2015.11.26
ビルオーナーの実態調査 2015
中小規模ビルオーナーのビル経営の考え方や課題などが明らかに
ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は、2014年4月に「オフィスピラミッド2014」(*1)で、東京23区では中小規模ビルが棟数の9割に達し、これらが高齢化してきている事を取り上げた。このようなオフィスマーケットの大多数を占める中小規模ビルは、老朽化が進む中で維持管理コストは増加し、いずれ売却や建替えなど次の方針を決める時期を迎えることになる。しかしながら、ビルオーナーの年齢や保有物件数、ビル経営における考え方や抱える課題を明らかにした調査はあまりない。
そこで今般、早稲田大学建築学科小松幸夫研究室(*2)と共同で、主に東京都心部を中心に不動産を保有しているビルオーナー (*3)に対しビル経営に関するアンケートおよびヒアリング調査を実施した。本レポートはその結果を集計、とりまとめたものである。
- *1 オフィスピラミッド2014:https://soken.xymax.co.jp/2014/04/18/140418-office_stock_pyramid_2014/
- *2 早稲田大学小松研究室:http://www.waseda.jp/sem-ykom/komindex.html
- *3 調査対象:調査概要は末尾
1.ビルオーナーの9割が50歳以上、賃貸不動産を1~2物件の保有が6割
- ・ ビルオーナーの年齢は50歳以上が約9割を占める(図表1)
- ・ 賃貸不動産の保有数は1~2物件が6割を超える(図表2)
2.7割以上のビルオーナーは今後の賃貸ビル事業に不安を感じ、年齢によって課題が異なる
- ・ ビル事業の魅力を「安定収入の確保」とする回答が最も多い一方、ビルオーナーの7割以上は今後のビル経営について「不安がある」と感じている(図表6、7)
- ・ 現在の運営で困っていることは、若い世代ほど「専門知識・最新情報の不足」「法改正情報収集の難しさ」が多く、年齢が高い世代ほど「事業承継」「相続対策」が多くなる(図表8)
3.今後も使い続ける方針のビルオーナーが半数以上
- ・ ビルオーナーの6割以上が「現状のまま使う」「改修して使う」と保有しているビルを使い続ける方針である(図表13)
- ・ 築年別でみたところ、築30年を境に「建替え」を検討し始めている(図表13)
- ・ 1~2物件を保有するビルオーナーは「建替え」「売却」を考えている割合が約1割と、3物件以上保有するオーナーと比較して少ない(図表14)
4.ヒアリングからみえたビルオーナーの特徴やビル経営の課題
- ・ 年齢や保有物件数の違いで特徴がうかがえた(図表17、18)
- ・ ビルを経営する上での課題や、保有ビルの今後の方針を決めかねている様々な背景がみられた
1.ビルオーナーの属性
ビルオーナー(個人または法人代表者)298人について、属性をまとめた。
① ビルオーナーの年齢
ビルオーナーの年齢は、50代、60代、70代がそれぞれ約3割おり、50歳以上が約9割を占める(図表1)。
② 保有する賃貸不動産(ビル・住宅・店舗・駐車場等)の物件数
保有する賃貸不動産の物件数は、1~2物件が6割を超え、3~9物件が約3割、10物件以上が約1割となっている(*)(図表2)。
図表2 賃貸不動産の保有物件数
③ ビルオーナーの主な業種と賃貸ビル事業の売上割合
ビルオーナーの主な業種は「不動産・物品賃貸業」が最も多く、全体の半数以上を占めている(図表3)。また、総売上に占める賃貸ビル事業の割合が9割を超えるビルオーナーは全体の1/3以上となっている(図表4)。
図表3 ビルオーナーの業種
図表4 賃貸ビル事業の割合
④ 賃貸ビルの事業歴
21年以上ビル事業を営んでいるビルオーナーが大半を占める(図表5)。
図表5 賃貸ビルの事業歴
2.賃貸オフィスビル事業の現状について
① ビル事業の魅力(複数回答)
ビル事業の魅力についてたずねたところ、8割を超えるオーナーが「安定収入」をあげて最も多い。次に約4割が「自社で使っていない区画の有効利用」と回答している(図表6)。
図表6 賃貸ビル事業の魅力(複数回答)
② ビル事業の今後の見通し
ビル事業の今後の見通しについてたずねたところ、約7割がなんらかの不安を感じている(図表7)。ヒアリングでは、人口減少・供給過多によるマーケットの不透明感、経年による賃料低下と事業採算性など、長期の事業計画を見通しにくいとの意見が複数聞かれた。
図表7 ビル事業の今後の見通し
③ 現在、ビル事業で困っていること(複数回答)
