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2018.02.01

オフィスの平均的な募集期間

~東京23区のオフィス区画の募集期間に関する分析~

ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は、これまで空室に着目した様々な分析を継続的に行ってきた。定期的に発表している空室率のほか、昨年1月には市場にある空室のボリュームを捉える「空室増減量調査」を発表した。

今回はテナント募集中の空室が募集を開始してから終了するまでの期間―「募集期間」について統計的に分析した。

主な調査結果
  • ・ 東京23区のオフィス用途の区画の平均的な募集期間は5ヶ月
  • ・ (立地別)都心5区:5ヶ月、周辺18区:6ヶ月
  • ・ (規模別)延床面積5,000坪未満:5ヶ月 延床面積5,000坪以上:4ヶ月
  • ・ (築年別)築20年未満:4ヶ月 築20年以上:5ヶ月
  • ・ (区画面積別)100坪未満:5ヶ月 100坪以上:5ヶ月


オフィスでは多くの場合、解約の6ヶ月前に解約予告が提出され、その後準備期間を経てオーナーはテナントの募集を開始し、新テナントが決定すると募集を終了する。募集期間の長さはテナント募集にかかるコストのほか、賃貸借契約の空白期間*1やフリーレント期間などの賃料未収入期間に影響するため、多くのビルオーナーや投資家の関心事である。これらの期間をまとめたものが【図表1】である。

【図表1】テナント入れ替え時に発生する期間


本分析では、ザイマックスが独自に収集した東京23区のオフィス空室データベースから、募集期間を1ヶ月単位で算出したデータを用いている。なお、分析対象には、館内増床等、市場で募集が行われていない空室は含まれない。


分析結果

【図表2】は分析期間(2012年~2017年)における募集期間の分布を表したものである。データの6割が「6ヶ月以内」に偏っている一方で、長いものは「3年」「4年」となっている。平均値は7.37ヶ月であるが、これは募集期間が極端に長いデータによって引き上げられている数値であり、全体像を表しているとは言えない。そのため、本調査では中央値*2を「平均的な募集期間」とし、その実態を捉えることとした。


2012年以降に募集が開始され、2017年12月までに募集が終了した区画のデータを用いて、平均的な募集期間を算出したところ、5ヶ月であった(半数の区画の募集期間は5ヶ月より短く、半数は5ヶ月よりも長い)。


*2 中央値とは、データを小さい順にならべたときに中央に位置する値である。平均値に比べ外れ値の影響を受けにくく、年収など左右非対称の分布の代表値として用いられる(左右対称の分布の場合、平均値=中央値となる)。今回の分析では、【図表2】の通り、分布は左右非対称であることから、中央値を「平均的な募集期間」とした。

【図表2】募集期間(月)の分布

オフィスビルの属性(立地、規模、築年)、区画面積により、調査対象区画を層別し、それぞれの平均的な募集期間を比較した結果が【図表3】である。


立地で比較すると、都心5区内:5ヶ月、周辺18区:6ヶ月と、より都心である方が、募集期間が短かった。規模で比較すると、延床面積5,000坪未満:5ヶ月、同5,000坪以上:4ヶ月と、大規模の方がやや短い。築年で比較すると、築20年未満:4ヶ月、築20年以上:5ヶ月と、築20年未満の方が短かった。区画面積で比較すると、100坪未満:5ヶ月、100坪以上:5ヶ月と差はなかった。

【図表3】立地・規模・築年・区画面積別の平均的な募集期間(月)

さらに、時系列での変化を確認したのが【図表4】である。それぞれの年で募集が終了した区画について、平均的な募集期間を算出した。

【図表4】年別の平均的な募集期間(月)

<参考>募集中の区画も含めた募集期間の推計

ここまでの分析では、募集が終了した(テナントが見つかった)区画のみを対象にしており、まだ募集している(市場に残っている)区画の募集期間は考慮されていない。募集中の区画の募集期間は今後も増え続け、将来、テナントが見つかった時点で確定する。長期間募集していた区画が募集終了した場合、平均的な募集期間が延びる可能性があり、またその逆もありえる。これら募集中の区画も考慮に入れた場合、平均的な募集期間はどの程度になるか、念のため確認してみた。


