マーケット指標

PDF版ダウンロード

2014.05.22

耐震性に優れるビルは収益性が高いことを統計的に解明

~環境性能と収益性との関連性分析を通じて~

近年、様々な建物環境認証制度が創設されるなど、不動産における環境性能が注目されてきている。一方、不動産の収益性は、おもに立地・規模・築年数等と関連づけて考えられることが一般的で、環境性能がどのように影響しているかは明確ではない。 そこで、ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は、ザイマックスグループが独自に入手・蓄積してきた東京都内賃貸オフィスビルとその収益性に関するデータを利用し、京都大学大学院工学研究科建築学専攻加藤直樹研究室と共同で、オフィスビルにおける環境性能と収益性との関連性を統計的手法に基づいて分析した。

本分析の特徴

  1. 環境性能を構成する各要素と収益性との関連性を検証することを目的とし、対象物件をCASBEE不動産マーケット普及版の評価項目にてスコアリングし、その評価値を利用して分析を実施
  2. 大規模ビルだけではなく中小規模ビルを分析対象に加えることで、より不動産市場の実態に近い分析を追求
  3. 収益性を示す指標として、新規賃料及び賃貸収入の両方を採用
主な分析結果
  • ・環境性能の一部を構成する要素として耐震性が収益性に対してプラスの影響を及ぼすことが確認された
  • ・さらに、東日本大震災の前後に分けて分析を行った結果震災後において、耐震性と収益性に明らかな相関関係が確認された

※本リリースは、京都大学大学院工学研究科建築学専攻加藤直樹研究室による「東京都内のオフィスビルにおける環境性能と収益性の関連性分析」を基に作成しています。

環境性能の評価項目について

建物の環境性能を評価するツールは、CASBEE不動産マーケット普及版を利用している。CASBEE不動産マーケット普及版は、国土交通省主導のもと産官学共同で開発・普及が進められてきた建築環境総合性能評価システムであるCASBEEをベースに、不動産市場関係者への普及促進を目的として2012年に開発されたツールである。調査にあたって、対象物件の環境性能を本ツールを用いてスコアリングし、項目ごとの評価値を利用して分析を行った。 CASBEE不動産マーケット普及版における評価項目は、巻末記載の通りである。

分析手法

不動産の収益性は、立地・規模・築年数など、様々な要素の複合的な影響を受けているものと考えられる。本調査・分析では、これらの重層的な構造を説明する統計学的モデルを、重回帰分析、一般化線形モデル及び構造方程式モデリングの手法を用いて構築し、その関連性を明らかにすることを試みた。 分析に用いた対象物件及びデータは、表1の通りである。

【表1】分析データ概要

分析対象 ザイマックスグループが運営する都内の一般的な賃貸オフィスビルのうち、有効なデータが得られた176棟 立地:東京都内/規模:平均延床面積2,422坪/築年数:平均22.5年
分析に用いた データ
収益性
新規賃料(2009.1~2013.5)※新規の成約事例における成約賃料を成約面積で除して算出 賃貸収入(2009.1~2013.8)※賃料収入(倉庫・駐車場等除く)と共益費の合計を賃貸可能面積で除して算出 入居率・入居坪数(2009.1~2012.12)、エリア平均賃料(2009.1~2013.3)、エリア空室率(2009.1~2013.3)
ビル概要
地上階数、地下階数、総階数、天井高、延床面積、基準階面積、竣工後経過年数、電気容量、光ケーブル・OAフロア・全館改修履歴の有無、空調方式、駐車場台数、ELVサイズ、最寄駅徒歩分数
環境性能
CASBEE不動産マーケット普及版項目別各評価値、 一次エネルギー消費量原単位、上水消費原単位
テナント属性
産業分類に基づく入居テナントの業種及び事務所・非事務所の別、単位面積あたり人数
分析手法 重回帰分析、一般化線形モデル、構造方程式モデリング

分析結果

分析の結果、環境性能評価項目を含むいくつかの要素で、収益性を説明するモデルが生成された。生成されたモデルのうち代表的なものは図表2の通りである。 環境性能評価項目の中では、耐震性に関する評価値と収益性には正の相関関係が、水使用量実績値に関する評価値と収益性には負の相関関係が見られた。