現在、ビル事業について困っていることについてたずねたところ、若い世代ほど「専門知識・最新情報の不足」「法改正情報収集の難しさ」が多く、年齢の高い世代ほど「事業承継」「相続対策」が増加する傾向がある(図表8)。ヒアリングでは、若い世代はビル事業を継いだ2代目3代目が多く、ビル事業の経験が少ないため、先代の経験値を埋めるべく情報の収集を熱心に行っているビルオーナーがみられた。年齢の高い世代は「子供にビル事業をいつ引き継ぐか」「ビル経営の知識や技術をどう伝えていくか」「子供が事業をやってくれるだろうか」などの声があった。
図表8 現在、ビル事業で困っていること(年齢別、複数回答)
④ 想定するビルの物理的寿命
ビルの建物としての物理的な寿命年をたずねたところ、築50 年とした回答が最も多く、全体の8割以上は築50年以上と考えている(図表9)。
図表9 想定するビルの物理的な寿命
3.築20年以上のビルの現状と今後について
アンケートでは、保有する「築20年以上」と「築20年未満」のビルのうち、それぞれ最も古いビル1棟について、改修の実施や今後の方針などの同じ質問を行った。「築20年未満」のビルは「特に困っていることはない」との回答が多かった。一方、「築20年以上」では様々な意見や特徴がみえ、ここでは「築20年以上」のビルを取り上げる(295人が対象)。
① 築年数と規模
ビルオーナーが保有する最も古いビルは、約7割が築31年以上である(図表10)。また、延床面積300坪以下のビルが約3割を占める(図表11)。
図表10 最も古いビルの築年数
図表11 最も古いビルの延床面積
② 改修の実施
空調更新や外壁改修などの大規模な改修工事については、約9割が過去に実施したと回答している(図表12)。ヒアリングで主な改修内容を聞いたところ、ビルの機能維持を目的とした空調更新・外壁改修・屋上防水更新が多く聞かれ、受変電設備や給排水管の更新もみられた。テナントのニーズに合わせた改修としては、トイレなどの水廻りのリニューアルが多く見られ、来館者のイメージアップを目的とするエントランスの改修は少なかった。また、省エネ改修では、工事を行ったことによる経済メリットをビルオーナーとテナントの双方が分かち合うグリーンリースを採用したLED化や、申請手続きを自ら行って補助金を活用しているオーナーも見受けられた。
図表12 改修実施の有無
③ 今後の方針
保有する最も古いビルの今後の方針についてたずねたところ、6割以上が「改修(リニューアル)して使う」「現状のまま使う」と現在の建物を引き続き使う方針である(図表13)。
築年別でみたところ、築30年を境に「建替え」を検討し始めている。その一方で、31年以上であっても半数以上が「改修して使う」「現状のまま」と現在保有しているビルを使い続ける方針である(図表13)。
図表13 今後のビルの方針について(築年別)
保有物件数別では、「1~2物件」保有のオーナーは「建替え」や「売却」の方針の割合が少ない(図表14)。
図表14 今後のビルの方針について(保有物件数別)
オーナーの年齢別では、「20~40代」は建替えを視野に入れている割合が50歳以上に比べて多い(図表15)。
図表15 今後のビルの方針について(年齢別)
④ 今後の方針が決まっていない理由(複数回答)
全体の約2割(53人)を占める今後のビルの方針が「決まっていない」オーナーに理由をたずねた。そのうちの6割以上が「周辺の再開発の動向をみたい」と最も多く、「今後の維持管理費用がわからない」「建替え後の採算性がわからない」が約4割、「後継者にゆだねる」が約3割で続いている(図表16)。またヒアリングでは、建替えの検討にあたり「建替後の用途を何にしていいかわからない」、「入居中テナントとの調整に時間と費用がかかる」などの声が聞かれた。
図表16 今後のビルの方針が決まっていない理由(複数回答)
4.ヒアリングからみえたビルオーナーの特徴
アンケートの結果をふまえ、具体的なビル経営に関する考え方についてヒアリングを行った。ビルオーナーの年齢と保有物件数の違いで特徴がみられた。また、ビル経営で抱える課題や、建替え・リニューアルの実施を決めかねている様々な背景がみられた。
① 年齢別 (図表17)
年代別でみると、20~40代のオーナーは、先代からのビル事業承継により、まだ経験が浅く、先代の方針にならって経営しながら、不動産に関わる専門知識や情報を積極的に収集する様子が見受けられた。修繕計画を立案している人も多くみられた。
50~60代のオーナーはビル事業の経験も積み、テナント誘致に必要な美観目的の改修工事を取り入れるなど、収支改善に寄与する工事に積極的な取組みを行っている様子がうかがえた。また運営や管理、清掃などを外部の専門業者へ任せる人が比較的多くみられた。
