2025.06.02
ビルオーナーの実態調査2025②企業規模による比較
~企業規模により今後のビル経営の課題や不安が異なる~
ザイマックス総研は、2015年から早稲田大学建築学科石田航星研究室と共同で、全国の賃貸ビルを保有する企業(ビルオーナー)を対象に定期的にアンケート調査を行い、賃貸ビル事業の業況や今後の見通し、ビルを取り巻く環境変化への対応や課題などについて継続的に分析を行ってきた。本年度は全体集計および回答企業の規模別で比較し、それぞれの集計結果をまとめたレポートを公表する。本ページはビルオーナーを企業規模(*)で比較した集計結果の一部を<概要版>として抜粋したものである。なお、全体集計結果に関しては同日公表の「ビルオーナーの実態調査2025①全体集計」でまとめている。
- ・ 企業の全売上に占める賃貸ビル事業の割合は、売上30億円以上のビルオーナーの65%が「2割以下」と回答した一方で、売上30億円未満では42%が「8割超」と回答した。
- ・ 合計保有棟数は、売上30億円以上のビルオーナーで「5棟以上」が55%と最も多く、売上30億円未満では「1~2棟」保有の割合が63%となった。
- ・ 直近1年間の賃貸ビル事業において、売上30億円以上のビルオーナーのほうが収入、支出ともに増加したと答えた割合は高かった。
- ・ 支出増加の内訳は、売上30億円以上のビルオーナーのほうが「管理委託費」と「資本的支出(設備更新・改修など)」が増加したと答えた割合が高かった。
- ・ ビル全体で価値向上のための施策は、売上30億円以上のビルオーナーで、「省エネルギー設備(照明・空調)の導入や更新」「再生可能エネルギーの導入」など充足済み・検討中の割合が多く、環境課題への関心の高さがうかがえた。
- ・ 価値向上のための施策を行う上で支障となることをきいたところ、売上30億円未満のビルオーナーの約2割に「資金がない」傾向が見られた。
- ・ 今後のビル事業における不安は、多くの項目で売上30億円未満のビルオーナーが30億円以上より割合が高い結果となった。
<調査概要>
調査期間:2025年3月~4月
調査対象:東京商工リサーチ(TSR)データより抽出した計23,830社
【売上】1,000万円以上(東京都のみ3,000万円以上)
【業種】賃貸事務所業を「主」または「従」(1位または2位に登記)
とする企業
有効回答数:1,020 件(回答率 4.2%)うち30億円以上:84件、
売上30億円未満:936件
調査地域:全国(東京都および全国政令指定都市)
調査方法:郵送およびメール送付による
topic 1
企業の全売上に占める賃貸ビル事業の割合を、売上30億円以上・未満で比較した。売上30億円以上のビルオーナーは、「~2割」の割合が65%となった一方で、売上30億円未満は、「~2割」は22%と低く「~10割」が42%と半数近くとなった【図表1-1】。
合計保有棟数は、売上30億円以上のビルオーナーで「5棟以上」(55%)が最も多く、売上30億円未満で「1棟」が44%、「2棟」は19%と、少数保有のビルオーナーが全体の約6割を占めた。また、「5棟以上」と多数のビルを保有するビルオーナーは17%であった【図表1-2】。
さらに、保有のビルのうち、大規模ビル(延床面積5,000坪以上)の棟数割合は、売上30億円以上のビルオーナーは34%で、売上30億円未満は10%となった【図表1-3】。
【図表1-1】全売上に占める賃貸ビル事業の売上割合(企業規模別)
【図表1-2】合計保有棟数(企業規模別)
【図表1-3】大規模ビルの割合(企業規模別)
topic 2
直近1年間の賃貸ビル事業の収支について企業規模で比較すると、売上30億円以上のビルオーナーのほうが収入、支出ともに増加したと答えた割合は高かった【図表2-1】。
支出の各項目をみてみると、「管理委託費」は、30億円未満のビルオーナーでは「増加した」の割合が27%と低い一方、30億円以上では45%と半数近くが「増加した」と回答していた。この背景には、売上30億円以上のビルオーナーが「5棟以上」のビルを保有している割合が高く、総合管理を実施しているケースが多いことがあると考えられる。その結果、人手不足や資材価格の高騰といった外部要因の影響を受けやすく、「管理委託費」の増加傾向が顕著になっていると見られる。さらに「資本的支出(設備更新・改修など)」も売上30億円以上のビルオーナーで「増加した」の割合が30億円未満よりも10pt以上高い結果となった【図表2-2】。
【図表2-1】直近1年間の賃貸ビル事業の収支(企業規模別)
【図表2-2】直近1年間の支出の内訳(企業規模別)
(左)売上30億円以上、n=84/(右)売上30億円未満、n=936
topic 3
ビル全体で価値向上のために充足済み・検討中の施策についてきいた。売上30億円以上のビルオーナーは、「省エネルギー設備(照明・空調)の導入や更新」(46%)、「再生可能エネルギーの導入」(29%)の順に高く、環境課題への関心の高さがうかがえた。売上30億円未満のビルオーナーは、「外壁や外構などの美観向上リニューアル」(40%)が最も高く、次いで「省エネルギー設備(照明・空調)の導入や更新」(35%)となった【図表3-1】。
また、価値向上のための施策を行う上で支障となることをきいたところ、上位の選択肢において企業規模の差は見られなかったが、売上30億円未満のビルオーナーの約2割に「資金がない」傾向が見られた【図表3-2】。
今後のビル事業における不安を企業規模別でみたところ、特に「大規模改修や建替えの資金確保」「相続・事業承継の対策」などで売上30億円未満のビルオーナーが30億円以上よりも高い結果となった【図表3-3】。
【図表3-1】価値向上のために充足済み・検討中の施策:ビル全体(企業規模別)
【図表3-2】価値向上のための施策を行う上で支障となること(企業規模別)
【図表3-3】今後のビル事業における不安(企業規模別)
- ザイマックス総研
- お問い合わせ