【図表2】新規賃料推定モデル

【図表2】新規賃料推定モデル

耐震性に関するCASBEE評価値算出においては、制震又は免震装置を導入していることあるいは、建築基準法に定められた数値に対して一定の割増率を乗じた耐震性を有することの何れかによって、より高いスコアが与えられる。これらを満足する建物群は、それ以外の建物群と比してより高い収益性をもつことが、今回の分析によって明らかになった。賃貸収入を推定するモデルにおいても同様の傾向が見られたが、新規賃料を推定するモデルにおいて、より強い相関関係が確認された。 水使用量実績値に関するCASBEE評価値算出においては、当該建物内における活動量に比例して使用量実績値が大きくなることから、入居率の高い建物でのスコアが相対的に低くなりやすい。図表2のモデルには入居率が組み込まれており、その影響が考慮されているにも関わらず、依然として負の相関関係が見られる。これは、今回の分析データに含まれない何らかの要素による影響が背景にあるものと思われる。 なお、ここで選択されなかった要素は、より精度の高いモデルを作る上で含めない方が適切と判定された要素である。

さらに、耐震性に優れた建物群と、それ以外の建物群について、東日本大震災前後における収入平均単価を比較したところ、図表3の通り、明確な差が認められた。データの対象期間である2009年~2012年においては、不動産ファンドバブル後の先行きの不透明感から不動産の収益性も全般的に低下する傾向にあったが、その中でも耐震性に優れた建物においては、賃貸収入の下落幅が小幅に留まる結果となっている。

【図表3】東日本大震災前後における賃貸収入の推移

【図表3】東日本大震災前後における賃貸収入の推移

なお、ザイマックス総研では昨年、オフィスビルに入居するテナント企業を対象に防災に関するアンケート調査を実施し、その結果を「オフィスの防災アンケート調査2013」として公表した。 この調査においても、9割超のテナント企業がビルを選定する際に「耐震性」を重視している。

まとめ

今回の分析においては、環境性能のうち、耐震性と収益性の相関関係が定量的に確認された。特に東日本大震災後はその傾向が顕著で、建物利用者の意識の変化が反映されたと言える。一方で、その他の環境性能と収益性については、現時点では、ほとんど関連性が見られなかった。しかし今後、建物環境認証制度の普及等により、建物利用者の環境性能への関心が高まることで、収益性への影響が顕在化することも予想される。 ザイマックス総研では、今後も引き続き、不動産の収益性に影響を及ぼす様々な要素について調査・分析を行っていく予定である。

CASBEE不動産マーケット普及版の評価項目一覧

分類1:エネルギー/温暖化ガス

必須項目 省エネ基準への適合、目標設定とモニタリング、運用管理体制
1.1使用・排出原単位(計算値) 年間一次エネルギー消費量計算値の基準建物に対する比率
1.2使用・排出原単位(実績値) 年間一次エネルギー消費量実績値(原単位)の水準
1.3自然エネルギー 自然エネルギーの利用率

分類2:水

必須項目 目標設定とモニタリング
2.1水使用量(計算値) 設置器具の吐水量に基づく計算値の水準
2.2水使用量(実績値) 年間上水使用量実績値(原単位)の水準

分類3:資源利用/安全

必須項目 新耐震又は、IS値0.6超となる補強又は、IF値1.0未満となる軸耐力強化
3.1高耐震・免震等 建築基準法要求性能に対する割増率又は、免震・制震装置導入の有無
3.2再生材利用率 躯体材料及び非構造材料におけるリサイクル材の使用状況
3.3躯体材料の耐用年数 躯体材料における耐用性
3.4主要設備機能の更新必要間隔 設備の自給率向上/維持管理 主要設備機器の更新間隔/設備(電力等)自給率向上のために有効な取組み数/維持管理における環境配慮において有効な取組み数

分類4:生物多様性/敷地

必須項目 特定外来生物・未判定外来生物・要注意外来生物を使用しない
4.1生物多様性の向上 生物多様性向上のために有効な取組み数
4.2土壌環境品質 ブラウンフィールド再生 土壌汚染対策法への対応状況
4.3公共交通機関の接近性 公共交通機関(最寄駅・バス停)までの徒歩分数
4.4自然災害リスク対策 ハザードマップに基づく災害リスク数と、対策状況

分類5:屋内環境

必須項目 建築物環境衛生管理基準
5.1昼光利用 自然採光有効開口率及び、昼光利用設備の導入状況
5.2自然換気機能 開閉可能な窓(自然換気が行える窓)の設置状況
5.3眺望 天井高及び、屋外の情報が十分に得られる窓の有無

(出所)CASBEE不動産マーケット普及版評価方法の考え方と手引き(一般財団法人建築環境・省エネルギー機構)に基づきザイマックス不動産総合研究所にて作成

ザイマックスグループホームページへ
レポートの一覧へ