70歳以上のビルオーナーは、ビル事業を主軸に置いている人が多く、自ら丁寧で行き届いた管理を実施している印象を受けた。入居テナントからの要望やクレームには迅速に応対するなど、日頃からテナントとのコミュニケーションを大切にし、満足度を上げることを意識しているため、長く入居し続けるテナントが多くみられた。また、修繕計画の策定については、特段作成していない様子が見受けられた。
図表17 年齢別でみたオーナーの特徴
② 保有物件数別(図表18)
保有物件数別にみると、保有数が多くなるほど組織的、効率的な運営を目指し、外部への業務委託を活用するケースが多く見られた。また、少ないオーナーほど先代の土地を引継ぎ、オーナーの自宅や事業所を兼ねたビルを保有し、管理は自主管理で、テナントとのコミュニケーションを密に行う傾向が見られた。
図表18 保有不動産数でみたオーナーの特徴
③ ビルオーナーがかかえる課題
アンケートやヒアリングを通じ、中小規模ビルのオーナーが建替えやリニューアルに慎重な姿勢がうかがえた。その理由として、容積率の関係から建替えても建物は大きくならない、建築費が高騰している、などから事業採算性を読み切れないという声が多かった。また、入居テナントの対応やどのような用途にしたらいいかわからない、といった声も目立った。
特に「70歳以上」で「保有数が1~2物件」のビルオーナーは、ビルの建替え期間の賃貸収入が途絶えてしまう、事業承継の具体的な準備をまだ進められずにいる、といったことなどから保有ビルの今後の方針を決めかねている様子が見受けられた。
ビルオーナーの主なコメント
- ・ 現行法では、既存建物の容積・規模より小さいビルしか建てられず、建替えるか売却するか、どちらがよいかの判断がつかない。
- ・ 住宅であれば容積率は増える地域であるが、ビルでは変わらない。マンション経営は未経験なので、近隣の様子をみる。
- ・ 建替えても大きなビルにならない。近隣を含めた再開発が行われる時に建替えするのは望ましいが、近隣同士のつながりはあっても再開発の話にはならない。大手ディベロッパーや行政が音頭を取って主導してくれないと進まない。
- ・ 再開発に加わった。修繕や管理は一括で組合で行ってくれるので楽になった。
- ・ このまま、今のビルを使い続けていく他ない。
- ・ ビルが古くなるにつれ修繕箇所、費用が増えてくるが、賃料は下がる。このまま維持し続けるべきか、建替えをした方がよいのか判断がつかない。
- ・ 建替え、もしくはリニューアルの資金をどのように捻出したらよいか分からない。
- ・ 耐震工事したいが、高額な費用がかかる。行政からの補助金もない。建替えも考えるが判断がつかない。
- ・ 給排水管のリニューアルをしたいが、古い建物のため新たにパイプスペースを取ると専用面積が減ってしまうため改修の判断に迷う。
- ・ 建替え後の用途がビルか住宅かホテルか何かがわからない。しばらくはこのまま維持して様子をみたい。
- ・ 入居テナントがいるので建替えが難しい。以前テナントの退去交渉で裁判になり莫大な時間と費用を費やした。
- ・ 入居テナントが皆、退去するのを待ってからの建替えになるだろう。10年以上のスパンで考えている。
- ・ 借家法により賃借人が保護され、貸主は守られていない。建替えするなど正当な理由があっても立ち退き料が発生し、貸主の財政状況は考慮されず、建替えの障害になっている。このまま保有し続けるしかない。
- ・ 本業の業績悪化から売却した。建替えも検討したが、採算が合わなかった。
- ・ ビル事業を引き継ぐ相手(子供)がいない。
- ・ ビルの建替えは相続にも影響する。借入を行えば、それはいずれ子供が相続することになり、望まない事業、借金を残す可能性がある。
- ・ 固定資産税が高すぎる。ビル賃貸業で稼いだ売上は固定資産税と、古くなったビルの修繕費の支払いで無くなってしまう。
- ・ 美観を保たないビルが増えて街のブランド力が下がることが懸念。
- ・ 日本のビルは短命に思う。長期間使用できる制度やメンテナンスを考えた建築を考えなければいけない。
調査期間
2015年7月~10月調査対象
回答結果
調査方法
WEBおよびアンケート用紙の郵送による調査内容
- Ⅰ.賃貸不動産事業について
- ・ 賃貸不動産の保有形態
- ・ 保有する賃貸不動産の棟数、延床面積
- Ⅱ.賃貸オフィスビル事業について
- ・ 賃貸オフィスビル事業歴、管理体制
- ・ 賃貸オフィスビル事業の魅力(メリット)
- ・ 賃貸オフィスビル事業の運営体制で、現在困っていること
- Ⅲ.所有ビルについて(築20年以上と築20年未満のビルについて)
- ・ 過去の改修の有無
- ・ 当該ビルで、現在困っていること
- ・ 今後の当該ビルの方針について
- Ⅳ.最近、ビル経営で感じていること(自由記述)
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