスに注目が集まり、その市場は急速に成長している。そこで、市場全体の成長傾向を定量的に把握するため、ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)では、東京23区内におけるフレキシブルオフィスの拠点数や面積、事業者等のデータを収集・分析し、レポートとしてまとめた。
なお、フレキシブルオフィス市場は提供されるサービスタイプの多様化・細分化が進んでおり、事業者によって「レンタルオフィス」「シェアオフィス」「サービスオフィス」「サテライトオフィス」「コワーキングオフィス」などさまざまな呼称が使用されている。本レポートでは、今回の調査対象である「フレキシブルオフィス」を「一般的な賃貸借契約によらず利用契約を結び、事業者が主に法人ユーザーに提供するワークプレイスサービス」の総称として用いた。
- ・ 東京23区内のフレキシブルオフィスは569件である。総面積は約16万坪で、オフィスストックの約1.2%である。
- ・ フレキシブルオフィスは年々増加しており、近年その増加スピードは加速している。
- ・ フレキシブルオフィスを展開する事業者数も年々増加している。
- ・ 東京23区内にあるフレキシブルオフィスの8割以上が都心5区に集中している。
- ・ 東京23区内から東京23区に通勤するワーカーの約9割は周辺18区に自宅最寄り駅があり、職住近接ニーズやテレワークニーズの受け皿として、郊外エリアにもフレキシブルオフィスの広がりが求められる。
1.フレキシブルオフィス市場の拡大
2.オフィスストックと比較したエリアの特徴
1.フレキシブルオフィス市場の拡大
- 東京23区内のフレキシブルオフィスは569件である。総面積は約16万坪で、オフィスストックの約1.2%である。
- フレキシブルオフィスは年々増加しており、近年その増加スピードは加速している。
- フレキシブルオフィスを展開する事業者数も年々増加している。
2020年1月の調査時点でザイマックス総研が把握した東京23区内のフレキシブルオフィス(2020年開業予定のものまでを含む)は569件で、これらの総面積を算出すると約16万坪であった。これは、オフィスストック(約1,296万坪)(*1)の約1.2%にあたる。
これらの拠点について、開業年をもとにフレキシブルオフィスの拡大傾向をみてみる。累計件数および累計面積、累計事業者数を経年で示したものが【図表1~3】である。なお、開業年および事業者が市場に参入した年が不明なものは、「開業年不明」「参入年不明」としてまとめている。
【図表1】フレキシブルオフィスの累計件数(~2020)
【図表2】フレキシブルオフィスの累計面積(~2020)
【図表1・2】より、フレキシブルオフィスは年々増加しており、増加するスピードも加速していることがわかる。また、東京23区内にフレキシブルオフィスを展開する事業者数も年々増加している【図表3】。2020年については情報未公表の案件も多いと考えられ、拠点数や面積、事業者数は今後さらに増加すると予想される。
【図表3】フレキシブルオフィスの累計事業者数(~2020)
また、ロンドンやニューヨークといった欧米の主要オフィスマーケットでも同様に、フレキシブルオフィスが拡大しており、オフィスストックに対する割合は3~5%程度といわれている。それらと比較すると東京23区は1%程度と依然小さく、市場は今後も引き続き成長していく可能性がある。
2.オフィスストックと比較したエリアの特徴
- 東京23区内にあるフレキシブルオフィスの8割以上が都心5区に集中している。
- 東京23区内から東京23区に通勤するワーカーの約9割は周辺18区に自宅最寄り駅があり、職住近接ニーズやテレワークニーズの受け皿として、郊外エリアにもフレキシブルオフィスの広がりが求められる。
前項では、フレキシブルオフィス市場が年々拡大していることが明らかになった。ここからは、フレキシブルオフィスの分布を都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)と周辺18区に分けてみていく。
【図表4・5】は、東京23区におけるオフィスストック(9,293棟)とフレキシブルオフィス(569件)を地図上にプロットしたものである。都心5区内のものは青、周辺18区内のものは赤でプロットしており、ドットのサイズはオフィスビルの賃貸面積およびフレキシブルオフィスの拠点面積を示している。また、各図表内に、それぞれの総面積に対する都心5区・周辺18区の面積の割合を記載した。
【図表4・5】(左)オフィスストックの分布、(右)フレキシブルオフィスの分布
オフィスストックの総面積の75.2%が都心5区に集中しているが、フレキシブルオフィスでは86.7%と、より都心集中の傾向が強いことがわかる。
続いて、東京23区内から東京23区に通勤するワーカーの自宅最寄り駅(*2)をプロットしたものが【図表6】である。【図表4・5】と同様に、都心5区内は青、周辺18区内は赤でプロットしており、ドットのサイズはワーカー数を示している。自宅最寄り駅が都心5区にあるワーカーの割合は12.6%、周辺18区では87.4%であった。
【図表6】東京23区に通勤するワーカーの自宅最寄り駅の分布
そのほか、東京都などによる公的データをもとに、「総人口」「生産年齢人口」「東京23区内から東京23区へ通勤するワーカー」についてそれぞれ都心5区と周辺18区の居住割合を算出したところ、いずれの結果でも周辺18区の居住割合が約9割(*3)となった。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催期間中の混雑対策として、企業は従業員が都心部に通勤せずに済むような対策を求められているが、大多数を占める周辺18区に住むワーカーにとって、自宅近くで働く場所の選択肢が現在極めて少ない状況にあるといえる。
また、東京2020大会開催期間中に限らず、女性やシニアのほか、「自宅近くで働きたい」という職住近接ニーズは顕在化しており(【参考-➀】)、ワーカーが効率的かつ快適に多様な場で働ける環境を求める動きは続くだろう。特に、未就学児と同居する女性はテレワークのニーズが高いことがザイマックス総研の調査でもわかっており(【参考-②】)、フレキシブルオフィスは仕事と育児、あるいは介護との両立支援にもつながると考えられ、社会課題の解決策としても有効となる。これらのことから、オフィスストックが少ない周辺18区などの郊外エリアでは、オフィスビルに限らず商業施設や生活利便施設など多様な場を用いて、都心5区以上にフレキシブルなワークプレイスを拡大していくことが急務であるといえるかもしれない。
【参考】ザイマックス総研「首都圏オフィスワーカー調査 2019」より
➀働く場所に対する興味
②<同居している子供(末子)別>「テレワークの場所」の利用率とニーズ
調査時点
2020年1月
調査地域
東京23区
調査方法
インターネット調査、事業者への問い合わせ・ヒアリング等
調査対象
現在稼働しているか、2020年中に開業予定の東京23区内にあるフレキシブルオフィス(一般的な賃貸借契約によらず利用契約を結び、事業者が主に法人ユーザーに提供するワークプレイスサービス)
英語版:Flexible Office Market Survey 2020
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