ここでは、募集中の区画のような不確定なデータを募集終了区画と区別しつつ、平均的な募集期間を推計できるカプラン・マイヤー推定法*3を用いた。


カプラン・マイヤー推定法により求めた募集継続率の募集期間による変化が【図表5】である。募集開始時(0ヶ月)のときの100%から、期間が長くなるにしたがい、テナントが決まり区画の募集が終了していくことで募集継続率が下がっていく様子が確認できる。

【図表5】募集期間による募集継続率の変化

分析の結果、ちょうど半分の区画が募集終了するまでの期間は5ヶ月であり、先に求めた募集終了区画のみの中央値(平均的な募集期間)と同様の結果となった。なお、8割の区画は12ヶ月(1年)以内に募集を終えるが、残りの2割は1年を超えて募集を続けていることもわかる。


*3 カプラン・マイヤー推定法(Kaplan-Meier Method)
存時間分析(死亡、故障、契約終了をイベントとして、その発生率をモデル化し、イベントが発生するまでの期間やイベントの発生因子について分析する手法)のひとつであり、医療、工学、マーケティングなどの分野で用いられている。本調査では、募集中区画のような不確定なデータを募集終了区画と区別しながら、区画の募集継続確率の傾向を明らかにするために用いた。
参考文献:John P. Klein, Melvin L. Moeschberger, 打波守訳, 生存時間解析

まとめ


空室は、マーケットに出て(募集開始)、世の中に認知され、入居対象として検討され、借主と貸主との交渉を経て、ニーズや条件がマッチして決定する(募集終了)、という広範なプロセスを経る。募集期間の長さは、不動産所有者や投資家にとって、テナント募集にかかるコストや、賃料の未収入期間、次テナントの賃料水準を見積もるうえで重要な指標となる。


今回の調査で、空室の平均的な募集期間は5ヶ月という結果になった。解約予告期間は多くの場合6ヶ月程度であることから考えると、前テナントの退去までに次のテナントが見つかる割合が半分である、というように捉えると実感値と近いかもしれない。


ビルの属性で見ても、「大規模(5,000坪以上)」「都心5区」「築浅」の物件においてわずかに短いものの、募集期間はほぼ5ヶ月前後に収まっている。賃料など多くの不動産関連指標では、いわゆる「近・新・大」物件が優位となることが多いが、募集期間に関してはその優位性は小さい。

また、時系列でみても、平均的な募集期間に変化はほぼ見られず、賃料等とは異なり、マーケットの変化による影響は確認できなかった*4。


*4 なお、本調査で対象となっているのは、一般向けに募集が開始されている空室であることに注意されたい。空室率が低下し、在庫が僅少となってきている状況では、市場に出る前に次のテナントが決まってしまう物件も一定数はあるようだ。館内拡張などが該当し、直近の不動産マーケットにおいてはそういったケースも多いと、賃貸仲介の現場からは耳にする。





引き続き、ザイマックス総研では、募集期間はなぜ立地や物件スペック、マーケットの変化から影響を受けにくいのか、逆にどういった要因が募集期間に影響を与えるのか、募集賃料と成約賃料の間にはどのような関係があるのかなども含めたオフィスマーケットに関する調査を継続的に行っていく予定である。

調査概要

名称

募集期間分析

特徴

募集開始から終了までの平均的な期間を算出(中央値を採用)

調査対象

東京23区に所在する竣工済み物件のオフィス用途の区画

集計単位

区画単位(3坪以上2000坪未満)

集計期間

2012年~2017年

データソース

ザイマックスが独自に収集した空室区画データおよび物件データ

データ数

募集終了した区画:101,378区画

2017年末時点で募集中の区画:6,556区画

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